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2026年5月、米アパレルブランド エバーレーン(Shift C評価:良い)が中国のウルトラ・ファストファッション企業シーイン(SHEIN)に約1億ドルで買収された。かつて「Radical Transparency(徹底的な透明性)」を掲げ、倫理とビジネスを両立する象徴的なDTCブランドとして評価された企業の結末としては、あまりに象徴的な出来事だった。
このニュースは、同じくサステナブルDTCの成功例として語られてきたオールバーズ(Shift C評価:ここから)が、AI企業への転換を打ち出した直後に起きている。両社は2010年前後に登場し、「倫理的消費」という潮流の中で急成長したブランドであり、その両者がほぼ同時期に大きな転換を迎えたことは、業界に強い問いを投げかけている。
「サステナブルなブランドに未来はないのか?」
しかし、この問いの前提自体が誤っている可能性が高い。結論から言えば、崩壊しているのはサステナビリティそのものではなく、ブランド構築の失敗とDTCモデル*の限界である。
*メーカーやブランドが、問屋や小売店を挟まずに、自社のECサイトなどを通じて直接ユーザーに商品を販売するビジネスモデル
エバーレーンとオールバーズに共通する「成功と崩壊の構造」
エバーレーンとオールバーズの歩みを振り返ると、共通したプロセスが明確に浮かび上がる。まず、環境や倫理といった社会的価値を前面に掲げることで、従来のファッションブランドとは異なるポジショニングを確立し、初期の支持を獲得した。次に、その成長性に期待した資本、特にベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PV)の資金が流入する。
資本が入ることで、企業には規模拡大と収益性の向上が強く求められるようになり、その結果としてサプライチェーンや商品設計における妥協が生じる。こうした変化は、消費者からのブランドへの支持と信頼性を徐々に失い始める。焦ったブランドは、一般的な認知度拡大や話題性を狙った施策を実施、ポジショニングの変更などに走る。そうすると、一貫性が無くなりコアなファンまでが離れて行ってしまったり、独自性が薄れることで市場内でのポジションを見失い、最終的には企業価値の大幅な低下へとつながったりする。そしてその帰結として、企業は売却または大きな戦略転換を余儀なくされる。
この一連の流れは、単なる偶然ではなく、DTC第一世代ブランドが内包していた構造的な問題を示している。
①サステナブルな理念で人気化
② VC資本流入
③規模化(スケール)する事への圧力
④ブランド毀損 or 商品劣化
⑤ポジション喪失
⑥価値( バリュエーション)崩壊
⑦身売りor ピボット
サステナビリティは“買う入口”にはなっても、“買い続ける理由”にはなりにくい
エバーレーンは2010年創業。「Radical Transparency」という概念を掲げ、商品価格の内訳(素材費、人件費、輸送コストなど)を公開することで、消費者に「正しい買い物」を提示した。これは当時としては革新的で、多くのミレニアル世代の支持を集めた。
一方のオールバーズも、ウール素材のスニーカーとカーボンフットプリント表示によって、「履き心地の良さ」だけでなく「環境に良いことをしている」という心理的満足を提供した。
どちらも大きなインパクトを持っていたが、ここに共通する限界も存在する。倫理や環境配慮は確かに共感を呼ぶが、それだけで長期的な購買動機を形成することは難しい。消費者は「良いことをしているブランド」を支持することはあっても、「それだけの理由」で身に着けるものを繰り返し購入し続けることはない。
つまり、両ブランドは購買の入り口には数年間成功したが、継続的な関係性を築くためのその他の優位性を持っていなかったのだ。
VCとサステナブルモデルの構造的ミスマッチ
両社の転機は資本の流入だ。
エバーレーンは2020年にL キャタルトンから出資を受け、その後2024年までに、同社が実質的なオーナーとなった。ここで問題となるのが、サステナブルビジネスとVCの構造的な相性の悪さである。
本来、サステナブルなブランドとは「環境負荷の少ない素材を使い、耐久性のある商品を作り、長く消費者に使ってもらう」ことを目指すものだ。しかしVCは逆方向、つまり「より多く売り、より早く成長する」ことを求める。
- VC:成長と規模拡大を要求
- サステナブル:耐久性ある商品を作る・長く使ってもらう・大量生産しない
この圧力の中で、エバーレーンはサプライチェーンや品質の調整を余儀なくされ、ブランドの根幹であった「サステナブル」との整合性が崩れていった。
ブランドの変性とポジショニングの迷走
2020年以降、エバーレーンは明確に方向転換する。「正しい」だけでは売れないと理解したのか、ブランドのメッセージを「Radical Transparency」から「Quiet Luxury」、さらに「Clean Luxury」へと変化させ、プレミアムブランドへの リポジショニングを試みた。しかしこれは、極めて危険な戦略だった。すでに上位市場にはセオリー(Theory)やコス(COS)、ヴィンス(Vince)といったブランドが存在していた一方、下位市場においては、ザラ(ZARA)やユニクロ(UNIQLO)、クインス(Quince)といったマスブランドがポジションを確立していた。

商品詳細ページにてエバーレーンとの価格、素材の直接的比較を表示している
つまり、どちらの領域でも明確に勝つことができない「中間ゾーン」に取り残されたのである。この状態に陥ると、ブランドは差別化の軸を失い、消費者にとって「選ぶ理由のない存在」となってしまう。
さらに、2024には、VCが選任したAlfred ChangがCEOに着任。彼がそれまで携わってきたパクサン(Pacsun)やフィア オブ ゴッド(Fear of Good)でのブランド復活劇のごとく、ビッグインフルエンサーやセレブリティを起用。本来であれば、エバーレーンのコアな顧客が求める価値を、じっくりと再構築するべきだったが、今までの成功体験をもとに、手っ取り早く認知度と売上向上への道を急いでしまった。
これらの変化によるブランドの一貫性の喪失と、労働問題への批判と重なり、「信頼」という最も重要なブランド資産が毀損し、さらに事態を深刻化した。

「正しい」だけでは欲しくならない。商品魅力の欠如とコミュニティづくりの失敗
もう一つ見逃せないのは、商品そのものの魅力とコミュニティ形成の弱さである。エバーレーンやオールバーズは理念や仕組みの革新性によって評価されたが、プロダクトのデザインや文化的な魅力の面では、他のブランドと比較しても「欲しくなる理由」が弱かった。
例えばリフォーメーション(Shift C評価:良い)は、ロサンゼルスで2009年に創業したブランドで、Z世代を中心に今でも人気があるブランドだ。環境負荷の低い素材や製造方法、影響の透明性などを重視したサステナブルなブランドであるが、トレンド性のある商品、手が届く憧れのライフスタイルなどを強く打ち出し、「着たい理由」や「感情的な愛着」を明確に提示している。
またフランス生まれのスニーカーブランド ヴェジャ(Shift C評価:良い)は、労働環境や素材への配慮をする素晴らしいブランド。広告などのマーケティング費用は全くかけないが、他ブランドとの度重なる話題性の高いコラボレーションで「欲しくなる商品」を世に出し、イベントやポップアップなどを通じて、ブランドストーリーを体験として伝えることに成功している。
これらのブランドと比較すると、エバーレーンやオールバーズは「正しいが欲しくはならない」という状態に陥っていたと言わざるを得ない。
崩壊したのはサステナビリティではなく、それだけでブランドが持続するという前提だった
エバーレーンの評価額が約6億ドルから1億ドルへと縮小したこと、そしてオールバーズがAI領域への転換を模索している現状は、確かに象徴的な出来事である。しかし、それはサステナビリティという思想そのものの限界を意味しているわけではない。
むしろ浮かび上がったのは、DTCを前提とした成長モデルの脆弱さと、「正しさ」がブランド価値を支えきれないという現実である。商品としての魅力、文化としての広がり、そしてそれを支えるコミュニティ。これらが伴わない限り、どれほど合理的で倫理的なブランドであっても、持続することは難しい。エバーレーンとオールバーズは、そのことを最も分かりやすく証明した事例だったと言える。
加えて、両者の結末が示唆するのは、より根本的な問題である。サステナビリティを掲げて急成長したブランドのうち、一方は最終的に「最も非サステナブルと批判される企業」に買収され、もう一方が「全く別の産業」に軸足を移そうとしている。このねじれは、単なる経営判断ではなく、「何をもってブランド価値とするのか」という定義そのものが揺らいでいることの現れである。
消費者にとって、サステナビリティはもはや差別化要因ではなく、満たされていて当然の前提条件へと移行している。そのときブランドに残される問いは一つしかない。
それでも、このブランドを選ぶ理由は何か。
この問いに答えられない限り、どれほど「正しい」ブランドであっても、いずれ市場の中で居場所を失うことになる。エバーレーンとオールバーズが示したのは、サステナブルファッションの終焉ではなく、ブランドという存在の条件が、より厳しくなったという事実そのものなのである。
エバーレーン創業者が始動した「Still Radical」が問い直すもの
こうした一連の流れの中で、非常に示唆的なのが、エバーレーン創業者マイケル・プレイスマンの次の動きである。彼は「Still Radical」と名付けた新たなプロジェクトを立ち上げ、再び同じ理念のもとでブランドを構築する意思を示している。ただし今回、決定的に異なるのは、VCやPVといった外部資本を入れないという選択だ。
この決断は単なる資金調達のスタンスの違いではない。むしろ、これまでの10年で露呈した「成長を前提とした資本構造」そのものに対する批評とも読み取ることができる。エバーレーンは理念の限界によって崩れたのではなく、その理念を維持できない構造の中でスケールを強いられた結果として変質していった。

では、もしその構造から切り離されたとき、同じ思想はどこまで機能しうるのか。Still Radicalは、単なる再出発ではなく、その問いに対するひとつの実験であると言えるだろう。
もっとも、この試みが成功する保証はどこにもない。資本による圧力が存在しない世界では、逆にブランドがどのように成長し、どの時点で収益を生み出すのかという別の問いが立ち上がる。それでもなお、この動きが示しているのは、サステナブルファッションの未来が閉ざされたのではなく、その成立条件が改めて問い直されているという事実である。
エバーレーンとオールバーズが露呈させたのは、ひとつの時代の終わりであり、Still Radicalは、その先にある次のモデルの可能性を静かに指し示している。
