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ライフスタイル|2026.05.22

「自身の感覚を大事にすることが、心地よい選択に繋がる。」吉本ばななとeri、ブレない二人を支えるもの。<後編>

「DEPT」オーナー兼アクティビストであるeri氏が初のフォトエッセイ『暮らしの中の小さな革命』(光文社)を3月に発売した。「初めての自著を発売する時、帯はばななさん以外考えられなかった」というeri氏の念願は叶い、帯文コメントは作家・吉本ばなな氏。昔から互いの活躍を見てきた二人が今、「欲との付き合い方」「ブレないこと」「便利さ」「感覚や勘」「変化」「違和感」などさまざまなテーマで「心地よい方を選ぶこと」についてじっくり話した。

>>前編はこちら

原稿:柿本真希 撮影:山田 薫 ヘア&メイク:YOSHIKO(SHIMA|吉本ばななさん)

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吉本ばなな
1964年、東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版され国内外での受賞も多数。2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『はーばーらいと』(晶文社)『ヨシモトオノ』(文藝春秋)など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

eri(えり)
1983年ニューヨーク生まれ東京育ち。デザイナー/アクティビスト。2004年に自身のブランドを設立後、2015年から父が創業したヴィンテージショップ「DEPT」をリスタート。2020年頃から地球の環境問題や気候危機に対する意識を深め、アクティビストとしての活動も開始。市民グループ「WE WANT OUR FUTURE」の運営に携わりつつさまざまな市民運動アクションやデモを企画している。現在は各地を飛び回り、伝統的なものづくりや手仕事を目下勉強中。ヴィンテージや自然素材、世界各国のハンドクラフトピースなどを使い作品を制作している。2026年『暮らしの中の小さな革命』を光文社より上梓。

何が大事なのか、自分の中の感覚や勘で知っているはず。それを大事にしていく

――優しい言葉を掛け合って、笑顔でいるということが1番だと思うとすごくシンプルに素直に書いてらっしゃいますよね。そして、そんなの嘘っぱちだと言われることもあるけど、そんなことどうだっていいんだっていう風におっしゃっていて。 eriさんも近しいことをおっしゃるのですが、そういう感覚は幼い頃から 自然とお持ちなのでしょうか?

ばなな そうですね。人間にとって大事なことって、そんなにたくさんないですから。私なんて最もバブル世代ですから、めちゃくちゃ人工的ライフを送ってきましたけど、でもそこはずっと変わらなかった。天気がいいと気分がいいねとかね。動物と常に暮らしてきましたし。でも、こんな感じの世の中だったら、誰でも多少は気持ちが荒れてくるんじゃないのかな。だって歩いていても、ご機嫌なものがあんまりないですもん。私、初めは自分のせいだと思っていたんです。私が機嫌悪いから機嫌悪いものばかり見えるのかなと。でも全然そうじゃなくて、実際にこれは良くないわっという風に途中で思って。そこからは、どういう風にしたら自分を保てるかという方にシフトしましたね。

eri ばななさんが自分を保とうとするときのポイントはどんなことですか?

ばなな 先ほど話したメダカの話と同じですが、例えば、犬がお腹を壊しているけど忙しいから出かけようとか、そういうことをなるべくしないようにします。 私は犬とか子どもの方が大事なんだよということをはっきりと表現して、それで嫌われてもいいやと。それはとても大事なことでしたね。

eri 自分にとって何が大事かっていうことをはっきりさせるということですよね。分かります。私も母親から、どうしても大事な用事があったとしても、勘で出かけない方がいいと感じたら出かけない方がいいとずっと言われていて。でもそれは、自分の声を聞くというか、人間に絶対備わっている感覚なんですよね。マシン的なものと常に一緒にいると、人間的な感覚というものがすごく鈍りやすい状況にあるなと思うんです。

ばなな そうです。何が大事なのか、自分の中の感覚や勘で知っているはずだから。それを大事にしていかないとどんどん自分の「自然」と離れてしまう。

“なぜ変わったのか”、そのプロセスを自分で把握し、反省して、同じことを繰り返さないようにする

eri そもそも地球上に住んでいること、雨は雨でいいな、ニコニコしていると気分がいいなとか、そういった心をつぶさに見れるような感覚は忘れちゃいけないし、多分それを忘れてしまうと、地球のことも考えられなくなると思うんです。例えば自分と背景の違う人のことを慮れなくなったり、利己的な感覚が強くなってしまう。だからなるべく自分自身も、地面の上を裸足で歩く感覚を忘れないで生きていけるといいなと思っていて、この本を書いてる時に結構それを考えていました。
自分自身に関して言えば、変わってきた部分もすごくたくさんあると思います。でも変わることは悪いことではなくて、“なぜ変わったのか”、そのプロセスを自分で把握していることや、過去のダメだった自分をちゃんと反省して、自分はもう次はこうならないようにしよう、同じことを繰り返さないようにしようと思う。そういった自分の判断の蓄積みたいなものを、ちゃんと自分の中にメモできているかどうか、ということがすごく重要だなと思います。

ばなな それがあれば繰り返さなくて済みますよね。

eri ちゃんと自分のやってきたことを把握して、次に生かすということを繰り返していきたいなと思っています。うまくいく時といかない時がありますけどね。

ばなな そうやって調整していくことで逆に変わらないように見える、というようなアップデートがなされているってことですね。

eri そうですね。変わる部分はもちろんたくさんあるけれど、子どもの頃から芯みたいなものはあまり変わってない気もします。

自分が心から好きなものだけを買って、そんなに多くなく手にしている分には、世界は平和なはず

ばなな 一回転して原点にある自分の芯みたいなことを大切にすることが大人になるということじゃないかと私は思っています。eriさんの本に関しては、満を持して濃厚な情報を繰り出してきたなというありがたい気持ち。 なんとなく企画があってできたって本じゃないなということがすごく伝わってきて。それでも空間がいっぱいあって、風通しが良くて。何か売るための本でもなく、素晴らしいなと思っています。

eri 嬉しいです。消費行動に対して疑問を呈している側ではあるけども、なぜか物を紹介しているという、ある種の矛盾を孕んでいるものではあるのですが…。

ばなな 自分が心から好きなものをみんなが買っていれば、そしてそんなに多くなく手にして大切にしている分には、世界は平和なんじゃないですか。 
買うことをあおる感じにはなっていないので、そういう意味ですごく夢がある本だなと思いました。本の中の世界で人がちょっと楽な気持ちになれるって、素晴らしいなと。

――自分自身の勘や感覚で知っている“自分が何が大事なのか”を大事にするとのことでしたが、それは自分が嫌だなと感じることにも敏感ということでもありますか?

ばなな そうですね。小説を書いていてもそうなのですが、「待てよ、この子の隣に柴犬はいないかもしれない」と何か違和感を感じて犬の種類を変えて書き直してみると、全部がうまく流れたりします。 同じ水商売でもキャバクラと風俗とクラブで全て違うじゃないですか。 その設定をちょっとでも間違えると、急に登場人物みんなが黙っちゃうんです。なんか違うんだけどという感じで。書き直すのは嫌なのですが、書き直すとサラッと進む。それは、そのキャバクラにあるたった 1個の照明が邪魔していたんだなとか、後でわかるんですよね。

eri すごい! 登場人物たちは生きているんですね。

ばなな 生きているから疎かにできないんです。小説を書き終わる時は、疲れているけど嬉しくて、やった〜今日で終わり!とか思って、お酒とか飲んで、解放感があるはずなのに、なんとなく寂しい。今まで隣にいた人がいなくなったみたいな。
生きているから、彼らの部屋の中まで全部見えていて、そこに変なものが置いてあると、これ違うなと向こうから言ってくるというシステムになっております。だから見なかったことにはできない。

eri 違和感みたいなものを拾うんですね。

ばなな 日常でもそうですね。スルーしないですし、やむなくスルーする時はこれ違和感だったなということだけは絶対に持っていないと。

違和感が何かというより、なぜそれに自分は違和感を覚えたのかということに興味がある

eri 私は違和感を許せないタイプなので、分かるような気がします。心にちゃんと留めておいて、その違和感が何だったのかというより、なぜそれに自分は違和感を覚えたのかということに興味があるんです。そして、私は違和感は人と話している時にも結構感じます。何なのかわからないけど違和感を感じる…と。それが何だったのか、後にネチネチ考えるのが好きですね。

ばなな 必ずそれで答えが出るでしょ。あ、なるほどみたいなものが。考えていればどこかで分かるんですよね。でも、スルーしたりなかったことにすると、いつまでもいつまでも残って。そういうことでは私も結構潔癖と言えるかもしれません。

eri 私は社会問題に対しても、その視点が結構強いなと思っていて。ニュースを見ていても、やっぱり違和感を見逃さない。これはおかしいぞ、これはなんか変だなみたいな感覚は、メモしています。 何が変だった、何を感じたかなど、そういう違和感の蓄積を放置してそれが重なりすぎると、判断が鈍るんです。自分から言葉が出てこなくなっちゃうんですよね。社会システムの中で、本当に自分自身が何を感覚として気持ちがいいのか、ひとつひとつの行為に視点を持つ、目線を向ける、そういうことがスピード感的にすごく難しい。

ばなな そう、難しいかも。ちょっと速すぎますね。 私にとっては全てが速すぎるっていつも思っています。違和感には潔癖ですが、例えば私自身では決してしないことがあって、でもそれをする人が世界には存在していてもいいんじゃないと思っています。でも、それがする人が少ないといいよね、という。そういうことのために小説を書いていると思っています。

少しずつ染めながらずっと長く付き合っていける白はラッキーカラーと気付いた

eri ばななさんが手に取って今つけてくれているインドのカディのストール。これは手織りなんです。インドで見つけたのですが、この感覚を忘れたくないなって思いました。 最近ね、白はお得だということに気付いたんです。徐々に染めていけるじゃないですか。薄い色から染めていって、最後は黒になれる。黒を買っちゃうと黒で終了なので。 白って汚れやすいし、私にとっては勇気が必要な色だったんですよね。 最近、淡い色や白は可能性が広がる色だし、何度でも美味しい色だと分かってから、白でいいものを見つけるとすごくラッキーみたいな気持ちになっていて。私はこのカディのストールも同じことを思いました。これからずっとこの子と付き合っていく時、色を変えて楽しみながら付き合っていけるってすごく楽しいことですよね。物と長く付き合うということは、そういうことだったりするのかなと思いました。

ばなな なるほど。嬉しい。では汚れてきたらeriちゃんに染めてもらおう。私もすごく気に入っている黄色いトレーナーが汚くなったから染めてもらったら、真っ黒な中にうっすらベートーベンのプリントが浮かび上がっているおかしなトレーナーになっちゃいました。でも、着ています。それも思い出ですし、人から見たらただの黒いトレーナーでも、この真っ黒の下にはおしゃれが潜んでいるんだよと思いながら着ています。

eri 素敵!私は古着屋の娘なので、そういうものに惹かれますね。

ばなな 分からないことっていっぱいあるから、ひとつひとつそうして知っていきたいなという気持ちもあって、そういう実験はやめたくないですね。

――「自分が気持ちいいこと」に注力していると思うのですが、時には人と比べたり、嫉妬したり、そういう気持ちは生まれることはありますか?

ばなな 本当にないんですよ。小さい時からないんです。でも、自分大好きってわけでもない。自分には好きなところも嫌いなところもあるっていう感じです。

eri 人と比べることは、あります。というか、比べてばかりです。でもそれはネガティブな意味ではなく、実験的な意味があるかもしれません。自分という人間と他者の違いを見たり、同一性を見たり、自分に足りないところはこういうところだなと比較する中で学んでいくということをよくしています。 四六時中しているかもしれない。他者との比較は、必ずしも悪いことだと思っていないです。ただ、自分自身のことを信じてあげてない状態で、他者と比較するのは結構きついかもしれないですね。私は、自分の得意不得意を含めて、ある意味においての自分の限界みたいなものを知っているので、シュッと達観した状態で比較してみたりはしています。

ばなな そういう意味では、自分を大切にしてあげなくちゃなって思っています。ひとつひとつのことが自分にとって快か不快か。もっと細かく言うと、快が何%で不快が何%なのかという細かいところまで常に考えていると、だんだん前もって分かるようになります。     社会というものはいろんな人がいるから。とってもとっても多いから。

eri  いろんな人がいるねって台詞、本当によく言っています。    

ばなな いろんな人がいすぎるので、プラマイで考えるようにしています。ああいう人とこういう人が混ざっているから地上は面白いんだなと。

eri  たしかに。自分で自分を納得させる術みたいなものを、きっとそれぞれ持っていますよね。いいことがあったら同じ分だけ悪いことがあって、悪いことがあったらその分だけいいことがあるというように、私は自分をマインドコントロールしていたりします。今起こっていることは私の合わせ鏡で、私の精神がこれを作り出している、というような。変えるのであればまず私から変えていこう、というふうに思うんです。

ばなな ある意味それは本当だと思います。すぐ反映しないだけ。すぐじゃないから、人間って暗い言葉を言ったりしてしまうと思うんです。でも全ては流れていくから。

2026年3月18日に発売されたeriによる初めてのフォトエッセイ『暮らしの中の小さな革命』(光文社)。より良い暮らしを考えるヒントが散りばめられている
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編集/ライター/ディレクター
柿本真希
2児の母。様々な媒体にて、ファッション、暮らし、食、女性の生き方についてなど幅広いジャンルの編集・執筆・インタビューを手掛ける。2012年から2年半の間、母子留学でニュージーランドへ。帰国後は編集ライターに加え、ディレクションやキャスティングなど多岐にわたって活動中。

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