ストーリー|2025.03.07

ファッションにおけるゼロウェイストは可能なのか?

人の心をときめかせるはずのファッションが、地球環境へ大きな負荷をかけている。原料から糸が紡がれて生地となり、服として仕立てられて私たちの手に届くまでには、いくつもの工程がある。それが廃棄されるまでのプロセスにおいて、多くのエネルギーを使うことによるCO2排出量や水の消費量、過酷な労働環境などが深刻な問題となっているのだ。今回は、なかでも環境問題となっているファッションロスについて、ゼロウェイストの視点から掘り下げていく。

原稿:藤井志織 写真:Unsplash

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日本で最初に「ごみをなくす!」とゼロウェイスト宣言した徳島県上勝町

 ゼロウェイストはその名の通り「Waste(ごみ)をゼロにしよう」という理念のこと。無駄や浪費をなくしてごみをゼロにするためには、廃棄物を出さない製品設計や、修繕、リユース、リサイクルなどの方法がある。ゼロウェイスト社会の実現には消費者だけでなく、事業者や行政との連携も欠かせないが、行政として日本で先陣を切って取り組んだのが徳島県上勝町である。

出典元:環境省報道発表「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度)について」

 上勝町では2003年のゼロウェイスト宣言以来、ごみ収集をいっさい行っていない。町民は、生ごみはコンポストを利用して各家庭でたい肥化し、資源ごみはごみステーション「上勝町ゼロウェイストセンター」に持ち込む生活をしている。資源ごみは13品目45種に細かく分別しているおかげで、上勝町のリサイクル率は80%を超えているそうだ。ちなみに2022年のリサイクル率ランキングにおいて、人口10万人未満の自治体での全国1位は84%の鹿児島県大崎町、人口10万人以上50万人未満だと56.3%の神奈川県鎌倉市、人口50万人以上だと34.4%の千葉県千葉市。

 今では国内に福岡県大木町や熊本県水俣市、神奈川県逗子市など8自治体がゼロウェイスト宣言をしている。人口減少に危機感を持つ過疎の小さな町が、この理念を日本中に広めたのだ。

世界におけるゼロウェイストの取り組み

 ごみを減らす方法は基本的に「5R」ーーREFUSE(不要な包装や使い捨て製品を拒否する)、REDUCE(長期間使用できるものを選び、消費を最小限に抑える)、REUSE(なるべく再利用する)、RECYCLE(素材を再資源化する)、ROT(有機物は堆肥化し、環境にやさしい方法で処理する)ーーと言われる。

 世界中でゼロウェイストのためのさまざまな取り組みが始まっているのは、行き過ぎた資本主義に疑問を感じる人が増えたからだろうか。シェアリングサービスやレンタルサービスの利用、物流の仕組みの変革、資源を浪費しない製品の生産方法の採用、循環型経済(サーキュラーエコノミー)など、システムレベルでの見直しや、人々の意識変革に重点を置くものも多い。

 例えば飲食業では、調理中に出たごみや食べ残しをコンポストして堆肥化する試みがよく見られる。また使い捨てのプラスチックの使用をなるべく減らしたり、注文を食べきれる量にするように促したりといった工夫もある。通常、廃棄してしまう野菜の皮や摘果した果物などを活用したアップサイクルフードも人気だ。消費者が買い出しする際は、エコバッグを携帯するだけでなく、密閉容器を持ち込んで必要な分だけを購入したいところ。近年はパッケージレスで量り売りする小売店も増えている。

 また内装業では、建築建材や不要になった家具や建具をリサイクルする、生分解性のある自然由来の素材を原料にするといった取り組みも増えている。

ファッション業界が抱える深刻なごみ問題

 しかしながらファッション業界では、過剰な消費とファッションロス(まだ着られる衣類が廃棄されること)が問題となっている。現代は生産される衣料が多すぎるうえ、日本では毎年約50万トンもの衣類がごみとなっており、 そのうち再資源化されているのはわずか5% 程度。新しい服を生み出すためには、原料となる植物の栽培や染色に大量の水やエネルギーが使われ、CO2が排出され、多大なる環境負荷がかかっているというのに。

出典元|環境省サステナブルファッション

 ブランド価値を守るために売れ残りや不良品を廃棄するなど、消費者の手に届くことなくごみとして焼却・埋め立て処分されるものもある。安易に買ったがために、一度も袖を通すことなく捨てられるものもある。制作過程で出る端切れも驚くほどの量である。

 新しい服を買うことは刺激的で、ショッピングによって気分が高揚するという人も多いだろう。でもその興奮は一時的なもので、地球環境に負荷をかけるという側面があることを忘れてはいけない。今、真剣に考えなくてはいけないのは、生産・消費活動そのものなのだ。

 ファストファッションの台頭以降、アパレル業界では低価格化が進み、トレンドのサイクルも短くなっている。手軽に手に入れた服は、手放すことも安易にできてしまいがちで、買う→着る→処分するという服のライフサイクルは短くなるいっぽう。これはメーカーだけの責任ではない。需要があるから供給されるのだから。

 手放すときは、「リサイクルショップに買い取ってもらう」「チャリティーショップに寄付」「フリマアプリなどで譲渡する」から、「ごみとして捨てているわけではない」と思ってはいないだろうか。たしかに寄付や譲渡によって再流通させることは、服の処分における一つの方法だ。ただし、そこにはいくつもの落とし穴がある。手放した服がリユース・リサイクルによって再活用される割合は約34%と言われている。つまり、すべてが資源としてリサイクルされるわけではないということ。

 ジャーナリストのソフィー・ベンソンは、著書『持続可能なワードローブ』の中で、チャリティーショップや回収業者の手に渡った衣類が、実は第三国で廃棄されている現実を紹介している。

服を循環させるための回収システムとは?

 もちろん、きちんと循環させるための回収システムもあるので賢く利用したい。街中や店舗に、衣類回収ボックスが設置されていたり、アパレルショップで衣類回収を行っていたり、宅配便で送ると回収してくれたりするので利便性も十分だ。なかには下着やダウン、靴、アクセサリーといったものまで回収してくれるサービスも。

 例えば「TONITO」では、色ごとや素材ごとに丁寧に分別された繊維で、廃棄衣料の色味を生かしたアイテムを作っている。また「グリーンダウンプロジェクト」では、ダウンの羽毛のリサイクルに取り組んでいる。

 こうした回収システムによって集まった衣類の活用法は主に以下の2つとなる。

リユース

 状態のいいものはそのまま国内で再使用されるけれど、それはほんの一部だという。残りの大半は東南アジアや韓国などに輸出されているため、その先は不透明。先述のように最終的に廃棄され、焼却や埋め立て処分されている可能性もある。

リサイクル

 例えばウールやカシミア製品であれば、反毛してワタの状態に戻し、新たな生地として再生することができる。ごみが減るだけでなく、新たに原材料を得る回数が減らせるので、環境への負荷が軽減できる。ほかにもデニムは素材、色別に分けて綿の状態に戻し、新たにデニムとして再生(綿95%以上のインディゴデニムに限るなどの制約がある場合が多い)。ポリエステル100%の服であれば、何度でも再生できる「BRING Material™」という画期的な素材もあるが、一般的にリサイクル素材は繊維が短く弱くなるというデメリットがある。

 いっぽう、素材が複雑に織り混ざっている混紡素材は、生地としてリサイクルできないことが多い。すると細かく粉砕し、断熱材や防音材、自動車の内装材、軍手などの資源になる。つまり、衣類として循環させるためには、服の素材が単一であることが重要なのだ。また、リサイクルの過程においては化学薬品や水、エネルギーが必要となるため、環境に負荷がかからないわけではない。

 となるとベストなのは、物理的に耐久性が高いものを購入し、ときにはリメイクやリペアを施しながら、より長く大切に着用すること。

 日本でも70年ほど前までは、みんなが当たり前のようにそうしていた。特に着物は直線で構成されているため、仕立てる段階でも端切れが出ないうえ、着る人のサイズに合わせて仕立て直すこともできるし、古びてきたら使える部分で子どもサイズや小物を仕立て、最後はおむつや雑巾としてとことん使い切っていた。

 サイズアウトした子ども服は「お下がり」として、親戚や近隣の子どもたちを何巡もしていたし、セーターをほどいて編み直す人も多かった。技術革新によって手頃な価格の合成繊維商品が増えたり、経済成長によって生活が豊かになった反面、廃棄物の排出量が増加し、環境問題が増えていった。今一度、過去の暮らしから学び、未来に活かすことを考えたい。

国内外の企業が取り組むファッションロス解決策

 アパレル企業も、ファッションロスに向けて動き始めている。例えば「JSFA(ジャパンサステナブルファッションアライアンス)」は、一つ一つの企業では解決しづらい課題に対して、連携することで解決策を見出していこうという企業連携プラットフォームだ。2050年までに「2050年カーボンニュートラル」と「適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロ」を目標として掲げ、実態の把握や新しいシステムの構築に向けて動いている。

 世界でもフランス政府の呼びかけによって、「ファッションパクト(ファッション協定)」が2019年8月にスタートした。これは欧米を中心とするファッションおよびテキスタイル企業32社が、気候変動・生物多様性・海洋保護において共通の具体的な目標に向かって取り組むことを誓約したもの。現在では60社以上の有力ブランドが加盟し、日本からは「ゴールドウイン」など3社が加盟している。フランスでは、在庫や売れ残り品の廃棄を禁止する新たな法律「廃棄禁止及びサーキュラーエコノミーに関する法律(売れ残り品廃棄禁止法)」が2020年2月に採択されたこともあり、業界をあげてファッションの「ゼロウェイスト」に取り組んでいる。

 いっぽうアメリカでは「オフプライスストア」が定着。アウトレットのように自社ブランドだけでなく、複数のブランドから余剰在庫やシーズンオフ商品を仕入れ、割引価格で販売するのだ。日本でもこの業態の出店が増えており、話題となっている。

 アパレルメーカーが直営するリユース専門店「オンワード・リユースパーク」もある。オンワードが運営する店舗やオンラインにて顧客から衣料品を回収し、一定の基準をクリアしたものが4〜5回の検品を繰り返してから、クリーニングを経て「オンワード・リユースパーク」で販売されるのだ(その他は軍手や毛布にリサイクル。毛布は海外の貧困地域へ直接、寄贈)。

 カジュアルウェアからスポーツ、アウトドア、シューズなどあらゆるジャンルの規格外品やデッドストック品を約3000㎡の空間に集めた「KISARAZU CONCEPT STORE」も注目されている。入場料¥300(一部は社会課題の解決に取り組む企業・団体への協賛に使われる)を支払って入場し、あちこちに点在するフィッティングルームで自由に試着したり、エシカルな飲食を楽しんだり、ファクトリーラボで洋服の循環を体験したり、サステナブルなブランドの取り組みを学んだりできるテーマパークのような実験場。ファッションの新しい楽しみ方ができる場として、足を運んでみたい。

服をごみにせず長く着続けるために必要なこと

 過剰な消費活動をセーブするには、「地球環境に負荷をかけたくない」という気持ちよりも、もしかしたら情緒的な理由のほうが効果的かもしれない。

 素材が生まれた場所、生地になるまでの製法、デザインに込められた誰かの想い、縫製や仕上げのための手間や技術。それぞれに関わったこだわりや物語を感じることができたら、1枚のシャツの存在感がぐっと増すに違いない。リメイクしたり染め直したりすることで、より愛着が深くなり、新たな価値がうまれることもあるだろう。

 価格やトレンドに左右された衝動買いは避けて、長く愛用できる上質なもの、丁寧に作られたもの、ずっと好きでいられる服を選び、それを大切に手入れしながら、長く着続けること。あなたが現在よりも1年長く着ることで、日本全体では4万トン以上の廃棄量削減につながると言われている。新しい服を買うときは、古着やリサイクル生地からできた服から検討するのも一つの手。

 大量消費に歯止めをかけ、買って捨てるまでの短いサイクルを断ち切るために、自分になにができるか。安いから買うのではなく、必要なものだから買うという習慣を身につけたい。

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編集ライター
藤井志織
主に雑誌や書籍、WEB、企業の販促物などで編集や取材、執筆を行うほか、イベントやプロダクトの企画やディレクションを行うことも。担当した書籍に、草場妙子著『TODAY’S MAKE BOOK 今日のメイクは?』、ウー・ウェン著『100gで作る北京小麦粉料理』などがある。

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