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ストーリー|2025.01.31

ファストファッションとは?知っておきたい問題点と世界の現状

トレンドのデザインを大量に、低価格で楽しめる「ファストファッション」。その流行の裏側で、ファストファッションここにはどんな労働問題や環境問題があるのか? その問題点も把握していきたいところ。近年聞かれる「ウルトラファストファッション」や「サステナブルファッション」など、世界の潮流とあわせてみていこう。

原稿:浦田庸子 写真:Unsplash

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ファストファッションとは何か?

ファストファッションとは最新の流行を取り入れたデザインを、短いサイクルで次々と生産し、しかも低価格で販売するブランドやビジネスモデルのこと。まるでファストフードのように簡単に流行の服が手に入ることからこの名がついた。

第一のメリットは「トレンド」が巧みに取り入れられていること。ハイブランドがファッションショーで発表したデザインや、SNSで話題になった服、有名人が着た服など、売れ筋がすぐデザインに反映される。

第二のメリットはその「早さ」だ。あっという間に服を作りあげ、短期間で売り切り、新しいデザインをどんどん市場に投入する。そもそも「ファストファッション」という言葉が広まったのは、1989年にZARAがニューヨークに出店したときに、デザインしてから店頭に並ぶまでを15日で行うというZARAを紹介した『ニューヨークタイムズ』紙がきっかけだったと言われる。

第三のメリットは1着が数百円~数千円という「安さ」。大量に作ることによって単価を下げたり、人件費やその他のコストを削って安さを実現している。

ファストファッションのブランドは、なぜ生まれたのか? 

ファストファッションの代表的なブランドであるZARAH&MTopshop(トップショップ)、FOREVER 21(フォーエバー21)、UNIQLO(ユニクロ)などは1990~2000年代にかけて世界に店舗を拡大した。

共通するのが以下の特色だ。

  • 素材生産、紡績、縫製などを国際分業し効率化したサプライチェーン
  • 生産拠点をアジアに移したことによる低価格化
  • データ管理による消費者戦略や流行を先読みする企画力

この仕組みを可能にしたのが、1990年代に始まるIT技術の飛躍的な進歩だ。ファストファッションモデルが誕生する前のアパレル業界は主に、春夏、秋冬という大きく2つのシーズンに、デザイナーがブランドの世界観や顧客の嗜好にあわせてデザインを練り上げていた。しかし、1990年代からのIT技術革新によるクローバリゼーションは、ファッション業界に劇的な効率化をもたらす。

テクノロジーを駆使した生産の効率化「SCM(サプライチェーンマネージメント)」により、素材から服ができあがって消費者の手に渡るまでの時間が劇的に短くなり、より多くの服を、安く、早く、店頭に並べることができるようになった。これを製造現場で支えたのが、主にアジアの縫製工場で低賃金で働く女性工員たちだ。

また「CRM(カスタマーリレーションマネージメント)」にもテクノロジーが導入され、計算された在庫管理によって、「店にある最後の1点だから今買わなければ」という消費者心理を煽ったり、データをもとにトレンド商品を投入する販売戦略が行われた。

こうして1990年代から「大量生産、大量消費」のファストファッションシステムができあがっていく。その裏側で、グローバルな製造モデルやデータ管理システムをもたない中小ブランドや小さなブティックは廃業に追い込まれるなど、苦境に立たされていった。

ファストファッションの台頭で衣服の供給量がほぼ倍になり、価格は半減した日本

日本でも1998年にZARA、2000年にH&M、FOREVER 21(フォーエバー21)の店舗がオープンし、2009年には「ファストファッション」が新語・流行語大賞トップ10に入るなど、この時代にファストファッションが人々の生活に定着していく。

また、日本独自の背景として2000年の「大規模小売店舗法」の廃止もあげられるだろう。日本各地で町の洋品店や商店街に替わって、大規模なショッピングセンターが拡大し、より広い店舗の売り場を満たす大量で手頃なファッションブランドが求められるようになった。

環境省「ファッションと環境」より(*1)

日本国内では1990年から2020年までの間に衣料の供給量はほぼ倍増しているが、1着あたりの価格は約半分になっている。「安く、大量に作る」ファストファッションの浸透が、この数字からもわかる。

さらに安価な流行品が次々と店頭に並ぶことで服の寿命は短くなり、人々は以前よりも簡単に服を捨て、新しいものを買うという「大量生産、大量廃棄」のサイクルが加速していく。

ファストファッションの問題点。なぜアパレルは「世界第2の汚染産業」と言われるのか?

このような大量生産・大量消費を前提とするファストファッションでは、当然使用されるエネルギーや資源の量も増えていく。その弊害を詳しくみていこう。

1.CO2の排出 

国連環境計画が2023年に発表した報告書によると、ファッション業界は世界の温室効果ガス排出量の2~8%を占めている。(*6)
繊維生産による温室効果ガスの排出量はCO2に換算して12億トンあり、これは航空業界と運輸業界を足したものより多い。対策を取らなければ2030年までに60%増加すると報告されている。(*2)

なぜこれほどCO2が多いのか? それは、流通する服の半分以上を占めるポリエステルを筆頭に、化学繊維が石油を原料とするためだ。また、紡績、染色、縫製といった工場での製造や輸送にもエネルギーが使われている。
服1枚で考えると、CO2排出量は25.5㎏、500㎖のペットボトル255本分になる。(*3)

2.水消費と水質汚染

綿花の栽培から染色まで、服が作られるまでにはさまざまな過程で大量の水が使われている。アパレル業界は毎年930憶立法メートルの水を使っていて、これは500万人の人が暮らすのに十分な量になる(*1)。1枚のTシャツを作るのに使われる水は約2700ℓ。これは一般に1人が3年かけて飲む水の量だ。(*4) 世界の人口が増え気候変動が進むなか、貴重な水資源をどう使うのかという視点は欠かせない。

さらに問題なのが排水だ。染色や防水など衣類の加工段階で使われた化学物質が適切に処理されることなく排水され、河や海の汚染へ繋がっている。世界の工業用水汚染の20%は、繊維の染色と処理に起因しているとの報告もある。(*1) 環境保護団体のWWFは、1970~2018年までに淡水域(河川)での生物の豊かさが83%失われていると警鐘をならし、その大きな原因の一つとして綿製品をあげている。

3.マイクロプラスチック汚染

服を作る途中だけでなく、着てからの水の汚染もある。それがマイクロプラスチック問題だ。洗濯によって化学繊維の細かいくずが抜け落ち、年50万トンのマイクロファイバーが海に流出しているという。(*1)

4.廃棄物

ファストファッションの最も大きな弊害のひとつが「廃棄」だ。以前より安く、簡単に新しい服を買えるようになったことで、服の寿命は格段に短くなり、多くの衣類ゴミが生まれている。日本で1年に手放される服の量は約70万トン。うち66%にあたる46万トンが燃やされたり埋め立てられたりしている。リサイクルやリユースなど再び活用されるのは全体の34%にすぎない。

国民1人あたりで考えると、私たちは1年に18枚新しく服を買い、15枚を手放しているという。(*3)

環境省「サステナブルファッション」(*3)

世界規模でみると数字はさらに膨大だ。世界では1年で9200万トン、3000億着の服が焼却か埋め立てされている。人口の増加に伴い廃棄量はさらに増加する予測だ。(*5)

寄付やリユースという名目で海外に送られた古着が、現地の許容量を超えてゴミとなる事例も後を絶たない。ガーナのカンタマント市場には毎週1500着の古着が送られてくるが、その4割は埋め立て地や海岸に捨てられる。毎年6万トンもの古着を受け入れるチリのアタカマ砂漠には“服の墓場”といわれる投棄地があり、宇宙衛星から確認できるほどだ。

「リサイクル素材を使っています」と謳う商品も多い最近、素材のリサイクルをすればいいと思うかもしれない。しかし、実際のところ服から服へリサイクルされる割合は全体の1%に過ぎない。複数の素材をミックスした混紡繊維の水平リサイクルは、実用化にはまだ技術革新が必要だからだ。(*1)

5.労働問題

ファストファッションの低価格と速さを支えているのが、主にアジアの縫製工場で低賃金で働く工員たちだ。ファストファッションブランドの多くは安価な労働力を求めてアジアに生産拠点を移していて、工員たちは生活賃金を保証されず、長時間、なかには安全が確保されない劣悪な環境で働いている。

Photo by Zakir Hossain Chowdhury/NurPhoto/NurPhoto/Corbis via Getty Images

それを世に知らしめたのが、2013年4月にバングラデシュで起きた、ラナプラザビル崩落事故だ。死者1100人、負傷者2500人、行方不明者500人を出したファッション史上最悪といわれるこの事故は、主に縫製工場の若い女性工員たちが犠牲となった。違法建築のため倒壊のリスクが指摘されていたにも関わらず、彼女たちはファストファッションの厳しい納期を守るために避難が許されなかったのだ。

ラナプラザの事故後、ファストファッションブランドは工員の労働条件の改善に動き、世界的にも悲劇を繰り返してはならないという機運が高まった。

しかし現在も、約7500万人いるファストファッションに関連する工場労働者のうち、最低賃金を得ているのは2%に過ぎないという報告もある。(*7) 綿花栽培や縫製などの児童労働も深刻な問題だ。

このような「地球」と「人間」にまつわる問題から、国連貿易開発会議はファッションは世界第2位の汚染産業として警鐘を鳴らした。地球環境やグローバルサウスの人々に犠牲の上に、安くて速いファストファッションは成り立っている。

ウルトラファストファッションの登場

洋服の“真のコスト”が明らかになるにつれ、ファッションを持続可能にしようという世界的な呼びかけが起こり、ファストファッションブランドにも変化が生まれている。

ZARA、H&M、Forever21、ユニクロなど多くのブランドは、環境負荷の低いサステナブル素材の使用を増やし、リユースやリサイクルにも力を入れている。化学薬品や排水に対しても規制が設けられ始めた。

しかし「より早く、より安く」の競争は、SHEIN(シーイン)TEMU(ティム)というウルトラファストファッションの登場により激化している。ZARA、H&M、Forever21という実店舗をもつ従来のファストファッションブランドに対し、シーインやティムはオンラインのみの販売だ。このeコマースに特化した効率化を極限まで行っているのがウルトラファストファッションの代表格、シーインだろう。

  • 広州を中心に300近い協力工場で生産しダイレクトに消費者に届ける
  • 企画から生産までを最短で3日で行う(*8)
  • 一日に3000点の新作が登場(*9)
  • AIを駆使して売れ筋をリアルタイムで解析して生産量を調整

安さ、リードタイム、流行のデザイン数。どれをとっても今までのファストファッションとケタ違いの規模で売り上げを伸ばし、コロナ禍ではファストファッション最大手のZARAを抜き、今もその勢いは止まらない。

一方では、苛酷な長時間労働や、商品から発がん性物質が検出されるなど、問題も深刻さを増している。

「シーイン」の登場で変わるファストファッションの現在地」 ーShift C
https://shiftc.jp/2024/10/10/fast-fashion-shein/

サステナブルファッションは未来へ向けた定番となれるのか?

ファストファッションの競争が過熱する一方で、「サステナブルファッション」の認知も高まっている。近年の日本国内の調査では約46%がサステナビリティに関心があると答え、約30%がサステナブルに準拠したファッションを意識して選んでいるという。(*10)

では「サステナブルファッション」とは何を指すのか?

世界の6000ブランドのサステナビリティ度を紹介する当サイトShift Cでは、

  • どれだけ環境への負荷を減らしているか
  • 作り手への敬意があり人権が守られているか
  • 動物福祉のポリシーがあるか

以上の「地球」「人間」「動物」の3分野に配慮された衣服を「サステナブル」として、どのブランドがどんな取り組みをしているか、公開情報を基に紹介している。

服を買う時に値段やデザインだけでなく、サステナビリティに対してどんな行動をとっているブランドなのか、意識して検索してみてほしい。

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一着を長く着ることも、サステナブルファッション

「大量生産、大量廃棄」のループから脱して、「1着を長く着ること」も有効なサステナブルファッションだ。膝丈のトレンチコートやニットなど、ファストファッションブランドの定番デザインをたくさん買うよりは、良質な素材の長く愛せる1着を選ぼう。そして、サステナブルな取り組みをしているブランドやデザイナーにお気に入りを見つけたら、“着ること”で応援することもできる。ファストファッションモデルから脱するためには、社会全体の意識の変化が欠かせない。

「着る人」である私たちの行動と、「作り手」であるブランドのビジネスモデル、両方が変わることで持続可能なファッションはこれからのスタンダードになっていけるはずだ。

「高級ブランドはファストファッションよりサステナブルといえるのか?」 – Shift C
https://shiftc.jp/2024/06/28/luxury_fashion_susutainability/


*1:環境省「ファッションと環境」
https://www.caa.go.jp/policies/future/topics/meeting_006/materials/assets/future_caa_cms201_1209_02.pdf
A New Textile Economy: Redesigning Fashion’s Future
https://www.ellenmacarthurfoundation.org/a-new-textiles-economy
*2:United Nations Climate Change
https://unfccc.int/news/fashion-industry-un-pursue-climate-action-for-sustainable-development
*3:環境省 サステナブルファッション
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion
*4 https://waterfootprint.org/resources/Report18.pdf
*5  https://www.ecommit.jp/case/bzvg9v8530/
*6 https://www.unep.org/resources/publication/sustainability-and-circularity-textile-value-chain-global-roadmap
*7 https://studentbriefs.law.gwu.edu/ilpb/2021/10/28/fast-fashion-getting-faster-a-look-at-the-unethical-labor-practices-sustaining-a-growing-industry/
*8 「Fast-Fashion Brand Shein Explained
*9 「Toiling away for Shein
*10 https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20240730-2.html

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