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「スコアを上げたい」から始まった、Good Measuresの導入
9-jourがGood Measuresを導入したのは2023年11月頃。背景には、Good Measuresによるサステナビリティ評価をもう一段階引き上げたいという狙いがあった。当時の評価は日本ブランドの上位11%にあたる「良い」。もうひとつ上には最高ランクである「素晴らしい」がある。プロダクト面では一定の評価を得ていたが、企業全体としてどの項目が不足しているのかを可視化する必要があった。

Good Measuresの評価プロセスを進める中で9-jourが強く意識したのは、プロダクトの完成度よりも、企業としての基盤だった。「ものづくりに関しては自信があります。ただ、ブランドとしては語れていても、会社としての基準をどこまで整備できているのか。本当にその水準に達しているのかは、検証できていなかったんです」と高田氏は振り返る。
天然染色や伝統技術を活かしたものづくり自体は、比較的スムーズに整理できた。一方で、ガバナンス体制や従業員への向き合い方、情報開示の整理といった領域では、明確な基準を持てていないことが明らかになった。
特に課題となったのが、情報開示の体系化だ。何をどの水準で公開するのか、どの指標を基準とするのか。国内では十分と考えていた取り組みも、国際基準で見れば整理不足の可能性がある。

「情報は出しているつもりでしたが、どの指標で、どのレベルまで開示すべきかが整理されていなかったんです。企業として示すべき基準が明確になったのは大きかったですね(高田氏)」
ブランドのストーリーを語ることと、企業としての体制や基準を体系的に開示することは別の課題だ。Good Measuresの導入は、その差分を可視化し、改善項目を構造的に整理することで、結果として企業基盤の点検と再設計へとつながった。
数値化と可視化が導いた、ホームページ改修と世界標準のEC構築
企業基盤の課題が明確になったことで、9-jourは具体的な改善フェーズへと移行した。中でも優先されたのが、情報開示の「数値化」と「構造化」である。
「当初のホームページでは、具体的な数値をほとんど提示できていませんでした。それをGood Measuresで指南され、定量的に示すことの重要性を理解しました」とPRの大森氏は語る。
例えば、畜産デニムの環境負荷削減効果や、染色工程における水質管理の数値、大学との共同研究による検証データなど、これまで定性的に説明していた内容を、比較可能な指標として提示できるよう改修した。これにより、取り組みの妥当性を客観的に示す基盤が整備された。

さらに、ホームページでは各工場を再取材し、製造プロセスを体系的に整理。動画を含めたコンテンツによって、トレーサビリティと技術背景を明示する構成へとアップデートした。

加えて、ECサイトの構造も見直された。従来からShopifyを利用していたが、設計はあくまで国内販売を前提としたものだったという。
「世界に向けて発信しているつもりでも、実際は国内仕様の延長に過ぎなかったんです。設計思想そのものが違っていたと気づきました(高田氏)」
たとえば、価格表示は円建てが基本で、海外からのアクセス時にも自動で通貨が切り替わる仕様にはなっていなかった。また、配送条件や関税・送料の表示も、国際取引を前提とした設計とは言い難かったという。
国際販売を前提とするECでは、アクセス地域に応じた通貨表示の自動変換、税・関税情報の明示、配送条件の最適化などが標準機能として求められる。こうした要件を踏まえ、9-jourはECサイトを全面改修。海外市場での購入体験を前提とした設計へと再構築した。
マレーシアとパリで検証された、BtoC接点の価値
こうした基盤整備と並行して、9-jourは海外市場での実地展開を進めている。2024年秋にはマレーシアで「アジアのサステナブルブランドTOP10」に選出され、現地展示会に参加。続いてパリでは、サンジェルマンとマレの2箇所にあるD2Cシェアポップアップスペースでポップアップを開催し、直接消費者と接点を持つ機会を得た。

高田氏が強調するのは、BtoCの場が持つ“検証機能”だ。
「BtoBは商談として整理された会話になりますが、BtoCは純粋な反応が返ってくる。その場で評価されるので、市場のリアルが見えるんです(高田氏)」


パリでは、ファッション業界関係者やクリエイターなど感度の高い来場者が、プロダクト背景や天然染色の哲学に強く関心を示したという。特に印象的だったのは、ブランドの完成度に対する評価だった。
「日本の技術や思想がここまで一貫しているブランドは珍しい、と言っていただけて、とても嬉しかったですね」(高田氏)
マレーシアでは「ドレスデニム」が反響を呼び、フォーマル用途にも対応できる構造が評価された。一方、パリでは「菖蒲色(しょうぶいろ)」のデニムが支持を集め、日本独自の色彩感覚が海外市場でも受け入れられることを確認できたという。


これらの反応は、単なる好意的なコメントにとどまらない。企業基盤の整備と情報開示の強化を進めたうえで海外市場に出たことで、ブランドのストーリーと実態の整合性が問われる環境に立てたことが大きい。
BtoCの現場は、ブランドの思想がどこまで通用するのかを測る場であると同時に、企業としての透明性が前提条件となる市場でもある。その意味で、Good Measuresを通じた基盤整備は、海外展開の準備運動として機能していたと言える。
世界が求める情報開示は、想像以上に具体的
海外展示会での手応えはあった。しかし同時に、国際市場で求められる情報開示水準は想定以上に高いことも明らかになった。パリでの展示を通じて明らかになったのは、「現在の開示内容では十分ではない」という現実だった。
「ヨーロッパは視点が違いました。ストーリーだけではなく、裏付けとなる具体的なデータを求められるんです」と高田氏は言う。日本の伝統技術や職人の背景を丁寧に伝えることは重要だ。しかし欧州の消費者やバイヤーが重視するのは、第三者認証の有無、トレーサビリティの明示、定量データの提示といった“検証可能性”。

「どういう場所で、どういう工程で作られているのかを、誰でも確認できる形で示す必要がある。ホームページ改修でプロダクト情報を深掘りしましたが、それでもまだ足りないと感じました」(高田氏)
この感覚は、Good Measuresの評価結果とも一致していた。製品面では一定の評価を得ていた一方で、「People(人)」領域のスコアは伸び悩んでいた。労働環境、ダイバーシティ、従業員への配慮など、組織としてのガバナンス情報が十分に整理・開示されていなかったためだ。
「ブランドの情報は開示できていても、会社の情報は体系化できていなかった。そこを整備しなければ国際市場では通用しない、という認識になりました(大森氏)」
日本のサステナブランドが進むべき道
高田氏は、9-jour立ち上げ当初から「既存アパレルの前提を疑うこと」からブランドを構築してきたという。しかし、海外市場での実践を通じて明らかになったのは、思想やプロダクトの独自性だけでは十分ではないという現実だった。国際市場では、企業としての体制、情報開示、ガバナンスの整備が前提条件となる。Good Measuresの評価プロセスは、その差分を可視化する役割を果たした。
「質問項目を一つずつ整理していくことで、自社の現在地が明確になりました。何が不足しているのか、どこから改善すべきかが具体的に見えたのは大きかったです(大森氏)」

日々の業務の中では後回しになりがちな組織基盤の整備を、体系的に見直す機会となった点も重要だ。
「ブランドとして語ることはできても、会社としての基準をどこまで整備できているかは別問題でした。そこに向き合えたことが今回の一番の成果です(高田氏)」
海外市場で求められる水準を前に、9-jourは製品強度だけでなく、企業基盤そのものを再設計する段階へと移行している。評価はゴールではなく、改善の起点である。
9-jourの事例が示すのは、製品の強度と企業基盤の透明性を同時に引き上げる必要性だ。Good Measuresは、限られたリソースの中でも自社の課題を構造的に整理できるツールである。海外市場を視野に入れる日本ブランドにとって、客観指標をもとに経営基盤を再設計することは、今後不可欠なプロセスとなるだろう。
