ブログ|2025.01.08

服と、時間と、ラグジュアリー

「ラグジュアリー」と聞いて、多くの人は高級ブランドのバッグやジュエリーを思い浮かべるかもしれない。でも、真の贅沢って何だろう?先日、unistepsのメンバーが訪れたのは、400年以上の歴史を持つ「有松絞り」の町。そこでは、昔ながらの技法で一つひとつ染められた布と、それを支える人々の姿があった。ファッション業界で「ラグジュアリー」と呼ばれるものは時代とともに変わるけど、今、本当に贅沢なものは何か。今回の体験を通じて、その答えを考えてみた。

原稿:一般社団法人unisteps

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朝早い東京駅から新幹線に乗り、名古屋までは1時間40分。そこから電車を乗り継いで到着したのは、有松絞(ありまつしぼり)で有名な有松駅。今回は先日の日帰り旅を振り返る個人的な日記のようなブログになりそうですが、服との関係性を考えるきっかけになれば嬉しいです。

12月の有松は快晴とはいえ、こたえる寒さ。ここで数百年の絞りの伝統を引き継ぎながら2008年にドイツで誕生したブランド、SUZUSANの方に案内していただき、ショップや染め工場の見学、さらに自分で染め体験までさせてもらって帰ってきたのでした。上の写真は「手蜘蛛しぼり」という技法を筆者が体験させてもらったものです。

駅からすぐ、ゆるやかに曲がる有松の東海道沿道には、今も江戸情緒あふれる街並みが保全されています。この地域はちょうど東海道上で宿場町と宿場町の間に位置し、もとは農業にも適さない何もない土地だったそうです。そこに1608年、8人が移り住み、ゼロから産業を興すことを含めたまちづくりが始まりました。なんというサバイバルゲームでしょう!そこで村人のひとり、竹田庄九郎というひとが思いついたのが、東海道を歩いて有松を通り過ぎていく人々に向け、旅の必需品である手拭いに、絞りなどの当時斬新なデザインを施して販売すること。このアイディアは大当たりし、その後徳川幕府の庇護も受けながら有松絞りの産地として村は大きく繁栄することになりました。

1608年にこの地で始まったということは、どういう意味を持つのでしょうか?相対性理論は筆者にはちょっと理解できないのですが、とにかく時間というものは、常に全員に同じく流れているのではないような気がするのです。

ファストにファストにどんどん作られた服も楽しいし便利だけれど、今私が着ている服は400年前に〜とストーリーを語り出すことができる状態というのも、好きかもしれない。というか、有松で昔から続くやり方で1点1点染めを施す人々をみて、これこそ「ラグジュアリー」と言えるのではないかと感じました。(①上の写真は、筆者が体験した「手蜘蛛絞り」という技法を用いたものです。)

ラグジュアリーって、なんだろう。

ラグジュアリーというと、外資ブランドの高級バッグなどを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、著作家そして服飾史家の中野香織さんによると、人々の願いや夢、そしてお金が集まるこの領域でも、何を「ラグジュアリー」と呼ぶかは不変ではないとのことです。魅力的で豊かで、輝いて見えるものは変化するということでしょうか。

もともと中世ヨーロッパでは、ラグジュアリーとは社会秩序の維持のためにあるものでした。例えば絹を着られるかどうかで階級をはっきり分けるなどという明確な役割がありましたが、その後、時代に応じてラグジュアリーを必要とする人もその内容も変わり、近年はコンシャス・ラグジュアリーという概念が生まれてきています。自然環境や生産者に負担のかかるビジネスモデルか否かという意識はラグジュアリー以外のマーケットでも必須条件とされつつありますが、人からの見え方や憧れで成り立つラグジュアリーにとっては、積極的に文化の保全を行っているか、などの観点も含めそのよう意識がなおさら大切であるという考え方です。

実際、有松絞りは日本を代表するブランドや、誰もが知る世界的なハイブランドでも採用されていますので「ラグジュアリー」といって良いと思うのですが、その理由の一つには、何百年もの昔から地域にあるリソースをつかって地元の人によって育てられてきたという、時間のかかり方と圧倒的なストーリーがあると思います。今回案内していただいたSUZUSANは、若い職人の育成や技術継承にも果敢に取り組み、歴史を語るだけではなく未来にも続けていく施策を実行しています。だから、有松絞りのように歴史あるものづくりの産物を身に纏うと、自分の周りだけ時間が歪むような錯覚を起こすことができるのかもしれません。

帰路、名鉄百貨店で名古屋名物味噌煮込みうどんを食べながら、だからわたしにとって、伝統技術とラグジュアリーは近いものに感じるのかもしれないなんて思いました。味噌の濃い味とともに、「時間をまとう」という感覚が心とお腹に刻まれた1日でした。

unisteps鎌田は、手筋絞りに挑戦

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本記事は日本のユーザーの方のために、「多様で、健康的なファッション産業をつくる」ことをミッションに活動する一般社団法人unistepsが執筆しています。

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