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ビューティー|2026.06.05

ヘアメイク・イガリシノブさんが「コスメロス協会」を通して伝え続けていること

イガリシノブさんといえば、雑誌などのメディアで活躍し自身のコスメブランドも持つ、日本のビューティ業界を牽引するヘアメイクの一人だ。そんなイガリさんが「コスメロス協会」の代表を務めていると聞き、え?と思う人も多いのではないだろうか。コスメを売る側でありながら、ロスについても向き合う、その理由を聞いた。

原稿:横山佐知

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身近な友人が置かれた環境と、使われないコスメたちを目の当たりにして

――コスメロス協会を立ち上げたきっかけを教えていただけますか?

イガリシノブさん(以下、イガリ) 友人が20代でシングルマザーになって、生活保護を受け始めたのですが、彼女は1日に100円、200円使うのもままならないような生活を送っていました。
そのうち2018年に私がディレクションするコスメブランドwhomee(フーミー)を立ち上げた頃にインフルエンサーが登場し始めて、彼女たちにフーミーを試してもらおうとコスメサンプルをたくさん配るけれど、結局写真を撮るだけで終わりという人がほとんどじゃないですか。そのコスメ、どうなるんだろう?という気持ちもあって。私自身メイクアップアーティストという仕事柄、一つのアイテムを最後まで使い切るのはなかなか難しいのですが、写真を撮るだけのために予算をたくさん使ってサンプルを配って。その一方で、生活保護を受けているシングルマザーの友人は、私の残り物のコスメでもいいから欲しいと言う。その落差に違和感を覚えたのがきっかけで、コスメロス協会を立ち上げました。

イガリシノブ
「BEAUTRIUM(ビュートリアム)」所属。フェロモンを感じる可愛くて色っぽいメイクテクニックは国内のみならず「#イガリメイク[#igarimakeup]」のハッシュタグで世界でもブームを巻き起こし、著名人から絶大な人気を誇る。著書に「イガリメイク、しちゃう?」(宝島社)、「わたしもまわりも笑顔になる 小学生のためのメイク本」(講談社)などがある。

イガリ インフルエンサーによるSNSでの発信が当たり前の時代になってきた時に、コスメのロスについても、考えた方がいいのではないかと思いました。
私は大手化粧品会社の人間ではないし、工場を持っているわけでもないので、企業が環境や社会問題と向き合いながら、世界視野で取り組んでいる事業内容と比べれば、小さなことかも知れませんが、メイクアップアーティストとしての自分だからこそ発信できることがあるはずだと、30代前半ぐらいからコスメアイテムの使い方を教え始めていました。

ロスについてしっかりと考えてもらいつつ、自分では普段あまり使わない色のコスメを使えるように教えてあげられたらいいなと。例えば 4色入りの4,000円のパレットを買ったけど半分しか使わないとなると、せっかく働いて買ったのに2,000円分は使わずに捨ててしまっているということも起きていて、そういうことをちゃんと教えてあげれば、みんなもっと意識してコスメを使うようになるのかなと思ったんです。

“フードロス”にかけて、“コスメロス”という言葉はどうかな?と試しに検索してみたところ、この言葉の使用例は見当たらなかったので、ならば自分が先陣を切ろうと思い、2022年に「コスメロス協会」を立ち上げ、商標権を取得したんです。今ではコスメロスという言葉も広く認知されていますが、当時はまだそうした問題意識がほとんどありませんでした。だからこそ、このまま見過ごされている“もったいなさ”を伝えたいという思いがありました。

フーミーの新商品発表会では、お招きしたインフルエンサーの方々に「撮影したら置いて帰ってもらっても大丈夫です」とお伝えしていました。一度人の手に渡ったコスメは再販や再流通が難しいので、そのたびに“もったいないな”と感じていたんです。

ヘアメイクという仕事をしながらロスの問題に取り組むのは、時間的にも体力的にも余裕がなければなかなかできませんが、当時の私はフーミーを立ち上げた勢いもあり、挑戦するだけの体力や余力がありました。ヘアメイクの立場からこうした活動に取り組んでいる人はいなかったので、私が発信することで、より多くの人に身近な問題として伝わるのではないかと思ったんです。

――言語化することって大事ですよね。なんかこうドキッとさせられるっていうか。イガリさんは「ミリヤメイク」とか「おフェロメイク」とか、ワードセンスをお持ちだっていう印象です。

イガリ ないですよ(笑)。私、あまり本とか読んでこなかったので。わからないけど、肉が好きじゃないのに肉料理がうまい料理人さんとかいるじゃないですか。多分そういう感じだと思います。言葉を知らなすぎて、常識にとらわれていないだけだと思います。だからコスメロスという言葉も思いついたんじゃないかな。

子どもたちへの「メ育(めいく)」はメイクのやり方だけでなく、コスメロスについても伝えている

今年の3月に六本木 蔦屋書店で行ったイベントの様子

――コスメロス協会の活動内容を具体的に教えてもらえますか

イガリ 低年齢化が進む子どものメイクの正しく安全な普及を目的とした、親子で学ぶプロジェクト「メ育(めいく)」という活動をしています。かわいくなるだけじゃなく、心も育てるというプロジェクトです。このプロジェクトでは、趣旨に共感してくださった化粧品会社や商業施設、美容メディアなどと連携することが多いのですが、授業の一環として、渋谷区立松濤中学校や広尾中学校などで、生徒たちにメイクを教えています。 大人にコスメロスの問題を伝えようとしても、「じゃあコスメを買わなければいいの?」という方向に話が進んでしまうことがあって、なかなか難しいんです。でも、子どもたちはSDGsを身近なものとして学んでいる世代なので、まずは子どもたちから始めたほうが、5年後、10年後に大きな変化や成果につながるのではないかと思っています。

タレントで実業家の紗栄子さんが運営している「NASU FARM VILLAGE(ナス ファームヴィレッジ)」という観光牧場あるんですが、そこでは定期的に廃棄コスメを回収しているので、私も使わなくなってしまったコスメを集めて持参しました。廃棄コスメから作った塗料を使い、大きな桜の木の絵に色を塗ったり貼り付けたりして、桜の花を咲かせるというアートイベントをしたり、先日は廃棄コスメを使ってリップパレットを作ろうというワークショップをしました。好きな 6色を選んで、自分のパレットを作ろうというもので、まずはコスメを削る作業から始めてもらうのですが、「まだ使えそうなのにもったいない」と感じる方もいるようでした。ただ、実際に削ってみることで、コスメにどれくらいの量が入っているのか、ラメなどのキラキラした成分がどの程度含まれているのかを目で見て実感できます。そうした発見もあって、参加者からは「面白い」という声がありました。これは中学校の「メ育(めいく)」授業でも生徒にやってもらっています。

ナス ファームヴィレッジでのイベント

「似合わせ」メイクで自分の魅力を引き出す

イガリ SNSの時代になってから、多分日本だけじゃなくて、世界中で破棄されるコスメの量がすごいことになっていると思っていて、一度写真を撮るためだけに使ったり、周りが持っているから欲しくなって購入したものの、実際には自分に似合っているのか分からないまま使っているという人は多いと思います。私は「似合わせ」という考え方を提唱しているのですが、自分に似合うようにしていくにはどうしたらいいか、そこがすごく大事だと思っています。似合わせがわかれば、自分が本当に買いたいものが見えてくるのではないかと思っていて、そのためのメイク方法も考えています。

自分に似合うメイクとは何か、似合う色とはどういうものかをきちんと伝えていくことが、とても重要なのかなと。
今は多様性が尊重される時代と言いながらも、実際には一つの価値観や流行に集中してしまっていて、かえって分かりづらくなっている部分もあるのかなと思います。
「コスメが好き」「趣味はコスメ収集です」という方も多いですが、ヘアメイクを仕事としている私でさえ使い切れないコスメがあるので、そうした方々はどれくらいの量を使い切れているのだろうと感じることがあります。コスメにも使用期限がありますしね。食品の賞味期限と同じようにコスメにもちゃんと使用期限が書いてあれば危機感を持って使うと思うのですが。何のために持っているのかに気づいてもらえたらいいなと思っています。


そうこうするうちに、「パズル式メイク」という手法を考案しました。アイメイクやリップメイクを部分的に考えるのではなく、顔を点で捉えて、点と点をつないでいくことでメイクを完成させるという発想です。
この方法はすべての顔に応用できるもので、現在は39個の基準となる点を設計し、オンラインサロンでレクチャーしています。

コスメそのものを重視するのではなく、自分の顔の構造を正しく理解することを大切にしているのが特徴です。たとえば目頭やこめかみと言っても、人によって骨格は違うし位置も異なるので、その個人差も前提に組み立てています。みんなとても可愛くなって、コスメも大切に使うようになりました。自分のパーツをどう活かして盛り上げるかを伝えています。
このパズル式メイクをオンラインサロンの最初のメンバーに伝えて育てていくことで、その人たち自身が次は発信する側になれるようになる。実際何人かはもう自分のヨガ教室や美容室でメイクレッスンなどを始めているんですが、39個の点をディプロマにして、みんなのキャリアップになればいいなと思いますし、オンラインサロンメンバーが私の考えを広げてくれることで、より多くの人に伝われば嬉しいです。

イガリシノブ  オンラインサロン「パズル式イガリ学園

今持っているものをどう使うか、そして次に買うものが明確になれば必要以上に買わなくなる

――活気的ですね!

イガリ 2年前にラフォーレ原宿で開催したイベント「イガリシノブ展」がきっかけでしたが、言語化というか、伝えやすくなった感じです。多分習った人は、抜け感を意識したり自分の顔の盛り上げができるようになるから、「何を買えばいいのかわからない」ではなく、「これだけ買えばいいんだ」という考えに変わるので、みなさんコスメを使い切りますね。 コスメロス協会としては、アルミの容器とかリユースについて考えるのももちろん必要なんですが、まずはみんなが今持っているものをいかに使うか、そして次に何を買えばいいのかをちゃんとわかるようにするのが、私の役目だと思っています。

中学校でのメ育では、男子生徒もメイクにトライ

――ファッションにも言えることですけど、何が似合うのかとか、何が必要なのかを知ることがとても大事ですよね。メ育(めいく)教室で、子どもたちに伝える時も、そのあたりは伝えているのですか?

イガリ 学校のメ育(めいく)授業は、この考え方に賛同してくれた化粧品メーカーにメイク道具を提供してもらっていて、使用した道具をそのままプレゼントするんですが、「なんかもらえて嬉しい!」だけでなく、使い切ることが大切なんだよ、なぜならば世界ではコスメ製品のパッケージの95%が捨てられていたり(※1)、日本では毎年2万トン以上がゴミとして捨てられている(※2)んだよと伝えてます。大人がそうしてしまったけれど、みんなが大人になって、コスメを買うようになった時に考え直してくれたら、多分世界は変わっていくんじゃないかな、という話をしています。

※1:https://professionalbeauty.co.uk/95-of-beauty-packaging-is-thrown-away?utm_source=chatgpt.com
※2:https://prtimes.jp/story/detail/wxGQkmIem3b

最初はみんな、「そんなにゴミあるの?」みたいな感じですが、みんなの顔を盛り上げるために、コスメ会社の人たちが一生懸命作ってくれたものさえも燃やされてりするんだよ。無限ではない資源を使って必要以上に原料をどんどん作ったらどうなっちゃうと思う?だから使い切ってね、と最後に伝えます。今の子供たちはSDGsについて授業で勉強しているから、理解は早い感じがありますね。

新生フーミーは、肌づくりと向き合う。赤み(ノイズ)をOFFし、光を集めるベースメイクが叶う7アイテム

ベースメイクを中心にした7アイテムは8月21日にローンチ予定

――フーミーがリニューアルすると聞いています。

イガリ フーミーは新しく生まれ変わり、もう一度ベースメイクから始めます。立ち上げた当初から、しっかり考えながら段階を踏んで作っていきたいという思いがあり、今回のリニューアルでは、アイテム数を7点に絞って販売する予定です。
メイクがもっと自由にのびていくような、肌づくりと向き合いました。赤み(ノイズ)をどう足し算、引き算していくか?目の周りや鼻筋に光を潜ませ、視線を操る整い顔へ導くアイテムを提案しています。
生まれ変わったフーミーを、より多くの方にぜひ使っていただきたいです。私の想いが少しでもみなさんに届いて、メイクをもっと楽しんでもらえたら嬉しいです。

――新生フーミーも楽しみにしています!


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ライター/エディター
横山佐知
出版社勤務を経て2022年にフリーランスに転身。趣味は旅とランニングと登山とお笑い鑑賞。

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