Contents

パラリンピアン、モデル、スピーカー
1歳半から水泳を始め、13歳で史上最年少となるアジア大会に出場。2016年リオデジャネイロパラリンピックでは、日本人女子最多となる8種目に出場し注目を集める。2021年に現役を引退後は、モデルやスピーカー、俳優、企業やブランドとの協業など国内外で幅広く活躍。2023年には「TEDx」に登壇。2025年には映画「The Edge」に主演。Instagram:@mei_ichinose
「幸せとは、自分の思っていること、言っていること、やっていることが調和している状態」——一ノ瀬メイさんは、そんなガンジーの言葉を大切にしている。
13歳でアジア大会に出場し、リオパラリンピックでは日本人女子最多となる8種目に出場。長くアスリートとして走り続けてきた彼女にとって、ファッションを幅広く楽しむ余白は、現役時代はほとんどなかったという。
2020年、コロナ禍で滞在していたオーストラリアで、環境問題やファストファッションに関するドキュメンタリー作品に触れたことをきっかけに、「地球にも人にも、ポジティブなチェンジを起こしたい」という意識がより強くなったという。そこから、選ぶ食事やライフスタイル、そしてファッションとの向き合い方も大きく変化していったそう。
2021年に現役を引退してからは、ゼロからワードローブを作り直すような感覚で、少しずつ“今の自分”に似合う服を選ぶようになった。
一ノ瀬さんが服を選ぶ時に大切にしているのは、デザインだけではない。そのブランドがどんな姿勢でものづくりをしているのか、自分の価値観とちゃんと重なっているか——そうした視点も、欠かせない基準になっている。プライベートでも衣装選びでも、ブランドのサステナビリティページを確認するほか、Good On YouやShift Cなども参考にしながら、自分なりの基準で選択を重ねているという。
1. ステラ マッカートニーのデニム

ステラ マッカートニーとの出会いは、3年前のTED登壇がきっかけだったそう。「TEDでは絶対にステラを着たい」と自ら希望し、白いスーツのセットアップを着用。それ以来、ブランドへの愛着はより深まっていった。
ステラ マッカートニー(Shift C評価:良い)は、ラグジュアリーブランドの中でも早くからサステナビリティに取り組んできた存在として知られ、毛皮やレザーの使用を見直すほか、環境負荷に配慮した素材開発にも積極的に取り組んでいる。
父がイギリス人というルーツもあり、以前から親しみを感じていたというステラ マッカートニー。ステラ本人が来日した際には、直接言葉を交わす機会もあったそう。ブランドの姿勢だけでなく、テーラリングや構築的なシルエットなど、デザインそのものにも強く惹かれている。

「衣装として着られるブランドで、サステナブルな取り組みをしているところって、最初はそんなに知らなかったんです。そんな中で、まず思い浮かんだのがステラ マッカートニーでした。本人が来日された時に、『TEDの登壇で着たんです』ってお話しできたこともあって、改めてファンになりました。取り組みはもちろんなんですけど、テーラリングやシルエットも本当に素敵で。デザインそのものがすごく好きなブランドです」(一ノ瀬さん)
2. ステラ マッカートニーのバッグ(セカンドハンド)

このバッグは、セカンドハンドショップで購入したもの。一ノ瀬さんは、欲しいものがあればまず、世界中の誰もが服や小物を売買できるセカンドハンドアプリ「DEPOP」で探すことが習慣になっているという。渡航先で現地出品者から購入することで、物流を最小限にしながら、日本未上陸のブランドやアイテムにも出会ってきた。
ステラ マッカートニーのアイコンバッグ「ファラベラ」は、動物由来のレザーを使用せず、ヴィーガン素材を採用していることでも知られる。一ノ瀬さん自身もヴィーガンライフを実践しており、ブランドの姿勢や素材選びへの考え方にも共感しているそう。
「ジャーナリングをずっとしているので、普段からジャーナルを持ち歩いていて。このバッグは本も入れられるし、仕事道具も全部入るからすごく使いやすいんです。DEPOPも結構使っていて、例えばアメリカに行く時に、現地の出品者さんから宿泊先のホテルに送ってもらったりしています。日本に入ってきていないブランドもセカンドハンドで買えるので、すごくいいんですよ」(一ノ瀬さん)
3. マリーン・セルのシルクのセットアップ

デッドストックのシルクストールを縫い合わせて作られた、マリーン・セル(Shift C評価:ここから)のセットアップ。身頃と袖で異なる生地や柄が組み合わされており、光の当たり方によって表情が変わる。マリーン・セルは、デッドストック素材やアップサイクル素材を取り入れたコレクションでも知られ、既存の素材に新たな価値を与えるクリエイションを続けているブランドだ。
フォーマルにもカジュアルにも着こなせる一着は、講演や理事会、パーティーから日常まで、多様なシーンを行き来する一ノ瀬さんのライフスタイルにも自然と馴染む。
「講演とか、財団の理事会みたいな時に、ちゃんとした服が必要なんです。でもこれは、インナーにタンクトップを入れるだけでも可愛いし、ブーツにインしても可愛い。上下別々でも結構使えるので、いろんな着方ができます。仕事で海外に行くことも多いから、いろんなシーンに馴染んでくれるのがすごく助かるんです。シワにもなりにくいので、旅にもつい持って行っちゃいます」(一ノ瀬さん)
4. ナヌーシュカのサングラス

ナヌーシュカ(Shift C評価:ここから)は、日本に常設の店舗がないにもかかわらず、一ノ瀬さんが少しずつコレクションしているブランド。ロンドンやニューヨークの店舗へ実際に足を運び、その都度アイテムを手に入れてきたという。
ナヌーシュカは、リサイクル素材や代替レザーなど、環境負荷に配慮した素材選びにも積極的に取り組んでいるブランドとして知られる。ブランドの姿勢はもちろん、ショップ空間やスタッフとのコミュニケーションまで含めて惹かれているそう。モノだけでなく、“そのブランドとどう出会うか”まで含めて大切にしている。
「サステナブルな取り組みをすごく頑張っているブランドですし、日本に店舗がないのが悲しいくらい好きなんです。ロンドンのお店は奥にカフェが併設されていて、買い物をするとドリンクを出してくれたりして。店員さんもブランドについてすごく理解しているから、ブランドの話をする時間も楽しくて。そういう体験も含めて好きなブランドですね」(一ノ瀬さん)
STYLE 01|“ちゃんと使える”を大切にしたワードローブ

コスのコットンTシャツに、ステラ マッカートニーのデニムとローファーを合わせたカジュアルスタイル。そこにコーチトピアのバッグを加え、一ノ瀬さんらしいクリーンなバランスにまとめている。
コーチトピアは、コーチが展開する循環型デザインにフォーカスしたラインで、リサイクル素材や端材、アップサイクル素材などを活用しながら、廃棄を前提にしないものづくりを目指しているプロジェクトだ。
シンプルなアイテムが中心だからこそ大切にしているのは「ベーシックだけど、少しだけひねりがあること」。さらに、今持っている服と自然に馴染むかどうかも、服選びの大切な基準になっているという。


「私、めっちゃベーシックな服が多いんですけど、ベーシックに着てても、ちょっと凝って見える服が助かるんですよ。Tシャツとデニムだけでも、ちゃんと決まる感じが好きで。あと、『あのパンツとしか合わないな』ってなると、結局着なくなっちゃうので、自分のワードローブにちゃんと馴染むかはまず考えます。いろんな組み合わせができて、普段から自然に着られる服がやっぱり好きですね」(一ノ瀬さん)
STYLE 02|“ちゃんと好き”と思えるものを、自分の基準で選ぶ

デッドストックシルクを用いたマリーン・セルのセットアップに、ステラ マッカートニーのバッグと先の尖ったブーツを合わせたスタイル。繊細な透け感や柔らかな素材に、シャープな小物を掛け合わせることで、一ノ瀬さんらしい凛としたバランスに仕上げている。
「まずデザインが好きか、着てテンションが上がるかは大事なんですけど、それだけではやっぱり選ばなくて。ブランドのウェブサイトを見て、どんな姿勢でものづくりをしているのかを見るようにしています。そこで『ちゃんと向き合っているんだな』って感じられると安心できるし、もし取り組みがよくわからない場合は、セカンドハンドで探すことも多いです」(一ノ瀬さん)


「ステラは、取り組みももちろんなんですが、デザインが本当に好きで。こういう少し構築的なシルエットや、シャープなバランスにもすごく惹かれます」(一ノ瀬さん)
「思っていることと、やっていることを一致させたい」
5つのアイテムを通して見えてきたのは、「サステナブルだから選ぶ」というより、「本当に好きか」「自分の価値観と一致しているか」を丁寧に問い続ける姿勢。
ファッションを“生き方の延長”として捉える一ノ瀬さんに、詳しく話を聞いた。
——引退後、今の活動にはどのように繋がっていったのでしょうか?
一ノ瀬さん:元々アスリートの頃から、“自分の声を社会に届けること”が目的だったんです。水泳は、そのための手段のひとつでした。自分みたいに身体に違いのある人がメディアに出る機会って本当に少なかったし、小さい頃から社会が作る壁みたいなものをたくさん感じてきて。だから、少しでもポジティブなチェンジを起こしたいという思いがずっとありました。
今はモデルや講演、アート、企業との取り組みなど、手段は変わったけど、根っこにあるものは変わっていないと思います。
——ファッションとの向き合い方も、引退後に変わっていきましたか?
一ノ瀬さん:変わりました。現役時代は、本当に毎日ジャージとスウェットみたいな生活だったので、服を自由に楽しむ幅がすごく限られていて。引退してから初めて、毎日好きな服を自由に着られる生活になったんです。でも最初はワードローブが全然なくて、一つずつ丁寧に増やしていくところから始まりました。
あと、自分が見えていない時って、着る服もわからなくなるんだなってすごく感じて。引退直後は黒ばっかり着ていたんですよ。最近の方が、色のある服や、自分らしい服を自然に選べるようになってきた気がします。
——服を選ぶ時、どんなことを大切にしていますか?
一ノ瀬さん:まずデザインが好きか。着てテンションが上がるか。あと、今あるワードローブとちゃんと馴染むかはすごく考えます。でも、それだけじゃやっぱり選ばなくて。ブランドのウェブサイトに“サステナビリティ”のページがあるかは結構見ています。どんな姿勢でものづくりをしているのかを知ると、ブランドへの愛着がすごく湧くんです。
もしデザインはすごく好きでも、取り組みがよく見えなかったら、セカンドハンドで探すことも多いですね。
——サステナビリティへの意識は、いつ頃から強くなったのでしょう?
一ノ瀬さん:2020年、コロナ禍でオーストラリアにいた時期がすごく大きかったです。ロックダウンで練習もできないし、オリンピック・パラリンピックが延期になるのか中止になるのかも分からない状況で。でも、大学の監督が「人間力なくして競技力の向上はない」とずっとおっしゃっていた方で、その言葉がずっと頭にあったんです。身体が鍛えられないなら、今こそ人間力を磨く時だと思って、とにかくドキュメンタリーを見まくりました。
環境問題やファストファッションのドキュメンタリーをたくさん見たんですが、その時に、「自分は『世界平和に貢献したい』と思って水泳をやってきたのに、知らないうちに逆のことにも加担していたんだ」って気づいて、すごくショックだったんです。
自分の思いと行動が全然一致していなかった。その感覚がすごく気持ち悪くて。そこから、プラントベースの食事を始めたり、量り売りを選ぶようになったり、生活全体が変わっていきました。
——そうした感覚の根底には、何か指針になっている考え方があるのでしょうか?
一ノ瀬さん:ガンジーの言葉で、「幸せとは、自分の思っていること、言っていること、やっていることが調和している状態だ」っていう言葉があって。最初は意味がよくわからなかったんですけど、年齢を重ねるごとに、すごく腑に落ちるようになっていったんです。
発信者や表現者として、そこが一本に乗っていないと絶対に届かないと思っていて。言葉に血が通っていないと、人に届かないから。だから、自分が本当に経験したこと、自分の中から出てきた言葉だけを使いたいと思っています。

——今年スタートしたアートプロジェクト「Silver Lining」には、どんな思いが込められているのでしょうか?
一ノ瀬さん:モデルの仕事をするようになってから、「自分にしかできない表現って何だろう」と向き合う機会がすごく増えたんです。他のモデルさんの真似はできない。体が違うから。
大きなきっかけになったのが、10年ほど前からトレーニング用の義手を使いはじめたことでした。私は生まれつき右腕が短いんですけど、片側だけに負荷がかかり続けていたことで背骨が歪んでしまって、原因不明の偏頭痛が続いて。そこで、身体のバランスを整えるために義手を勧めていただいたんです。
でも、初めてリアルな形の義手をつけてみた時、すごく怖くて、気持ち悪かった。この体が自分にとって100%だったから、そこに余分なものがついた感覚があって。
——その違和感が、プロジェクトの原点になったんですね。
一ノ瀬さん:私にとって義手は、「五体満足に近づくためのもの」じゃないんだって、その時すごく感じたんです。じゃあ何なんだろうって考えた時に、この体はすでに完全なんだけど、自分にはみんなに与えられていない“余白”があるんだって思うようになって。そこに何を載せるか、何を表現するかは、自分で選べる。それって、私に与えられた特権なんじゃないかって。
好きなものを自由に選んでつけて、そこに自分のメッセージを載せていく。それが「Silver Lining」というアートプロジェクトです。義手を“補うもの”としてではなく、自分の表現を載せるキャンバスとして捉え直して、さまざまなクリエイターと一緒に制作をしています。
——プロジェクト名にはどんな意味が込められていますか?
一ノ瀬さん:「Silver Lining」は英語の慣用句で、「どんな雲にも必ず一筋の光がある」という意味があります。自分の人生を振り返った時に、他の人だったら落ち込んだり、立ち止まってしまうような出来事の中でも、「この中のSilver Liningは何だろう」って、ずっと探し続けてきた感覚があって。それが自分らしさなんじゃないかなと思って、この名前をつけました。
自分にしかできないことを純度100%でやる時って、震えるというか、涙が出るんですよ。今回のプロジェクトでも、そういう瞬間が何度もあったので、「ちゃんといい道に乗れている」という感覚があります。
——これから、どんな存在になっていきたいですか?
一ノ瀬さん:最終的には、“ミューズ”になりたいです。ブランドやクリエイティブの世界観を表現するだけじゃなくて、自分の生き方や体現していることそのものが、誰かのクリエイションにも影響を与えていくような存在。
だからこそ、これからも“自分が本当に信じられるもの”をちゃんと選びながら、表現していきたいです。
