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ファッション|2026.04.27

H&Mのステラ再コラボの目的は「サステナブル・ファッションの民主化」?

5月7日に発売される、H&Mとステラ マッカートニーとのコラボコレクション。即完売必至と噂される話題のアイテムは、一方でサステナビリティがどう“当たり前”になるかの試金石でもある。ラグジュアリーとファストファッション、それぞれに次の一手が問われる今、コラボの意味を田原美穂さんが読み解く。

原稿:田原美穂

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2026年春、H&Mは約20年ぶりとなるステラ・マッカートニーとの再コラボレーションを発表した。それと同時に公表されたのが、「サステナビリティ・インサイトボード(SustainabilityInsights Board)」の新設だった。この二つの発表は、偶然同時に起こった出来事ではない。むしろ、ファッション業界におけるサステナビリティ不信が限界に達しつつあるこのタイミングで、意図的に設計された一体のメッセージだと読む方が自然だ。

今日、企業が「サステナブル」を語ることは、もはやポジティブな行為とは限らない。何を言っても即座に疑われ、完璧なデータや説明が揃っていなければ「グリーンウォッシュ」と指摘される。規制も進む中で、サステナビリティに関して積極的に伝えることを辞めてしまうブランドや企業も増えている。

そのような環境の中で、H&Mが焦点を当てたのは、「自らの施策が正しいことを証明する」ことや、「2度目のコラボレーションで注目を浴びる」よりも、「コレクション制作にとどまらず、対話・議論・行動を通じてサステナビリティを継続的に発信していくこと」とH&M PRは述べている。

H&Mクリエイティブアドバイザー アン・ソフィー・ヨハンソン(左)とステラ・マッカートニー

デザイナーズコラボは「サステナビリティの民主化」になり得るのか

これまでH&Mのデザイナーズコラボは、「デザインや美学の民主化」を目的としてきた。ラグジュアリーブランドの感性を、手の届く価格帯へと落とし込む。その仕組みは、ファッションを一部の特権から解放する役割を果たしてきた。

しかし今回のステラ・マッカートニーとのコラボが問いかけているのは、別のテーマだ。

「サステナビリティは民主化できるのか?」

ステラ・マッカートニーのブランドが抱えてきたジレンマは明確だ。動物由来素材を使わず、認証素材を採用し、厳しい基準を守れば守るほど、価格は上がり、届けられる層は限られてしまう。倫理的であることと、広く届くことは、長らく両立しにくい関係にあった。

だからこそ今、このタイミングでH&Mと組む必要があった。より多くの人に、特別な知識や強い意識がなくても、サステナブルな選択肢に触れられる構造をつくること。ステラが、ファストファッション代表ともいえるH&Mとのコラボを引き受けたのは、そのための「信用リスク」だったとも言えるだろう。

「サステナブルな素材=妥協」という思い込みを壊せるか

今回のコラボレーションがはっきりと打ち出しているメッセージがある。

「リサイクル素材や認証素材を使っても、創造性と魅力は失われない」。

サステナブルな服は、どこか我慢を強いられるもの。デザインは二の次。そんなイメージは、いまだ根強い。ステラ・マッカートニー×H&Mは、その前提を正面から覆そうとしている。

コレクションには、ステラのアーカイブデザインを現代的に翻訳し、ブリティッシュなトレンチコートや、オーバーサイズシャツ、テーラリングが美しいブレザーやトラウザー、アイコニックなファラベラチェーンを用いたドレスやジュエリーが含まれ、ステラらしい強さと洗練を持ったアイテムだ。

回収衣料をアップサイクルしたドレス

素材面での妥協もない。レザーやファーは一切使用されていない一方で、回収衣料や生産工程の残布を原料としたリサイクル素材、再生植物油や農業副産物を含むコーティング素材、工業用トウモロコシ由来の代替原料が使われている。

ウールはRWS(責任あるウール基準)認証、トレンチコートのコットンにはROC™(再生型オーガニック認証)コットンを採用。Tシャツ、シャツ、トートバッグ、スカーフにはGOTS認証素材が用いられ、アクセサリーには再生金属、装飾ビーズには80%以上の再生ガラスが使われている。

(左)RWS認証マーク 羊毛の産地から製品になるまでの全工程を追跡し、適正な管理体制を証明する国際基準。(右)GOTSの認証マーク 有機栽培(飼育)のコットン、ウール、麻、絹などを原料とする製品が、環境的、社会的に配慮した方法で作られていることを保証する国際基準

革新的な新素材を誇示するよりも、既存の認証や素材をどこまで厳密に、美しく使いこなせるか。それ自体が、このコレクションの挑戦だ。

サステナビリティ・インサイトボードは何を担うのか

今回同時に立ち上げられたサステナビリティ・インサイトボードは、意思決定機関ではない。労働者代表の場でもない。ステラ・マッカートニーを中心に、AI×気候変動の専門家キーアラ・ナージン、モデルのアメリア・グレイ、ファッションエディターのスージー・ラウらが集まり、議論とナラティブを蓄積する場として設計されている。

ステラとのコラボレーションのみでの発表であれば、従来と変わらず、表向きには一時的な話題づくり、すなわち短期的なマーケティング施策として受け取られる可能性もあっただろう。しかし、サステナビリティ・インサイトボードを同時に立ち上げたことで、H&Mは「コレクション」という短期的で表層的な取り組みにとどまらず、裏側で長期的にビジネス構造そのものを変革し続ける意思があることを明確に示したと言える。

さらに重要なのは、その構造変革の文脈を、H&M自身の言葉で直接語るのではなく、影響力と信用力を持つボードメンバーたちに語ってもらう設計を選んでいる点だ。「誰が、どの立場から、どの言葉で語るのか」が結果を左右するサステナビリティ領域において、このインサイトボードは、H&Mやファッション業界全体に渡る取り組みと社会的理解をつなぐ媒介装置として機能していくだろう。

ステラに加え、AI×気候変動の専門家キーアラ・ナージン、モデルのアメリア・グレイ、ファッションエディターのスージー・ラウらが集まった「インサイトボード」。

コレクションではAIはあえて使用していない

サステナビリティボードに、AI×気候変動の専門家が含まれているが、今回のコレクションそのものに、AIの関与は語られていない=使われてなさそうだ。これは意図的だと考えられる。ステラは、テクノロジーによる未来感ではなく、素材とデザインの積み重ねによってサステナビリティを可視化する道を選んだのだろう。一方でH&MにとってAIは、脱炭素や需給管理、素材転換を支える裏側のインフラであり、人が判断するための整理役を担う部分が大きい。

「サステナブルと言うと疑われる」時代に、H&Mは何をしてきたのか

H&Mは、大量生産・大量消費のビジネスモデルで成長した企業のため、サステナビリティ関連で何を行ったとしても、長年批判の対象であった。一方で、取り組み自体が停滞していたわけではない。H&M Groupの最新の年次・サステナビリティレポートによれば、同社は2019年比でScope3排出量を34.6%削減している。原材料調達から廃棄までを含むScope3は、ファッション産業で最も削減が難しい領域だ。

素材転換も進んでいる。すでにH&Mのコレクションに使用される素材の89%は、リサイクルまたはサステナブルに調達されたものであり、2030年までに100%にすることを目標としている。

HM-Group-Annual-and-sustainability-report-2025.pdf

これらの取り組みが、サステナビリティボードや、ステラの取り組みを通じて、広く認知、理解されるのは非常に楽しみだ。

日本市場における問い

日本では、欧米ほどH&Mへの批判は強くない。この状況下で今回のコラボは、単に「美しい服」として消費されるのか。それとも、「サステナビリティは民主化できる」「美しさは失われない」という試みとして読み解かれるのか。その解釈を形づくるのは、日本のメディアや、サステナビリティ・ファッションを語る人々だ。このコラボが、話題消費ではなく、日本におけるサステナビリティ理解を一段引き上げる契機となるかどうかは、まさにこれからに委ねられている。

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サステナビリティ・マーケター
田原美穂
NY在住。CoachやH&Mなどのマーケティングに10年以上携わり、2020年に独立。ファッション産業において循環型ビジネスを中心に、プロジェクトマネジメント、アドバイザー、マーケティング支援を行う。リアルな視点を届けるべく、NYでの視察ツアーや執筆活動も行う。FITにてサステナブル・デザインを、MITでは循環型経済について学び、実践と知見を融合させた支援を行っている。

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