Contents
「B Corp」をご存知だろうか。できるだけ短く説明すれば、今世界で”最も”信頼される”最も”厳しい、人と地球に資する企業を見極める認証。対象企業の規模によって300以上にもなる設問をクリアし、80点以上が合格。最高得点は200点以上。(2026年からは新基準へ移行)
2025年時点でその認証企業は世界で10,000社以上、対象産業は160種以上、国は100カ国以上、北米やヨーロッパを中心にアジアでも中国、韓国、台湾、シンガポール、そして日本でも増加中だ。
UPDATERは昨年、118.9点で獲得。これは再生可能エネルギーの小売事業者としては世界4位、年間5億kWh以上の販売電力量を有する特定エネルギー供給事業者クラスとしては世界トップという結果だった。
昨年末12月18日、認証取得報告として開催されたウェビナーに登壇したのはUPDATER大石代表と、B Corp請負人である経営コンサルティングSISON’S岡田代表。取得企業の多くが100点以下、中心は80点台という現実の中、予想を超える高得点獲得で祝福の雰囲気かと思いきや、そこに浮かれた要素はなかった。
人と地球にとって最も良い事業の創出、資本主義社会の「パラダイムシフト実現」に10年以上取り組む二人が、一つの通過点として得たB Corp認証取得について、ウェビナーの内容からさらに掘り下げて、「これまで」と「これから」を聞いた。


(左)岡田 康介 氏
株式会社SISON’S 代表取締役
2002年 京セラ株式会社入社、2007年よりドイツ駐在。ヨーロッパ全域での太陽光発電事業などのB2B事業や、B2C事業など9事業の経営管理基盤の構築やPMI(買収後の事業統合)に従事。帰国後、ベンチャー企業にて生分解性など脱プラ素材の海外事業を統括。2020年より「グローバル経営×サステナビリティ」のコンサルティング事業として株式会社SISON’S(シソンズ)創業。製造〜小売まで幅広い業種で国際認証 B Corporationの取得支援を軸とした経営コンサルティングを行う。
ファッションブランドCFCLにてB Corp認証取得(国内最高スコア獲得)、株式会社アシックスと共に世界最少炭素排出スニーカーを2023年にローンチ。バッグ製造工場の株式会社NKにおいても同認証を取得、取締役兼任。これまで環境省や内閣官房など行政機関とも協働。2025年10月より立命館大学 社会共創アドバイザーを兼任。
(右)大石 英司
株式会社UPDATER 代表取締役
社会実業家。TBSラジオ「サステバ」パーソナリティ。グラミンジャパンアドバイザーなど。テーマは「世の中のブラックボックスを顔の見える化すること」。凸版印刷在籍中に有料デジタルコンテンツ流通の先駆けとなる「ビットウェイ」の起案・事業化ほか多くの新規事業を担当。2011年にみんな電力株式会社を創業。2016年からは世界初のブロックチェーンによる電力トレーサビリティ技術などを活用し、再生可能エネルギーによる電力小売事業「みんな電力」を推進し、日本の脱炭素化に貢献。現在は再エネ事業で構築したサステナクラウドを活用し、「みんなエアー」「みんな大地」「TADORi」「ShiftC」「UPDATER TRACKs」などを展開し、ソーシャルアップデートカンパニーとして世界をアップデートすべく挑戦を続けている。ジャパンSDGsアワード内閣総理大臣賞、日経脱炭素アワード大賞など受賞歴多数。

ポイントは、独自の実績を形式知化(明文化・体系化)できるか
ーUPDATERの認証取得の要でありスコアを左右したのが、将来的に経営者が変わり事業継承した時も「あなたたちが掲げていることは継続するのか」という問いだった。
岡田 仰るとおりです。これまでのUPDATERの方向性や多様な実績はB Corpという世界水準で評価しても、一貫性があり、本質的であることは、118.9というスコアが証明しています。しかし、更なる高スコアを獲得するには、そこで働く人が新しくなっていっても、経営陣と現場がこれまでの本質的な実績や方向性からブレずに続けていけるかという「ガバナンス」が問われます。皆が分かるように明文化され、体系化されて、事業計画や実行戦略によく落とし込まれて設計されているかどうか、ということです。
大石 そこがあれば、より高いスコアになりえた部分です。
岡田 とはいえ、できている会社の方が少ないでしょう。会社方針や社内ルールが文書としてきっちり整備されている会社が、サステナビリティにおける課題を高いレベルで解決し、ビジネスとしても成長している。そんな事例が世界中で沢山あるなら、ここまで社会問題や地球環境問題が取り沙汰されないはずですから。
ーUPDATERが社として掲げていることは共有され、社内でも皆の腑に落ちている気はします。
岡田 今回の認証を通して分かるのは、3つです。1つ目に、全社員がマインドセットして実践し、実績を多数残していることの結果が100点超えのスコアに表れている、ということ。
具体的に解説します。実はこの「スコア」は内訳があり、大きく2つに分かれます。①認証企業(=UPDATER)が有するイノベーティブなビジネスモデル(収益力)へのスコア、②認証企業(=UPDATER)の日々のデイリーオペレーションの一つ一つのパフォーマンスレベルへのスコア、となります。
①は、稼ぎながら、成長しながら、同時に社会や環境の特定の問題も解決していく、という「相関関係」の強さを評価されます。公益に資する企業が人々から支持されて、売上も利益も伸び、同時に社会問題も解決していくのであれば、消費者であれ政府であれ、投資家であれ、「もっと買いたい!」と思うでしょう? ただし、このスコア獲得はBラボの審査官からなかなか認めてもらえません。実際まだ世界のあらゆる問題はまだまだ解決の途上ですから成果が出ているとはいえないため、「結果を残している」という会社が少ないことの証左でもあります。それゆえ①のスコアは滅多に取得できないのですが、UPDATERは取得しています。
②は、①と違い、売り上げや収益の結果がどうあれ、会社は日々の社員のオペレーションの積み重ねですので、それらの現場オペレーションの一つ一つに、社会や地球環境への負の影響を低減するような取り組みがあるかどうかでスコアが増減します。
つまり、UPDATERはビジネスモデルの強さが①でしっかり評価され、②で全社員のパフォーマンスの高さが評価されているので、皆が会社のミッションをよく理解していることの証左でもあるのです。
ただ、Bコープのスコアリングシステムの優れているところは、①②でスコアが高い(仕事のパフォーマンスが高い)企業には、追加でさらに具体的な設問がされ、企業のパフォーマンスをより多角的に、詳細に深掘りされるので、自社の事業の定性分析・定量分析が緻密に戦略設計されている企業はさらにそれらの設問に回答できるので、スコアも上がっていきます。
つまりUPDATERとしては、世界的な水準であるB Corpの評価基準で、より高いレベルの業務設計や事業戦略性を問われたわけですが、そこの「明文化(マニュアル化)」と実践累積が今後の課題であることが明確になりました。課題が明確になった、ということは後はやるだけですから、仕事としては前進するチャンス、ということです。
「サステナは何からしたら良いかわからない」という企業さんが今も多い中で、これだけクリアにロードマップが見えている企業は少ないと思います。それが118.9というスコアの背景です。
一方で、これだけ緻密に審査するB Corp認証は、審査官にかかる負担も極大です。全世界100カ国以上、160種を超える様々な産業カテゴリの企業に、300を超える緻密な「問い」を用意すること、そして多種多様な企業のビジネスモデルやオペレーション、サステナビリティのアピールを審査する厳格な能力が求められるのですから。それゆえ、過去10年近くで、世界中から新規のB Corp認証チャレンジャーが殺到し、直近5年で新たに認証を獲得した企業数は5,000社以上です。その過熱ぶりもあって、審査が追いつかず、UPDATERのようなチャレンジャーをできるだけ多く評価しようとして、審査の仕方も変わってきました。
1社あたりにかけられる審査リードタイムや精度を平準化することで単純化、短縮化された印象があります。そういった点において、UPDATERのスコアがもっと高く評価されることを期待しましたが、そこは次回の再認証に活かす、ということになります。
大石 それは次の岡田塾第2弾で話してもらいましょう(笑)。
ー118点でもすごいのに、まだ伸び代があった。
岡田 僕の中では200点を目指していたので、悔しい結果でしかありません。
ーそうなんですね、、200なんて取れてるとこあるんですか?
岡田 最近のB Corpには、ガバナンスを疑うような、スコアに比例しないパフォーマンスをする企業(いわゆるグリーンウォッシュ)が散見されるので、「しっかり統制すべきだ」「B Corpだけは違う、という信用を損なわせないで欲しい」というトップパフォーマーたちの声もあります。例えば、スコアが200点を越える北米のコスメ企業(世界40カ国以上に展開)は、強く抗議しています。
大石 そうなんですね。
岡田 だから世界はもう、そっちに行っています。ベテラン勢はB Corpをステップとして、更に先に進もうとしているのです。
一つ言えることは、世界最高水準、最も難しいと言われるB Corpの世界では、このように活発な議論があり、社会問題や環境問題の「解決」を「事業の成果指標」にしているがゆえに、こだわりを持った、さらなる成長や解決を求める企業が数多く活躍している、ということです。

B Corpは「お金におもねらない」認証
ーどんなものでも大衆化、ビジネス化、そして大きくなるに従って「権威化している」と見られがちです。これまでもRE100やCDP*(1)といった認証もありましたが、そういった中にあってB Corpは、やはり「取るべき認証」という実感でしょうか?
大石 それは「お金におもねらない」ということがあります。大スポンサーが宣言するだけで「はいはい、認証お渡しします」みたいな、そんな雰囲気がない。
ーそこが、自分たちの存続に直結してきてしまう。
大石 別に大してやってないのに、宣言さえしたら「〜さん、どうぞいらっしゃい」みたいな、そういう雰囲気になっちゃうわけです。
ーなるほど。
大石 そういうことを横目に「しょうもないなぁ」と思ってた時に、B Corpだとその匂いはしませんでした。
岡田 厳格だからこそ、信頼されている。
大石 だから、例えば大手が「10億あげるから、B Corp認証欲しい」と言ったとしても「ダメですよ」と言えるのが彼らじゃないかと。
岡田 B Corpの場合は「10億払った上で取ってください」と言われますね。
ーその上で、冷徹に「あなたたちは50点もない」ということを言ってくれる。
岡田 大企業は認証費用がやはり大きくて、事業の規模と比例して、数千万円かかるところもあります。作業も多くなりますし、そこにひるんでやらなかった日本企業というのもありますよね。
大石 明確に今までのやつとは、ちょっと違う。だから、やっぱり取得して「価値があるんだろうな」と。
ーはい。
大石 だから、その次のステップに進まれている方が、どんな風に進むのかわかりませんが、そこはちょっと「要注目」と思っています。
ー次にどんな基準で打って出るのかという。
岡田 そうですね。
大石 B Corpを「卒業する」ことが一つの箔付けみたいなことになる可能性があります。
ー取得するのに苦労したり、日和る企業もある中で「もう、こんなの違うよ」という厳しい人たちも、世界にはいる。
岡田 ざっくりとした指標ですが、製造業ならまずは80点を目指し、サービス業は100点以上ということがあります。技術的に80点台は、サービス業だと取りやすい。
大石 そこはモヤモヤしますよね。その「テクニカルに合格ラインをねらう」というのは周辺ビジネスにもなりかねない。けれど、それではB Corpの本質から外れているわけです。
岡田 サービス業が取りやすいことの背景は、製造業は発注資材の種類は多く、それぞれのサプライチェーンは長く、エネルギー使用量もサービス業より総じて高く、プロダクトの販売後や製造工程から出る廃棄なども多様、従業員も多いため、B Corpの審査対象となる領域が圧倒的に広いためです。そこは今後も変わらないですが、一方で、B Corpは2026年3月から新基準に移行します。その背景の一つとして、サービス業であれ製造業であれ、前述したようなグリーンウォッシュを除外して、しっかりと取り組んでいる企業にスポットライトを当てつつ、これまでの基準が生んでしまった矛盾もあるので、そこの是正が行われます。*(2)
厳しいB Corpの根っこにあるもの
ー認証評価方法のアップデートなどもありつつ、もっと根本の、B Corpの足腰の強さ的なことの由来はどこにあるんでしょう?
岡田 B Corpを始めた人たちは、ジェイ・コーエン・ギルバート (Jay Coen Gilbert)、バート・フーラハン (Bart Houlahan)、アンドリュー・カッソイ (Andrew Kassoy)の3人組で、彼らはかつてスポーツアパレル企業「AND1」を創業し、売却した経験があります。彼らは自分たちの会社に買い手がついて売却するとなった時、自分たちがポリシーを持って築いてきた企業が、新しい株主によって異なるものにされてしまう経験をした、といいます。
会社や社員と株主、投資家の関係は、そのようにあるべきではない、株主利益を最大化することより、もっと多くのステークホルダーに「ベネフィット(利益)」を還元する役割であるべきではないか、という強い問いを持ったのが始まりとされます。
彼らは自分たちの会社に買い手がついて売却するとなった時、買った人の自由だとは思いますが、自分たちがポリシーと思ってやってきたことが全部バラバラにされてしまうということを経験しました。
B Corp認証について、これはいろいろなところで言っていますが、「特定の素材」「特定の何々」の認証じゃなくて、対象は会社の活動全部です。つまり、会社のあらゆるオペレーション、ビジネスモデル、顧客へ生み出す価値、サプライチェーン全体のパフォーマンスや透明性、株主との関係など、あらゆる事業活動一つひとつを評価し、優れた会社を選び、認証します。「会社の信用」というものを扱っているわけです。
ある会社が「信用できるかどうか」を一言で問うた時、B Corpのマークがあるとないとでは全然違います。それはもう、ありとあらゆるところでいろいろな指標を見てきましたので、その違いは明確です。
そういう背景があって、誰かから買収される時に、ある程度心ない投資家をブロックでき、かつ良質な投資家を呼び込める。「ウチの会社はこういう会社です」と、企業として消費者にも、投資家にも、金融機関にも、取引先にも、より高い信用をグローバルレベルで持ってもらえる証明がB Corpのマークということもできるでしょう。
ーある意味での挫折からはじまった。
岡田 一方で、彼らがやったもう一つの偉業があります。
彼らが中心になって、全米の多くの州でパブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC:公益法人)法を導入しました。米国の大半の上場企業、および2020年のIPO企業の約93%がデラウェア州法に準拠して設立されているため、デラウェア州が2013年にこのPBC法(Public Benefit Corporation)を導入した影響は極めて大きいとされています。
ー州ごとに会社法を一つ一つ。
岡田 その会社法は、利益のみを追求する従来のコーポレート・ガバナンスから脱却し、法的な裏付けを持ってミッションを追求できるようにしたもので、「「投資家を含めた、あらゆるステークホルダーへの利益に資する」ということを謳っています。
私も、そこをポイントにして「資本主義の100年」みたいなセミナーをする場合もあります。
ー「投資とはなんぞや」という。
岡田 彼らはそのような「みんなの利益を生み出すような会社」を守る制度をつくり、もう一方で、法律という制度で守るだけでなく、その会社自体が、あらゆる現場でより良いパフォーマンスが発揮できるよう、今回UPDATERが取得した「B Corporation」という「認証」をグローバルに構築しました。法律という制度と、事業現場での個々の企業のパフォーマンス、この両輪が必要と言っています。その両方を具現化した功績が大きいんです。
つまり両方をやることで、資本主義を変えようとしているわけです。
それはトップ企業のブランド価値を落とさないとか、投資家向けに、例えば不正行為があって「市場価格が落ちちゃう」「株価が落ちちゃう」から、「サプライチェーンにこれをさせろ」みたいなこととは、目的も次元も違います。
B Corpというのは「資本主義そのものを変える」というパラダイムシフトを狙っています。そういった根っこのマインドセットが全然違うのです。

パラダイムシフトを標榜する同志
ー遡ればみんな電力からはじまる、その創業やUPDATERへの社名変更、社としてのあり方含め、重なることが多いように思えます。
大石 B Corpがなぜ存在していて、なぜ私たちもこうあるのか、よくわかる価値観というね。
ーそのあたりは創業者/経営者目線から、どう見えていますか。「みんなやっと追いついてきた」なのか、「やっぱり世界は広いな」なのか。「時代として、そうせざるをえないんだろう」とか、このB Corpに象徴される流れを頼もしいと感じたりするんでしょうか。
大石 頼もしいというより、ある意味そもそもは岡田さんに教わったわけです。その度に視野が広がったり、僕自身が知ってたわけじゃないじゃないですか。
そして会社の今やってることは、B Corpはもちろん刺激材料にはなりましたが、誤解を恐れず本音で言うと「自分の好きなことやってる」というだけの話なんです。「世の中をアップデートしよう」というのは、世間一般としていいことなのかもしれませんが、基本的にやり方やアプローチは、自分の好きなようにやってきました。
だからそういう意味で言うと、時代が追いついてきたとか、そんな感覚はまったくない。でもなんか、「世の中捨てたもんじゃないな」という。
岡田 そうですね。
ー米国の中でもいろんな問題があるし、世の中のあっちの方ではどうしようもないことも起きているけど、いいこと考えている人たちもいるし、実現させてもいる。
大石 あそこに、そういう3人組がいたんだ。捨てたもんじゃないなって。
ーB Corp認証取得については、「何が一番のメリットなんですか?」という質問をよく受けます。
大石 サステナビリティの分野は、日本の中でやってるとモヤモヤすることも多いわけです。お金の力とか、政府も結局大企業におもねっていって、そっちの方向ばっかり見ながら、彼らが有利なように規制をつくる。
そうやって見ていると、海の向こうのどこかから、岡田さんが今回こういう情報を運んでくれて、繋いでいただいた。B Corpを介してそういった世界とアクセスできたわけで、世の中のどこか別の地域にそういう人たちがいて、また「繋がっていけばいいんだ」と思えます。
ーまだ会ったことのない、でも一つ共通の体験を共有している方々がいる。
大石 似ているし、方向性近いよねみたいなことがあって、そこはこれから楽しみです。そういう人たちと連携して、実は仲間が「世の中にいっぱいいたわ」と気づいた。
ーそれも、今までなら同じ業界の中の似た人みたいなところから、B Corpという業界の垣根を越えた人たちを集めてくれて、可視化もしてくれてる。
大石 そうそう。だから、一部の小さいところでやってきて「誰にも認められないな」と思っていたら、岡田さんが別の角度からパスをくれて「あ、ここに似たような人たち、いっぱいいる」みたいな、そんな感覚です。
イヴォン・シュイナードの言葉「B Corpで世界は変わるかもしれない」
ー岡田さんは国内外の“人と地球に資する企業”、そうありたいと励む企業を日々見ていると思うのですが、それがどんな成長ドライブになっていくと見ているのか? このまま沈みゆく日本なのか、それとも大石さんの言うように「まだまだ世の中まんざらでもない」なのでしょうか?
岡田 その答えよりも先に、取材とか、大石さんもそうだと思うんですが、講演の類を相当数やってきて、言葉にすると陳腐になるので、正直言うとあまり喋りたくはないというのが本音です。
ー喋っちゃった時点でだんだん陳腐化する。
岡田 なので、とりあえず「やってみましょう」と。確かに「認証取得」だけ見ればハードルは高いです。
全世界で32万社がB Corp認証の取得にチャレンジしていて、その中には売上が1億円に満たない企業もいますが、数兆円規模の世界的な企業もおり、その中で2~3%しか合格できないという数字だけ見れば、それはハーバードの合格率よりも間口が狭い。そもそも東大、ハーバードを受けようという人も少ないわけじゃないですか。
ーそうですね。
岡田 ですが、取得はあくまで一つのマイルストーンとし、私が伴走するのでまずは一歩ずつやりましょうと。一歩踏み出すと、意外と発見・再発見が次々あり、加速していきます。そんな中で、それなりに多くの会社が受けるようになって、うねりができているというフェーズだと思うんです。
大石社長が言われたことで、すごく同感するところと、別の考えもちょっとあります。すごく同感するところは、大石社長の今の言葉はイヴォン・シュイナードが言ったことと通じる部分があります。
彼がスピーチしている映像を以前見たことがありますが、それは彼がカリフォルニア州ではじめてB Corpを取った時のことでした。2011年ですね。
大石 結構前ですね。
岡田 その時に、「今まで自分の背中を見てやって欲しいと思ってたけど、誰も真似しない」と。
全員 (笑)
岡田 それこそ、あの「Higg Index」*(3)とか、ああいうものも、世界最大手の小売企業であるウォルマート社が会社規模としては一回りも二回りも小さいPatagoniaに、サステナビリティを実現する上で経営において何をしたら良いか、ということを相談しに行ったのがきっかけになった、と言っていました。
それでウォルマートも結構改革が進んだ事例として紹介されていました。
それでも彼から見れば「全然足りない」という中で、B Corp認証ができて、Patagoniaも取得した。カリフォルニアで初めてのPublic Benefit Corporation(先述)にもなった。
「これだったら世界は変わるかもしれない」と、そのスピーチの中で言っていました。現実的で、自省の人、悲観主義者として知られる人ですが、「彼をして、そう言わしめるんだな」というのを見たのが、僕にとってB Corpを知る最初のきっかけでした。
ーイヴォン・シュイナードの言葉から。
大石 そんなのがあるんだと。
岡田 僕がドイツにいた2011年頃、B Corp自体は2006年からはじまって、アメリカ以上にヨーロッパの企業や民間で支持が広まったのが、リーマンショック後でした。金融世界に対しての疑いみたいなものから、本質に触れていく中でB Corpができ、ダボス会議もできてというのが2010年前後です。
その時に僕はヨーロッパにいて「B Corpというのがあるよ」という風に聞いて、その時は「何なの?」と。
ーそれはESG投資あたりとも時期がかぶりますよね。
岡田 そうです。今日のウェビナーの前半で「解像度」の高い経営でなければB Corp認証取得も、高スコアも実現できないという話をさせていただきましたが、投資家の目線も同じです。3年ほど前の北米でのBラボの調査によれば、「ESG」というワードが投資家の投資意欲を大きく下げる、という統計結果が発表されています。
B Corp認証に至る過程や、スコアを上げていく過程で、企業があらゆる現場、バリューチェーンのあらゆるプロセスにおける解像度を高め、精度の高い具体的なソリューションを設計し、説明できることで、「投資したい」という関心が逆に90%を超えたことが統計で示されています。これは投資家のみならず、あらゆるステークホルダーの目線でも同じことが言えると思います。
スコアからは見えない、電力小売としての「制度的限界」
岡田 これまでほとんどの会社では、特に上場企業では、四半期で売上と利益が右肩上がりで伸び続けることを業績評価とされてきたために、B Corpやサステナビリティについての取り組みを聞くと、「何のメリットがあるの?」と真っ先に聞いてしまうことが多いと思います。とはいえ、全役員や社員の中で、このように短期的な視点でメリットを問う人以外に、長期的な、あらゆるステークホルダーに対しての目線を誰も持っていないとしたら、その企業は本当に大きなリターンを生めるのでしょうか?
そこがすごく大きいんです。
2020年の創業期からファッションブランドCFCLでCSOを務めましたが、社員や協力先、サプライチェーン企業各社、環境省などの行政の皆さんの協力をいただきながらB Corp経営を推進していったことが、現在の大きな飛躍の基盤になっていることを考えれば、上述してきたことが理想論でなく実現可能な戦略と言えるだろうと思います。
ーちなみに、大石さんは118で足りないなと思ってるんですか。
大石 (笑)。
岡田 そう思ってると思います(笑)。僕はもともと「200点超いけます」と言ってたので。
スコアが80点台のところは、もともと実力が70点台かなと思います。Bラボも最初から合格率3%程度の難関を皆がクリアできると思っていないでしょうから、70点台の企業は認証に届くように応援してくれます。UPDATERのスコアはその領域を大きく超えています。それを、やっぱりここで乗っかってもらって「成長していってね」という期待と応援を込めて、性善説で80にする。だから、そのあたりの企業は、なんとかストレッチしてリーチしているかたちになります。
ーそれが根本的に違うということですね。
岡田 認証評価は新基準に移行しますが、これまでのスコア制の評価基準であれば、UPDATERは今後着実にスコアが上がっていきます。それは例えば「みんなSX for Biz」の売上がもっと高くなって、みんな電力との売上が半々とかになったら、この点数があと20点ぐらい一気に増えます。
加えて、社内には行政と話をする知識を持ったプロがいて、JCLPという第三者機関で活動している方もいて、ちゃんとロビー活動もして、より良いルールメイキングを働きかけている。電力調達面においても、これまで取り組んできた結果、より良い電源を調達する(選択できる)比率が高くなれば、スコアは飛躍的に上がるでしょう。今回はまだ道半ばで、現行の業界制約もあって理想的な電源調達比率が大きくなかったため、スコアへの反映が限定的でした。
ーありがたい総括です。
岡田 冒頭に話したことにつながりますが、UPDATERは全社員のマインドセットと実践力が強いことが高スコアにつながっています。人財の経営基盤があるということです。今回わかった課題に取り組んでいけば、新基準も問題ないと思います。
80点台はやっぱり、マーケティング要素で取っているところもあるんです。だって本気でやろうと思ったら、80点なんかでは収まらないはずなんです。むしろ90点台以上をとるのが普通です。でも日本は、すごく80点台が多い。
大石 マーケティング目的というのは、感じますね。
岡田 それは私も思うんですね。そこのコミュニティはちょっと倶楽部的、同好会的になっていて、私にはそれで資本主義を変えられるとは思えない。
要はある意味、UPDATERが1000億とか1兆円企業になってもらわないと困るぐらいに思ってるので、スコアが伸び悩む企業とコラボレーションをするとして、「1億円の売上げアップになるの?」と言ったら、なりません。
そうだとしたら、目指すところは100点以上のところで組む。高いレベルのところと一緒に走っていくっていうのはあります。僕も、ただ「B Corpを広めたい」ということだけでは考えていないので。
ー本当に本気のところと、本質的な実践者を増やすことが肝要。
岡田 そうやってプレーヤーを増やしていくことが、最終的にはUPDATERさんの役にも立つわけです。

社会を治す、お金の流れ「どうせお金を使うなら、ここで」
大石 このB Corp取得によってある意味、「僕らのサービスにB Corp」というラベルが付いただけじゃなくて、それを選んだ皆さんのところにもB Corpが付いたわけです。だからその派生効果という意味で言うと、ものすごいレバレッジだと思いますね。
だから「メリット」という話をすると、いろいろあるけど「既存のファンがみんな喜んでくれた」そこはもう、甚大なるメリットでした。
岡田 Patagoniaも同じ道筋だったのではないかと思いますね。
2012年に認証を取って、10年後の2022年の時点で売り上げが4倍ほどになっています。すでに創業40年ほどの会社が、売り上げを4倍にするということがどれほどすごいことか、普通ではできないことだと思います。PatagoniaもBIAをベンチマークしながら、事業を徹底していくことによって、既存顧客がロイヤルカスタマー化していき「他を買うんだったら、ここを買おう」と。「どうせお金使うなら、ここで」と言って、そうすれば「払ったお金で世の中良くしてくれるでしょう」という、購入を通して、応援しよう、投票しよう、という意味合いになっている印象です。
大石 うんうん、わかる。
岡田 それがUPDATERとしていろんなことをやっていく中で、「とりあえず信用しよう」と。
ーそこが一つのフックになる。
岡田 そうやってお金がUPDATERに集まってきて、いいかたちで分配してくれる。しかもそれを、透明性を持って報告してくれると。
やっぱり世の中、街中で寄付しても、結局その金がどう使われているのかわからないじゃないですか。
ーはじめての、確かに信頼できる筋になる。
岡田 そういうことですよね。
ーでも世界には、そんなB Corpすらも緩いといって出ていく方もいる。
岡田 そういう強烈な企業もあります。
ーそういった方々がつくる新たなムーヴメントもあるかもしれないし、B Corpだって決して到達点ではなくて、より良い世の中をつくるための一つの通過点であると。つまりは「Theory of Change」ですね。
岡田 仰るとおりです。
大石 こちらからB Corpに対する、「本質を変えないでね」というメッセージもあります。だってみんな、ビジネス寄りに変わっていくから。世界的に名の知れているNGOやNPOも、みんなそうやってビジネス化と共に歪んでいって、「金儲け主義にお前らが陥ってるじゃないか」という(笑)。
岡田 だから「レポートさえすれば」みたいな感じになっちゃったりというのは、違います。あくまで、純粋に資本主義における一企業、UPDATERとして、売り上げの中の90何%という割合で、「課題解決をしていく」というのが、数字で証明できることが重要なわけです。
これまでとは違う、満足度の質
ーパラダイムシフト前と後があるとして、今までは誰もがこの社会に生きる上で、お金にものを言わせた宣伝を浴びてきました。おのずと、その中から「何が本質的にいいんだろう」と、その背景やストーリーが求められることが、時代の流れになってきてるのを感じます。一般消費者として、普通に人生を生きてる立場として、B Corpと共に世の中は本当に良くなっていくんでしょうか。
大石 いつも言ってることですが、脱炭素やSDGsとか、言葉の認知は9割あるけど、そういうのを選んでみたい人は7割いても、結局やってる人は2割に止まっていると。これはずっと変わっていない、大きな課題だと思っています。
その2割の人がある意味で、一つのラベルによって「選ぶ際の指標になる」のであれば、やっぱりB Corpという選びやすいラベルが一つ生まれているということになります。ということは、世の中を良くする一つの材料だとは思いますよね。
今回「B Corp取りました」ということをSNSで言ったら、すでにみんな電力を使ってくれているお客さんたちがすごく喜んでくれたんです。「もう10年ぐらい使ってるけど、選んで間違いじゃなかった」という、そんな声がすごく多かった。
岡田 なるほど。
大石 ということは、今使ってくれてる人を幸せな気分にというか「不安だったけど、どうやら本当に大丈夫?」「私の選択で間違ってなかった?」といった想いに対して、「信じてよかった」というリアクションだったわけです。
岡田 そこはやっぱり信用補完になる。
大石 不安気にみんな電力のことを勧めていた人たち、創業時から「コンセプトはわかるけど、大丈夫かな」という感じだった人たちも、やっぱり間違いじゃなかったんだというような受け止めです。
こうやって後付けで、皆さんの満足度が一気に上がる。自分が好きなものを買うのが起点だとしても、使ってた人も後で認証されるわけですよね。「あ、信じてよかったな」という、さまざまな意味で「満足度の質」が違うと思うんですよ。
ーこのタイプの喜びは、今までなかった。
大石 「買って満足」みたいな話じゃなくて、使ってたら後で「自分の選択が誤りじゃなかったんだ」という満足感って、普通の購買シーンではなかなかないと思うんです。
*(1)RE100・CDP:再エネ100%での事業運営を目指す企業連合「RE100」と、その運営を担い企業の環境情報開示を推進する国際非営利団体「CDP」。2026年現在、世界440社以上が加盟し、23,000以上の企業・団体が環境データを公表する世界最大の評価基盤となっている。
*(2)スコアの高い、低い、という差だけで説明できない問題。スコアが80点以上で合格していても、スコアが高くても、「最低限」実践されているべき仕事ができていない企業、本質的な成果を生み出せていない企業は「ガバナンスが低い」ことのあらわれゆえ、新基準ではその点の是正が行われる。
*(3)Higg Index:パタゴニアとウォールマートが主導して設立した業界団体「サステナブル・アパレル連合(SAC、現:Cascale)」が2012年に開発した、製品の環境・社会的影響を測定・評価するための標準化ツール。2026年現在、世界40,000以上の組織が導入している。
