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大阪万博後の実証実験を経て一般公開へ
建設業界は、大気汚染の23%、気候変動の50%、飲料水汚染の40%、埋立廃棄物の50%を占めているといわれる(*1)。建設から解体にいたるまでライフサイクル全体での環境負荷は甚大だ。
セメントや鉄鋼といった主要な建材の製造はエネルギー集約的で、製造過程で大量のCO2を排出するうえ、見逃せないのが建物の解体時や工事の過程で出る廃材、プロジェクトで使い切れなかった余剰建材だ。まだ十分に利用できる資材が、情報の不足や流通の非効率性のためにそのまま廃棄されるという「もったいない」状況が起きている。
その資材ロスに切り込んだのが、ファラ・タライエさんが率いる建築事務所New Norm Design(NND)による資源循環プラットフォーム「マティーノ」だ。
「私たちが大阪万博後に行った実証実験では、3社が参加し5トンの再利用に成功しました。正しい情報を共有して協業すれば、たくさんのMOTTAINAIを救えるのです」

建設のSXをはばむ「情報の壁」と「流通の壁」
これまで建築の設計においてはデザイン性、機能性、コストが優先され、建材が持つLCA(ライフサイクルアセスメント)は、二の次になりがちだった。さらに建材の環境データをわかりやすく比較・評価できる仕組みがなかったため、「何が本当にサステナブルな選択なのか」という指標もばらばらだった。
また、よいリユース建材があったとしても、それをいつ、どこで、どれだけの量入手できるのかという情報もまとまっておらず、プロジェクトにおいて安定的に活用することの妨げとなっていた。この「情報の壁」「流通の壁」こそが、建築業界における資源循環を阻む最大の要因だったという。
ITの力で「選ぶ・つなぐ・循環させる」
それらの問題をひとつのプラットフォームで解決しようと開発されたのが「マティーノ」だ。マティーノの主要な機能としては下記の4つがある。
・サステナブルな建材探し
材料の詳しい仕様など透明性が保たれた情報により、サステナブルな建材選びが可能になる
・再利用マッチング
施工業者やメーカーは、まだ使える建材や余剰資材を簡単にプラットフォームに出品でき、 買い手側はマップ機能で、近くの現場や倉庫にある資材を検索・購入できる
・建材の環境スコアを算出
独自の評価指標に基づき、建材の基本的な情報(種類、製造地、成分など)を入力するだけで建材が環境に与える負荷をスコア化
・プロジェクト管理
サステナビリティへの取り組みをプロジェクト全体で可視化し、環境評価レポートを簡単に作成
これにより「サステナブルな素材を探したいデザイナーや建築家」「現場のまだ使える建材を活用したいと思っているゼネコン担当者」「自社素材が環境にいいとアピールしたい資材メーカー」など、サプライチェーンをデジタルで統合し、Win-Winの関係を築くことができるのだ。
建設の常識を変える革新的な仕組みとして「マティーノ」は1月の本格ローンチが待望されており、サイトでは今からユーザー登録も受け付けている。
特にファラさんが力を入れるべきと語るのが、建設現場の予備や建物の解体時に発生する「都市鉱山」の有効活用だ。
「日本は資源が少なく、昔からMOTTAINAI文化が息づいています。日本が誇る高品質な資材や高度な施工、そして建設件数の多さを考えると、まだ使えるものを再利用しない手はありません。例えば同じことをアメリカでやろうとしたら、広大な国土での現場間の移動や、そもそものMOTTAINAIというマインドセットチェンジなど相当な時間がかかるでしょう。日本にとって循環はコストを利益に変えるビジネスチャンスなのです」

ひるがえってアパレル業界を考えると似たような状況が見えてくる。
日本の衣料自給率は1.4%、原材料ベースで考えるとほぼすべてを輸入に頼っており、資源活用の面からも手放した衣類をどう再利用するかは重要な問題だ。
また「サステナブルな素材」を探すデザイナーは増えてきており、一方で「日本製のサステナブルで上質な素材」をアピールしたいメーカーは、職人から大手企業まで幅広い。
もちろん素材の価格や専門性、製品サイクルなどはまったく違うが、ムダを生まない協業とデジタルイノベーションには多くのヒントがあるはずだ。
