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ファッション|2025.12.01

パリで育まれた“自分で選ぶ”美しさをまとって。日本とフランスをつなぐエシカルモデルKIKOさんの今

12歳でモデルの世界に入り、セルフラブと環境配慮を日々の選択に落とし込んできたKIKOさん。パリで培った「自分のスタイルを貫く」精神とエシカルな視点がどのように重なり、今の彼女を形づくっているのか。

photo credit : Damien PERON

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モデルキャリアのスタートと、セルフラブへの目覚め

「最初にスカウトされたのは12歳のとき。表参道で声をかけられて、日本の事務所に入ったのがきっかけ。でも本格的に海外を意識したのは17歳でカナダに留学したときでした」

当時は、世界で活躍するモデルを夢見る純粋な気持ちと、周囲の期待に応えようとする責任感が原動力だったという。しかし17歳の頃、大手エージェンシーと契約しキャリアが加速する中で、体重管理や外見への強いプレッシャーにさらされ、拒食症を経験する。

「そのとき、自分をまったく愛せていなかったことに気づいたんです。誰かの期待のためじゃなくて、自分のために心と体をケアしなきゃいけないんだと思った」

健康を取り戻していく過程で、食事やライフスタイルを見直し、当時海外で注目が集まり始めていたプラントベースの食生活が目に留まった。調べるうちに、プラントベースが環境配慮や動物福祉につながることを知り、「自分を大切にすること」と「他者や地球を気遣うこと」が自然と結びついていった。

パリで学んだ、自分の美意識を貫くファッション

日本で高校を卒業後、19歳でパリへ渡る。そこで偶然訪れた小さなエシカルブランドのポップアップストアが、彼女のファッション観を大きく変えた。

「つくり手が自ら店頭に立って、どうしてその素材を選んだのか、なぜ大量生産をしないのか、自分の言葉で説明してくれる。すごく人間的で、思いに触れる買い物体験だった。あの場所で、ファッションは“表現”であり“選択”なんだと感じた」

パリで暮らす中で驚いたのは、各々がしっかり“自分のスタイル”を持っていること。日本ではトレンドを意識したスタイルが人気だが、パリではファッションや食事に至るまで、自分の好みに沿って判断する姿が印象的だったという。

「パリでは、最初に聞かれるのは“どんなスタイルが好き?”という問い。トレンドより自分の美意識を持つことが尊重される。例えばミニマルでエレガントなスタイルが好き、と言えば、皆その世界観を想像してくれる。これがパリのファッションの楽しみ方だと思います」

パリの日常に身を置きながら、彼女は生活と消費スタイルが密接に結びついていることを感じたという。

「パリは住宅が小さくて、1人あたりのスペースもすごく限られているので、日本と比べてそもそも物をたくさん持たない文化なんだと思います。あと、日本みたいに四季がはっきりしているわけじゃないので1年中着る服も多い。だから“必要なものを厳選して繰り返し着る”って考え方が自然にあるのかなと」

パリでサステナブルな選択肢といえば、まずセカンドハンドが思い浮かぶ。百貨店プランタン・パリ・オスマンにはハイブランドのヴィンテージだけを集めたフロアがある。また、服の重量で価格が決まるキロ・ショップ、要らない服を持ち込めるブティックBIS Boutique Solidaireなど、価格帯も幅広く、街全体でセカンドハンド文化が根づいている。

フランスの老舗百貨店、ギャラリー・ラファイエットグループが運営するエディット「Go for Good」では、第三者認証を含むエシカル・サステナブルファッションの選定基準を設け、ブランドをリスト化。KIKOさんも日頃からブランド選びの参考にしている。

「エシカルブランドもあるんですけど、パリはスタイルが本当にバラバラで、ストリートが好きな人もいれば、オートクチュールっぽい装いが好きな人もいる。そうなると、既製のエシカルブランドだけでは選択肢が限られるんですよね。デザインがよくてサステナブルな選択をしたいなら、セカンドハンドやヴィンテージがいちばん手に取りやすいと思います」

また、フランスではサステナビリティを意識していない人でも“良質なもの”へのこだわりが強いという。

「例えば“メイドインフランス”っていう言葉はすごく強いです。国産であることへの誇りや品質への信頼があって、“フランスで丁寧につくられている”と伝えると、すっと受け入れられる印象です」

KIKOさんの好きなスタイルは、「ミニマル」と「エレガント」。majeのドレスにセカンドハンドで購入したWEILL のジャケット、同じくセカンドハンドで購入したTommy Hilfigerのブーツを合わせた。
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百貨店プランタン・パリ・オスマンの7階にあるハイブランドのヴィンテージを集めた1,300㎡のスペース「7TH HEAVEN」

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Bis Boutique Solidaire(@bisboutiquesolidaire)がシェアした投稿

BIS Boutique Solidaireでは、最新で高品質なセレクションを手頃な価格で購入できる。リサイクルできない繊維の再循環や売れ残り品の寄付にも取り組む、社会貢献型のショップだ。 

ファッション規制が進むフランスで感じていること

2024年10月1日、フランスでは衣類の環境負荷を評価する「ファッション版エコスコア」の導入が始まった。素材、生産地、耐久性、修理性などを基準にA〜Eでランク付けし、消費者が環境配慮型の選択をできるようにする制度だ。

実際、フランスでは食品分野で環境スコアが先行しており、その経験から見えてくる課題もあるそうだ。

「フードのスコアも同じで、Aの商品は価格が高いです。体感ですけど、Eの商品とは6倍くらい違うこともあります。スコアが良いから買う、じゃなくて、生活の余裕が関係してきます。パリは華やかに見えるけど、税金も高いし、みんなが余裕があるわけじゃないので」

スコアが可視化されることで「環境にいいもの=良い」という空気が生まれる一方、それを選べるかどうかは収入や暮らしの余裕に左右されてしまう。

ファッション分野でも同様に、フランスではファストファッション規制が進んでいると言われる一方、2025年11月にはパリの老舗百貨店BHVマレにSHEINの常設店舗がオープン。現地では抗議活動が続く一方で、連日行列ができるほどの人気を集めているのも事実だ。

「特に若い世代は、ファストファッションにそこまで抵抗がないと思います。“早く欲しい”というニーズが強くて、待てない世代なんですよね。パリや東京みたいな大都市でスローリビングを前提にした提案をするのは正直むずかしい。だからこそ、別のアプローチやテクノロジーが必要だと思います」

パリのモデル業界で感じる変化

パリで活動する日本人モデルとして、メンタルの強さがなければ生き残れないと語るKIKOさん。アジア人のモデルやデザイナーを起用する動きは確かに広がっている一方で、ボディダイバーシティに関しては「痩せていなければならない」という圧力は依然として残っているという。

「特に海外で、日本人で、若い女性で、モデルという立場だと、誰かから評価される場面が多いんです。だからこそ、周りに流されず、自分の意見を曲げないことを大切にしています。自分を知り、軸を持つことは、筋肉みたいに少しずつ鍛えていくものだと思っています。

プレッシャーのある世界だからこそ、関わる環境や人との距離感は丁寧に選び、自分を大切にできる状態を保つよう心がけています」

日本とパリを行き来しながら

パリと日本、両方の価値観に触れる中でその違いと可能性を感じている。

「日本は“みんなで進む”文化がある。だからこそ、一人の発信や選択が大きな波になることもある。パリみたいな“個の強さ”とは違うけれど、連帯から生まれる力がある。両方の良さをつなげたい」

実際に、フランスと日本をつなげるイベントも行った。2023年には東京でエシカルファッションショーを主催し、スタイリストがキュレートしたエシカルブランドの服を、考え方や価値観を共有するモデルたちがランウェイで着用した。他にも、オンラインでヴィンテージバッグの販売も手がけているが、近年の円安で輸送コストが上がったため、活動を見直し始めているという。

「もう少し、自分の視点で“良いもの”をつくりたい。香水やヒールをつくるアイデアもあって、エシカルであると言わなくても本質的に美しくて機能的なもの。たとえばヒールは高さを調整できるデザインにして、長時間働く女性が快適に過ごせるものにしたいです」

2023年に東京で開催したファッションショーの様子

“完璧”じゃなくていい。続けるためのサステナビリティ

サステナブルな生活を心がけていると、つい完璧を目指してしまいがち。KIKOさんも、プラントベースの食事、プラスチックを使わない、エシカル消費のみ、といった徹底した生活を目指していた時もあったという。

「数年経ってライフステージが変わると、選択も自然と変わっていくもの。そして今思うと、私はいつも“人を変えよう”にとらわれて今の自分ように笑ってなかったと思うんです。

大切なのは、自分を愛すること。追い詰めないこと。それが結果的に他者への思いやりにもつながり、誰かに自分の基準を合わせてもらいたい”という気持ちは自然と薄れていく。そして代わりに、そのままの相手をどう愛せるかを考えるようになる。セルフラブから始まるサステナブルもあると思います」

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