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大企業では2026年夏から適用。EUの新規則の概要とは?
売れ残り衣類・靴の廃棄に関するルールについては、2022年にフランスで先行して施行されている「AGEC法(循環経済法、通称:衣類廃棄禁止法)」が記憶に新しい。
AGEC法が単一国家の市場に適用される「廃棄物対策」であるのに対して、今回の新ルールは、EU全体のエコデザイン規則(ESPR)の枠組みの一部だ。
EU市場に流通する製品に対して課すルールのため、日本企業でもEU域内で販売をしていれば対象となる。
EUは2026年7月から企業規模に応じて段階適用を採用し、まず従業員250人以上の大企業に規制を適用する。その後、中堅企業へと対象を広げる。中小企業への過度な負担を避けながら、市場全体を循環型へ移行させる狙いだ。
- 大企業:2026年7月より適用(予定)
- 中堅企業:2030年から適用
- 小企業・零細企業:適用除外(*1)
さらに企業は、
- 廃棄した製品の数量・重量
- 廃棄理由
- 再利用・リサイクル割合
などを、標準化されたフォーマットで廃棄量を報告する仕組みが導入される。
こうした可視化を通じて、サプライチェーン全体の透明性を高めることが狙いだ。
安全上の理由や製品損傷など、正当な場合のみ例外が認められ、各国当局が監督することとなる。
なお、EU全体での施行に先駆けて、衣類の廃棄を禁止しているフランス現地のリアルな様子は、以下のレポートで、ぜひチェックしてみてほしい。
未使用のまま廃棄される繊維は年間4〜9%
EUでは、販売されなかった繊維製品の4〜9%が一度も使われないまま破棄されていると推定されている。これにより、年間約560万トンのCO₂を排出しており「2021年のスウェーデンの純排出量にほぼ匹敵する規模」とされている。
フランスだけでも、毎年およそ6億3,000万ユーロ相当の未販売製品が廃棄されている。オンラインショッピングもこの問題を助長しており、ドイツでは年間約2,000万点の返品商品が処分されているという。

EUは「ファストファッション批判」から「制度による産業再設計」へ
ファッション業界において、売れ残り商品の処分は長らく表立って語られることのない“実務的な”、ある意味やむを得ない選択肢と考えられてきた。
その背景には、
・値下げ販売によるブランドイメージの毀損を避けるため
・長期保管に伴う在庫管理コストを抑えるため
・非正規ルートへの流通や転売市場への流出を防ぐため
といった、事業運営上の合理的な判断があったとされている。
つまり、廃棄は単なる環境問題というよりも、既存のビジネスモデルの中で一定の合理性を持つ対応でもあった。
今回の規制が踏み込んでいるのは、まさにこの構造そのものだ。
廃棄物の削減や環境負荷の低減を図りながら、欧州委員会は、より持続可能な生産体制への移行を促すと同時に、域内企業の競争力を損なわない形で産業の転換を進めようとしている。
目指されているのは「廃棄をやめること」にとどまらない。
作り過ぎ → 売れ残り → 廃棄の仕組みそのものを見直し、市場のルールを通じて循環型へと再設計していくことに、この政策の本質がある。
同様の課題を抱える日本にとっても、今回の制度は多くのヒントを含んでいる。自主的な取り組みに委ねるだけでなく、市場のルール設計を通じて産業構造の転換を促すというEUのアプローチに今後の展開が注目される。
<参考>
New EU rules to stop the destruction of unsold clothes and shoes出所:欧州委員会(2026.02.09)
<補足>
*1 EUにおける企業規模の定義は以下の通り。
大企業:従業員:250人以上、かつ売上高:5,000万ユーロ超または総資産:4,300万ユーロ超、中堅企業:従業員:50~249人、売上高:5,000万ユーロ以下、総資産:4,300万ユーロ以下
