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350年続く酒蔵と、神宮前のヘアサロンの共通点とは

千葉県香取郡にある「寺田本家」は、この地で350年続く酒蔵だ。先代当主が大きく舵を切り1980年代から “自然酒”造りを始めて、2010年からは化学肥料や農薬を使わず育てた自然米と、蔵つきの酵母のみを使った手法をとっている。
寺田本家を紹介する小冊子には「微生物が幸わう(さきわう)蔵」と書かれていて、蔵に住む菌たちの力が作り出す日本酒の味は力強く、全国にファンを持っている。
渋谷区神宮前のヘアサロン・ツイギー(TWIGGY.)を主宰する松浦美穂さんも、寺田本家が作る日本酒のファンの一人だ。同社取締役の佐藤幸治さんから勧められたことがきっかけだった。
「最初はちょっと個性的かなと思ったんですけど、ここの『醍醐の泡』という天然の乳酸菌や酵母の働きによる微発泡酒を知ってからは、シャンパンが要らなくなったくらい(笑)。」という松浦さんにとって、寺田本家の24代目当主・寺田 優さんは最も会いたい人の一人だった。
というのも、松浦さんはヘアスタイリストとして活躍しながら、オリジナルのプロダクト、ユメドリーミン(YUMEDREAMING)の開発を手がけていて、『豊かな土が植物を育てるように、土壌となる頭皮をはぐくむことが美しい髪へとつながる』という思想から生まれた最新の「スカルプシャンプー」は、植物の力、発酵と微生物の働きを製品に取り入れている。それは、自身が15年ほど無農薬の米作りを行なってきた経験から、豊かな土壌作りやその中の微生物の存在の大切さを長年感じてきたからだ。
「ぜひお会いして、微生物の話をしてみたい!」という松浦さんのラブコールを寺田さんに伝えたところ快諾してくださり、当主自ら寺田本家の酒蔵や自社の田んぼに案内してくれた。

寺田 優さん(以下、寺田)「うちのお酒の原料はお米と水だけ。何も添加しません。水は敷地の中に2本ある井戸から湧き出る自然の水を使っています。この裏の神社の森のおかげで水がこんこんと湧き出ています。先祖は、この水があるからここに酒蔵を建てたんだと思います。そのおかげで僕たちは今も日本酒造りを続けられています。
自然環境を守ることは、うちのお酒造りにとって大事なこと、酒造りを長く続けるためにも大事なことだと思っています」
蔵

最初に案内してくれた蔵では、甘酒の仕込みと備長炭を入れ替える準備を行なっていた。
寺田「井戸から汲み上げた水は備長炭と一緒に一晩漬けてから、仕込み水として使っています。炭のなかでも備長炭は高温で焼き上げられていて、たくさん開いた細かい穴にマイナスイオンが帯電するので、味がまろやかになると言われています。
敷地内の地面の中にも20箇所くらいに備長炭を埋めてあります」

松浦美穂さん(以下、松浦)「備長炭は気を浄化すると言われていますよね。
ツイギーのサロンでも備長炭と水晶を置いています。その組み合わせから生まれるもの、そこで育まれるものがあったらいいなと思っています。
微生物はここみたいな環境で増やすのが現実的ですよね」
寺田「蔵の中には見えない菌がいっぱいいるんです。土壁や木造が、菌が住みつく大事な条件と言われています。この蔵は築200年くらい、昔ながらの建物を使うことで、お酒の味を安定させることができます。
いろんな菌が来ていいんです、もともとここにいる菌がいるおかげでバランスが取れるので。
ここはシャッターもないのでいつも風が通り抜けていろんな菌が入ってくる。それで前からいるここの菌も元気になっていきます。
森のような環境になるといいなと思っていて、そうすると腐らなくて発酵が進むんですよね」
麹室

次に案内してもらったのは麹室。蒸した米を広げて冷まして、適温になったら種麹を蒔いて麹を作るのだ。
寺田「この部屋は備長炭で囲まれているような作りになっています。先代が25年前に建てたもので、炭もそのまま使っています」
松浦「心の汚れがぜんぶ飛んでいきそうじゃないですか!(笑)」
酒母室

ここで作られている酒母とは、まさに酒の母。パンのタネのようなもので、酵母菌の塊でありスターターとなる。蒸した米と麹菌をもとに1ヶ月ほど発酵させるのだ。
まだ発酵の途中だが、少し味見をさせてもらった。

松浦「酸っぱいですね!」
寺田「乳酸発酵していて、酸っぱいバリヤによって酵母菌だけが元気に発酵しています。このバリヤは他のいろんな菌も元気になってしまうのを抑えてくれているんですね。
それには温度管理が大切です。発酵は化学、どんな菌がいるかをイメージして数や温度を管理しています。客観的な目が必要なので蔵のみんなで見て記録をとっています。
お酒を造るのは酵母菌だけですけど、他の菌たちが元気に働いてくれる環境を作るのが僕たち蔵の仕事だと思っています」
松浦「地球と人間の関係と一緒ですね。地球の9割は微生物で、人間の体内にも膨大な数の微生物がいると言われていますよね」
寺田「僕たちは微生物の恩恵に預かっているというか、菌たちが巡り巡ってる隅っこでお酒を造らせてもらっている感じですかね」
貯蔵庫

ここでは先の酒母に蒸した米、麹、水を少しずつ加えたものを、桶に入れてアルコール発酵させる。
寺田「木桶を使っているので独特の味が出ていますね。ちょっと渋みを感じますが、輪郭が出てきています。あと2週間くらいしたら絞って瓶詰めして、さらに1ヶ月寝かせるとまとまるかなと思います」
日本が誇る発酵文化と微生物と神様と

蔵見学を一通り終えたところで、併設されている「発酵暮らし研究所&カフェうふふ」にお邪魔して、微生物トークがスタート。
松浦「発酵というのは日本の歴史から見ても古くから使われてきた技術ですよね。その発酵に欠かせないのが菌類を中心とした微生物で、人間の身体の中の9割が菌を含めた微生物でできていると言われているそうです。
寺田さんは微生物をどのように考えていらっしゃるか、前からお聞きしたかったんです」

寺田「そうですね、感覚的には僕たちは微生物のしもべみたいな感じでしょうか?(笑)
微生物たちが元気に発酵するために、僕たちは動かされているんじゃないかなと思っています。そうすることで微生物のバランスが取れて、一番いい状態になるんじゃないかと。微生物がバランスよく働いてくれると、お米も育ちますしお酒もできます。
日本は四季があって豊かな微生物の層があって文化が生まれてきた。ご飯粒一つまで食べましょうとか、見えないものに言えないものに神様が宿るという考え方も、微生物からきているのかも知れませんよね」
松浦「神道―シントリズムというか、神様の感じ方と微生物の感じ方って私にとってはイコールだったんですよね。
私の実家の目の前には神社に続く階段があって、その麓で母がお参りするのを見て育ったんです。毎月1日と15日は神様がおりてくるという言い伝えがあって、感謝を込めてお祈りすることが私にとっても習慣になっていきました。そのうち、神様ってなんだろうというのと、微生物ってなんだろうっていう疑念が、私の中で少しずつイコールになっていったんです」
寺田「僕もそう思います。見えないからこそ微生物が実は自分たちを支えてくれているし、なんなら微生物を大事にすると運も良くなる、いろんなことが巡ってくると思うし、自然を大事にすることとご先祖さまを大事にすることって繋がりますよね」
松浦「本当にその通り、微生物の中には善玉菌と悪玉菌があって、お腹の中の善玉菌を育てるためにどうしたらいいのか?
私たちはいま、サロンやカフェ、オフィスなどが入ったビルの屋上に、ソーラーシェアリングやハーブ農園、コンポストを設置しています。周囲の落ち葉やカフェの残飯などを集め、コンポストで土に還して、ビルの周りの草木や屋上農園の土として再活用しています。
そうやって、この土地にいる微生物をつくり、循環させて微生物が生きられる環境をつくることで、土地に善玉菌が増えていくイメージなんです」
寺田「確かに、身土不二(しんどふじ)という言葉が表すように、身の回りのものを取り入れることで人間は健康でいられるという考えがあって、うちのお酒造りでも近所の農家さんのお米を大事にしたいと思っていますし、菌たちも自分たちと近い環境の中で育ったお米の方が喜ぶと思います」
美は一日にしてならず。良い菌を身体に取り入れることが大切
松浦「美容業界は長い間、ある種の嘘をついてきたって私は思うんです。明日きれいになるのが美容の正解だったんです。
でも私は仕事で毎日のようにお客さまの頭皮を触っているからわかるんですけど、頭皮環境を整えないと健やかな毛は生えてこないんですよね。
自分の身体の中にどれだけいい微生物がいるか、豊かな微生物がいるいい土からはぐくまれたものをいただいているか。そういうことを意識することで、土台となる頭皮が健康になり、はじめてしっかりとした髪の毛になっていくのです」
寺田「東洋の医学には食べ物がそのまま薬になるっていう考え方がありますよね。医療の医の字は「醫」という字が使われていて、お酒を作る時の瓶を表す文字が使われていたんです。昔の薬はその土地の植物を瓶に入れて、発酵させたものを生薬として飲んでいた。
だから身の周りのものを取り込むのは、身近にある菌を取り込んでいることになって体を癒すことになる」
松浦「人間が本来持っている、自然に治ろうとする力や、元気になろうとする力の根底には、微生物の存在があると思っています。
もう一つ大切なのが、心のあり方や、自分を取り巻く環境です。楽しい、心地いいと感じることがお腹の細菌にも影響するから、そのためにもポジティブでいること、楽しくあること、気持ちのいい仲間に囲まれていること。そういう環境を自分で作り出していくことが健康のために大事。
そう思うと人間は微生物なのかなって思えてくるんですよね。同じような菌を持っている人が周りにいれば私たちは幸せでいられる。
オリジナルプロダクトを開発しているのですが、それを通して伝えたいのも、人間がもともと持っている自然治癒力に気づいてほしいということです。
私が考える美しさは、明日、表面的に『きれい』になることではなく、10年後も健やかでいられること。その健やかさこそが美しさの本質だと思っています。
そして、内側から出てくる美しさこそがインテリジェンスという言葉に相応しいと私は思っていて、そのために微生物を知ることは欠かせないなと。
そういう意味合いから自分たちが作るものにも、少しでも微生物や発酵の思想を加えられたらいいなと思って作ったのが『スカルプシャンプー』なんです。 植物成分、微生物や発酵の働きによって作られる界面活性剤が髪の土壌となる頭皮を耕してくれるというのが私たちの考え方で、美味しいお米を作るための微生物の働きや、蔵のお酒造りの構図と同じだなと思っています」

寺田「確かにそうですね」
松浦「でもこれって私が個人的に感じていることなんですけど、日々発酵と向き合ってる発酵のプロである寺田さんがどう感じているかを聞きたかったんです」
寺田「人と微生物はまだまだ分からないことが多いですよね。科学は目に見えることだけを捉えますけど、顕微鏡の中で起こらないこともいっぱいある。微生物の振る舞いという意味でも、僕たちが知らないことがたくさんありますから」
松浦「微生物の振る舞いって言葉、最高ですね。人格がありそう」
寺田「まだまだ分からないことだらけですけど、自分たちが暮らしている中で、微生物が見えないところで支えてるってことに気づいてあげるだけで喜ぶと思います」
松浦「私もそう思います。だから神様と近いというか」
寺田「自分たちも微生物は神様だと思っていますから。それがきっと日本の神話にも生かされていて、お米がどのように伝わって広がってということが書かれているんだと思います。
同時に微生物とどう向き合ってきたかという歴史でもあったと思いますね。どう自然の中で生きていくかという知恵でもある。見えないところそれぞれに命があって私たちを支えてくれている」
松浦「それに対する感謝ですよね。都会であろうが田舎であろうがどこでも作れるものだから微生物を大切にしたいと思っています。
うちのサロンは渋谷区神宮前という都会のど真ん中にあるのですが、すぐ隣に財務省の更地があって去年一年だけ農園として使用する許可が下りて、『コンポスト東京』の方々と共に畑を耕したんです。
そのとき、渋谷区内の土地を耕してその土地の微生物をはぐくんでいけば、田舎に行かなくても、そこに日本酒の蔵があってもおかしくないって思っていました。
寺田「いいですね」
松浦「そのプロジェクトは今年の春に終わりましたけど、微生物って本当に深すぎて一生かかっても分からないだろうなって思いました」
寺田「そうですね、自分たちも毎日かかわってますけど、一生かかっても分からないと思いますから」
松浦「私たちは微生物のどの辺を触っているんだろうか?みたいな感じですよね。共存できてるのか、実は無視されてるのか。でもこの気持ちが大事だと思います」
寺田「きっと微生物は人間みたいに争わないし、勝ち負けはないんだと思います。自分が必要だと思ったら頑張るし、そうじゃないときは遠慮する。それぞれの微生物が輝ける場所を作ってあげるのが、自分たちのできることなのかなと思っています」
自然界にあるものを知って、みんなで育てていく

最後に、2022年に耕作放棄地を復田させた谷津田(周りを森で囲まれている田んぼのこと)を見せてもらった。農業用水は通っていないので、山からの地下水のみで育てられた稲が青青としていた。
寺田「森からの地下水には栄養がたっぷり含まれているので肥料を与える必要がなくて、自然な状態で米を作ることができます。周りの農家が使っていると、どうしても影響を受けてしまいますけど、ここはそれがないので完全な自然米ですね。
昔ながらの品種の『亀の尾』を育てています。手間はかかるけど、かわいいです」
松浦「愛おしいですよね! 私も以前、秋田で無農薬の米作りに携わっていたのでわかります。
でもその後、お世話になっていた農家さんが代替わりしてしまって、次の方に『もう無農薬はできません』って言われてしまったので、秋田での米作りは一旦終わらせて、今は金沢で作っていただいています」

風が通る気持ちいい環境のなか、空には見慣れない鳥が飛んでいた。
寺田「サシバっていう絶滅危惧種の猛禽類で、この周りの森に巣を作っているんです。
カエルや蛇を獲ったりする、このあたりの食物連鎖の頂点にいる鳥ですね」
松浦「食物連鎖が戻っているんですね、素晴らしい。でも森の向こう側で開発をやっていますね。大事な微生物を持っていってしまうじゃないですか」
寺田「そうなんです。なのでサシバの生態調査をリポートして、開発しないように伝えているんですが、止まらないですね」
松浦「争うより、共存ですね」
寺田「そうですね。あるものを大事にして、それをみんなで知って愛を育みたいです」
松浦「いい言葉です!今日は本当にありがとうございました!」

寺田本家
千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964
営業時間:8:00〜12:00、13:00〜17:00
4月〜10月は土日祝とお盆休み、11月〜3月は日祝と年末年始休み