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ファッション|2026.07.17

知ってるつもりを解消する「Shift C サステナ・ゼミナール」Vol.3 ポリエステルと炭素排出量

サステナブルファッションにまつわる“基本のキ”を知る「サスゼミ」。気候変動、生物多様性、人権…などテーマごとに知っておくべき基礎知識を、専門家がわかりやすく解説する。第三回は、身近な素材「ポリエステル」と炭素排出量について。

原稿:勝又淳司

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前回は、コットンとポリエステルのCO₂排出プロセスの違いについて学びました。綿は「栽培時」に、ポリエステルは「石油原料の調達時」に大きな環境負荷がかかるという内容でしたね。

ファッションの世界ではいま、素材として中心にいるのが「ポリエステル」です。Textile ExchangeのMaterials Market Report 2024によれば、2023年にはポリエステルは世界で生産される繊維全体の57%を占め、衣料用素材として圧倒的な存在感となっています(*1)。

シリーズ第3回となる本コラムでは、ファッションの素材として非常に重宝されるポリエステルについて考えます。重宝される理由と、それによる炭素排出量の増加について述べていきます。

キーワード
ポリエステル CO  ファストファッション  

日本女子大学 専任講師  勝又淳司

日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。修士(政策学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。社会人大学院生として博士論文執筆中。

現代のファッションでポリエステルが重宝される理由

皆さんは自分の着用する服の品質表示を見て、どんな素材で構成されているか見たことはありますか?ファッションの世界ではいま、素材として中心にいるのが「ポリエステル」です。街中のお店を見渡すと、ニットもシャツもアウターも、タグにはポリエステルの文字が並んでいます。なぜこれほどまでに、ポリエステルは存在感を増してきたのでしょうか。

まず大きいのは「安定供給」と「価格の安さ」、他の素材との「相性の良さ」です。ポリエステルは、石油を精製する過程で得られるナフサを主な原料として製造されるため、計画的・大量生産がしやすい素材です。ブランドやメーカーにとって、コストが読みやすく、必要な量をほぼ確実に確保できるという強みがあります。ただし、昨今の中東情勢などに伴い、原料価格が高騰していることは、皆さんも報道で見ている通りかと思います。

かくいう筆者も、国内スポーツアパレル企業に勤務していた頃に扱っていた素材の多くがポリエステルでした。汗を吸って素早く乾く機能はスポーツには欠かせません。そして、現在は様々な肌着等でも用いられています。

進化する機能性と、大量生産がもたらす環境負荷

さらに、機能性も進化しています。シワになりにくい、乾きやすい、軽い、といった特徴に加えて、近年は肌触りや光沢感が改良され、天然繊維との差が縮まっています。その結果、コストと機能を両立させたいブランドが選びやすくなり、ポリエステルの採用率は加速度的に上昇しました。日本では北陸を中心に世界的に評価の高い産地もあり、国内の繊維産業においても重要な素材です。

一方で、生産量が増えるほど無視できなくなるのが環境への影響です。ポリエステルは石油由来の合成繊維で、原料調達の段階から温室効果ガスの排出が避けられません。また、洗濯時にマイクロプラスチックが流れ出る点も大きな課題です。こうした背景から、再生PETの利用や回収技術の研究が進んでいますが、リサイクルにも限界があるため、素材の選択そのものを見直す動きも出てきています。

衣服を手放した後に直面する、リサイクルの壁

衣服を手放した後にも課題があります。ポリエステルは自然界で容易には分解されず、焼却すれば二酸化炭素が排出されます。また、綿とポリエステルを組み合わせた混紡素材は、それぞれの繊維を分離することが難しく、繊維から繊維へと再生する「繊維to繊維リサイクル」の大きな障壁となっています(*2)。近年は分離技術の研究も進められていますが、現時点では十分に普及しているとはいえず、衣服をどのような素材で作るかという設計段階から循環を意識することが重要になっています。

デニムの変容から見る、ファストファッションとCO₂排出量

環境工学・LCA研究者のZhaoさんらが2021年に発表した論文(*3)によれば、ファストファッションの浸透により、綿100%のデニムよりも安価で軽くてストレッチ性のある綿×ポリエステルのデニムが増加したことが報告されています。生産量は2001年の2.17万トンから、2018年には23.1万トンへと顕著に増加し、年平均成長率は14.9%に達したとのことです。

綿は栽培段階で大量の水を必要とするため、ポリエステル混紡デニムの増加によって水使用量は減少しました。一方で、化石資源由来であるポリエステルの使用拡大に伴い、二酸化炭素排出量は2001年から2018年の間に108%増加したことが報告されています。このように、新たな素材を使用することで新たな環境負荷が発生することがファッション産業では様々な点で報告されています。

また、論文の中では、デニムの消費地(北米、西欧、日本、韓国)は世界人口の14%だが、ジーンズ消費量の7割を占めること、製造は5割がアジアであることなどグローバル視点ではバランスの悪い構造にあることが指摘されています。よってグローバル視点でサプライチェーンを構築することが重要であると述べています。ここまでのポリエステルの素材としてのメリットとZhaoさんらの研究を、図1にまとめました。

図1 ポリエステル素材のメリットとCO₂排出増加(Zhaoさんらの研究をもとに筆者作成)

この論文を読んだあと、筆者も自らの新しい研究の土台として大手ショッピングモールで市場調査を行いました。結果としては非常に綿×ポリエステルのデニムが多く,特に「ウルトラファストファッション」と揶揄されなくても、4,000円以下のデニムでは非常に多く見受けられ、普及していることが確認できました。特に小中学生向けと思われる店舗で非常に多く見受けられました。ファストファッションの浸透によりファッション製品の数量は大量に増加しており、この傾向は今後も続くことが予想されています。

ポリエステルは、現代のファッションに欠かせない素材であると同時に、環境との向き合い方を最も問われる素材でもあります。
まずはこのような背景を知り、自分の着用する衣服の組成表示を見るところから始めると良いのではないでしょうか。


*1 Textile Exchange (2024). Materials Market Report 2024. https://textileexchange.org/knowledge-center/reports/materials-market-report-2024/

*2 Loo, S.-L., Yu, E., & Hu, X. (2023). Tackling critical challenges in textile circularity: A review on strategies for recycling cellulose and polyester from blended fabrics. Journal of Environmental Chemical Engineering, 11(5), 110482. https://doi.org/10.1016/j.jece.2023.110482

*3 Zhao Minyi・Zhou Ya・Meng Jing・Zheng Heran・Cai Yanpeng・Shan Yuli・Guan Dabo・Yang Zhifeng (2021) Virtual carbon and water flows embodied in global fashion trade – a case study of denim products. Journal of Cleaner Production, 303.


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日本女子大学 専任講師
勝又 淳司
日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。修士(政策学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。社会人大学院生として博士論文執筆中。

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