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ファッション|2026.04.22

パリ発の展示会「トラノイトーキョー」で見つけたサステナブランド6選

世界中からバイヤーやプレスが集まるパリ発の展示会「TRANOÏ TOKYO(トラノイトーキョー)」。25カ国180以上のブランドが集結した2026年の春、東京で見つけた注目のサステナブルブランドをリポート。

原稿:髙岡英里子

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「なぜ、どのように、だれのために作るのか? 交わされるのは本質的な問い

パリ発の展示会TRANOÏ(トラノイ) が、いま東京で存在感を増している。1991年にパリで創設されたトラノイは、2024年に東京でのスタートを切り、単なる展示会ではなく、ファッション・ビジネス・カルチャーが交差する体験の場へと進化している。アジア唯一のインターナショナル・マーケット・イベントとして地位を確立しつつあるTRANOÏ TOKYO(トラノイトーキョー)には、25カ国から180以上のブランドが集結。注目すべきは、世界中から集まるブランドが、東京という都市の眼差しの中で再配置され、展示会が「商談の場」から「世界を見つめ直す場」へと進化している点だ。

重要なのは、出展ブランドの選抜基準が劇的に進化したということ。かつての「著名性」や「商業性」から、流通、背景、思想まで含めた総合的なものへと変わっている。バイヤーの目を左右するのは、「なぜそれを作るのか」「どのように作られるのか」「誰のためなのか」という本質的な問いだ。

このシフトは、グローバルファッション業界全体における サステナビリティの主流化 を象徴している。環境負荷の低減、フェアトレード、職人技の継承、サーキュラーエコノミーへの転換――こうした価値観を真摯に実装するブランドが、いまほど注目を集める時代はない。

2026年3月の東京で迎えた4回目の開催では、伝統的なクラフツマンシップを現代的感性でアップデートしたアジアのブランド、欧州の歴史あるメゾン、そして日本の才気溢れるクリエーターが一堂に集った。

その中で輝きを放つのが、サステナブルという価値観を核に展開するブランド群である。彼らは単に「環境に優しい」というスローガンに留まらず、ものづくりの哲学、流通の透明性、地域との関係性、職人との信頼関係—あらゆる要素にこの価値観を貫いている。

トラノイトーキョーが選び抜いたサステナブルファッションブランドたちは、ファッション業界の未来を指し示す羅針盤となっており、どのような世界観を展開しているのか。東京の眼差しが選んだ、次世代のサステナブルファッションブランドをご紹介したい。

型にはまらない日本製。聖林公司「エイチアールリメイク」が再始動

株式会社 聖林公司 左)卸売事業部 海外営業担当 髙橋 彩氏 右)卸売事業部責任者 髙橋裕之氏

日本におけるアメカジのパイオニアとして知られる「ハリウッド ランチ マーケット」などを運営する聖林公司。同社が大切にしてきたREMAKE、REUSE、RECYCLEをテーマに2011年に始動したのがエイチアールリメイク(H.R.REMAKE)。十数年の時を経てブランドが復活した背景には、サステナビリティが一般化する遥か以前から実践されていた企業のDNAがあった。

在庫や手元の生地を加工・再活用する——その当たり前の営みが、いまや世界のバイヤーが求める価値観となっている。復活後2シーズン目となる今季、ブランドは雑貨から衣料領域へと歩みを進めた。

素材起点というクリエイションの必然性

ブランドのメソッドには、既存の完成品を研究し再構成する「カスタマイズ」と、ストック生地や過去の端切れから新たなパターンを引く「素材開発」の二つのアプローチが共存する。ここで重要なのは、デザインの出発点が完成イメージありきではなく、「この素材から何が生まれるべきか」という問いであることだ。

このプロフェッショナリティを支えるのが、企画から生産、デリバリーまでを一貫して社内で対応する内製化の体制である。自社に縫製チームを持ち、すべてを内製化できることが、このブランドの最大の特徴といえる。

誠実なパートナーシップとグローバルな視線

展示会出展に伴う数量対応という課題に対し、ブランドは「どこまで応えるか」という問いと常に向き合っている。優先するのは、無理に買ってもらうことではなく、製法や企業の思想、ものづくりの文脈までも理解し、顧客に伝えられるパートナーとの関係構築だ。

このストーリー性は、グローバル市場でも確かな手応えを得ている。トラノイトーキョーでは、バイヤー以上にプレスが敏感に反応した。その理由は、明らかである。海外市場が求める「日本製」といった定型的な切り口ではなく、企業としての独自の取り組み方や、日本人ならではのデザイン発想と感性。その「思想の透明性」が、グローバルな評価軸として確立されつつあるのだ。

次なる展望は、漂白されない個性の表出

「もっとデニムはないのか? という声もたくさんいただきます。日本ブランドに対する期待は嬉しいので、デニムの知名度を武器に今後はトップスやトータルコーディネートを提案していきたいです」と海外営業担当の髙橋氏。
復活2シーズン目を終え、「前シーズンは綺麗にまとめすぎた」という思いもあり、今後はブランドが得意とする加工感や染めなどのディテールを打ち出していきたいと語る。素材への向き合い方、職人技の痕跡、そこに託された思想。それらすべてが視覚化される、より力強いコレクションの実現を目指し、エイチアールリメイクはさらなる深化を続けていく。

https://www.hrm-eshop.com/shop/e/eremake

リサイクル「らしくなさ」を追求。新しい消費を定義する「プリーツママ」(韓国)

私たちの手元に届く「美しさ」は、今、新しい定義を纏い始めている。機能性や洗練されたデザインはもはや前提であり、その背景にある「循環」というストーリーこそが、現代の感性を揺さぶる。プリーツママ(PLEATS MAMA)は、廃棄物から「美」を抽出し、それを消費者が自ら選びたくなる「価値ある製品」へと昇華させることに成功した。

プリーツママは再生繊維のバッグがアイコンの、韓国を代表するサステナブランドだ。回収したペットボトルや廃漁網から作られたリサイクル糸を使用し、繊維の製造過程で顔料を練りこむ「ドープ染色」でCO2や水消費を大幅に削減。さらに3Dニッティング技術を採用することで「ゼロウェイスト」を実現している。

その起源は、ファウンダーのジョンミ・ワン氏の韓国の大手繊維メーカーでのOEM製造経験に遡る。彼女が巨大産業の現場で目の当たりにしたのは、大量の廃棄物が生まれる冷徹な現実だった。その光景は「本当に必要なものを、持続可能な手法で作る」という独立への強い動機となり、ブランドの背骨を形作ることとなった。

プリーツママ創業者兼CEOのジョンミ・ワン氏

「リサイクル製品らしく見えない」というデザインの矜持

アップサイクルの本質は、単なる素材の再利用ではない。プリーツママが掲げる哲学は明確だ。リサイクルであることを理由に品質が犠牲になることはあってはならず、むしろ「リサイクル素材こそが高品質である」と認識されるべき。その品質を極限まで高めることこそが、価値の創造に他ならない。

ゆえに、デザインにおいても「リサイクル製品らしく見えないこと」を最優先する。どれほど高潔な背景があっても、製品そのものが美しくなければ人々に受け入れられないからだ。サステナビリティという文脈以前に、その造形美に惹かれて手に取る。そうした消費者の「認識の転換」を促すことこそが、ブランドとしての最大の挑戦であり、美学である。

トレンドを排した、持続可能なビジネスモデル

ブランドは短期的なトレンドを追うことはしない。8〜9年にわたり販売を継続するロングセラー戦略は、流行に左右されず、時代を越えて愛されるラインナップを構築するためのものだ。少量生産を維持しながら着実な歩みを続けることで、過剰な廃棄を最小限に抑える、理にかなったビジネスモデルを実践している。

もちろん、道のりは平坦ではない。「サステナブル」というレーベルが抱く先入観との対峙、小ロット生産におけるコスト管理。こうした現実的な課題は常に存在する。しかし、かつて目撃した「廃棄という悲劇」を繰り返さないという強い信念が、妥協のない本質的な価値を貫く原動力となっている。

循環する未来を手に取るという選択

韓国から始まった物語は、今や日本市場においても新たなパートナーシップを通じ、その美学を加速させるフェーズにある。ファッションとサステナビリティの境界線は、プリーツママにおいて既に消滅している。美しさを追求することと、地球にポジティブな影響を与えることを両立させること。それはこれからの消費の「新しい当たり前」になると確信している。

彼らが提供するのは単なるバッグではなく、循環し続ける未来そのものである。トレンドに依存せず、環境メッセージに甘んじることもなく、ひたすら「美しく、質の高い製品」を追求する。その小さな選択の積み重ねが、やがて大きな社会変化を生む。プリーツママを手に取ることは、自身の美意識と地球への責任が調和する、静かな意志の表明に他ならない。

https://jp.pleatsmama.com

責任ある美学を追及するヴィーガンスニーカー「ミ・ランド」(フランス)

サステナブルなラグジュアリーの再定義とは、すなわち「責任ある美学」の確立に他ならない。パリのファッションシーンにおいて、今、静かながらも確固たる地歩を築いているブランドがある。2018年に創設されたミ・ランド(ME.LAND)だ。トップメゾンで培われた緻密な技術と、地球環境に対する真摯な眼差し。その二つが交差する地点に、彼らが追求する全く新しいラグジュアリーの形がある。

ミ・ランド創業者兼デザイナー フレデリック・ロベール氏

メゾンの深部で目撃した、構造的な「矛盾」

創設者の経歴は、フランスファッションの正統そのものである。数々の名だたるメゾンを歴任した彼が、華やかなランウェイの裏側で抱き始めたのは、ある種の違和感であった。卓越したデザインを生み出しながらも、生産プロセスにおける環境への配慮が等閑視されているという現実。

「地球を犠牲にして作られたものに、真の価値はあるのか」——この根源的な問いこそが、ミ・ランド誕生の原動力となった。彼は自らのクラフトマンシップを、大量消費の論理とは対極にある「持続可能性」という価値観へ投じることを決意したのである。

「アップルレザー」という革新、廃棄物から抽出される贅沢

ブランドの思想を象徴するのは、その素材選びにある。ペットボトルの再生ポリエステルや廃棄ゴムのソールに加え、「アップルレザー」の導入は特筆すべきだ。産業廃棄物として棄却されていたリンゴの芯や皮を再利用したこのヴィーガン素材は、伝統的な高品質レザーを彷彿とさせる質感と、日々の使用に耐えうる実用性を備えている。PETA認証のヴィーガンスニーカーは、接着剤まで植物性と徹底している。

素材の転換は、水の使用量削減やCO2排出の抑制、ひいては食品ロスの削減に寄与する「循環型モデル」を具現化する。しかし、彼らにとって素材の変更はデザインの妥協を意味しない。むしろ、持続可能性という厳しい制約の中でいかに美しさを突き詰めるか。それこそが現代のデザイナーに課せられた真の挑戦であると、彼らは確信している。

美学と倫理の止揚、パリジャンのエッセンスを纏う

多くのサステナブルブランドが機能性や「エコ」の主張に傾倒し、デザインの洗練を欠く中で、ミ・ランドの佇まいは異質だ。立体裁断の技術とシルエットへの鋭い感性が、スニーカーというカジュアルな記号に、上品なパリジャンのエッセンスを付与している。
パリの店舗に集う顧客を繋ぎ止めているのは、単なるフィット感だけではない。「この一足を選ぶことが、未来を良きものにしている」という静かな充足感。その倫理的な満足度こそが、現代における新しい「贅沢」の定義となっている。

数値化されるインパクトと、日本市場への共鳴

今後の展望として彼らが掲げるのは、「環境へのインパクトの数値化」だ。抽象的な配慮に留まらず、明確な指標に基づいたプロダクト設計と、サプライチェーンの透明化を徹底する。

そして今、彼らは次の舞台として日本市場を見据えている。職人技を尊び、物の背景にあるストーリーに敏感な日本の文化は、ミ・ランドが掲げる「持続可能なラグジュアリー」と極めて高い親和性を持つ。彼らが目指するのは、トレンドを追うことではなく、10年後、20年後のワードローブに残り続ける「タイムレスな愛用品」の創出である。

ミ・ランドのフットウェアは、単に足元を飾る道具ではない。それは、未来のファッションがあるべき姿を常に内包し、私たちに問いかけ続ける。日本での展開が本格化する時、私たちはまた一つ、真に豊かな「贅沢」の定義を手にする。

https://www.melandofficiel.com

デジタル時代に、あえて人間が手を動かすことの価値を再定義「Til by AV」(インド)

2022年にインドで産声を上げたばかりでありながら、既に世界的な視線を集めている新興サステナブル・ファッションブランド、Til by AV(ティル バイ エーブイ)。伝統の継承と現代的なエレガンス。相反するようにも思えるこの二つの要素を、芸術性の高い形へと昇華させる同ブランドの歩みは、次世代のクリエイションがいかにあるべきかを雄弁に物語っている。

「私たちのデザインは、自然界が作り出す複雑な模様と、人間の身体が持つ曲線、その双方への深いオマージュです」とファウンダーは語る。そのクリエイションは、一見すると過剰な装飾性を帯びているように映るが、そこに投影されたドレープは、布地を通じて生命の呼吸が聞こえてくるようなオーガニックな感覚を呼び起こす。自然の摂理に従い、無駄を排する。このデザイン哲学こそが、ブランドの骨格を成す重要な柱である。

Til by AV創業者兼デザイナー アンクル・ヴェルマ氏

ゴミから「命ある素材」への転換 。ゼロ・ウェイストを決定づけた原体験

サステナビリティへのコミットメントを語る上で、創業者の私的なエピソードは欠かせないが、ヴェルマ氏はこう語る。
「アトリエから出た小さな廃材を、3歳の娘が『人形を作りたい』と手に取ったんです。ただ捨てられていくはずの布片が、子供の目には『命ある素材』として映っていました。これを見たとき、クリエイターとして自分が何をすべきか、ゼロ・ウェイストという使命が明確になったのです」

この原体験が、アトリエで出るあらゆる端布を刺繍のパーツやパッチワークへと転生させる、ゼロ・ウェイストな運営を決定づけた。それは単なるリサイクルを超え、デザイナーが「素材の寿命を永遠に引き延ばす」という誓いを立てた証なのだ。

職人の手仕事が再定義する、デジタル時代の価値

パンデミックを経て、消費者の意識は劇的に変化した。ファストファッションという大量消費へのアンチテーゼとして、より思慮深い消費を求める声が高まっている。このブランドが提示するのは、大量生産品ではなく、インドの熟練職人が数百時間を費やして作り上げる一点ものに近い限定性だ。

デジタル化が加速する世界において、あえて人間が手作業で行うことの価値を再定義する。その実践は、以下の5つの持続可能性指標へと集約される。

  1. 素材調達:オーガニック・天然染料・再生繊維の100%使用
  2. 生産プロセス:ゼロ・ウェイスト・パターンの徹底
  3. 労働環境:フェアトレードと技術継承プログラムの構築
  4. ライフサイクル:修理サポートによる資産価値の担保
  5. 顧客関係:ビスポーク注文による「共創者」としての位置づけ

日本独自の美意識「もったいない」との共鳴

ブランドが日本市場に強い関心を寄せるのは、日本の消費者に「もったいない」という哲学や、職人技への敬意という素地があるからだ。「日本のミニマリズムと、インドの複雑な装飾美は、その根底にある『素材を愛する』という共通感覚で繋がっている」と彼らは語る。例えば、着物を大切にリメイクする文化は、彼らのサステナビリティ哲学と驚くほど深く共鳴しているのである。

https://tilbyav.com

ハンドクラフトが紡ぐ社会への責任。地域コミュニティと共に作る「ピパチャラ」(タイ)

タイ・バンコクを発信源に、世界を魅了するピパチャラ(PIPATCHARA)。2018年に創設されたこのブランドは、トップメゾンで皮革製品への造詣を深めたデザイナーのピパチャラ・カエオジンダと、サステナビリティの専門家である姉のジットリニーという姉妹のタッグによって誕生した。

二人が目指したのは、「妥協なきデザイン」と「社会的な誠実さ」の融合だ。「ファッション・フォー・コミュニティー」を掲げ、タイ各地の作り手と連携してハンドメイドで製造し、地域に雇用を創出している。単なる流行ではなく、文化を継承し未来を構築するツールとして定義する彼女たちの挑戦は、今、知的なファッション愛好家たちの心を確実に捉えている。

左)ピパチャラデザイナー ピパチャラ・カエオジンダ 右)姉ジットリニー・カエオジンダ

「美しさ」という、サステナビリティへの最も強力な動機

しかし、なぜこれほどまでにラグジュアリーなプロダクトを通じて「エシカル」を強調するのか。その理由は、「美しさこそが、サステナビリティに対する関心を最も喚起する」という彼女たちの信念にある。環境への配慮が先行しすぎてデザイン性が損なわれては、真の意味で日常に浸透しない。圧倒的なクオリティを維持することで、消費者が「最も美しいものを選んだら、それが結果として環境への配慮に繋がっていた」というポジティブな連鎖。それこそが、ピパチャラが提唱する新しい消費の在り方なのだ。

シグネチャーアイテムがもたらす、社会的インパクト

ブランドの真骨頂は、製造プロセスの中にいかに社会的なインパクトを組み込んでいるかにある。
ピパチュラの代名詞である「マクラメ(結び紐)」はタイに古くから伝わる技法で、現在はチェンライの先住民族はじめタイ国内5カ所の地域コミュニティと連携し、技術を伝え、バッグに仕上げているという。

また、プラスチックゴミを美しい素材へと昇華させる「インフィニチュード」は、タイの工場と開発した独自技術が用いられ、循環型経済を実践する画期的なプログラムとして業界に大きな衝撃を与えた。再生プラスチックのパーツのドレスは、BLACK PINKのLISAはじめさまざまなセレブリティがレッドカーペットで着用したことでも一躍注目されるように。

職人たちに正当な賃金と誇りある仕事を提供し、地元のクラフトマンシップを自立させる。これこそが、彼女たちが掲げる「真のラグジュアリー」の形に他ならない。

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日本市場への浸透と、コミュニティの深化

ピパチャラの精神性は、本物を見極める日本の層にも深く浸透し始めている。今後は、アートとファッションがクロスオーバーするようなイベントを通じ、作り手と買い手が直接対話できる環境を構築していくという。

製品が作られる過程の美しさ、人々の幸福、そして未来への持続可能性。ピパチャラのプロダクトを手に取る時、私たちは職人の情熱や姉妹の信念、そしてより良い世界を願う意志を所有することになる。洗練と倫理を両立させる彼女たちの歩みは、これからのファッション業界が歩むべき灯台となるに違いない。

https://pipatchara-japan.com

台湾に眠っていたデニムに新たな物語を与える「Story Wear」(台湾)

ファッション業界が大きな転換期を迎える今、最も議論されるトピックの一つが「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」の実現である。大量生産・大量廃棄という従来のビジネスモデルに異を唱え、衣服に新しい命を吹き込むブランドが、台湾発のソーシャルエンタープライズ、Story Wear(ストーリーウェア)。彼らの挑戦は、単なるリサイクルを超え、衣服に宿る「過去」を「未来」へと繋ぐ、芸術的かつ倫理的な営みである。

創業者クワンペイ・チェンの物語は、個人的な経験から始まった。伝統的な服飾ブランドの家系に生まれた彼女にとって、服は単なる布の集合体ではなかった。職人の手仕事と素材への敬意を肌で感じて育った彼女にとっての転換点は、父親の急逝。家族の遺産――それは資産だけでなく、服飾に対する哲学をも含んでいた。父親の形見のブレザーを手にした時の、この服が持つ記憶を継承したいという強い思いが、ブランドを立ち上げるきっかけとなったという。服とは肌を覆う保護具ではなく、「物語を纏う」ためのもの。その確信が、ブランドネーム「Story Wear」の哲学となっている。

「かつての遺物」に刻まれた、時間の刻印

素材としてデニムを選んだ背景には、台湾の歴史的文脈が深く関わっている。かつて世界中のデニムをOEM生産していた台湾には、膨大な古着や端切れが眠っていた。デニムは堅牢である反面、製造過程での化学処理が環境に負荷をかける。Story Wearはこの「かつての遺物」に目を向けた。彼らにとって、デニムは単なる廃棄物ではない。経年変化という「時間の刻印」が刻まれた、最上のキャンバスなのだ。

そのアップサイクリングの工程は、一筋縄ではいかない。「100%再利用」を達成するため、デニムを可能な限りオリジナルな状態へと解体する。ポケットのステッチ、インディゴのフェード感。これらを傷つけずにバラしていく作業は、もはや服の構造を理解するための考古学に近い。

透明性と、日本市場での「共鳴」

彼らにとって、法規制を遥かに超える透明性の確保はマーケティング手法ではなく、存在意義そのものだ。こうした倫理的指針に基づいた挑戦は、今、日本市場へと向けられている。

実際、東京で開催された展示会では、製品を見て涙を流すお客様もいたという。それは日本の消費者が持つ「物を大切にする心(もったいない精神)」と、Story Wearの手技に宿る温もりが共鳴した瞬間だった。品質に厳しい日本市場において、彼らは「不完全さ」こそが美しさであるというストーリーを提示する。デニムの持つ無骨さと、職人の繊細なデザインの融合は、東京の街角で新しい価値観を創造するはずだ。

「一着を選ぶこと」という、未来への投票行動

Story Wearの社会的責任は、環境保護に留まらない。雇用機会の限られた地元の女性たちを積極的に採用し、教育支援を通じてエンパワーメントを継続する。彼らにとって持続可能性とはマーケティング手法ではなく、存在意義そのものなのだ。

私たちが服を選ぶとき、その背後にある物語を知る責任がある。Story Wearが提案するのは、安価な消費のサイクルからの脱却だ。作り手の人生、環境の未来、そして纏う者の個性が重なり合う一着。それを選ぶことは、より良い世界を選択する一つの投票行動に他ならない。

デニムの青は、誰かの物語が積み重なって生まれた色。Story Wearを纏うことは、その物語の続きを、私たち自身が織り成していくことに繋がっている。

https://www.story-wear.com

サステナブルファッションが解き放つ希望

かつて、ファッションにおいて廃棄は物語の「終着点」を意味していた。流行遅れの服はクローゼットの奥へ追いやられ、売れ残った在庫は闇へと消える。しかし今、私たちは全く新しい夜明けの時を迎えている。廃棄物はもはや結末ではなく、物語の「発端」へとその役割を変えたのだ。

サステナビリティという言葉は、往々にしてストイックな制限と結びつけられがちだが、世界各地で湧き上がる新しい潮流はむしろ逆の光景を描き出している。「これは一体、何を捨てているのか?」という鋭い眼差しは、私たちの価値観を根本から揺さぶる。それは欠落を補う行為ではなく、今の私たちが何を大切にし、何に美しさを感じるのかを問い直す、最も創造的な「再構築」のプロセスに他ならない。

制約という名の触媒、そして手仕事の復権

「制約」は、時として芸術にとって最も偉大な触媒となる。限られたリソースやデッドストックの生地――かつて否定的に語られた要素は、現代のデザイナーたちの指揮のもと、驚くべき変貌を遂げている。素材の可能性を徹底的に見つめ直すことで、大量生産品には決して宿り得なかった「ストーリー」が立ち上がる。不完全なものを愛でるという意識が、完璧な新品よりも遥かに豊かな表現を生み出しているのだ。

効率と合理性を重んじてきた市場の裏側で、確実に復権しているのが「職人の手」である。アジア各地から届くブランドの躍動は、機械化された工場では決して生み出せない、人間味あふれる物語を教えてくれる。そこにあるのは単なる効率化の反対ではない。私たちは今、速さではなく「深さ」を、効率ではなく「意義」を求めている。職人の手仕事は、衣服に宿る魂を呼び覚ます鍵となり、私たちの未来を丁寧に、そして力強く紡いでいる。

「消費」から「投票」へ、そして東京という発信地

消費者の意識もまた、劇的な進化を遂げている。「安いから買う」時代から、「意味があるから選ぶ」という自覚的なステージへ。どのブランドを応援し、どんな価値観を身に纏うか。その選択の一つひとつが、社会を形作る「投票」そのものである。真の贅沢とは、愛と意味が循環し、未来に光を灯す一着を選ぶことにあるのだと、感度の高い層は既に気づいている。

この価値観の転換を象徴するのが、アジア唯一のインターナショナル・マーケット・イベント「TRANOÏ TOKYO(トラノイトーキョー)」が見せた景色である。かつて新しいものを「見る場所」だった東京は今、世界から集まった創造性を「選別し、再編集し、発信する場所」へと変貌を遂げた。バイヤーたちの眼差しは、単なる商品力から、ブランドが持つ思想の透明性や物語性へと深く向かっている。

多様な才能と東京という土壌が混じり合う余韻を胸に、私たちは次なる邂逅を待ちわびている。2026年9月9日(水)~10日(木)、代々木第一体育館で開かれる扉の先には、どのような共鳴が待っているのだろうか。

tranoi.com/e/tokyo

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パブリシスト/コラムニスト
髙岡英里子
幼少期をフランス・パリで過ごす。社会人を経て再び渡仏し、現地PR会社にてパリファッションウィークに携わる。帰国後、国内外のファッションブランドPRとして活動。2016年に独立し、ファッションに加えライフスタイル、ビューティー、音楽、アート、食と分野を広げ、パブリシスト/コラムニストとして活動中。

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