• トップ
  • Learning
  • スタイリスト・木村舞子がジャパンブランドと、サステナブルアクションを考える。【Vol.9 TALK NONSENSE】

ファッション|2026.03.30

スタイリスト・木村舞子がジャパンブランドと、サステナブルアクションを考える。【Vol.9 TALK NONSENSE】

スタイリスト・木村舞子が、サステナブルな取り組みをしているブランドを訪ねる本連載。今回取材したのはプロジェクトチーム、TALK NONSENSEが行っていた企画展示・ワークショップ。ニットを解体して糸に戻し、新しいプロダクトを制作する過程を体験してみた。

原稿:木村舞子 写真:五十嵐一晴

Share :
  • URLをコピーしました

木村舞子
北海道出身。バンタンデザイン研究所を卒業後、スタイリスト百々千晴氏に師事。ファッションモード誌、カタログ等で活躍中。雑誌GINZAのウェブサイトでは、「スタイリスト・木村舞子さんと一緒に、サステイナブルライフへの道!」を連載中。

プロジェクト、TALK NONSENSEとは?

TALK NONSENSEは、数々のアパレルで経験を積んだ小梶真吾さん、沖 裕希さんの二人によるデザイン/リサーチチームで、衣服が持つ社会的・文化的側面を再考しながら、プロダクト、ユーザー、メーカーが新たな関係性を築くことを模索するプロジェクト。
古着などのニットを解体し、再構築するというユニークな取り組みをしているそう。実店舗などは持たないが、有楽町アートアーバニズム YAUで行っていた企画展示とワークショップを訪ねました。

リサーチ・コンセプトワーク担当の小梶真吾さん

――TALK NONSENSEというのはどんなプロジェクトなのでしょうか?

小梶真吾(以下、小梶) 2024年から活動を始めたので、まだ1年半ほどのプロジェクトです。”ブランド”と呼べるほどたくさんのものを売っているわけではないので、何と名乗るべきかは正直まだ模索中です。今のところ「デザインチーム」や「リサーチチーム」という肩書きを使っていて、今後もフレキシブルに変わっていくのかなと思っています。
やっていることとしては、プロダクトの制作、衣服を作ることに対して、いかにユーザーと一緒に共創できるかということを考えていて、今は編み物を中心としたワークショップやリサーチといった活動を続けています。
今回のプロジェクトは3か月で3つ実践を行うリサーチプロジェクトで、「有楽町アートアーバニズム YAU」という、大手町・丸の内・有楽町のまちづくりの一環としてはじまった活動の中で公募されたいち企画として開催しています。

1月には三菱一号館美術館で古い編み図の展示を行い、会場では編み図をPCからプリントして来場者が持ち帰れるようにしました。

今年1月に三菱一号館美術館で行われた展示の様子。写真提供TALK NONSENSE
世界大戦中、NYのセントラルパークで編み物をする人たち。当時こういったイベントが各地で行われていたそう

――古いというのはいつ頃のものなんですか?

小梶 第一次・第二次世界大戦中、欧米では市民が兵士のために衣服を編んで戦地へ送る「ホームフロント」と呼ばれる活動がありました。展示したのは、その時代の編み図です。市民が一斉に手を動かすという点では、歴史的にも稀に見る出来事ではないかと思います。
実際に編まれていた編み図の収集や、その周辺で起きた出来事のリサーチを行い、アーカイブしています。当時の編み図は現代の糸や道具とは規格が異なるので、今編むとしたらどうなるかを検証し、現代版に”翻訳”する作業も行っています。展示会場では、その翻訳した編み図も来場者が自由にコピーして持ち帰れるようクリエイティブ・コモンズ(著作物を一定の条件下で自由に共有・利用できるようにするライセンス)のルールに基づき公開しました。

ちょうど会期中、三菱一号館美術館ではKCI(京都服飾文化研究財団)の所蔵品を中心としたアール・デコ展が開催されていました。アール・デコの象徴的な出来事としてパリ万博がありますが、時代的には二つの世界大戦の間に開催されたもので、自分たちが調べていた時代とも重なっていたんです。アール・デコ展を観に来た方にも、華やかな衣服とは作り方も発生源も異なる、もうひとつの衣服の歴史を地続きで見ていただけたら素敵だなと思い、YAUの皆さんにお願いして2日間だけですが、有難いことに三菱一号館美術館で開催させていただきました。

ユーザーと一緒に共創するものづくりが今回のテーマ

新潟県五泉市の工場で使われていたニットウェア解し機

小梶 2月は立ち上げから継続して行う、古いセーターを解いてまた編み直すワークショップ《U-A-R-K(Unravel and Re-knit) / 解いて編んで》をここYAU STUDIOで紹介しています。
古い道具もいくつか用意しているので、来ていただいた方に実際に作業を体験してもらうことができます。このプロジェクトに関してはプロダクトにまで落とし込めていて、古いニットから取り出した糸と新しい糸を一緒に編む――専門用語で「引き揃え」という作業ですね――それで新しい製品を作っています。その販売もしつつ、来ていただいた方々とお茶でも飲みながらゆっくりお話しして、というようなゆるい雰囲気でやっています(笑)。

この後3月には、街の中で一緒に編み物をしようというハンドニットのワークショップを企画しています。有楽町のまちなか、公共の場でみんなで手を動かすということが、今の時代にどんな意味を持つのかを考えられたらと思っています。

――これは何の機械ですか?

小梶 これは「ニットウェア解し機(ほどしき)」というもので、ニットの産地として知られる新潟県五泉市で作られた古い工業用の機械です。電動モーターと木組みの構造で毛糸を巻き取る仕組みになっていて、工業製品の生産過程で編み直しや修正が必要な際に使われていました。

 毛糸を人の手で解きながら、それを機械が巻き取っていく。解くという単純作業もメディテーションワークのようで楽しい

小梶 こちらは昭和に使われていた「湯熨斗器(ゆのしき)」というもので、やかんに装着し、蒸気で解いた糸をまっすぐにする道具です。こういった道具について詳しい方がなかなかいらっしゃらないので、自分たちで調べたり、道具に付属している説明書から学んだりしています。80年代以降は湯熨斗器もスチームアイロンに取り付ける形へと、生活に合わせて変化していっていますね。やかんに直接取り付けるタイプはかなり限られた年代のもので、陶器のほうはおそらく戦前のものだと思います。

やかんに取り付ける湯熨斗器。デザインも可愛い
やかんに毛糸を通すパーツを付けて、スチームをかけながら糸についた編み癖を伸ばす作業。スチームをかけた糸をさらに巻き取っていく
スチームをかける前の縮れた糸(右)と、真っ直ぐになって巻き取られた糸(左)

毛糸の機能性と編み物の魅力を再認識する作業

――ニットを解いてもう一度作り直すというのは元々よく行われることなのでしょうか?

小梶 昔はニットが工業的なものではなく家庭で作るのが当たり前で、かつ毛糸も安価ではなかったので、作り直すということが合理的だったんでしょうね。ウールはやっぱりすごい素材で、こうやってスチームをかければかなり元の状態に復活するし、土にも還すことができる。僕らの製品は古い糸を使っているので多少細くなっていても、新しい糸を足して作っているので、既成の毛糸で作るものと、機能としてはほとんど遜色のないものができあがってきています。

――元のニットはどこで調達しているんですか?

小梶 今はフリーマーケットなどで探してきています。今回はドネーションも募っていて、意外とみなさん持ってきてくれるんです。お礼に、このワークショップに参加してくれた証としてオリジナルのバッジと交換しています。お客さんの中には親子で来てくださった方もいて、お子さんが2~3歳の頃にお母さんが編んだセーターを、今11歳になったその子と一緒に解いていかれました。 

――昨今マテリアルをどうリサイクルするかという議論が多い中、ニットを解いて編み直すという一番原始的な方法をあえてやるのは面白いですね。

小梶 新しいものが効率よく作れる今の時代では、工業的にも商業的にもやる必要のないことですし、ある意味ではとても牧歌的で、家庭的な側面でしか語られないような営みです。ただ僕らのようにものを作ったりデザインを考える人間にとっては、とても興味深いアプローチでした。最初にこの機械や道具を見たとき、いろんな人に見て知ってもらったほうがいいことなんじゃないかと思いましたね。あとこの作業は話しながらできることも魅力的です。同じ作業の繰り返しなので、慣れてくるとみんなでコミュニケーションを取りながら、時間があっという間に過ぎていくんです。

――デザインはどなたがやっているんですか?

沖 裕希(以下、沖) ニットのデザインは僕がやっています。僕は今もいろんなブランドのお仕事をさせてもらっているのですが、もちろん現代の工業糸はとてもいいものが多いです。ただ古い糸はそれとはまた違う良さがあります。僕らがやっていることは単純なアップサイクルのように思われがちですが、古着のニットというのは素材としても優れている部分があります。使い込まれることで油が抜けて、すごく太い糸なのに軽かったり、均一に染まっていないところが実は新しい糸ではなかなか出せないことだったりします。工業的な糸は素材としてはいいけれど、均一化されていて整いすぎている面もある。古い糸はもっとキャラクターがあって、編んだときにものとしての奥行きが出るんですよね。

上:ニットのスワッチ。中:販売しているニット。下:バッグやマフラーなどの小物もある

――どこで販売しているんですか?

小梶 基本はオンラインですが、こういうイベントの時は実際に見ながら買うことができます。生産のプロセスや活動のことを思うと、展示会を開催し卸をするというのは難しいのかもしれません。将来的には自分たちで場所を設けて、ユーザーとも対面でコミュニケーションを取りながら販売もするというのが理想です。

――タグがとっても可愛いですね。

沖 一つひとつ製品には、古い糸が全体で何%使われているかを品質表示に記載していて、実際に使った糸を付属させたポストカードもお渡ししています。

上・下:製品タグと毛糸が付属したセーターの写真
商品に使わなかった糸は、毛糸玉としても販売している

取材を終えて

アパレル業界での様々な経験を経てユニークな取り組みをしているお二人。工業的に均一化されて作られた洋服とはまた違い、一つひとつのアイテムに個性と深みがあって素敵なニットたち。ものづくりの過程もまた独自のコミュニティを作りながら出来上がっていく様がとても面白く、いわゆるファッションのサイクルとは違う洋服の新たな側面が見える取り組みで、今後も引き続き追いかけたいと思い

TALK NONSENSE (トーク・ノンセンス)
2024年東京を拠点に小梶真吾、沖裕希によって設立されたデザイン/リサーチチーム。衣服を《作ること》《着ること》の周辺に介在する、身体性、労働、風土、物語、技術、制度など、さまざまな状況を改めて捉え直しながら、分野横断的にプロジェクトを展開し、リサーチを通して実践的なアプローチと製品開発へとつなげている。

YAUまちなか公募 vol.2 TALK NONSENSE《都市を編み直す》
プログラムの詳細はこちら 

木村舞子さんの過去の連載記事はこちら
第1回目:エドウイン
第2回目:ユニオン ランチ
第3回目:ウメダ
第4回目:マルチョウ
第5回目:オーメ
第6回目:フィルメランジェ
第7回目:スハー
第9回目:森銀

Share :
  • URLをコピーしました

Ranking ウィークリーランキング (2026.03.23〜03.30)

Instagram Follow us
新しい生活に向けてリフレッシュ&リスタート!「宅配PASSTO」を試してみた

新しい生活に向けてリフレッシュ&リスタート!「宅配PASSTO」を試してみた