朝7時の新幹線に乗って、南相馬へ。東京から仙台経由で3時間、福島県南相馬市にある原ノ町駅に到着した。そこから車で20分、みさき未来農園の運営する「ブルーベリーパークぴぽぱ」がコットン収穫体験の集合場所だ。
出迎えてくれたのは、お揃いのつなぎがとてもお似合いなみさき未来農園の渡邊大将さんと渡邊春香さん。既に地域の家族づれが来ていて、よちよち歩きの子も参加している。
「今日はみんなの服がどうやってつくられているか。感じてもらえたらと思います」大将さんの挨拶にはじまり、早速移動。コットン畑までは徒歩で10分ほどだ。

歩いていると、空が広い。
このあたりは3.11の時に津波が押し寄せ、一度は海になった。小高区全体では約13,000人だった人口は3,400人*1にまで減り、この井田川地区で約80戸あった農家は0軒になったという。
震災前からこの地域で専業農家を続けていた三浦広志さんは、震災後、再びこの地に戻り、広大な土地を開墾することにした。しかし、塩害がひどく、10年間はどんな作物を植えても育たなかったという。そんな時に出会ったのが、塩を吸収し、弱った土を少しずつ再生してくれるコットンだった。希望を託して植え付けたそのコットンは、見事に根づき、今年で収穫3年目を迎えた。
「ここには何もないから、何でも挑戦できるんです」
三浦さんはそう明るく笑う。今では、平らな田んぼの形が作り直され、仮水路を作り水を入れられるようにして有機米や農薬・化学肥料不使用米を育てられるようになった。一家で切り盛りしているとは思えないほど農地は広いが、重機を取り入れるなど工夫を重ね、無理なく続けていける農業を目指している。
そして念願の収穫タイム!
弾けたワタを引っ張ると、こんなにあったの!とびっくりする量がするすると引き出され、きれいにすべてが取れる、これは気持ちいい。

ここで収穫されたコットンは、福島のオーガニックコットンを使ったシャツやスウェット作りに挑戦する「M.INAMI」の一着一着に織り込まれる。
昨年には、福島県いわき市出身で「味を醸すふくしまPR大使」を務める松井愛莉さんが、種まきと収穫の体験に訪れ、実際にそのコットンが使われたシャツやスウェットに袖を通した。
この「M.INAMI」の服づくりを担うのが、ビスポークシャツ職人である南祐太さん。
南さんは「福島の地で育ったコットンを、福島の手で形にしたい」という思いを軸に、このプロジェクトを続けている。
今回、新たに制作されたのは光沢のあるグリーンが印象的なキルティングジャケット。
その内綿には、福島で栽培された和綿のみを100%使用している。実はこの和綿も、もともと震災後、津波をかぶった土地の「潮抜き」のために農家さんが栽培を始めた特別なコットンだ。
当初、和綿は糸にするのが難しいため、約300kgもの原綿が行き場を失っていたところを、農家さんの「できれば福島で100%使い切りたい」という願いを叶えるため、南さんは職人さんと知恵を絞り、この和綿を丸ごと「中綿」として使うユニークな方法を編み出した。

パーソナルオーダーのため袖や丈の長さも調整可能。薄手で軽いのに、着てみるとしっかりとした温かみが感じられる。受注イベントは、M.INAMIまたはMINAMI SHIRTSのInstagramにて告知
コットン収穫の後は、地元の食材をふんだんに使ったランチをいただいた。
みさき未来農園の有機米コシヒカリはしっかり粒感を感じ、塩に引き立てられた甘さが口に広がる。他にもオーガニック里芋を使った郷土料理の芋煮汁、野菜のロースト、ハンバーグ、かき揚げなど、料理担当のお二人が2日かけて仕込まれたごはんをお腹いっぱい食べさせていただいた。



午後は、南相馬から少し南にある浪江町の、木造の仮設住宅を移設して再利用したスペースSTUDIO B-6でコーヒーをいただいた。B-6という名称は、仮設住宅だった頃の棟名をそのまま使っているとのこと。建築士のオーナーさんは店の片隅で、木彫りの熊の模型を3Dプリンターでカラフルに出力している。その姿を見て、なんだかほっこり。
B-6では定期的に本屋「コウド舎」も開かれており、喫茶と読書を楽しめる。DJを招いた音楽イベントなども開催されており、憩いの場となっているよう。

夜は、再び小高へ。
地域おこし協力隊の方が今年オープンした「ぶくぶく醸造」は、醸造所が隣接した立ち飲みバー。醸造所で仕込んでいるどぶろくをはじめ、有機米を使用した日本酒や海外のナチュラルワインや福島のクラフトビールまで揃っている。
1人だったのでとても緊張していたが、店内は常連さんや旅行で来た人など大賑わい。楽しく話しているうちにあっという間に6時間経っていた。

コットン畑からはじまり、地域の農産物を食し、そして町や地域の歴史を学ぶという、なかなか味わえない体験。みさき未来農園でのコットンの種まきと収穫は、誰でも参加できる。
次回は6月に予定されている種まきだ。ブルーベリー収穫の時期と重なるので、ブルーベリーパークぴぽぱで採れたてのブルーベリーを楽しむこともできる!
種まき告知は、みさき未来農園のインスタをチェック
https://www.instagram.com/misakimirai.w
また、みんな電力と契約し、応援する発電所をみさき太陽光発電所に指定すると、月の電気料金のうち100円を応援金として送ることができる。ソーラーパネルに込められた復興への想いは以下の発電者詳細から。
*1出典:南相馬市【住民基本台帳人口】(令和7年10月31日現在)
