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ファッション|2025.10.27

ウールがワインに生まれ変わる。那須塩原のぶどう畑でファッションの循環を体験してみた

「ウールで世界のアパレルを変える」を掲げるブランド「PIZZA DAY」。 高品質なメリノウールのTシャツやアンダーウェアを展開し、捨てられてしまうウールを活用した有機肥料でワインをつくる「循環」に挑戦している。そのサーキュラープロジェクトが那須塩原でスタートしたということで、ぶどう畑の体験ツアーに参加した。五感で楽しむ“めぐる旅”の魅力とは?

 

原稿:浦田庸子

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ウールTシャツとワインと那須塩原の旅。3つを繋ぐものは?

ウールのTシャツを購入すると、1年後にワインが届き、ぶどうの収穫体験や那須塩原の観光スポットでの特典もついてくる――そんなさまざまな魅力が体験できるのが「ウールとワインと那須塩原のWA!」だ。ファッションも食も旅も、楽しみが詰まったこのプロジェクトは、どう誕生したのか?

ウールTシャツを作るPIZZA DAYは「服を土に還し、廃棄ゼロを実現すること」をミッションに、未来のアパレルの形を今日から実践するブランドだ。捨てられてしまうウールを元に有機肥料をつくり、ぶどうを育てワインにする。ゆくゆくは生産工程で出る端材や着古したTシャツも肥料として土に還し、ファッションロスのない世界を目指している。日本では1年に24億枚の服が捨てられていて(*1)、世界では毎秒トラック1台分の服が捨てられていることを考えると、循環の輪をつなげることがどれだけ急務なのかわかる。

パートナーは「サーキュラーエコノミー」を推進する那須塩原市

「ウールからワイン」のユニークな輪の舞台となるのが、栃木県の那須塩原市だ。全国屈指の温泉郷で豊かな自然に恵まれ、近年は「ワイン特区」に認定されたことでワイン産地としても注目されている。その那須塩原市とのコラボで誕生した「めぐりのWA!セット」は、ウールTシャツと、廃棄ウール由来の肥料で育てたぶどうから作られるワインのセット商品。ワインは2026年夏に完成するため購入時にはデジタル引換券が渡され、この引換券は市内の観光地で「デジタルパス」としても使える。

環境政策を推進する那須塩原市には、全国でも珍しい課名のサーキュラーエコノミー課がある。課長の小野治夫さんは「ウールからワイン」の発想を聞いて最初は驚いたという。
「でも循環を楽しく体験してもらう仕組みとして、これは面白いと思いました。那須塩原市では2023年に『2050サステナブルビジョン那須塩原~環境戦略実行宣言~』を公表しました。『カーボンニュートラル』の視点から始まった環境施策は、これを契機に『ネイチャーポジティブ』『サーキュラエコノミー』へとターゲットを広げていき、今に至ります。サーキュラーエコノミーの施策はゴミの分別や処理から始まったのですが、もっとポジティブに面白く資源循環を考えたいと思っていたときに、PIZZA DAYの企画に出会ったんです」

ちょうど2020年に「ワイン特区」の認定を受けたことで小規模なワインの作り手も増え、ぶどう畑をめぐるガストロノミーツアーなども行われていた。ワインや食を目指して訪れる人がおのずと資源循環に関わる仕組みとして、「那須塩原のWA!」プロジェクトがぴったりマッチしたというわけだ。

那須塩原のぶどう園で使われている肥料は、他県で育てられている羊の毛刈りで生まれた廃棄羊毛から作られていているが、小野さんは「地域の外も含めて循環することに意義がある」という。
「各地の廃棄ウールで作られた肥料で、那須塩原のぶどうが育って、県外から訪れる人たちが畑に行ってワインを楽しむ。観光客や移住者などさまざまな人が関わって、離れていた点と点が繋がることで、循環の輪が広がっていくのだと思います」

畑での収穫や試飲を楽しむ「めぐるWA! 体験プログラム」

ぶどうの収穫期を迎えた10月中旬、購入者が参加する「めぐるWA!」体験プログラムが開催された。この日、那須塩原駅に集合したツアー参加者が最初に向かったのは「那須塩原市図書館 みるる」。建築スタジオ「UAo」の伊藤麻理さんが手がけた話題のコミュニティ型図書館だ。ここでまずPIZZA DAYのTシャツに欠かせないウールについて、そしてファッション業界が抱える問題についてニッケが展開する「ウールラボ」で学ぶ。「ニッケ」は明治29年創業の日本最大級のウールメーカーで、ウールの魅力やサステナブルファッションの啓発活動のほか、ぶどう畑で使われるウール由来の肥料のプロデュースもしている。

羊の体を守るウールにはさまざまな機能があり、空気をたっぷり含んだ繊維は寒いときは暖かく、暑いときは湿度を逃がし、さらに消臭、撥水、シワ防止、染色したときの色もちのよさなどいいことづくめ。何千年にもわたって人間の暮らしを守ってきた頼れる素材なのだ。

ちなみにすべての羊は春に毛刈りをしなければならず、メリノ種なら1回で5キロの羊毛がとれる。何千年もかけて家畜化されてきたため自然と毛が抜け替わることはなく、一匹残らず人の手で刈り取る必要があるのだ。これは観光農園なども同じで、刈り取った大量のウールが廃棄されていたが、その一部を「ニッケ」によるプロデュースのもと再資源化しているという。

「ウールラボ」ではふわふわの羊毛から糸を撚る「糸紡ぎ」体験をはじめ、生地に水を垂らしての撥水実験、アンモニアを吸い込ませての消臭実験、スチームでどれだけシワが伸びるかなど、身近なウール素材のパワーを知ることができる。

またラボでは、ファッション業界の抱える問題も紹介。石油由来の化学繊維によるマイクロプラスチックが自然環境や、私たち人間も含めた生態系への悪影響を与えていること。また日本では1年で15億着の新品の服が廃棄されていることを紹介し、「環境や働く人に配慮して作られた1着を、長く着ることがサステナブルファッション」というメッセージに参加者全員が頷いた。

お待ちかねのぶどう収穫&ワインテイスティング

那須塩原市の板室地区にある「石井ぶどう」代表の石井晶さん。

「道の駅 明治の森・黒磯」でランチと買い物を楽しんだ後、午後はお待ちかねのぶどう畑での収穫へ。ウールの肥料を使っている「石井ぶどう」で、オーナーの石井晶さんが出迎えてくれた。

石井さんは埼玉から移住し、2016年に那須塩原の板室地区にある畑でぶどう栽培を始めた。かつて桑畑だったという休耕地に苗を植え、独学で栽培を学び、現在はマスカットベーリーA、シャルドネ、ピノノワールなどのぶどうを育てている。石井ぶどうの「JAJAUMA」「itamuronu(イタムローニュ)」の2種類のワインは、販売するとすぐに売り切れてしまうものもあるほど評判だ。

ワインづくりのドキュメンタリーを見て、この世界に飛び込んだという石井さんは、自分のワイナリーを持つという夢に向けて一歩一歩進んでいる。

「ウールが土に還りワインに生まれ変わる、という発想が面白いなと思って。限りある資源を使って私たちが生きていくために、一次産業である農業に何ができるだろう?と考えて、プロジェクトに参加させてもらいました。今回夏に肥料をまいて初めての収穫ですが、来年、再来年と変化が楽しみですね」

マスカットベーリーAを収穫。

肥料が使われているのはマスカットベーリーAの畑で、「めぐりのWA!」セットの購入者には、このぶどうを使った「JAJAUMA」ワインが2026年夏に届く。参加者もそれぞれハサミを手に、収穫を体験した。ウールの恵みで育ったこのぶどうが、今からワインになり、来年手もとに届く――そう思うとワインへの思いもひとしお、待つ時間も楽しみになる。

収穫を終えたらバスに乗り込み、畑から5分ほどのゲストハウスLeu.へ。全員で「JAJAUMA」「itamuronu」の4種のワインと、採れたてのぶどうを味わった。石井ぶどうのワインはどれも、フレッシュな果実味がありのど越し爽やか。なんとJAJAUMAのエチケットは石井さんの妻の亜由子さんが、itamuronuはお兄さんの協力で描いているという(どちらもジャケ買いしたくなる可愛さ!)。収穫したぶどうでできる来年のワインは、さてどんな味になるのか? ウールと、人と、那須塩原の自然がめぐるワインの完成を楽しみに待ちたい。

PIZZA DAY「ウールとワインと那須塩原のWA!」
https://www.pizzaday.world/products/nasushiobara

石井ぶどう
https://www.instagram.com/itamurogne/?hl=ja


*1 環境省「2024年版衣類のマテリアルフロー」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/materialflow_reiwa6.pdf

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