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エバンズ亜莉沙 / Alisa Evans
1994年生まれ。第二の故郷・米国オレゴンでの生活と地球一周の旅を経て、2015年より人と地球にやさしい暮らしをライフワークに。イベント企画やブランドPR、MC、モデルなど多岐にわたり活動。NHK WORLD「Ethical Every Day」番組MC、ドキュメンタリー映画「森を織る。」のディレクター・主演も務める。ELLEスタイルインサイダー、 Coachtopiaコミュニティメンバー 他。
カプセルワードローブとは?ミニマルに暮らすための服の選び方
カプセルワードローブとは、厳選された少ないアイテムで最大限の着回しを楽しむ、シンプルで効率的なワードローブのスタイルだ。流行に左右されないベーシックな服を中心に、自分に必要なものだけを厳選することで、毎日のコーディネートがスムーズに。忙しい朝の支度が楽になり、無駄な買い物も減るなど、暮らし全体が整っていく。
お気に入りだけに囲まれる心地よさ、選択のストレスから解放される自由——カプセルワードローブは、そんな現代のライフスタイルに寄り添う、新しいファッションのかたちだ。
未来を想像して服を選ぶ。エバンズさんが実践する、ワードローブとの向き合い方
実用性とファッション性、そして地球へのやさしさを自然に兼ね備えたスタイルが印象的なエバンズさん。
そのもの選びの背景には、どのような気づきや体験があったのだろうか?
日々の服選びで大切にしている基準や、ワードローブとの向き合い方について話を伺った。
—— 今のようなスタイルは、どんな経験から生まれたのでしょうか?
きっかけは高校生の頃に受けた、アメリカ・オレゴン州での環境科学の授業でした。児童労働や環境破壊といった問題が、遠い国の話ではなく、自分たちの生活と密接につながっていると知って衝撃を受けたんです。日々手に取る服や食べ物が、誰かの暮らしや環境に影響しているかもしれない。その事実を知ったとき、「知らずに加担していたことも、選び直すことで変えられるかもしれない」と感じました。
そこからフェアトレードやエシカルな消費に関心を持ち、洋服だけでなく食べ物や日用品の選び方も少しずつ変えていくようになりました。
—— 現在はエシカルコーディネーターとしてもご活躍されていますが、社会人になってから価値観に変化はありましたか?
大きな軸は変わっていませんが、視点は少しずつ広がってきたと思います。ずっと大切にしているのは、ガンジーの言葉「Be the change you wish to see in the world.(あなたが見たいと願う世界に、あなた自身がなりなさい)」。人権が守られ、環境が汚されない世界に近づけるように、自分の選択を通じて少しでも貢献していきたいと考えています。
そして、2年半ほど前に京都に移住してから、ものの見方がさらに変わりました。環境負荷を減らすために古着やリサイクル素材を選ぶのも大切ですが、それだけが正解ではないと感じるようになりました。草木染めや天然素材など、日本に根付く伝統的なものづくりを応援することも、エシカルな選択のひとつだと考えるようになったんです。

—— そんなエバンズさんが実際に洋服を選ぶ際、大切にしている軸やこだわりはありますか?
まず前提として、環境や人権への配慮は常に意識しています。そのうえで、自分のスタイルに合うか、服の背景にあるストーリーに共感できるかどうかを大切にしています。服はただ身につけるものでなく、その背景ごとまとうもの。だからこそ、自分の価値観と一致しているかは欠かせないポイントです。
あとは、体型や肌の色に合うか、長く着られるか、素材が心地よいかも確認します。アウトドア用なら速乾性などの機能面にも目を向けて、シーンに応じた素材選びを心がけています。
—— 素材の着心地や背景のストーリーまで含めて選ばれているのが印象的です。白いシャツを選ぶときにも、独自のルールがあるそうですね。
私は「天然素材なら白を選んでOK」というルールを持っています。白はどうしても汚れやすいですが、コットンやリネンなら草木染めで染め直せるので、安心して選べるんです。
今回ご紹介しているシャツはリサイクルポリエステル製ですが、最近は合成繊維でも染め直せる方法があると知って取り入れました。服を迎えるときは「汚れたらどうする?」「着なくなったらどうする?」と、先のことまで考えるようにしています。
—— 新しいアイテムを迎える際、手持ちとのバランスはどうされていますか?
まずは、すでに持っているアイテムとの相性を確認します。似たようなものを持っていないか、どんな場面で使えそうか、どれくらい長く着られるか…。そうしたことを考えてから迎えるようにしています。
おしゃれとエシカルの両立について悩む方も多いと思いますが、今は10年前に比べて本当に選択肢が増えました。サステナブルなものづくりをしているブランドも多く、自分のスタイルに合う服を選びやすい時代だと思います。
たとえば、Shift Cのようなメディアを通じて、自分の価値観やデザインに共感できるブランドを見つけることもできますし、SNSのDMやポップアップなどを通じて作り手と直接つながれる機会も増えています。まさに「声を届けやすい時代」になったと感じますね。
—— 選択肢が増える一方で、「何がサステナブルなのか分からない」と迷う人も多いですよね。その点についてはどう感じていますか?
その気持ち、とても分かります。「結局サステナブルって何?」と悩む方も少なくありません。だからこそ、自分なりの基準を持つことが大切だと思います。最近は「B Corp」やフェアトレードといった信頼できる認証マークも増えているので、すべてを調べ尽くすのは難しくても、そうした指標をひとつの目安にするのは有効だと思います。
エバンズさんの日々の選択を軽やかにする、12のアイテム
ここでは、エバンズさんが日々愛用している12のアイテムをご紹介。
京都に拠点を移してからは、地元で丁寧にものづくりを続ける人々と出会う機会が増え、自然と暮らしに取り入れるアイテムにも変化が生まれたそう。
機能性や心地よさを備えたアイテムは、日常の気分や選択そのものを軽やかにしてくれる。そんなエバンズさんのセレクトには、私たちが服や持ち物とどう向き合うかを見つめ直す、小さなヒントが隠れている。
ハンドバッグ / Coachtopia

「Coachtopia(コーチトピア)」は、ラグジュアリーブランド「COACH(コーチ)」が立ち上げたサステナブルライン。サーキュラリティ(循環)を軸に、製造過程で出た端材を再活用し、アップサイクルされたバッグなどを展開している。エバンズさんが愛用しているのは、端材のレザーを組み合わせたパッチワークデザインの小さなハンドバッグ。
「同じ素材が常にあるわけではないので、一点ごとに表情が違うのも魅力。私のバッグは、パッチワークの色合いがすごく可愛くて気に入っています。必要最低限のものが入るコンパクトなサイズ感もちょうどよくて、お出かけの相棒のような存在です」(エバンズさん)
また、製品にはNFCチップ入りのタグがついており、スマホをかざすと素材情報や環境負荷が可視化される仕組み。不要になった際はブランドが回収し、リペアやリメイクを経て、第2の人生を歩む過程も追うことができる。
ベアトップ / RIMMBA

バリ島で出会ったブランド「RIMMBA(リンバ)」のベアトップは、現地の植物を使った草木染めでつくられた一着。絞り染めによる藍の表情が美しく、エバンズさん自身もワークショップに参加したそう。
「草木染めって地味なイメージを持たれがちですが、リンバの服はすごくカラフルで可愛いんです。伝統的な染色技法に、今っぽいシルエットやデザインを掛け合わせているところにも惹かれました」(エバンズさん)
デニムパンツ / STUDIO R330

モデル・ローラが手がける「STUDIO R330(スタジオアールサーティスリー)」は、環境再生型農業によるリジェネラティブ・コットンを使用したサステナブルなブランド。デニムの製造過程では、通常約80Lの水を使用するところ、こちらは15Lにまで抑え、さらにその98%を再利用しているという。
「ブルーデニムは私にとって制服のような存在。少し丈が長かったので、京都にあるリメイク工房で裾上げしてもらいました。着心地も良く、着回しもしやすくて、大切に履き続けたい一本です」(エバンズさん)
カーディガン / SEZANE(セザンヌ)

フランス発のブランド「SEZANE(セザンヌ)」は、B Corp認証を取得しており、エシカルなものづくりにも定評がある。エバンズさんが紹介してくれたのは、天然素材で仕立てられたヴィンテージブルーのニットカーディガン。
「カーディガンはどんなワードローブにも欠かせないアイテムだからこそ、長く大切にできるものを選びたい。アクリルなどの化繊よりも、天然素材の方が温かさや肌ざわりが全然違うと実感しています。祖母から譲り受けたニット用のブラシで、定期的にお手入れしています」(エバンズさん)
リネンパンツ / MITTAN(ミッタン)

京都発の「MITTAN(ミッタン)」は、天然素材と天然染料にこだわった服づくりを続けており、購入後の修繕や買取の仕組みまで含めたサステナブルな提案が特徴。たとえ穴が空いたり汚れたりしても、販売価格の約20%で必ず買い取ってくれるなど、廃棄を最小限に抑える仕組みが整っているそう。
「このワイドパンツは、履くほどにやわらかくなっていく感覚があって、育てるように着れるところが気に入っています。服としての心地よさはもちろん、こういう信頼できる思想を持ったブランドの服こそ、長く付き合いたいなと思います」(エバンズさん)
ジュエリー / Run Rabbit Run Vintage, ANANDA SOUL

ロケットタイプのヴィンテージネックレスは、東京・中目黒の「Run Rabbit Run Vintage」で出会ったもの。一目で「これは自分の“お守り”になる」と感じ、毎日身につけているそう。
丸みを帯びたリングは祖母から譲り受けたもの。物語のあるアイテムを身につけることで「自分の一部のように感じられる」と語る。
また、バリ島で出会った「ANANDA SOUL」のピアスとリングも愛用品。リサイクルシルバーやエシカルに採掘された天然石を用い、ストリートチルドレンの母親たちを雇用し、安定した仕事と収入を提供しているエシカルブランドだ。
「新品のジュエリーを買ったのは、これが初めてでした。社会課題に向き合いながら心を込めてものづくりをする姿勢に惹かれました」(エバンズさん)
リサイクルナイロンシャツ / ECOALF(エコアルフ)

「ECOALF(エコアルフ)」(Shift C評価:良い)のリサイクルナイロンシャツは、ベーシックな白シャツながら、襟や袖にほどよい個性があり、さらりとした着心地。夏の日差し対策としても重宝しているそう。
「このシャツは、機能性とデザイン性のバランスが絶妙で惹かれました。ECOALFは海洋ゴミを回収して再資源化するなど、捨てられるはずだったものに新たな価値を与える取り組みをしていて、その姿勢にとても共感しています」(エバンズさん)
オーガニックコットンの長袖Tシャツ / SISIFILLE(シシフィーユ)

「肌に近いものこそ、オーガニックがいい」という想いから選んだのが、「SISIFILLE(シシフィーユ)」の長袖Tシャツ。オーガニックコットンの吸水ショーツやナプキンなどを展開するシーフィルの肌着ラインのひとつで、とろけるような柔らかな肌触りが魅力。
「購入時は白だったのですが、手持ちの服とのバランスを考えて、後日 『MORI WO ORU(森を織る)』の工房で草木染めをしてもらいました。自分の手をかけることで、さらに愛着が湧く一枚になりました」(エバンズさん)
シューズ / VivoBarefoot(ビボベアフット), indosole(インドソール)

イギリス発のシューズブランド「VivoBarefoot(ビボベアフット)」は、「裸足のような感覚で歩ける靴」をコンセプトを掲げ、足本来の機能を取り戻し、足元から健康を育むことを目指している。エバンズさんが愛用するのは、足袋のように足の形が現れるシルエットのスニーカー。
「ミニマルな設計と薄いソールが、足裏の感覚をダイレクトに伝えてくれるんです。指がしっかり開く心地よさもお気に入りです。街を歩いていると『どこの靴?』と聞かれることも多いですね。スニーカーってカジュアルになりがちですが、これはモードな印象もあり、スタイリングの幅を広げてくれる一足です」(エバンズさん)
もう一足、夏に活躍しているのが「indosole(インドソール)」のスライドサンダル。使用済みのタイヤをアップサイクルして作られており、厚みのあるソールとクッション性が特徴。
「ビーチサンダルだけどしっかりしていて、エシカルな視点と、実用性・ファッション性のバランスがとれてるところがとても気に入っています」(エバンズさん)
リネンジャケット&パンツ/ シサム工房

「シサム工房」(Shift C評価:良い)は、1999年からフェアトレードを実践してきた京都発のブランド。洋服だけでなく、雑貨やインテリアなども展開しており、すべての商品がフェアトレードに基づいて生産されている。エバンズさんが愛用するのは、千鳥格子の手織り生地で仕立てられたジャケットとパンツのセットアップ。
「上下セットで着るとフォーマルな場にも使えるし、別々にコーディネートすればカジュアルにも楽しめて、着回しがとても効きます。HPでは、織りの工程や現地の作り手さんの様子も紹介されていて。背景を知ると、より一層大切に着たいという気持ちが強くなりますね」(エバンズさん)
心地よさとスタイルを両立する、等身大のコーディネート
エバンズさんのスタイルは、機能性とデザイン性を兼ね備えながらも、どこか自然体。
日常に寄り添うアイテム選びの積み重ねが、彼女らしいバランスの取れたコーディネートを生み出している。
ここでは、シーンを選ばず活躍する2つのコーディネートをご紹介。
エレガントさとリラックス感を両立する、ベアトップコーデ


白シャツを羽織り、黒のベアトップで引き締めたスタイルは、シンプルながらも女性らしさと快適さが同居するコーディネート。ヴィンテージ調のグレーパンツを合わせることで、都会的で落ち着いた印象に。服づくりの端材を草木染めで仕上げた「LINDA」のシュシュは、ナチュラルな彩りがコーディネートのアクセントに。
ベアトップ / Flow「Flow(フロー)」(Shift C評価:良い)のオーガニックコットン製ベアトップは、サイドにさりげないスリットが入っており、エレガントにもカジュアルにも活躍。肌に直接触れるからこそ、安心できる素材を選んだ一枚。
シンプルを楽しむ、デニム×カーディガンの王道スタイル


体に自然にフィットする「STUDIO R330」のデニムに、「SEZANE」の柔らかな質感のカーディガンを合わせたミニマルなスタイリング。飾らない組み合わせながらも、着心地のよさと上質さが際立つ。
「草木染めをしたSISIFILLEの長袖Tは肌触りがとてもいいので、インナー代わりにしています。着心地がよくシンプルなコーディネートは、リラックスした1日を過ごせるのでついリピートしてしまいます。それぞれのアイテムが着回ししやすいので、季節や流行に左右されず長く楽しめるのが魅力です」(エバンズさん)
選び抜いた服とともに整う、心と暮らし
「カジュアルになりすぎず、フォーマルになりすぎない」——そのちょうどいいバランスが、エバンズさんのスタイルの軸だ。ユニセックスなワイドパンツに女性らしいベアトップを合わせたり、シンプルな色味に小物で彩りを添えたり。日々のスタイリングには、心地よさと自分らしさを両立させる工夫が見える。
そして、今回紹介いただいたアイテムのどれもが、背景や作り手に共感し、丁寧に選ばれたものばかり。数が多くなくても、自分にとって意味のある服に囲まれていることで、暮らしそのものが整っていく。
エバンズさんのスタイルをヒントに、あなた自身の「心地よさ」と「大切にしたい価値観」に合うアイテムを選び、毎日の暮らしに取り入れてみてほしい。