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ストーリー|2025.03.05

温室効果ガス排出と有害物質についての報告を義務化。カリフォルニア州が新たなファッション法案を提出

アメリカ、カリフォルニア州で2025年2月にファッション環境責任法案が提出された。第二期トランプ政権のスタートで環境政策の後退が危惧されるなか、全米各州を先駆けた事例となるのか、注目が集まる。

原稿:白石 綾 写真:Pexels

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スコープ1~3のGHG排出量の公開を段階的に義務化

ファッション環境責任法(Fashion Environmental Accountability Act)は、カリフォルニア州で事業を行う大手ファッション企業に対し、環境デューデリジェンス(環境リスクの特定と対策)を義務付けるものだ。

両議会で可決されたのち州知事により署名されれば、年間総収益が10億ドル(約1500億円)を超える企業には、毎年、自社による直接排出となるスコープ1(*1)と自社が他社供給により間接排出するスコープ2における温室効果ガス排出量を公開することが義務付けられる。さらに2027年以降は、原材料仕入れや販売後といったスコープ3の温室効果ガス排出量の開示も求められることになる。加えて、有害化学物質の影響に対する責任も問われることになり、ファッション業界の環境負荷低減を促す内容となっている。

同法案の主要ポイントは以下の通り。

ファッションブランドは、以下を含む環境デュー・ディリジェンスを実施しなければならない。

  • 責任ある事業活動を方針および管理システムに組み込む
  • 事業活動およびサプライチェーンにおける重大な社会的・環境的リスクを特定する
  • これらのリスクの潜在的・実際の悪影響を評価・優先順位付けする
  • それらのリスクを停止、予防、または軽減する

報告義務および削減目標

  • 2027年7月1日以降、ファッションブランドは「環境デュー・ディリジェンス報告書(Environmental Due Diligence Report)」を毎年有害物質管理局および州大気資源委員会に提出しなければならない
  • 温室効果ガス排出について、スコープ1、2、3の排出量に関する定量的ベースラインを設定し、短期・長期の排出削減目標を策定する必要がある
  • 2028年1月1日までに、ブランドは、すべての主要なティア2の染色、仕上げ、プリント、洗い加工を行うサプライヤーに対し、排水の化学濃度および水使用量のサンプリングと年次報告を義務付け、その情報を環境デュー・ディリジェンス報告書に含めなければならない

罰則および基金の設立

  • 本法に違反した場合、年間収益の最大2%の民事罰金が科され違反に対する対策を講じることが求められる
  • 罰金は「ファッション環境修復基金(Fashion Environmental Remediation Fund)」に充当される
  • 本基金の資金は、議会の承認を経て、本法の施行、および環境被害を受けた地域社会への直接的かつ検証可能な環境修復プロジェクトに使用される

同州ではすでに衣類廃棄問題に取り組む初の州として、ブランドが古着のリサイクル費用を負担する繊維リサイクル法案が施行済みで2026年から適用されるため、ファッション環境責任法はその動きをさらに強化するものとなる。

また、今年1月にロサンゼルスで発生した壊滅的な山火事の際には、緊急支援センターに多くの衣類の寄付が届いたものの、汚れていたり品質が低いなどの理由で配布できないものが大量に集まった。ほとんどの国や地域と同様、現在ロサンゼルスには恒久的な繊維のリサイクルシステムが存在しないため、今回の災害をきっかけに日々の消費・廃棄の習慣の課題や社会システムの課題が浮き彫りになった。このような背景から、気候危機と衣類の大量生産・大量廃棄の問題への関心が一層高まっている。

連邦政府の環境政策後退の動きによって各州の対応が重要に

この法案は、トランプ政権(2期目)の環境政策の後退を受けた動きの一環として提案された。

  • パリ協定からの離脱
  • 国内の化石燃料生産・輸出の拡大
  • 環境保護庁(EPA)の縮小方針

こうした政策の影響で、環境保護に対する州の役割がより重要になっているのだ。

同じ日には、ニューヨーク州議会でもファッション・サステナビリティ&社会的責任法(Fashion Sustainability and Social Accountability Act)が再提出され、議会での審議の機会を得た。この法案は以前のバージョンが採決に至らなかったため、新たな機会となる。

Sourcing Journalの報道によると、この法案の設計に携わったNew Standard Instituteのエグゼクティブ・ディレクター、マキシーヌ・ベダット氏は、「連邦政府が気候対策を後退させる中、州がその役割を担うべき」と述べ、州レベルの取り組みの重要性を強調している。

今回のカリフォルニア州のファッション環境責任法は、2022年に初めて提案されたニューヨーク・ファッション法(New York Fashion Act)と同様の方向性を持っている。そのためニューヨークのファッション法を支持してきたブランドも、この法案に賛同している。
支持ブランドには、ステラ・マッカートニーパタゴニアEileen FisherEverlaneGanniなどが名を連ねている。

世界第5位の経済規模(*2)を誇るカリフォルニア州は、すでに施行されている繊維リサイクル法案にも示されているように、環境政策において全米をリードする立場にある。今回のファッション環境責任法も、他州に比べて可決される可能性は高いものの、企業からの反対や政治的な反発により修正が加えられることも大いに予想される。それでも、可決されれば他州へと波及し、アメリカのファッション業界の今後の動向に大きな影響を与えるだろう。

(*1) 知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは(経済産業省 資源エネルギー庁)
(*2)California Remains the World’s 5th Largest Economy (カリフォルニア州公式ウェブサイト)

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Stories behind 代表/鎌倉サステナビリティ研究所 スタッフ
白石 綾
アパレルブランドで販売や商品企画に携わる中で業界の課題を実感。イタリア在住をきっかけに、特に環境問題との関係に強い関心を抱く。2020年にMilano Fashion Instituteでサステナブルファッションを学んで以来、強い当事者意識を持ち、業界の問題解決に向けた活動を続けている。

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