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全国から厳選した“染め直し”工房を紹介
それぞれの工房が手がける独自の技術や特徴を知れば、自分に合った染め直し方法が見つかるはず。さらに後半では、自宅で手軽に挑戦できる「珈琲染め」の方法も解説。特別な道具・染料がなくても始められるため、ぜひ試してみてほしい。
“阿波藍”の伝統を受け継ぐ美しい藍「Watanabe’s」
日本有数の藍染の産地、徳島県吉野川流域。この地で、「藍色の全責任を負いたい」という想いのもと、藍の栽培から蒅(すくも)作り、染色、制作までを一貫して行うのが「Watanabe’s」だ。
Watanabe’sでは、藍の栽培中に除草剤や駆虫剤を使用せず、自然の力を活かした農法を採用している。土壌の健康を維持しながら肥沃度を高めることで、生態系を豊かに保ち、病害虫の発生を抑制。さらに、地域の養豚場から提供される完熟堆肥を肥料に使用している。この肥料は金時豚の糞や尿を堆肥化したもので、有効微生物を豊富に含み、藍の生育に最適な環境を作り出している。こうした持続可能な取り組みが、深みのある美しい藍色を生み出しているのだ。
また、Watanabe’sでは、靴下や帽子などの小物類からシャツ、ニット、スニーカーまで、多様な衣服を希望の濃度で染め直すサービスを提供している。季節や混雑状況によって仕上がりまでの期間が異なるため、依頼時には事前の問い合わせがおすすめ。
〈染色の依頼フォーム〉
https://watanabes.jp/pages/contact-dye
染め直しに適した素材は、綿や麻などの植物繊維、絹やウールなどの動物繊維のほか、リヨセル、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維。一方、ナイロンやポリエステルなどの化学繊維は染まりにくいため注意が必要。また、絹は褪色しやすい場合があるため、事前の確認を忘れずに。
さらに、徳島の工房では藍染体験も楽しめる。藍が青に生まれ変わるまでの工程を学びながら、自分だけの藍染アイテムを作ることができる貴重な機会。興味のある人はぜひ体験してみてほしい。
〈工房での染色体験〉
https://watanabes.jp/pages/dyeing_experience
“より黒く、美しく、色落ちしない黒”を追求してきた「京都紋付」
1915年の創業以来、京都を拠点に染め屋として“より黒く、美しく、色落ちしない黒”を追求してきた「京都紋付」。その名の通り、染めるのが難しいシルクの紋付を長年にわたり染め続けてきた伝統と技術を誇る。この経験を活かし、綿、麻、ウールといった天然繊維はもちろん、化学繊維にも独自技術の「深黒加工」を施し、深みのある黒染めを実現している。
京都紋付が手がける「REWEARプロジェクト“K”」は、汚れたり色褪せたりした洋服を黒染めによって新たに蘇らせる取り組み。2013年にスタートして以来、国内外の有名ブランドとのコラボレーションや百貨店での展開を通じて、黒染めの魅力を広め続けている。
「REWEARプロジェクト“K”」への申し込みはシンプル。京都紋付の公式HPや提携店のサイトから申し込み、黒染めしたい衣類を送るだけでOK。約1ヶ月半後、美しく深い黒に染め直された衣類が手元に戻ってくる。
黒染めの対象となるのは、天然繊維が50%以上含まれている衣類。シャツやジャケット、コート、デニム、帽子やストールなど、多岐にわたるアイテムの染め替えが可能。
また、染め直した黒は洗濯をしても色落ちしにくく、撥水効果が加わるため、汚れや水分にも強くなるのが特徴。新品同様のソフトな風合いに仕上がるのもうれしいポイント。さらに、ほつれや破れがある場合には、有料で補修サービスも利用可能。
黒染めでは、天然繊維のみが染まるため、プリント部分やステッチなどの化学繊維部分が染まらず浮かび上がる。その結果、元のデザインとは異なる独特の風合いやコントラストが生まれ、黒染めならではの楽しさを感じることができる。
〈京都紋付 REWEARプロジェクト「K」〉
https://www.k-rewear.jp/somekae
新しい色が紡ぐロングライフデザイン「d&RE WEAR(D&DEPARTMENT)」
“ロングライフデザイン”をテーマに、全国各地で持続可能なライフスタイルを提案する「D&DEPARTMENT」が手がける「d&RE WEAR(ディ アンド リウェア)」。お気に入りの服がシミや色褪せで着られなくなっても、染め直しを通じて再び定番アイテムとして生まれ変わらせるプロジェクトだ。
染め直しのカラーは、定番の「黒」「紺」に加え、毎回異なる「シーズンカラー」の3色を年2回(春夏・秋冬)受付けている。また、年1回は、天然染料や独自技法を用いた「特別染」の受付も行われる。ネットショップやD&DEPARTMENTの店舗で申し込みが可能。
〈d&RE WEAR ネット受付〉
https://www.d-department.com/item/REWEAR_INFO.html
染め直し可能な素材は、綿、⿇、テンセル、リヨセルの天然・再生繊維(店舗受付のみレーヨンとシルクも可能)。シャツ・ブラウス、パンツ 、コートなど幅広いアイテムが対象。ただし、表⾯加⼯(撥⽔加⼯やコーティング)が施されたものや裏地付きの衣類、大きなダメージがあるものは対象外。詳細は事前にガイドを確認しよう。
染め直しに出された衣類には、シリアルナンバーが刺繍される。これは管理のためだけでなく、d&RE WEARで蘇ったアイテムである証。特別な一着として、より愛着を持って長く使える工夫が施されている。
次回「2025 AUTUMN WINTER」の受付は3月ごろを予定。この機会に、眠っている洋服を染め直してみてはいかがだろうか。
唯一無二の風合いが楽しめる草木染・藍染「貴久 KIKYU」
「貴久 KIKYU」では、草木染めや藍染、ベンガラ染めといった天然染料を用いた染め直しを行っている。天然染料を使用することで化学物質の使用を最小限に抑え、環境負荷を軽減している。
草木染めでは、印度茜(いんどあかね)・柘榴(ざくろ)・檳榔子(びんろうじ)・五倍子(ごばいし)・矢車附子(やしゃぶし)・印度藍(いんどあい)といった自然由来の6種類の植物を活用。化学染料に比べ、アレルギーリスクを低減しながら、深みのある繊細な色合いを表現している。特に、藍染めと組み合わせて生まれる「憲法黒(けんぽうぐろ)」は、伝統と現代の美しさが調和した特別な色合いだ。
天然染料を使う染め直しでは、同じ方法で染めても仕上がりの色合いが毎回異なるのが特徴。同じ植物を使用しても、気候や染める布の状態によって微妙な変化が生まれ、一点一点が唯一無二の風合いを持つ仕上がりになる。
※天然素材を使用するため、染め上がりにムラが生じる場合や、同じ製品を再購入した際に前回と全く同じ色合いを再現するのが難しいことがあります。この特性をご理解いただき、自然素材ならではの風合いをお楽しみください。 >
染め直しを依頼する際は、草木染めや藍染を含む11色の中から希望の色を選ぶことができる。
ポリエステルやナイロンなど、化学繊維が50%以内の混紡素材であれば染め直しが可能。ただし、化学繊維部分は染まらずに残るため、まだら(杢調)や淡い仕上がりになることもある。これも染め直しが生む独特の味わいと言えるだろう。
さらにKIKYUでは、一度染め直した衣服が色褪せた際、再染め直しを通常の半額で対応してくれるサービスも。大切な衣服を何度も手入れしながら思い出を重ねていけるのが、染め直しの魅力だ。
〈貴久 KIKYU 染め直しについてはこちらから〉
https://someyakikyu.com/somenaoshi/
食糧残渣や産業廃棄物を活かし、新たな価値を生む「福井プレス」
東大阪にある町工場「福井プレス」は、食品残渣や産業廃棄物を染料として再利用する循環型プロジェクト「染食還」を展開している。クリーニング店として3代続いた歴史を持つ同社は、染工場へと転換し、環境負荷を最小限に抑えた染色技術を追求している。
福井プレスでは、地域で廃棄される珈琲粕などの産業廃棄資源を染料として活用。染料として抽出した後の残渣を培土として再利用し、キノコの菌床栽培を実施している。収穫後の廃菌床は再びごみとして廃棄せず、近郊のバイオコークス(人工の薪)にアップサイクルし、地域の生産業者に提供している。この「ごみ→食料→燃料」という循環型サイクルを構築することで、廃棄物の削減と地球資源の保全に貢献している。
福井プレスでは、古着を対象とした染め直しサービス「染め直し屋」も展開している。染め直したいアイテムの素材や種類、色と希望の色などを確認後、問い合わせフォームから連絡すればOK。その後、衣服を送り、簡単な打ち合わせを行えば、2〜3週間で完成する仕組みだ。
綿、麻、レーヨン、キュプラ、リヨセル、シルク、ウール、ナイロンなど多くの素材が染め直し可能。毛皮やファーなどは不可だが、ナイロン素材のダウンは期間限定で染め直しを受付けている。お気に入りのアイテムをカラーチェンジしたり、シミや色褪せを隠したりすることで、愛着のある一着をさらに長く楽しむことができる。
染めに関する注意事項は事前にここから確認しておくとスムーズだろう。
〈問い合わせフォーム〉
https://somenaosiya.jp/contact
色の変化を楽しむ、長く愛せる衣服づくり「Maito Design Works(マイトデザインワークス)」
植物を使った「草木染め」の技法を駆使し、生地や糸、衣服、さらに建築や暮らしに関わるさまざまなものづくりを手がける「Maito Design Works(マイトデザインワークス)」。自然由来のやさしい色合いで、日常に新たな価値を提案している。
草木染めに使われる植物は、福岡や東京周辺で育てられたものから、周囲に自生しているもの、さらには海外から買い付けられるものまで多岐にわたる。また、農家から「売り物にならない作物を活用してほしい」と提供される植物も活用。大量生産ではなく、必要な分だけを使う丁寧なものづくりは、フードロス削減にもつながっている。
草木染めには年月とともに色の後退が見られることがあるが、Maito Design Worksではそれを「色が落ちる」ではなく「変化する」と捉えている。この変化を楽しみ、色が褪せたアイテムに新たな命を吹き込む方法として「染め直し」を提案。上から染め重ねることで新しい色合いが生まれ、ひとつのアイテムをさらに長く楽しむことができるのだ。
そんなMaito Design Worksでは、お気に入りの洋服や色褪せてしまった服を草木染や藍染で染め直すサービスを2025年2月より開始。一点ずつ職人が手染めをし、美しく生まれ変わらせてくれる。
染め直しの申し込みは、Webサイトから可能。染め直すアイテムを「MAITO/真糸 蔵前店」に直接持ち込むか、指定の住所に郵送すればOK。受け取りから3〜6週間で手元に届く仕組みだ。
草木染や藍染で染められるのは、綿・レーヨン・麻・テンセル・絹・キュプラ・カポック・和紙のみ。マイトデザインワークスでは、これら以外の化学繊維や革製品などは受け付けていないため、注意しよう。その他、染めに関する詳しい注意事項は事前に確認しておくことをおすすめする。
染め直しの詳細や最新のお知らせは、公式HPで発信中。
植物の持つ豊かな色を、ぜひ楽しんでみてほしい。
〈マイトデザインワークス 染め直し受付〉
https://maitokomuro.com/redyeing (2025/1/末~2/中頃に公開予定)
自宅で自分でも染め直せる!珈琲粕(コーヒー粕)を活用した染めの方法をご紹介
ここでは、福井プレスさんがShift C読者のためにオリジナルで考案くださった、自宅でも簡単に楽しめる「珈琲染め」の方法をご紹介。
普段の生活で出る珈琲粕を使ったエコでおしゃれな染め方を、ぜひお試してみてほしい。
【必要なもの】
染める布
珈琲粕(布の重さと同量)
成分無調整の豆乳
ミョウバン
【下準備】
布は一度洗濯しておく。
珈琲粕は茶こし袋等に入れ約30分間煮出しておき、染める直前に沸騰するまで温め直す。
【染め方】
①水:豆乳=1:1の割合で液を作り布を浸ける。
②よく絞って、しっかりと乾燥させる。
③珈琲液に10分~30分つけて染める。たまに動かすとムラになりにくい。
④軽く水で洗う。
⑤水1Lに対してミョウバン1.5gを溶かした水に3分つける。
⑥軽く水で洗う。
⑦日陰に干して乾いたら完成。
【注意事項】
・珈琲粕を集める際は腐らないように冷凍する。(或いは乾燥する)
・熱い珈琲を用いるため、やけどには十分注意する。
福井プレスでは、珈琲事業者向けの珈琲染めワークショップ(インストラクター養成講座)を開催中。受講後は、珈琲染めのワークショップを開催できるプロ仕様の内容になっている。
『珈琲染めインストラクター講習会』
所要時間:約2時間半
受講料:6000円/1名 同時申し込み︰2人目〜¥4500/1人)
場所:株式会社福井プレス(大阪府東大阪市西石切町6-3-42)
https://coffeews.hp.peraichi.com