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ファッション|2026.04.14

生地屋の棚に眠っていた布が、夏の一着になるまで。「イレーヴ」が見出す、素材と服の新しい関係

伊勢丹新宿店で開催されたポップアップで、デッドストックの生地を使ったアイテムを発表した「YLÈVE(イレーヴ)」。デザイナーの田口さんに、素材と向き合ったクリエイションの背景について聞いた。

原稿:藤井由香里 写真:塚本直純

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試作の余りや、使われなかった生地など生地屋の棚には、長い間眠り続けてきた布がある。YLÈVE(イレーヴ)は、その存在に目を向け、この夏の一着へと仕立てた。

4月8日(水)から4月14日(火)まで、伊勢丹新宿店で開催されたポップアップでは、商品化の過程で流通に乗らず残ってしまう素材に向き合ったアップサイクル企画を展開。協業するファブリックメーカーに眠っていた残反の中から良質なものを厳選し、この夏に着たくなるアイテムを製作した。

「すべてを変える」のではなく、「選び続ける」という姿勢

イレーヴがサステナビリティを語るとき、そこに大きなスローガンはない。

「すべてをサステナブルにするのは、正直難しい。でも、選択肢があって品質が同じなら、そちらを選ぶ。ものづくりにおいては、そういうスタンスを大切にしています」(デザイナー・田口氏)

その姿勢は、ブランドの立ち上げ当初から一貫している。2018年のスタート時、オーガニックコットンはまだ一般的ではなく、「柔らかくナチュラルな素材」という印象が強かった時代に、イレーヴは超長綿のオーガニックコットンを用いたカットソーをシグネチャーとして展開してきた。

「当時は、クオリティの高いオーガニックコットンがほとんどなかったんです。だからこそ、こういう選択肢もあると伝えたいと思いました」(田口氏)

ORGANIC COTTON BIO T-SHIRT ¥14,300

その後も、テンセルやリヨセルといった再生繊維、さらには和紙とオーガニックコットンを掛け合わせたニットなど、素材の選択肢を少しずつ広げてきた。和紙は成長が早く、化学肥料を抑えて生産できる素材であり、さらりとした肌触りや手洗い可能な実用性も兼ね備えている。そうした特性に着目し、機能性と環境配慮を両立できる素材として取り入れているという。

こだわりは、素材の選定にとどまらない。デニムの染色においても、水の使用量が少ない方法を選ぶなど、工程の中でできる限り負荷を減らしているという。

「インディゴの染色は水を多く使いますが、できるだけ使用量の少ない方法を選んでいます。工程の中で、減らせるものは減らしていくようにしています」(田口氏)

「選べなかった時代」から「選ぶ時代」へ

こうした素材との向き合い方は、最初から当たり前だったわけではない。

「オーガニックコットンで重みのある生地を作ろうとしても、当時は選べるものがほとんどなくて、ゼロから開発するしかない状況でした」(田口氏)

イレーヴ デザイナー・田口令子さん

転機となったのはここ数年。生地メーカーの取り組みが進み、インドでオーガニックコットンを畑から手がける生地屋が出てきたり、直接輸入のルートが整備されたりと、選択肢は徐々に広がってきたという。一方で、日本とヨーロッパの間には依然として大きな差がある。

「ヨーロッパでは、企業のジャンルごとにサステナブルへの取り組みが具体的に定められていて、生産や資源の使い方など、仕組みの部分から変わっている印象があります。だから消費者の意識も自然と変わっていく。日本はまだそうした点が任意に委ねられている部分も多く、そこに違いを感じます」(田口氏)

規制が行動を変え、行動が意識を変える——その循環がまだ緩やかな日本において、ブランドとしてできるのは、過度な理想を掲げることではなく、現実の中で選び続けることだ。

なぜ「残反」に着目したのか

今回の取り組みは、三越伊勢丹が開催する「think good」への参加をきっかけに始まった。そこで着目したのが、生地屋に残り続けている“使われなかった素材”だ。

「生地屋さんには、試作などで余った生地など、用途がなく停滞しているものがあります。そういったものを活用できないかと考えました」(田口氏)

伊勢丹新宿店では、2026年4月8日(水)〜4月21日(火)の期間、サステナブルキャンペーン「think good」を開催。今春は「文化の継承と革新」と「地域社会との共創」をテーマに、日本各地の技術や素材にフォーカスした。正面ウィンドウを飾っているのは、イレーヴのドレス。

残反を使うということは、量があらかじめ決まった素材ではなく、限られた条件の中から最適な形を導き出すことでもある。「残布は量感がどうなるかわからないので、ものを作る上では難しさがある」と田口氏は言う。

イレーヴとして残反を活用したアイテム制作は、今回が初めてに近い試みだった。それでも、この取り組みを可能にしたのが、生地屋との10年以上にわたる関係性だ。
「『あの生地屋さんにはああいう素材がありそうだ』という嗅覚は、日頃からのお付き合いの中で自然と育まれていました」(田口氏)

制約から生まれた、この夏のコレクション

今回の伊勢丹新宿店限定アイテムに採用されたのは、シルクキュプラと綿・キュプラの2素材。いずれも、長年付き合いのある生地屋が保管していたストックから厳選したものだ。

「シルクキュプラはキュプラという再生繊維が入っているので、肌に張り付かずさらっと着られます。しかもシルクなのに手洗いができる。夏に毎日洗えないストレスって、服へのモチベーションをどんどん下げていってしまうので」(田口氏)

〈伊勢丹新宿店限定〉Cupra Silk Jacket ¥74,800 Cupra Silk Pants ¥50,600

そうして生まれたのは、ラフになりすぎない上品なリラックスムードのセットアップと、アクセサリー次第で印象を変えられるワンピース。大人の女性が夏に心地よく頼れる一着、という方向性が一貫している。

これらのアイテムは、会期終了後もYLÈVE伊勢丹新宿店限定にて引き続き取り扱いが予定されている。

〈伊勢丹新宿店限定〉Cotton Cupra One piece ¥47,300

この「ラフすぎないリラックス感」は、イレーヴがこれまで考えてきた服の延長線上にある。コロナ禍をきっかけにスタートしたユニセックスライン「Y(ワイ)」では、「家でも外でも着られる服」をテーマに掲げた。

「家でも外でも着られて、一軍じゃないけど、いつでも頼れる。そういう“ちゃんと作られたちょうどいい服”が欲しいと思ったんです」(田口氏)

生活の境界が曖昧になった時代に求められたのは、気張らずに着られて、なおかつ成立する服。今回のアイテムにも、その価値観が自然に引き継がれている。

服だけでなく、アクセサリーにも宿る素材の価値

〈伊勢丹新宿店限定〉Necklace ¥33,000~¥49,500

さらに今回は、服だけでなくアクセサリーにも“眠っていた素材”が活かされた。取引先のアクセサリーデザイナーのアトリエに眠っていたバロックパールや、カットパール、ケシパールなど、現在では流通が限られる素材を組み合わせ、チョーカーやネックレスとして展開している。

「デッドストックで2本分しかなかったものも、今回のポップアップのために商品にしました。もう二度と同じものは作れない。そういう希少性も、このアイテムの価値だと思っています」(田口氏)

量産できないこと、再現できないこと。
その制約そのものが、プロダクトの価値へと転換されている。

イレーヴが大切にする、“長く着られる服”という考え方

イレーヴが一貫して大切にしているのは、「長く着られる服」であること。

「ワンシーズンで終わるものではなく、何年も着続けられるものを作りたい。トレンドと寄り添いながらも、完成度があり、長く着ることに意味があるものを届けたいと思っています」(田口氏)

残反を活かした今回の試みも、その延長線上にある。大きな宣言を掲げるのではなく、「できる範囲でやっていきたい」と田口氏は話す。

サステナブルだから選ぶのではなく、まず「いい」と思えるかどうか。その上で背景を知ることで、服との関係は少しずつ深まっていく。残反を新たな一着へと変えるイレーヴの取り組みは、そうした服づくりの姿勢を静かに、しかし確かに体現し続けている。

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ライター/エディター
藤井由香里
ファッションメディアのライター/エディター、アパレル業界での経験を経て、2022年に独立。現在は、ファッション、美容、カルチャー、サステナビリティを中心に執筆・編集を手がける。Webや紙媒体のコンテンツ制作に加え、広告制作、コピーライティング、翻訳編集など、多岐にわたるプロジェクトに携わる。

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