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1枚の服のもつストーリーを、映像を通して伝えたい
高校3年生の福代美乃里さんが代表を務める学生団体「やさしいせいふく」。誰かを傷つけずに服を作りたい、と考え、GOTS認証を取得したオーガニックコットンTシャツ「やさしいてぃーしゃつ」の制作などを行っている。そんな彼女たちが2024年夏、インドを訪れ、オーガニックコットンの農家や縫製工場の視察を行った。その様子を記録したのが、12月10日に公開されるドキュメンタリー映像だ。
「これまでも生産者の方々と直接対話してきましたが、画面越しでのオンライン対話だったため、実際に生産者の方々がどのような環境で働いているのか、リアルに感じられず、いつか足を運びたいと考えていました」。2022年に約1年間カナダ留学をしたというのも、インドの生産者の方々とのコミュニケーションに困らない英語力を身につけるためだったという。「1枚の服ができるまでには農家さん、工場などで生まれるストーリーがある。そのことを映像を通じて多くの方に感じてもらいたいと思いました」
オーガニックコットン農場で、GOTS認証縫製工場で感じたこと
当初クラウドファンディングで資金集めを目指したがなかなか資金が集まらず苦戦。過去にイベントや講演で知り合い、応援してくれている方々からの支援を得て実現した。
訪れたのは大学生2名、高校生3名と、「やさしいてぃーしゃつ」の制作段階から活動を支えてきたテキスタイルエクスチェンジの稲垣貢哉さんの6名で、7月21日〜27日の7日間にわたり、農家と工場を訪れた。
最初に訪れたのは、オーガニックコットン農場。
「オーガニックに切り替える以前の畑ではがんで亡くなる方、皮ふにかゆみを訴える子どもなどが多かったそうですが、オーガニックに切り替えてからそういった病気がなくなったと伺い、農薬被害の恐ろしさを改めて感じました。オーガニックに切り替えたことで生産量自体は減ったものの、遺伝子組換えの種や農薬にかかっていたお金が浮いたため、収入が上がったという声もありました。またオーガニックコットンは背丈が低いため、雨水だけで足りるので、農作業も軽減しています。さらにコットンの間にレンズ豆を植えると虫よけになるとともに豆が食料としても役立つなど、少しずつ工夫をしてよりよいコットンづくりの環境が整ってきているそうです。そんなこともあり、最初はオーガニックコットンへの切り替えに数軒しか取り組んでいなかったものの、ポジティブな結果を知って徐々に多くの農家がとりくむようになったと話してくれました」。とはいえ、まだまだ課題も。「オーガニックになって改善したところは多いものの、過酷な労働であることは変わらず、子どもには農家を継いでほしくない、というリアルな声も聞こえてきました」
その後工場にも足を運んだ。
「「ジニングミル」という、コットンを綿と種に仕分ける工場、そして縫製工場も訪れました。縫製工場は動線がとても効率的にできていて、分業もしっかりとなされていました。床もキレイで安全にも配慮され、安全に関するルールなどは複数の言語で掲示されていました。また冷水機からお水を飲むことができ、ベルが鳴ったら昼休みの休憩に入るなど、学校のような雰囲気。実際、話をしてくれた19歳の職員の方は、休日の過ごし方や好きな映画なども私たちとそんなに変わらず、とても親近感を覚えました」。ただし、こうした工場は特別な工場だという。「まだまだ不衛生な環境や過酷な労働状況で業務が行われているところもたくさんあると伺いました。それは服飾業界でこの問題に対する認識がきちんと進んでいない証拠。今回私たちの撮影した映像では、そうした劣悪な工場は登場しませんが、私たちと同世代の、友達かもしれない女の子が私たちの着ている服を作っているという姿を届けることで、きっと多くの人がもっと真摯に毎日着ているファッションの背景と向き合うようになるのではないかと思います」
学生団体として、服飾産業が変わるためのアクションを続けたい
今回の渡航を経て、学生団体「やさしいせいふく」の今後の活動も次なるフェーズを迎える。「設立メンバーは社会人になっていき、代わりに新メンバーが加入しています。この活動を次の世代につなげていき、学生だからできることに果敢にチャレンジしていきたい。ゲーム形式でワークショップを行ったり、他の企業や団体とコラボして次なるプロダクトを作ったりとアイデアは湧きますが、アウトプットが単なる“発信”で終わらないようにしたい。企業の情報開示、生産者の労働環境を守ること、GOTSなどの認証を取得することをどこまで後押しできるか。古着のリサイクルやアップサイクルなど、個人レベルでの取り組みを支えている学生団体はたくさんありますが、私たちは服飾産業を変えるアクションをしていきたいと思っています」
福代さん自身も、春には大学生になる。「大学では経済学を学びたいと思っています。インドに行って、さまざまな格差を目の当たりにしました。なぜこの人たちは貧しい環境だったのか、なぜ遺伝子組換えの種を買わなくてはいけなかったのか。企業も企業で利益を出さなくてはいけない。いろんなものが複雑に絡み合っているこの全体像を理解しなくては、世の中の流れを変えるのは簡単ではないと思います。これまでは工場や農家の方など生産者側の声に耳を傾けてきたので、今後はアパレル企業の方々とも対話をし、良い解決策をともに探っていきたいと思います」
今回の映像はまずはWWFとともに上映を予定していて、今後は企業や学校などに上映の機会を募っていきたいとのこと。「服飾産業は取引先が多岐にわたり、大きなマーケットを占めています。だからこそ、服飾産業の方々の意識が変われば、その影響力はとても大きいはず。少しでも関心を持ってもらえる機会になればと思います」
福代美乃里さん
都立高校3年生。学生団体「やさしいせいふく」代表。中学生の時、先生の話がきっかけで環境問題に危機感を持ち、「やさしいせいふく」の活動に参加、現在は代表として講演会やオーガニックコットンTシャツの販売をする活動を行う。高校1年時にCOP26に参加、高校2年時はカナダに約1年間留学。
「やさしいせいふく」ドキュメンタリー
2024年12月10日 19時オンライン配信予定。
WWF×「やさしいせいふく」『そのシャツ、どうやって作られたの? ~高校生がインドで考えた、サステナブル・ファッションの可能性 ~』
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「やさしいせいふく」インスタグラム