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ストーリー|2024.10.21

「シーイン」「テム」などウルトラファストファッションから発見された危険な有害物質とは?

現在最も人気のあるウルトラファストファッション「シーイン(SHEIN)」「テム(TEMU)」「アリエクスプレス(AliExpress)」の商品から、危険なレベルの化学物質が発見されている。なぜ衣服に有害物質を使うことになったのか?  服づくりの素材、染色、漂白、加工などのプロセスで用いられる化学物質について、詳しく見ていこう。

写真:UNSPLASH

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※この記事はToxic Chemicals in Ultra Fast Fashion Could Be Harming Your Healthを日本語訳したものです。

シーインの靴には基準値の428倍のフタル酸エステルが含まれていた

ソウル市政府は2024年を通じて、オンラインで販売される衣料品の定期的な安全性検査を実施しており、その結果がニュースとして世界を駆け巡っている。「シーイン」(Shift C評価:他の選択を)、「テム」(Shift C評価:他の選択を)「アリエクスプレス」は最近の検査の焦点となっており、いずれも安全基準を超える化学物質を含む商品を販売していた。シーインの靴には基準値の428倍のフタル酸エステルが含まれていた。

これらの調査結果は世界を驚かせたが、衣料品に含まれる有害物質の問題はこのニュースに始まったことではない。スポーツウェアから客室乗務員の制服まで、あらゆる衣服から有害物質が見つかっているのだ。

ECサイトが科学者に調査を依頼。5着に1着から有害物質が発見される

ウルトラファストファッションに話を戻すと、破竹の勢いで売り上げを伸ばすこれらのブランドは「製品の安全性」に関しては何の教訓も学んでいないと言っていいだろう。カナダの国営放送であるCBCが環境化学者ミリアム・ダイアモンドと行った2021年の調査によって、世界で最も人気のある超ファストファッションブランドのいくつかが、有害化学物質を含む衣類やアクセサリーを販売していたことが明らかになった。

複数のECサイトから委託されたこの調査で、彼女のチームは大人用と子供用の衣類、シューズ、バッグなど38点を検査した。そこで判明したのは5着に1着に、鉛、PFAS、フタル酸エステルなどの化学物質が危険なレベルまで含まれていたということだ。

当然のことながら、シーインは最悪の違反者の 1 つだった。中国を拠点とするこの巨大リテール企業は、カナダ保健省が子供に安全とみなす量の20倍の鉛を含む幼児用ジャケットを販売していた。また、ザフル(Shift C評価:他の選択を)とアリエクスプレスも、フタル酸エステルなどの有毒化学物質を高濃度に含む衣類を販売していた。

ダイアモンド氏はこう語る。「有毒化学物質は洗い流されず、むしろ衣服から染み出して皮膚に吸収され、健康上の問題を引き起こす可能性があるのです」
研究によると、神経毒である鉛にさらされると、脳と神経系が損傷し、成長、発達、行動パターンに影響を与える可能性がある。子どもは袖を噛んだり、手を洗い忘れたりするので、大人よりも危険にさらされているといえる。「子どもが衣服を口に入れてしまうのは珍しいことではありません。その場合、より高い量を摂取することになるのです」

プラスチックの耐久性を高めるためによく使用される化学物質の一種であるフタル酸エステルは、生殖ホルモンに影響を及ぼす可能性がある。ダイアモンド氏は、小児喘息のリスク増加との関連性も指摘する。

なぜ人気ブランドの服に有毒化学物質が使われているのか?

健康へのリスクが取り沙汰されているのに、なぜ世界最大のウルトラファストファッションブランドは衣類に危険な化学物質を使用しているのだろうか?

指摘された子供用ジャケットは、その後シーインのサイトから撤去された。今年のソウル市の調査後にも、同じことが起こった。ダイアモンド氏と彼女のチームは、なぜこれほど大量の鉛が子供用の衣料品に含まれていたのかは不明だとしつつも、染色のために使われていたのではないかと推測している。

「とはいえ、より安全な代替案は存在します。例えばフタル酸エステルではなく、代替可塑剤という選択があります。もしもシーインが鉛を染料として使っているなら、より有害性の低い他の染料を使うこともできるのです」

正直なところ、シーインは利益さえ出れば服に何が入っているかなど気にしないのだろう。シーインの企業価値は 660 億ドル(約9兆円)といわれ、同社が倫理に目をつぶることでこの規模に達したことは周知の事実である。そしてウルトラファストファッション業界の他の企業も同様だ。これは決して 1 つのブランドに限った問題ではない。

スイスの監視団体パブリック・アイによる調査では、 シーインは労働者の権利も侵害していると非難されている。最初の報告書では、シーインの工場では窓に鉄格子がはめられ、非常口もない状態だと指摘された。労働者は週75時間縫製の仕事をこなし、月に1日しか休みが取れなかったとも報じられている。

素材製造にも薬品が使われている。ビスコース工場の地域住民が苦しむ健康被害

残念ながら、ウルトラファストファッションの“化学物質の闇”は、特定のブランドの摘発にとどまらず、想像以上に深刻だ。実際のところ私たちは、衣類に化学物質が使用されていることに慣れ過ぎてしまっている。私たちのクローゼットにある衣類のほとんどは紡績、染色、漂白、加工のプロセスで化学物質が使われている。

場合によっては、素材をつくるために化学物質が不可欠なこともある。例えば植物性のセルロース繊維を使った「ビスコース」はそのひとつだ。シルクやポリエステルのようななめらかさがあり、ドレス、ブラウス、スカートなどに使われるこの素材の世界市場は、2030年までに414億8000万ドル以上に達すると予測されている。しかし、木材パルプをなめらかな糸に変えるには、繊維を溶かすための化学物質(と大量の森林伐採)が必要だ。

「セルロースは、強力な溶剤である二硫化炭素など、数多くの有毒化学物質で処理されています」と、チェンジング・マーケット財団のウルスカ・トランク氏は説明する。企業が社会的責任を果たしているかを厳しくチェックするこのNPOは、2017年にビスコース業界に対する徹底的な調査を行った。

二硫化炭素は、精神病、冠状動脈性心疾患、白血病など、多くの深刻な健康状態との関連が指摘されているとトランク氏は説明する。これらの病気に最もかかりやすいのは、まず初めに工場労働者、そして地域コミュニティだ。500万人以上のアパレル労働者を抱えるインドネシアでは、ビスコース工場の近くに住む住民たちが井戸水を飲めなくなった。

「彼らは井戸水によって、家族、特に子どもたちの健康に悪影響が出ることを恐れています。インドでは、工場周辺の人々が、がん、結核、生殖障害、先天性欠損症、胃の病気など、深刻な健康状態に苦しんでいます。ビスコース製造のための化学物質は人体に害を及ぼすだけでなく、水路に流出し、工場周辺の空気や土壌を汚染するなど、地域の環境にとって悪夢なのです」

化学物質の使用を抑えるために何ができるのか?

アパレル業界はどうしたら化学物質の使用を減らせるのか?

この問いに対する答えはひとつ、ブランドはもっと責任を負う必要があるということだ。
Shift Cの評価を提供するGood On You の評価責任者であるクリスティン・ハーディマンは、ブランドが 国際団体「ZDHC」が提供する「製造時制限物質リスト (MRSL)」 に従って、すべての素材における有害化学物質の使用削減に取り組むよう勧めている。ファッション業界から有害な化学物質を排除することを目的としたプログラム「Roadmap to Zero」に基づき発行された MRSL は、業界で基本的に使用が禁止されている化学物質のリストだ。

「ブランドはZDHCのつくるゼロ・ロードマップに参加し、MRSLを活用してください。そうすることでサプライヤーにもリストに従うよう要求できます」

フタル酸エステルは、アゾ染料 (繊維の着色によく使用される) や六価クロムなどの重金属と同様に、MRSL に使用制限物質として記載されている。六価クロムは、革のなめしに使用され、血液毒性、遺伝毒性、発がん性があるにも関わらず、地下水で見つかる最も一般的な汚染物質だ。

化学物質の使用と労働者の安全をチェックし、透明性を高めるShift Cの評価

Shift Cの評価では、ブランドの化学物質の使用と、労働者の安全を監視するプロセスを調査することで、私たちが日々着ている服の透明性を高め「見える化」を行っている。
しかしハーディマンはこう指摘する。「アパレルの化学物質については、最もグリーンウォッシュが横行している課題のひとつです。知らないうちに使ってしまうブランドもあれば、意図的に使用しているブランドもあるのです」

ブランド側は「自社製品が有害物質の検査を受けている」ということで、この問題をごまかすこともできる。あるいは欧州のREACH(化学物質の登録、評価、認可、制限に関する規則)やカリフォルニア州の同様の提案65リストに準拠していると述べることもできる。消費者にとってはこれで安心できるように見えるが、実際のところはそうとも限らない。

「Good On Youの評価方法において確実なのは、ブランドが少なくともZDHC基準のMRSLを採用すること、またはブルーサイン、ノルディックスワンエコラベル、GOTS、グローバルリサイクルスタンダード、エコテックス®メイドイングリーンなどの信頼できる団体によって認証された生地や製品を使用することです」とハーディマンは語る。「ブランドは特定のアイテムだけでなく、コレクション全体に基準を適応するということも注意しなければなりません」

先に述べたビスコース素材に関しても「よりクリーンに変化することが可能だ」と、チェンジング・マーケット財団のトランク氏は語る。
この財団は、責任ある製造への移行を支援するため、 2018年にビスコース業界向けの独自のロードマップを作成した。「ビスコースは、適切に生産されれば、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維に代わる低環境負荷の素材となる可能性が大いにあります。ポリエステルやナイロンは生分解に何百年もかかり、実は有害な化学物質を含んでいます。例えばポリエステルは、発がん性物質の疑いがある三酸化アンチモンで作られています。しかし、ビスコースにはよりクリーンな生産方法があります」

私たち消費者には何ができるのか?

ウルトラファストファッションにおける化学物質の問題は複雑で、手に負えないものだ。自分の着ているものに有害な化学物質が含まれているかもしれないと聞くと、特に深刻な健康被害の可能性について聞くと、怖くなるかもしれない。

まずはブランドと業界が、責任をもってこの問題に取り組まなくてはならない。一方で、私たちが正しい知識を得ることが、危険な化学物質から自分たちの身を守るために役に立つ。新しい洋服を購入する場合は、信用できる認証マークがあるかチェックしてみよう。

「認証マークは、危険な化学物質がまったく使用されていないか、またはほとんど使用されていないことを保証するわかりやすい方法です。サプライチェーン全体で評価されている GOTS 認証は、最も強力な認証のひとつです」とGood On Youアナリストのハーディマンは強調する。

あるいは「クローゼットの服をむやみに増やさず、ゴミを減らす」という選択もできる。「ウルトラファストファッションがひと晩で改善するような特効薬はありません。しかし、私たちには力があります。私たちは、地球を破壊し、人々に健康リスクを与え、さらには自分の子どもたちを危険にさらしている業界との関わりを最小限にするという選択ができるのです」

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