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ストーリー|2024.10.04

インドのコットン農家のオーガニック移行を支援し、日本のユーザーに届ける「Grow Organic」

インドの小規模コットン農家のオーガニック栽培への移行を支援するために、この7月にスタートした「Grow Organic」。インドの2村、28農家から移行期間綿(プレオーガニックコットン)を直接買い取り、作られた商品の売上の一部を農家のサポートに回す。「作る人」だけでなく「服を着る人」も含めてオーガニックの畑を広げていく取り組みについて、kurkku alternativeの江良さんに話を聞いた。

原稿:古谷ゆう子 写真:©︎Pre Organic Cotton Program, ©NUMA イラスト:宮嵜蘭

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――Grow Organicの前身であるプレオーガニックコットンプロジェクトが始まったのが2007年。きっかけはどのようなものだったのでしょうか。

江良慶介さん(以下敬称略) まず、オーガニックコットンの良さは何かと考えると、第一に“環境にいいコットン”であることが挙げられます。「農薬を使用しないならそれが一番」と感覚的にはわかっていたつもりでしたが、実際に「農薬を使わないことは農家さんにどんなメリットをもたらすのか」を目で見て考えてみたいと、現地に足を運びました。そのときに訪れたのは、マディヤ・プラデーシュ州というインドの中央部にある村でした。

その畑では農薬を使用し、コットン栽培を行っていましたが、目の前に広がる光景を目にして感じたのは「これは誰が見ても身体によくない、健康被害を無視できない」ということ。畑の広い範囲に農薬を撒いていくのですが、識字能力の問題もあり、農薬の瓶に「POISON(毒)」と英語とヒンドゥー語で大きく書かれていても素手で触ってしまう。畑のすぐ近くには生活用水を得るための井戸があり、農薬が撒かれている側で、子どもが井戸水をなんの疑問も持たずに飲んでいたりもする。
「すぐにでもやめるべきだ」と強く感じました。

“お金の問題”も無視できないと思いました。農家さんの多くは、コットンの種と除草剤などの農薬をセットで購入します。彼らの多くは年収10万円ほどですが、借金をしてその二つを購入しているわけです。農薬を使用すれば収穫量も増えるので結果的に売り上げは伸びますが、天候不順などで収穫できなかったときのリスクがあまりにも大きい。実際、借金を返せずに自殺したり、一家で夜逃げをせざるを得ない、といった報道もたびたび目にしました。

総合的に考えても、「農薬を使わず、オーガニックで育てたほうが農家さんにとってのメリットが大きい」という考えに至りました。

――「オーガニックのコットン畑」にスムースに移行させることは可能なのでしょうか。

江良 オーガニック認証を得るためには、3年間の移行期間が必要になります。“移行期間中の畑のコットン”を対象にしたマーケットは一般的にはないわけですから、農薬を使わなければその分収入は減ります。これは農家さんにとって大きな負担となります。“オーガニックへの移行”自体が農家さんにとっての最初の障害になってしまうんですね。

そこで、「オーガニック畑への移行」をサポートすることを考え、移行期間綿(プレオーガニックコットン)として買い支えするプログラムを考えました。
当初は日本の商社と組み、収穫されるコットンをすべて買い取るという形式での支援を行なっていましたが、今年から「コットンを購入する」に留まらず、「農家さんに対し寄付をする」支援も併せて実施する「Grow Organic」を始めました。日本の一般財団法人「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」が支援パートナーとして入ってくれています。非遺伝子組み替えの種の供給など、オーガニックへ移行するにあたり農家さんが直面する課題に寄附金を通して支援することで、生産者の顔が見えるようになり、彼らが本当に豊かになっていく様子を確認したい。そんな思いから、オーガニックに移行する計画があるという2つの村の28の生産者とともにプロジェクトをスタートさせました。

――プレオーガニックコットンを用いた、URBAN RESEARCH DOORSとの共同プロジェクトして「オーガニックコットンを育む服」を今年8月から発売されています。商品にはQRコードがつけられていて、農家さんの情報などを見ることができます。どのような思いから生まれたアイデアですか。

江良 洋服において、素材がどこから来て誰によって作られているのかを正確に把握することは、難しい。「野菜」など、素材そのものとは異なりますからね。誰がつくり、それを買うことでどう良くなっていくのか、ということをストーリーで見せることで、持続的な支援に繋げていけたら、と考えています。

今回は、TシャツやデニムをはじめとするURBAN RESEARCH DOORSさんの定番とも言えるアイテムをつくることで、ブランドのコアなお客さまに手にとって頂くことを意識しました。環境への意識の高い20、30代の若い世代にも届けていきたいですね。10月19日には蓼科のアウトドア施設「タイニーガーデン」で「Grow Organic Gathering」を開催します。Grow Organicに共鳴してくれるシェフやミュージシャンをゲストに迎え、ディナーやライブを楽しみながら、オーガニックコットンの未来について一緒に考える時間にしたいと思います。

プレオーガニックコットンを使ったデニムジャケット。QRコードを読み込むと、インドでコットンが作られ、服となり、着る人に届くまでのストーリーがわかる。各¥14,300

――最終的に目指すゴールやビジョンといったものをどのように思い描いていますか。

江良 どんなときもベースにあるのは、支援する農家さんを増やしていく、ということ。「農家さんと消費者をつなげていく」ということも大きな柱ではありますが、まだまだ不十分で、QRコードがあっても気づかずに洋服を着ていらっしゃる方もいるかもしれませんし、まだまだやれることがあります。「その一枚の洋服を着るという体験が貴重だ」と思える仕組みづくりは引き続きブラッシュアップしていきたいと考えています。

「オーガニックコットンづくりに携わるインドの方々の生活が豊かになってほしい」というのはとても基本的な目標です。僕が初めてインドを訪れてから17年が経ち、依然として貧富の差はあるものの、物質的な変化は見られるようになりました。インフラが整備され、かつては10時間かかっていた場所まで4時間で行けるようになりましたし、綿がいくらで取引されているのかを彼らは自らスマホで確認したりするようにもなりました。

同時に、現地に足を運ぶと、いわゆる“アジアの原風景”がここにある、とも感じます。僕たちは支援する側ではありますが、もしかしたらインドで暮らす彼らの方が幸せなのではないか、と感じることもあります。ひと言で「豊かにしていく」と言っても、僕らと同じ感覚では豊かにならない方がいいのかもしれない。複雑ではありますが、そんな気持ちもありますね。

江良慶介 kurkku alternative代表
1999年外資系IT企業に勤務の後、バックパッカーを経て、2005年にKURKKUへ入社。2007年より、インドで農薬被害に苦しむコットン農家のオーガニック農法への移行を支援する「プレオーガニックコットンプログラム」を開始。また、3.11以降、津波の被害を受けた農地にコットンを植え雇用創出と地域再生を目指す「東北コットンプロジェクト」を手がける。2016年よりアーティストの力で地域の内側からの復興をうながす「Reborn-Art Festival」を立ち上げ、2022年より現職。

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