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(左)浪花優子
TerraCycle Japan合同会社 ジェネラルマネージャー
カナダ生まれ、美大にてテキスタイルデザインを専攻。アパレル業界にてオーガニックコットンや再生素材の活用など、長年サステナビリティ領域に従事。2022年TerraCycle Japan入社。アカウントマネジメントチームを主導し、多様なステークホルダーと連携したリサイクルプログラムを多数成功させ事業拡大に貢献。2025年7月、代表(ジェネラルマネージャー)に就任。
(右)前本美結
高校3年間をインドネシア・ジャカルタで過ごした際に、社会問題に興味を持ち、SNSで社会問題解説・日常生活で個人ができるアクションなど、エシカル・サステナブル・セルフラブを軸にしたライフスタイルを発信中。モデル・講演・イベントプロデュースの他、六本木のコミュニティカフェ「um」(アム) にてコミュニティマネージャーを務めている。
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100%リサイクルは可能か?「焼却処分をしない」という決断
前本: 回収について伺いたいのですが、例えば回収されたコスメ容器などは、国内の選別工場に送られると聞いています。実際のところ、リサイクルに回せる割合、いわゆる「歩留まり」はどの程度なのでしょうか?また、焼却処分を選ばないということを、どのように可能にしているのでしょうか。
浪花: テラサイクルのスタンスは非常に明確です。「回収対象のものであれば、基本的には全て(100%)リサイクルする」。数値としては公開していませんが、私たちのミッションは「捨てるという概念を捨てること」ですから、テラサイクルとしては基本的には全てなんです。
まず回収したものは、弊社の倉庫で保管され、そこから「選別」が行われます。ここが非常に重要で、リサイクルの割合ともリンクするのですが、いかに綺麗に選別できるかが全てと言っても過言ではありません。
前本: 選別……。回収ボックスには、回収対象外のものも混ざってしまうのでしょうか?
浪花: そうなんです。回収ボックスの中には、コンビニで買ったような紙とプラスチックが混ざった汚れたコーヒーカップや、飲料用のペットボトルが入っていることも珍しくありません。これらは本来「対象外」ですよね。だから、弊社の倉庫ではまず、「人の手」による選別を徹底的に行います。 プラスチック、ガラスといった大きな分類はもちろん、異物を一つひとつ除去していく。
前本: システムで自動的に分けるのではなく、人の手なんですね。
浪花: はい。人の手を使うということは、時間も、労力も、そしてコストもかかります。正直、ここが一番大変な部分です。だからこそ、多くの企業がやりたがらない理由になるのかなと。でも、私たちはここを日常としてやり抜きます。もし、対象外のペットボトルであっても、リサイクル可能であれば適切なルートに回します。ただし、ひどく汚れたコーヒーカップなどは、適切に処分せざるを得ない場合もある。だから「リサイクルを成功させるのは、技術以前に、回収に協力くださる方とのコミュニケーション」が非常に大事だと心がけています。


コスメ容器のリサイクルには「技術的な壁」と「心理的な壁」がある
前本: 私の勝手なイメージなのですが、コスメ容器って洗浄がすごく大変そうですよね。リップの奥の方とか、油分もしっかりしているし、食品の油を落とすよりも大変なんじゃないかな、なんて。これらも人の手で洗っているのでしょうか?
浪花: 洗浄は基本的には機械を使いますが、非常に小ロットの時は、今でも人の手で洗うことがあります。コスメ容器の難しさは油分だけではなくて、実は「香り」も強敵なんです。洗っても洗っても残ってしまう香りをどうコントロールし、再資源化した時に影響が出ないようにするか。そこが技術的な工夫のしどころです。
前本: 綺麗事だけでは進まない、シビアな現実もありますか?
浪花: もちろんです。「経済合理性」は非常にシビアです。今テラサイクルでは約50におよぶブランドとのパートナーシップでリサイクルプログラムを運営しています。単価の低い日用品……例えば洗濯洗剤や食器用洗剤よりも、コスメの方が単価が高いですよね。だからこそ、高単価なコスメカテゴリーの方が、経済的合理性の意味でリサイクルプログラムに参加しやすい、という背景が日本にはあります。
ただ、今は風潮として「コーポレート・レスポンシビリティ(企業の責任)」が重視されています。経済合理性だけが全てではなくなり、最近ではヘルスケア企業さんとおくすりシートや塗り薬の容器の回収を始めるなど、新しいカテゴリーにもどんどん広がっています。
前本: 現場での技術的な課題はありますか?
浪花: 正直に言うと、工場から出る綺麗な端材と違い、消費者から回収された使用済みプラスチックは、どうしても品質が落ちてしまいます。綺麗に洗われていても、一度使われたものをリサイクルした再生プラスチックは品質が不安定なんです。
また、技術以前の「心理的な壁」も大きいです。日本の工場は品質への誇りが高い分、回収されたプラスチックにはいろいろな素材や状態のプラスチックが混じっているため、「機械を壊すかもしれない、得体の知れない怖いもの」として敬遠してしまうことがあります。品質を追求するのは良いことですが、「リサイクル素材だから、多少のムラや香りは許容しよう」というコンセンサスを社会全体でどう作っていくか。これが今の私たちの大きな戦いです。
前本: ファッション業界でも「綿とポリが混ざるとリサイクルが難しい」という話がありますが、コスメもそうなのでしょうか。特に、コスメや日用品の「詰め替えパウチ」は複合素材でできているゆえにリサイクルが難しいと聞いたことがあります。これには焼却以外の道はないんでしょうか。
浪花: そのモヤモヤ、すごくよく分かります。パウチは本当に難しい。単一素材が一番リサイクルしやすいのですが、パウチは分解もできません。これをまた「パウチ」に戻すような綺麗な水平リサイクルは、非常に困難ですが、研究は鋭意進められています。
また、私たちは別の出口を見つけています。パウチを粉砕して他の材料と混ぜ合わせ、厚い「板」のような資材にするんです。元の形には戻らなくても、そこから家具を作ったり、プランターを作ったり。資源として使い切るための、想像力と工夫を駆使して、マテリアルリサイクルを主軸に置いています。「できない」と諦めるのではなく、今の技術でできる「最高の出口」を探し続けるのが、テラサイクルのやり方です。
単なる処理ではなく「新しい命」を。日本人がリサイクルに求める、納得感とストーリー性
浪花: グローバルチームと会議をしていると、「日本は他と違うね」とよく言われます。アメリカやヨーロッパだと、回収したものをペレット(粒状の原料)に戻して活用する「見えない循環」で納得されることが多いのですが、日本は違います。「これで何を作れるの?」「形になったものを見せてほしい」という、物作りへの期待値が非常に高いんです。
前本: 確かに、展示会でも「次は何を作ってほしいですか? ブラシスタンド、時計、植木鉢……」というパネルがありました。ロフトさんの買い物カゴになった事例も、すごく分かりやすかったです!


浪花: ありがとうございます。このアンケートはすごく参考にしています。日本の皆さんの「分かりやすい形」へのこだわりは、リサイクルへの参加意欲を支える「特有の文化」だと感じますね。
前本: 何に変わるかを見える形で表したい、というのは確かに日本らしいですね。浪花さんがこれまで関わってきた中で、特に「リサイクルできて良かった」と心に残っている、ストーリーのあるプロジェクトはありますか?
浪花: 日新火災海上保険さんと行っている「ヘルメットの回収」プロジェクトですね。実はこれ、私自身の体験から生まれたアイデアなんです。私には息子がいるのですが、サイズアウトして被れなくなったヘルメットが、ずっと家にありました。思い出があるし、もったいないから捨てるには忍びない、でも場所を取る。どうしたらいいんだろう?という一消費者の実体験としてのモヤモヤが、日新火災海上保険さんの「安心(保険)」というテーマと結びついたんです。
前本: 捨てにくいものに、リサイクルという「新しい出口」が用意されたんですね。
浪花: はい。ヘルメットは分解すれば単一素材になるので、実はリサイクルしやすいんです。自分の個人的な「捨てられない」という感情が、企業の「安心」というメッセージと重なって大きな循環になった、大切な経験です。
量が少なすぎると逆に環境負荷が高まる?ジップロック®2kgという条件
前本: お話を伺っていると、リサイクルを形にするのは本当に大変なことだと分かります。実は私自身、一人のユーザーとして「もどかしさ」を感じたことがあって……。
浪花: どんなことでしょう?
前本: 飲食店を運営していることもあり、テラサイクルでジップロック®の回収を見つけて「ありがたい!」と思ったんです。 店ではコンテナータイプのジップロック®を使っているのですが、冷凍を繰り返すとどうしても割れやすくなってしまって。異物混入を防ぐために早めに買い替える必要があるのですが、テラサイクルさんの回収条件が「2kg以上」となっていて…。コンテナーはとても軽いので、2kg貯めるには相当なスペースを占領してしまうこともあり、小さなお店だと、この「2kgの壁」は正直ハードルが高いなと感じてしまったんです。
浪花: それは弊社の中でも常に葛藤がある部分です。もちろん2kg以下でもお受けできなくはないのですが、少量を何度も送っていただくと、輸送にかかるコストやトラックから出るCO2が、リサイクルで得られるメリットを上回ってしまう「逆転現象」が起きてしまうんです。
前本: なるほど。せっかく環境のために送っても、輸送でそれ以上の負荷をかけてしまっては本末転倒、ということですね。
浪花: はい。だからこそ、ロフトさんのような「拠点」への持ち込みが重要になります。みんなで少しずつ持ち寄って、大きな単位で送る。その「共同回収」の拠点を増やしていくことが、今の私たちの課題でもあります。
フランスで爆発的に成長する容器リユースサービス「Loop」
前本: 以前米テラサイクルが日本でも展開されていた容器のリユースプラットフォーム「Loop(ループ)」について、海外での状況はどうですか?
浪花: フランスでは現在、驚くべき勢いで成長しています。まず「Loop」について簡単に説明すると、製品代金に「預り金(デポジット)」を上乗せして購入し、使い終わった容器を返すとそのお金が戻ってくる、いわば現代版の「牛乳瓶スタイル」の仕組みです。回収した容器は洗浄・殺菌した後、メーカーのもとで また中身を詰めて再び販売されます。
前本: 以前、日本でも話題になりましたよね。フランスではどれくらい広がっているんでしょうか。
浪花: フランスでは現在スーパーマーケットを中心に250種類以上の商品が展開され、店舗数も415店舗以上に拡大し、年末までに800店舗規模まで広がる勢いです。これは日用品の容器リユースがビジネスとして成り立つ「商業規模」で機能し始めたことを示しています。さらに、「どこで購入した製品であっても、どこでも返却できる」という全国規模のシステムが構築されてきています。
前本: どこでも返せるのは、利用者としてすごく理想的ですね!日本で展開されていた時よりも、ずっと「当たり前のインフラ」になっている。
浪花: まさにビジネスの主流になりつつあります。成功の鍵は、やはり「法整備」の力です。フランスでは資源循環を強力に後押しする法律(AGEC法)*があり、国がインフラ整備をバックアップしています。
前本: 日本だと、まだ企業努力に支えられている部分が大きいですよね。
浪花: そうなんです。社会の仕組みさえ追いつけば、日本でもLoopは周辺的な解決策ではなく、誰もが参加できる日常の選択肢として復活できるはずです。
*AGEC法(循環型経済防止法):フランスが2020年に制定。「大量生産・廃棄」モデルを脱し、製品の長寿命化や売れ残り廃棄の禁止を義務付けることで、資源が循環し続ける社会への転換を企業に強いる世界最先端の法的枠組み。
インタビューを終えて
今回、テラサイクルのインタビューが決まってまず何よりも驚いたのは、そのリサイクル回収対象の広さでした。私自身、運営するカフェでなるべく環境負荷の低い方法はないか、日々試行錯誤する中でテラサイクルのテトラパックのアルミ付き紙パックの回収をオープン当初から使わせていただいていたり、店舗の備品であるジップロック®の回収もテラサイクルが担っていること、またそんな「推し」企業の方に直接お話を伺えてとても嬉しかったですし、学びになりました。
浪花さんのお話にもありましたが、リサイクルをしたくても回収拠点が少なかったり、なかなか仕組みが浸透しづらかったりと一消費者としても歯痒い思いをすることも多い。リサイクルがよりインフラとして日本に広まっていくこと、もしかしたらそれは消費者の意識改革はもちろん、行政との連携も重要になってくるのかもしれないですね。これからもテラサイクル、応援していきます!
