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ファッション|2025.09.29

スタイリスト・木村舞子がジャパンブランドと、サステナブルアクションを考える。【Vol. 6 フィルメランジェ】

ファッションの最前線で活躍するスタイリスト・木村舞子が、サステナブルな取り組みをしているブランドを訪ねる連載5回目で取り上げるのは、究極のカットソーを作るべく2007年に生まれたFilMelange(フィルメランジェ)。厳選された天然素材と職人の技術で丁寧に作られた洋服。ブランド発足当初から日本製にこだわって作っているブランドの取り組みについて聞いた。

原稿:木村舞子 写真:フィルメランジェ提供

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木村舞子
北海道出身。バンタンデザイン研究所を卒業後、スタイリスト百々千晴氏に師事。ファッションモード誌、カタログ等で活躍中。雑誌GINZAのウェブサイトでは、「スタイリスト・木村舞子さんと一緒に、サステイナブルライフへの道!」を連載中。

日本の真摯なものづくりの背景にある、実はサステナブルに通ずる考え方や取り組みがあることを知ってほしい

以前から素材がいいということを耳にしていたフィルメランジェ。トレンドを追いかけることなく、オーセンティックな古着から着想を得た洋服たちは肩肘を張らず、着心地や機能的にもとても良いことを知り、ブランドに話を伺ってきました。

洋服の素材だけじゃなく、縫製の糸やネームタグも天然繊維で作るこだわり

木村舞子(以下、木村) フィルメランジェは素材にこだわっていると聞いたのですが、主にどんな素材を使っていますか?

主に使っているのはコットン、リネン、ウール。他にはヤク、カシミヤなどです。社長が古着が好きなので、チャンピオンに代表されるような杢カラー(メランジェ)をベースとしつつ、結局いい素材、特に天然繊維は着ていくと経年変化も含めて良いよねというのがあって、(靴下など伸びる部分にはスパン糸が入るが)発足当時から基本的には天然繊維だけを使っています。それは洋服の生地だけではなくて、ステッチやネームタグもコットンを使っています。特にステッチはコットンだと扱いが難しいので他でやっているところは少なく、基本的にはスパン糸(ポリエステル)を使うところがほとんどなのですが、うちは風合いや着ていった時の馴染みが好きなのでコットンをこだわって使っています。ただ価格が3倍くらい違ってコストメリットは合わないし、今も値段が上がり続けているので大変なんすけどね。(フィルメランジェ 営業部長・加藤裕行氏、以下同)

木村 アイテムはどんなものが中心ですか?

元々自社工場がカットソーの縫製工場なのでカットソーが中心です。あとは天竺やニット。あとは一部布帛を使ったアイテムもあります。布帛は主にデニムで、毎シーズンではなく要所要所でつくっています。デニムはやっぱり古着の中でも別格のアイテムなので、その時々で糸を変えたりしてフィルメランジェらしさを求めてつくっています。反毛といって裁断くずなどを集めて粉砕して糸に紡ぎ直したものと、オーガニックコットンの綿(わた)を合わせて使っています。

DOS / ドス オーガニック ラフィ天竺12,100円(税込)
糸の製造過程で発生してしまう落ち綿の中でもオーガニックの物だけを抽出し、バージンオーガニック綿と掛け合わせて紡績された有機リサイクルコットン「オーガニックラフィー」。フィルメランジェの定番となる番手を多数の試験で探し当て、別注機でゆっくりふっくらと編み、高温多湿な現代でも着心地の良い素材
REGGIE / レジー 反毛デニム 39,600円(税込)
不要になった素材を粉砕して綿から糸に戻す反毛の技術を応用して14番×14番の薄手のデニムを新たに開発。(50%を反毛ベースのコットンに、オーガニックコットンをブレンド)インディゴカラーは、経糸を杢グレーの糸をロープ染色し、緯糸は杢グレーそのままの色で織りたてている

“サステナブル”なブランドは目指してない。単純に良いものを辿っていったら天然繊維に行き着いた

木村 素材の調達にあたって気をつけていることはありますか?そもそも原料のトレースはどのくらい可能なものなのでしょうか?

サステナブルな提案をされているメディアさんで言うのも恐縮なのですが、うちはサステナブルなブランドですとは言いたくなくて。どちらかというと自分たちが考える”良いもの”を辿っていったらそれが天然繊維だったという流れです。なので極力オーガニックを使うようにしてますが、オーガニックじゃなくても風合いがすごく良いものもあって、製品としてはその方が良い場合もあるので、オーガニックに限定しているわけではないです。

ものによっては様々な国から調達されたオーガニックコットン素材があったり、ギザコットンなど産地ごとの素材、あとはウールについては海外の取引先からミュールジングをしているかどうかという質問があったので、そこについては調べてノンミュールジングということを明確にしたアイテムもあります。ただニットについては先方が持っている糸を使うこともあったりして、原料ベースでの選択はしていないですが、どこの原材料かは把握しています。

これから紡績にかけられる素材の山

木村 ニーズがあることで原料を気にするということが広まると良いなと思いますね。消費者には知る権利がありますから。

そうですね。最近は透明性を重視しているブランドも増えていますよね。素材の透明性を表立って謳うことがグリーンウォッシュのように捉えられる場合もあるかなと思っていて、それを公表するかどうかは別としても、消費者から問い合わせがあった時には答えられるよう知っておくべきだなとは思いますね。

木村 こだわったものづくり、編み方や染め方についてお客さんからのリアクションは?店頭では泥染や藍染など手染めのアイテムもお見かけしました。

直営店のお客様はどちらかというと感覚で選んでいることの方が多いと思います。染めについても色が綺麗だからということが多いですが、例えば店頭で接客する時にその手に取っているアイテムがボタニカルダイですよとお声がけすることでより一層興味を持ってもらえている感じはあります。藍染はポップアップの期間にそれ目当てで来店してくださるお客様もいますね。
あとは代表的なアイテムに吊り編みがありまして、ブランドを始めた頃はそれがトレンドになっていったこともあり、フィルメランジェのアイテムは吊り編みでふっくらしていて、本当に生地が良いよねというイメージが定着しました。おかげでうちのアイテムはどれも素材がよくて信頼できるブランドと思ってもらえています。今は吊り編みができる編機が少なく、1年半待ちとかになってしまうので一部のアイテムだけになっていますが、別の工場に吊り編みの風合いが出せる機械を用意してもらって作っています。

EVANS-DR / エヴァンス ドロ 27,500円(税込)
厳選した超長綿を、フィルメランジェ独自の番手に紡績した別注糸を使用。それを丸編みの産地である和歌山でもトップクラスのニッターに依頼し制作。細かい調整が合うことで最上の着心地を実現している。それを奄美大島の泥染工房で染め上げた独特のブラウン

日本製に誇りを持ちたいからmade in Nihon

木村 製品を作る際はいくつかの工場にお願いをしていますか?技術継承など、昨今どの工場さんも苦労されていると思いますが何か課題はありますか?

自社工場は福島にあるカットソーの縫製工場ですが、あまり大きい工場ではないのと、アイテムによって得意な工場というのがあるので、いくつかの工場さんに割り振って生産しています。課題としてはやはり技術継承や世代交代ができていないことですね。とは言ってもうちの工場は職人5−6人くらいの規模なのですが、地元の年配の方ばかりです。スキルがいることですし、縫うのはめちゃくちゃ大変なのに賃金も高いとは言えない。そこを変えていって、いかに若い世代に魅力的に感じてもらうかが課題ですね。

あとはうちは綿糸を使っていますが、それをやってくれる工場が限られています。技術的なところもありますし、ミシンの設定を変えないといけないので手間がかかるんですよね。今のところなんとかやれていますが、今後5年10年先できなくなってしまうかもしれない。それをどうやって残していくかというのは考えなければいけないです。それには綿糸を使う意味もきちんと訴求していかないと残っていかないのかなと思っています。

木村 ブランド発足当時から日本製にこだわっているとのことですが、自社工場以外にも日本の工場にしている理由は?

日本製ということに特別なこだわりを持って展開しています。ブランドロゴにもあるように、made in Nihonとして日本のものづくりという点に焦点を当てています。それはもちろん品質や生産管理上の点もありますが、それ以上に“自分たちのものを自分たちの手で作る”、地産地消的な意味合いが強いです。本質的な意味で、日本製というものに自信と誇りを持って提供したいという意味で、made in Japanではなくmade in Nihonとしています。 この服飾文化を維持していく上でも、工場の継続維持は根本的な課題で、未来へ繋げていく上でも環境を整えていかなければいけないと考えています。それは自社工場としてだけでなく、他の工場との連携も含めて、今を担っている会社として取り組んでいく義務があると考えています。

縫製工場でミシンがけされるスウェット

トレンドは追わない。良いものを永く着てもらいたい

木村 先日お店にたまたま立ち寄った時に見つけたソックス。これが最高でした。秋冬に出るスウェットパンツも気になります。

CODY2 3,520円(税込)
最高品質のメリノウールに防縮加工を施した糸と厳選されたコットンを使用したリブソックス。締めつけのない優しい履き心地ながら、ウール混にすることで程よいキックバックがあり、デイリーに使用してもダレない強さを持っている。ウール混と聞くと蒸れを心配する人も多いが、ウールは保温性だけでなく放湿性に優れており快適な履き心地を持続させてくれる素材で、オールシーズン快適に履くことができる。
RACK / ラック コンフォート裏毛 25,300円(税込)
フィルメランジェらしいムラ感のある表面と、ふっくらと優しい度目に仕立てた通年で使いやすい裏毛。柔らかな着心地と厚みで、重ね着でも一枚でも一年間通して活躍できるアイテム

木村 製品についてその他にこだわっていることは何かありますか?

基本的にトレンドを追うということはしていなくて、なるべく永く着てもらいたいということを考えているのでベーシックなものが多いです。もちろんファッションの要素は大事だとは思っているのでそういうところのバランスは見ながら企画しています。 あとはフィルメランジェの大切な要素としてメランジェ(杢)カラーは製品に1色は入れるようにしています。実際この杢というのを作るのが実は大変なんです。一般的には生機(生成り)の生地を染めるんですが、杢の場合は白い綿と黒の綿をミックスして糸を作ります。その配合バランスと編み方で杢の出方が全然変わってしまうので実際製品にしたときに思っている色になるか、やってみないとわからないのです。経験があるのである程度コントロールはできますが、それでもやってみて全然思っていたのと違うということもあって大変だなと思います。ただウチはこういったものづくりを残していきたいと思ってやっています。

紡績工場で、白と黒の綿をミックスして糸になる直前の杢の束

木村 昨今気候も昔とは大きく変わってきて、巷のショップではやっと売り時という時にセールになっている印象があります。フィルメランジェはあまりセールをやっているイメージがありませんが、そこについて何か決めていることはありますか?

セールに関しては大体的には行っておらず、シーズン品番のみ限定的にオフ提供をすることはありますが、ブランドのスタンスとしてはセールを控えていきたいと思っています。安くはない商品を展開している中で、だからこそブランドを維持する上で、価格においての安心感が必要だと考えています。販売する数量が増えるよりも、適切な量が、本当に欲しいと思ってくれる人に届く範囲での活動をしたいと考えています。

取材を終えて

シンプルに良いものを作るというブランドの理念が結果として環境にも人にも優しい洋服になっていて、真摯に作られたアイテムはずっと大切にしたいと思わせる力があります。さらに糸やタグも天然素材で作られていることはリサイクルの観点から見ても良いですよね。私もお気に入りのフィルメランジェのアイテムを永く着ていきたいと思いました。

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