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ブランドの“責任”の裏で 国際的に重要な湿地に広がる衣類の山

今回、新たに衣類廃棄が明らかになったのは、ガーナのデンス川デルタ湿地帯だ。
「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(通称:ラムサール条約)」により国際的に重要な湿地に指定されており、絶滅危惧種であるオサガメやアオウミガメの産卵地となっている他、国際自然保護連合(IUCN)が危急種に指定しているズグロカモメも確認される多様な野生生物の生息地として知られている。
地元住民は、「衣類の廃棄が始まって以降、水質の悪化により、川の水を飲み水として利用できなくなり、漁網には魚に混じり衣類が引っかかるようになった」と訴える。
また他の住民も「以前は、ワニやヤマネコ、さまざまな種類の鳥やウサギも生息している自然豊かな場所だったが、今は雨が降ると蚊が多くて、臭いも酷い」と語る。
さらに、これらの状況に対して、ガーナ林業委員会の湿地保全管理者は「湿地への投棄は、水の流れをせき止め、洪水の原因にもなり得る」と指摘している。
今回、グリーンピース・アフリカとUnearthedの調査により、現地でタグが確認された大手ファッションブランド各社は、それぞれ衣類の廃棄に関する方針を持ち、取り組みを行っているとしている。しかし、こうしたブランドの方針や取り組みが、実際に現地の問題解決に結びついているとは言い難い現実が見えている。調査を通じて明らかになった実態を、詳しく見ていこう。
悪化の一途をたどる古着輸入国への影響、環境と現地住民への影響は?
この保護地域内には、新たに開設された2カ所と、川上にあるごみ集積場の合計3カ所がある。
本来、適切に設計された埋立地には、底部の防水シート、浸出液の回収・処理システム、地下水のモニタリング、ガスの回収装置などが備えられているが、最新のゴミ集積場であるアッカウェイ廃棄場を撮影したドローン映像には、草木が取り除かれた湿地の広大な範囲が映し出されており、処理設備のないまま衣類が山積みにされていたことが確認された。
廃棄そのものも問題だが、衣類の不法投棄は、生態系の構造と機能を損ない、マイクロプラスチックや有害化学物質による生物濃縮・生物蓄積のリスクを高めている。
繊維製造に使われる少なくとも2,400種の化学物質のうち10%は健康リスクがあると言われており、その高い有害性から欧米で規制が強まるPFAS(有機フッ素化合物)などの「永久化学物質」も、雨水やごみ廃棄場の浸出水を通じて湿地に浸透しうる。
近年、Sheinなどのウルトラファストファッションの衣類から検出されていることで理解が深まっている有害化学物質の危険が、サプライチェーン上の地域・住民だけでなく、廃棄場付近の自然環境・住民たちにも影響が及ぶということだ。
ガーナ大学の湿地生態学者ジョーンズ・クワルティ博士は、「湿地に繊維製品を廃棄することは、取り返しのつかない被害を引き起こす可能性がある」と湿地の生態系が喪失する恐れを警告している。
また、地域住民も影響を懸念している。この地域に7年間住んでいる漁師は、「3年前からゴミが上流に捨てられるようになった。魚を捕ろうと網を投げると、魚だけでなく衣類まで入ってくる。」 「以前は川の水を飲めたけれど、今は黒く濁っていて飲むことができない。」と語る。
追いつかない処理、廃棄率とインフラの限界

世界最大の古着輸入国であるガーナは、「服の墓場」という不名誉な異名を持つほどの世界中のファストファッションの生産・消費によって生み出された衣類の終着点だ。
ガーナ最大の古着市場であり、世界でも有数の規模を誇る「カンタマント市場」は、今年1月に火災が発生し、市場の約60%が焼失、1万人以上が被災していることが記憶に新しい。
その市場には、週に50台のトラックが市場へ到着し、週に1,000トン以上の古着が輸入されている。古着販売業者は、衣類が1つ55kgのバルクにつき約23,000〜37,000円で取引しているが、そのうち40%以上が汚れや破損があるか、気候に合わないため販売ができず廃棄されていると見積もられている。
カンタマント市場があるアクラ市には、技術的に整備された唯一の埋立地「クポネ埋立地」がある。これは2013年、世界銀行の資金によって整備されたが、わずか5年で満杯となっていた。その後、火災が発生し、数か月にわたって燃え続ける事故が起きたため、現在は、新たな埋立地の建設が進められている。
しかし、廃棄物管理部門の責任者ソロモン・ノイ氏によると、カンタマント市場からは毎日100トンの衣類が廃棄され、そのうち処理できるのは30トンのみ。
「残りの70トンは、湿地、川、ラグーン、海といった生態系にとって重要な場所に捨てられている」と述べた。
この衣類の過剰流入によりアクラ市では、衣類が浜辺に大量に漂着し、運河沿いには「崖」のように積み重なっている。
今回の調査により、都市部を超えて環境保全地域に廃棄場が急増しており、衣類ゴミは植物に絡まり、砂に埋もれていることが確認された。
また、これらが高級リゾート地へも流れ着き、ホテルでは週単位で衣類を焼却しなければならない状態もあるという。
また、グリーンピース・アフリカの赤外線スキャン検査によると、アクラ市のごみ集積場にある衣類の大部分は合成繊維製であること、またドローン撮影の結果、確認されたごみ集積場の面積は約40ヘクタール(サッカー場50面分)に達することが明らかとなった。
各ブランド側のコメント
実はこれら廃棄問題に対応するために、EUはいち早く法律の整備を進めてきた。企業が服を販売した後にも責任を持つ拡大生産者責任(EPR)法だ。
これまでの生産者の責任範囲を製品の生産・使用段階にとどまらず、製品の廃棄やリサイクル段階まで「拡大する」という考えに基づき、廃棄物削減やリサイクル・リユースの促進がブランド側に求められる。具体的な施策は、生産者は、製品の廃棄・回収・リサイクルにかかるコストを負担したり、使用済みの製品を生産者が引き取るといったものだ。
これらの指摘に対し、今回製品が見つかった Marks & Spencer、George、Primarkは、その対応策として衣類の回収制度を導入しており、H&M、Zara、Georgeは、拡大生産者責任(EPR)の導入を支持すると表明している。
各ブランドのコメントは以下の通り:
- H&M:繊維廃棄の最終処理やリサイクルの仕組みが業界全体として不十分である現状を認めたうえで、「こうした課題は業界全体に共通するものだが、特に廃棄物管理やリサイクルインフラが不十分な市場に製品が流通する場合、私たちにも責任があることを認識している」とコメント。
- Zara(Inditex):「EPR法による統一されたルール作りを支持。繊維廃棄物の分別回収こそが循環型モデルの土台であり、新たなリサイクル技術の促進とともに体制整備を進めている」との姿勢を表明。
- Marks & Spencer:「廃棄衣類を他国へ輸出していない。Sojoとの修理サービスやOxfamとの回収スキームで衣類の寿命を延ばしている」と説明。
- George(ASDA):「過去10年間、衣類の生産量やシーズン数に増加はない。800以上の回収拠点と持ち込み回収を実施。事業全体でゼロ・ウェイスト方針を採用しており、EPR制度導入を支持」と述べる。
- Primark:「顧客から回収した衣類や未販売の在庫をガーナやアフリカに送ることは許可していない。」とコメント。そのうえで、「繊維廃棄の問題は1社だけで解決できるものではなく、業界全体が協力してこそ進展が得られる」との見解を示した。
- Next:コメントの要請に回答せず。
一方で、上記に挙げたブランドの中には、EPR(拡大生産者責任)の考え方が広まる以前から、店頭での衣類回収に取り組んでいる企業もある。しかし、回収に協力した消費者に対して新品購入時に使える割引券を配布する仕組みは、かえってさらなる消費を促す可能性があり、問題視されてきた。また、回収された衣類が本当に適切にリユース・リサイクルされているのか、その実態が不透明であることから、たびたびグリーンウォッシュの懸念も指摘されている。実際、今回のように古着輸入国で「服の墓場」とも呼ばれる事態が深刻化している現状を踏まえると、業界全体で連携し、EPRの実効性を高める取り組みが急務となっている。
なお、超低価格で短期間に大量に販売されるファストファッションは、世界中の服の消費のサイクルを加速させた。マッキンゼー・アンド・カンパニーの「State of Fashion 2025」レポートは、現在のままでは2050年までにファッション産業が世界の温室効果ガスの累積排出量の上限の4分の1を超えると予測している。
日本にいる私たちの選択が変える未来
日本では、着られなくなった服の6割が可燃ごみ・不燃ごみとして国内で廃棄される一方で、売れ残り品や寄付された古着の一部は「リユース」という名のもとに国外へ輸出され、2015年には、日本から24万トンの古着が輸出されている。
日本からの古着の輸出先は、マレーシア・パキスタンといった国々だが、現地で買い手がつかなかった場合、それらの衣類はさらに別の国へと転売され、最終的には、今回の調査で取り上げられたガーナや、アタカマ砂漠で知られるチリのような古着の最大輸入国にたどり着き、土地に積み上げられたまま放置されているケースも少なくない。
ガーナの湿地に不法投棄された大量の衣類。その中には、あなたがよく購入しているブランドの名前もあったかもしれない。遠く離れたガーナの埋立地や自然保護区域に積み上げられ、川や海を汚し、生態系を破壊し、人々の生活を脅かす。そんな現実を前に、「自分には関係ない」と言い切るのは難しいかもしれない。しかし、それは同時に、私たち一人ひとりにできることがあるということだ。服を選ぶとき、手放すとき、その選択が少しずつ未来を変えていく力になるだろう。
たとえば、服を買う前に「本当に必要か」を立ち止まって考えること。
ブランドがどのような取り組みをしているのか確認し、品質が良く、長く使えるものやリサイクルしやすい素材を選ぶこと。
そして、手放す前には、修理やリメイクを試したり、友人や家族に譲ることもひとつの選択肢だ。
参考:
Discarded clothes from UK brands dumped in protected Ghana wetlands(出所:The Guardian)
UK brands found in ‘fast fashion graveyard’ in African conservation area(出所:unearthed)