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ファッション, ストーリー|2025.06.03

都市鉱山を活用し、環境と透明性に向き合うジュエリーの新常識。「リファインメタル」プロジェクトとは?

国内に眠っている資源を再活用した貴金属をサステナブルかつトレーサブルなジュエリー素材として普及させることを目指す「リファインメタル」プロジェクト。2018年にジュエリーブランド「hum(ハム)」の取り組みとして始まり、2021年に一般社団法人化。今では認証制度の整備やクリエイターとの協業を通じ、環境とサプライチェーンの透明性に向き合う活動へと発展している。その理念と取り組みについて、リファインメタル協会の貞清氏と小野氏に話を聞いた。

原稿:藤井由香里

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都市鉱山を価値ある資源に。リファインメタルプロジェクトのはじまり

「リファインメタル」とは、使用済みのスマホや電子機器、ジュエリーなどいわゆる「都市鉱山」に含まれる貴金属を再精錬し、純度を高めて再利用した素材のこと。日本はこの都市鉱山資源が豊富で、リサイクル技術も世界トップクラスだが、これまで明確な定義やトレーサビリティの仕組みがなかった。

「リサイクルやエシカルという言葉が多すぎて、消費者は何を信じて選べばよいか分からない。だからこそ、定義と基準を明確にした『リファインメタル』という言葉で統一する必要がありました」(貞清氏)

この課題意識のもと発足したのが、「REFINE METAL PROJECT」だ。

当初はジュエリーブランド「HUM(ハム)」の社内プロジェクトとして始まったが、「業界全体を変えるには基盤から整える必要がある」との想いから、産業技術総合研究所と連携してガイドラインの策定に着手。2021年には一般社団法人化され、現在は以下の5つの柱を軸に活動を広げている。

①リファインメタル認証制度
適切なプロセスで生産された製品に専用マークを付与し、消費者が一目で判断できる仕組みを整備中。製品単位・企業単位の両方で認証取得が可能な仕組みを目指している。

②ガイドラインの策定
素材の定義や取り扱い表示のルールを明確化し、誤認や不透明な流通を防止。業界全体の基準となることを目指している。

③トレーサブルなサプライチェーン構築
原料の回収から製品化までの流れを可視化し、関わるすべてのプレイヤーが顔の見える関係性でつながる流通網を整備。

④調査・研究活動
産業技術総合研究所などと連携し、CO₂削減などの環境効果を数値で証明する研究を進行中。第三者機関によるLCA(ライフサイクルアセスメント)データの整備にも取り組んでいる。

⑤啓発・発信活動
リファインメタルの価値や意義を広く伝えるため、展示会やブランドとの協業、教育的コンテンツを通じた発信を行う。

ジュエリーを“掘る”から“循環”へ。リファインメタルという提案

リファインメタルプロジェクトは、ジュエリー業界が抱える環境負荷と流通の不透明さに対する問題意識から生まれた。

きっかけは、東京オリンピック・パラリンピックへ向けた2017年の「みんなのメダルプロジェクト」や、2018年のショパールが発表した「エシカルゴールド」など。当時注目されたこれらの取り組みも、金属の出どころや使われ方が不透明で、特定ブランドによるエシカルの独占や、用語の乱立による消費者の混乱が課題としてあった。

「エシカルを謳いながら、一部のブランドしか使えない。それでは業界全体の持続可能性にはつながらないと感じたんです」と語るのは、本プロジェクトの発起人であり、現在リファインメタル協会を運営する貞清氏だ。

こうした課題に向き合うべく、プロジェクトは2018年頃から都市鉱山由来の貴金属のみを使った製品開発を開始。国内の精錬会社と連携しながら、再利用資源を活用した新しいサプライチェーンの構築に取り組み始めた。

「新たに鉱山を掘るよりも、国内に眠る資源を活かす方が環境負荷ははるかに小さい。しかも、日本は都市鉱山の埋蔵量もリサイクル技術も世界屈指です。『結婚指輪は新品がいい』という声が多いですが、それが本当に鉱山由来なのか、再利用なのかは明確ではありません。むしろ自然を壊さずに生まれ変わった素材こそ、今選ばれるべきではないでしょうか」(貞清氏)

再利用によって、環境への負担だけでなく、強制労働など人権リスクも回避できる。実際、2022年にドイツで施行された人権デューデリジェンス法をはじめ、サプライチェーンの透明性は国際的な基準になりつつある。リファインメタルは、こうした時代の要請にも応える新たな素材として注目されている。

リサイクルでもエシカルでもなく、“リファインメタル”

プロジェクトでは、「リサイクル」や「エシカル」といった曖昧な言葉に代わり、再精錬された都市鉱山由来の金属を「リファインメタル」と定義。誰もが正しく選べる基準づくりを進めている。

「言葉が統一されていないと、消費者も作り手も判断に困ります。だからこそ、リファインメタルという明確な名称とルールが必要でした」(貞清氏)

この定義に基づき、産業技術総合研究所と連携して使用ガイドラインを作成。現在はリファインメタル協会がその基準を管理し、参加ブランドへのサポートやアドバイスも行っている。

認証制度の整備と、ジュエリー産業の未来に向けた土台づくり

プロジェクトの最終目標の一つが、信頼性の高い認証制度の確立だ。
「リファインメタル認証」制度は、ジュエリーに使用される金属が間違いなくリファインメタルであること、そして環境や人権に配慮した適切なプロセスを経て生産されていることを第三者の立場で保証するもの。
精錬から金属加工、製品加工に至るまでの全工程において、リファインメタルが正しく取り扱われているかを確認し、すべての工程をクリアした製品には認証マークが刻印される。さらに、そのジュエリーはリファインメタル協会のデータベースに登録され、トレーサビリティが担保される仕組みとなっている。

「最終的には、トクホマークのような認証ロゴを消費者庁に登録し、製品や企業が一定基準を満たしていることを明確に示したいと考えています。それが輸出のハードルを下げ、国際展開の後押しにもなります」(貞清氏)

現在は、第三者機関による監査体制の構築も進行中だ。鉱山由来の金属と、都市鉱山から再生されたリファインメタルとを明確に区別し、消費者が選択できる社会の実現を目指している。

都市鉱山を活かした素材流通、明確な基準、そして透明なサプライチェーン。リファインメタルプロジェクトは、ジュエリー業界の未来に向けて、持続可能な新しい常識を着実に築きつつある。

創造性と共感で広がる、クリエイターとの協業

リファインメタルプロジェクトのもう一つの柱が、クリエイターとの協業だ。その目的は、製品そのものの魅力を伝えるだけでなく、その背景を伝えることにある。

「僕らが何を作ったかより、『なぜ作るか』を知ってもらいたかったというのが第一にありました。現状を知らない人にとって、少しでも入り口になればと思ったんです」(小野氏)

今回協力を依頼したのは、創造性と社会課題への共感力を併せ持つ3名の表現者たち。榮倉奈々氏が手がける「newnow」、アーティストの三浦大地氏、アートディレクターの山崎晴太郎氏が参加した。

3人の表現者と紡いだ、それぞれのリファインメタル

「本来、僕らは認証制度の構築を主とする存在です。でも、協業するブランドの多くは規模が小さく、制作のインフラが整っていないケースが多い。だから今回は、素材の手配から生産体制の構築まで、協会が伴走しました」(小野氏)

企画には半年以上をかけ、アーティストとの対話と試作を重ねて完成度を高めていった。協会がプロジェクト全体を統括し、それぞれの感性がリファインメタルに投影された。

newnow 榮倉奈々|スタイルの延長にある、実用性と美しさ

PHOTOS:AKITO KATO

榮倉氏がスタイリストの上杉美雪氏と手がけるブランド「newnow」では、ファッションとの親和性を意識したジュエリーを展開。日常使いしやすいピアスやネックレス、存在感あるリングまで、ブランドの世界観を反映したフルラインアップを1年かけて制作した。

三浦 大知|自らの世界観を、立体で可視化

アーティスト・イラストレーターとしても活動する三浦氏は、自作の絵をモチーフにしたウェアラブルアートを制作。鳥やタロットカードなど、親しみやすく遊び心あるジュエリーは幅広い層に支持された。

山崎 晴太郎|“循環”をテーマに、紙を金属へと生まれ変わらせる

山崎氏は、リファインメタルの循環性に着目し、紙を金属に変える鋳造手法を採用。紙にロウを染み込ませて石膏で型取りし、焼成後に金属を流し込むという手法で、「紙が金属に変わる」という変換のプロセスそのものが作品のメッセージとなった。

3人の作品は、伊勢丹サローネ(六本木)で開催されたイベントで発表された。

「このような実績を残し、環境やトレーサビリティの話をメディアで取り上げてもらう。それが今回の目的でした。すべてを伝えるのは難しいけれど、知るきっかけになる。そう思って踏み出しました」(小野氏)

協業という手法を通じて、素材の背景にあるストーリーを伝えるこの試みは、静かに、しかし確実に広がりを見せている。

持続可能で公正なジュエリー産業に向けて

リファインメタルプロジェクトは、日本のジュエリー産業に新たな可能性を示す試みとして注目されている。その背景には、現状への強い危機感がある。

「このままでは、日本のジュエリー産業は大手2~3社を残して消滅しかねません。トレーサビリティの基準も制度も整っておらず、海外に輸出するにも大きな壁があるのが現状です」。(貞清氏)

実際、グローバル市場では環境・人権への配慮や素材の透明性が厳しく問われる中、明確な基準や認証がない日本の製品は競争力を失いつつある。例えば、国際的なジュエリーブランドであるTiffany(ティファニー)1社の売上が日本のジュエリーメーカー全体を上回るとも言われている。

こうした状況に対し、リファインメタルプロジェクトは国内の都市鉱山を活かした持続可能な素材の流通を確立し、国際基準に準拠した認証制度の導入を目指すことで、業界の構造を根本から立て直そうとしている。

すでに一部ブランドでは、アパレルとの越境的な取り組みや、異業種との協業も始まっている。また、アーティストや小規模ブランドに対しては製造支援も行い、それぞれが独自に発信できる柔軟な形式も視野に入れているという。

「これからは、場所や形式にとらわれず、クリエイター自身が集客して発信できる柔軟な形式もあり得ると考えています。協業するブランドのスタイルに合わせて展開方法を変えていけるのが理想ですね」(貞清氏)

今後は、実績の積み重ねを通じて、大手ジュエリーブランドの参加も見据えている。さらに、2025年6月から2026年1月にかけては、小学生向けのワークショップも予定。身の回りにあるスマートフォンや家電にも貴金属が含まれていることを伝えながら、都市鉱山という資源の存在や、リサイクルの大切さを楽しく学べる機会にしたいという。

「こうした活動を通して、資源を大切にする感覚や視点を自然と身につけてもらえたら嬉しいです」(貞清氏)

未来の選択肢としての“リファインメタル”

Screenshot


リファインメタルプロジェクトでは、企業や個人からの参加・連携を広く受け入れている。興味を持った人は、公式サイトの問い合わせフォームから具体的な相談が可能だ。

「私たちは認証機関に近い立場ではありますが、今は個人やブランドの立ち上げをサポートしています。ヒアリングを重ねながら、必要に応じてオンラインでの面談や入会のご案内も行っています」(貞清氏)

今後はイベントや展示を通じて築いたネットワークも活用しながら、オンラインプラットフォームの整備や他分野との連携にも力を入れていく方針だ。初めて関わる人でも参加しやすい仕組みが整っている。

「すでに小さなブランドやクリエイターとの実績があるからこそ、新しい参加者にとっての“入り口”にもなれる。私たちは、小さくても確かな基準を積み上げながら、次の世代へバトンをつなげたいと考えています」(貞清氏)

リファインメタルプロジェクトは、サステナブルな素材の普及を通じて、日本のジュエリー産業に新しい未来を提示している。その歩みに、これからも注目していきたい。

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ライター/エディター
藤井由香里
ファッションメディアのライター/エディター、アパレル業界での経験を経て、2022年に独立。現在は、ファッション、美容、カルチャー、サステナビリティを中心に執筆・編集を手がける。Webや紙媒体のコンテンツ制作に加え、広告制作、コピーライティング、翻訳編集など、多岐にわたるプロジェクトに携わる。

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