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アースオーバーシュートデーとは?
アースオーバーシュートデーの定義
アースオーバーシュートデーとは、その年の1月1日から数えて、人類が地球の1年分の資源を使い切ってしまう日のことである。地球が1年かけて再生できる資源量に対して、私たち人類はそれよりも早いペースで資源を消費している。このため、オーバーシュートデーを過ぎると、残りの年は「借金生活」のような状態、つまり未来の世代から資源を前借りしているのだ。例えるなら、1年分の給料を年の途中で使い切ってしまい、残りの月は借金して生活しているようなものである。
具体的には、森林が吸収する二酸化炭素量、森林資源、漁業資源、農作物といった地球の生態系サービス(バイオキャパシティ)を、人類がどれだけ消費しているか(エコロジカルフットプリント)を計算し、消費量が供給能力を超過する日を特定する。この概念は、国際的なシンクタンクであるグローバル・フットプリント・ネットワーク(Global Footprint Network)によって提唱され、毎年発表されている。

アースオーバーシュートデーを理解することは、私たち人間が地球環境に与えている影響の大きさを具体的に認識し、より持続可能な社会やライフスタイルへと転換していくための重要な指標となる。この日を少しでも遅らせるためには、資源の効率的な利用、再生可能エネルギーへの大胆な移行、そして私たち一人ひとりの消費パターンの見直しなど、社会全体での多角的な取り組みが求められる。アースオーバーシュートデーは、地球の健全性を示すバロメーターであり、私たちに持続可能な未来への行動を促す警鐘なのである。
参照:Global Footprint Network (https://www.footprintnetwork.org/)
エコロジカルフットプリントとは
エコロジカルフットプリントとは、人間活動が地球環境に与える負荷の大きさを、資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な土地面積として示した指標である。具体的には、私たちが消費する食料、木材、繊維などの資源を生産するために必要な農地、牧草地、森林、漁場などの面積と、化石燃料の燃焼などによって排出される二酸化炭素を吸収するために必要な森林面積を合計して算出される。
このエコロジカルフットプリントを、地球が1年間に供給できる生物資源量(バイオキャパシティ)と比較することで、私たちの生活が地球の許容範囲内にあるのか、それとも超過しているのかを評価できる。エコロジカルフットプリントは、個人レベルから都市、国、そして全世界レベルまで様々な規模で計算することが可能だ。この指標を把握することで、私たちの社会やライフスタイルが持続可能かどうかを客観的に判断し、改善策を講じるための具体的なヒントを得ることができる。例えば、食生活の見直し(食品ロスの削減、地産地消)、エネルギー消費の抑制、公共交通機関の利用などが、エコロジカルフットプリント削減に繋がる行動となる。
グローバル・フットプリント・ネットワークの役割
グローバル・フットプリント・ネットワーク(Global Footprint Network)は、アースオーバーシュートデーの算出と発表を通じて、持続可能な社会の実現を目指す国際的な非営利組織である。彼らは、各国・地域のエコロジカルフットプリントとバイオキャパシティを詳細に分析し、科学的データに基づいてアースオーバーシュートデーを特定している。
この組織の主な役割は以下の通りである。
- アースオーバーシュートデーの算出・発表: 毎年、世界全体および国別のアースオーバーシュートデーを公表し、地球資源の消費状況を可視化する。
- 政策提言:各国政府や国際機関に対し、持続可能な政策の導入を働きかける。
- 企業・個人への啓発: 持続可能性に関する情報提供やツール(個人のフットプリント計算ツールなど)の提供を通じて、意識向上と行動変容を促す。
- 研究・分析: エコロジカルフットプリントとバイオキャパシティに関する科学的研究を推進し、データの精度向上に努める。
グローバル・フットプリント・ネットワークは、科学的根拠に基づいた情報提供を通じて、政府、企業、市民社会といった多様な主体が連携し、地球規模での持続可能性向上に取り組むことを支援している。彼らの活動は、アースオーバーシュートデーを遅らせ、次世代のためにより健全な地球環境を残すための国際的な羅針盤となっている。
参照:Global Footprint Network (https://www.footprintnetwork.org/)
アースオーバーシュートデー 2024年の状況と日本の位置づけ
世界のアースオーバーシュートデー 2024年の結果
グローバル・フットプリント・ネットワークによると、2025年の世界のアースオーバーシュートデーは8月1日であった。これは、2025年において、人類が年初からわずか214日間(約7ヶ月)で、地球が1年かけて再生できる全ての生態系資源を使い果たしたことを意味する。残りの約5ヶ月間は、地球の自然資本(貯蓄)を食い潰し、未来の世代の資源を前借りして生活している状態となったのだ。 この日付は、依然として私たち人類の資源消費スピードが地球の再生能力を大幅に上回っている厳しい現実を示している。アースオーバーシュートデーを遅らせるためには、地球規模でのエネルギー消費効率の改善、食料廃棄の大幅な削減、そして再生可能エネルギーへの移行加速などが喫緊の課題である。
参照:Global Footprint Network – Earth Overshoot Day (https://overshoot.footprintnetwork.org/)
日本のアースオーバーシュートデー 2025年の結果
2025年の日本のアースオーバーシュートデーは、世界平均よりもさらに早く、5月8日であった。これは、もし世界中の人々が日本人と同じような生活様式(資源消費パターン)で暮らした場合、わずか128日間で地球1年分の資源を使い果たしてしまう計算になることを示している。つまり、日本は地球約2.8個分の資源を消費している状況にある(2025年時点のデータに基づく)。
この事実は、日本の資源消費量がいかに多く、国内の生態系サービス供給能力をはるかに超えているかを明確に物語っている。エネルギー消費、食料輸入への高い依存度、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムなどが背景にあると考えられる。私たち日本人がライフスタイルを見直し、より持続可能な社会システムへと転換していく必要性が強く示唆されている。具体的には、省エネルギーの徹底、再生可能エネルギーの導入拡大、リサイクルの推進、食品ロス削減への意識向上、そして地産地消の促進などが重要な取り組みとなる。
参照:Global Footprint Network – Country Overshoot Days (https://overshoot.footprintnetwork.org/newsroom/country-overshoot-days)
参照:エコロジカル・フットプリント・ジャパン ( https://ecofoot.jp/2024/05/15/20240516/)
過去のアースオーバーシュートデーの推移と2025年への展望
アースオーバーシュートデーは、1970年代初頭には12月下旬であったが、その後、残念ながら年々早まる傾向が続いてきた。これは、世界の人口増加、経済成長に伴う資源消費の拡大が主な原因である。 グローバル・フットプリント・ネットワークの報告によると、過去の推移は以下のようになっている。
- 1971年: 12月25日
- 2000年: 9月23日
- 2010年: 8月6日
- 2018年: 8月1日
- 2019年: 7月29日
- 2020年: 8月22日(新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響で一時的に遅延)
- 2021年: 7月30日
- 2022年: 7月28日
- 2023年: 8月2日
- 2024年: 8月1日
近年は、2020年のパンデミックによる経済活動の一時的停滞でわずかに遅れたものの、依然として8月上旬頃で推移しており、持続可能なレベルには程遠い状況が続いている。 この状況を改善するためには、これまで以上の野心的な対策と、その着実な実行が不可欠である。技術革新、政策の強力なリーダーシップ、そして私たち一人ひとりの意識と行動の変革を組み合わせることで、アースオーバーシュートデーを遅らせることが可能となる。
2025年のアースオーバーシュートデーについては、この記事の執筆時点(2025年5月)ではまだグローバル・フットプリント・ネットワークから公式発表されていない。例年、6月頃に発表されることが多い。2025年の結果がどうなるか、そしてそれを改善するためにどのような努力がなされるべきか、引き続き注目していく必要がある。 過去の推移を分析し、成功事例と課題を学ぶことで、より効果的な戦略を策定し、実行していくことが求められる。アースオーバーシュートデーの動向は、私たちが持続可能な未来に向けてどれだけ前進できているかを示す重要なバロメーターなのである。
参照:Global Footprint Network – Past Earth Overshoot Days
(https://overshoot.footprintnetwork.org/newsroom/past-earth-overshoot-days/) (過去のデータは毎年再計算されるため、最新のデータセットに基づく情報を参照することが重要である点に注意が必要である。)
アースオーバーシュートデーが早まる原因
資源の過剰消費
化石燃料への過度な依存や、大量生産・大量消費を前提とした社会経済システムが、資源の過剰消費を招く最大の原因である。私たちは、日々の生活や経済活動において、エネルギー、食料、工業製品などを大量に消費し、その多くが比較的短期間で廃棄されている。この過剰な消費行動は、地球の限りある資源を急速に枯渇させ、生態系の破壊、環境汚染の深刻化、そして気候変動の加速を引き起こしている。
特に、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料への依存は、大気中の二酸化炭素濃度を著しく上昇させ、地球温暖化を進行させる主要因となっている。また、大量生産・大量消費モデルは、製品のライフサイクル全体(資源採掘、製造、輸送、使用、廃棄)を通じて大量のエネルギーと資源を消費し、多量の廃棄物を生み出す。資源の過剰消費を抑制するためには、再生可能エネルギーへの転換、製品の耐久性向上や修理しやすい設計(サーキュラーエコノミーの推進)、リサイクルの高度化、そして何よりも私たち消費者の意識改革と行動変容が不可欠なのである。
森林破壊と土地利用の不適切な変化
森林破壊や、農地拡大・都市開発などによる土地利用の不適切な変化は、地球の資源再生能力(バイオキャパシティ)を直接的に低下させ、アースオーバーシュートデーを早める深刻な原因となっている。森林は、光合成を通じて二酸化炭素を吸収し、酸素を供給するという極めて重要な役割を担っている。しかし、農地転用、違法伐採、プランテーション開発などによる森林破壊は、このCO2吸収源を失わせるだけでなく、そこに生息する多種多様な生物のすみかを奪い、生物多様性の大幅な損失を引き起こす。国連食糧農業機関(FAO)の「世界森林資源評価2020」によると、2015年から2020年の間に年平均1000万ヘクタールの森林が失われている。
参照:国連食糧農業機関(FAO)「世界森林資源評価(Global Forest Resources Assessment)」 (最新の報告書をご参照ください)
また、湿地や草地の農地化、都市の無秩序な拡大といった土地利用の変化も、土壌の劣化、水源涵養能力の低下、生態系の分断などを招き、地球全体の生態系サービスを劣化させる。森林破壊と土地利用の不適切な変化を抑制するためには、持続可能な森林管理の徹底、劣化した生態系の回復・再生、計画的な土地利用政策の策定と実施が急務である。これらは、地球の資源再生能力を維持・向上させ、アースオーバーシュートデーを遅らせるための根幹的な対策と言える。
人口増加
世界人口の増加は、食料、水、エネルギー、居住地など、あらゆる資源への需要を増大させ、地球環境への負荷を高める基本的な原因の一つである。国連の推計によると、世界人口は2022年に80億人に達し、今後も増加傾向が続くと予測されている(例えば、「世界人口推計2022年版」では2050年に約97億人、2100年には約104億人に達するとされている)。
参照:国際連合(UN)「世界人口推計(World Population Prospects)」 (最新の報告書をご参照ください)
人口が増えれば、それだけ多くの食料を生産し、水を供給し、エネルギーを消費する必要が生じる。これにより、農地の拡大による森林破壊、水資源の枯渇や汚染、化石燃料消費の増加による温室効果ガス排出量の増大などが加速し、地球の生態系への圧力はますます強まる。人口増加が地球環境に与える負荷を緩和するためには、一人当たりの資源消費量を削減する努力(特に先進国における)、持続可能な農業技術の普及、水資源の効率的な管理と再利用、再生可能エネルギーへの移行を加速させることが不可欠である。また、教育の普及やジェンダー平等といった社会開発を通じて、持続可能な人口動態への移行を支援することも長期的な視点からは重要となる。
アースオーバーシュートデー解決策:私たちにできること
企業ができること:持続可能なビジネスモデルへの転換
企業は、その経済活動を通じて環境と社会に大きな影響力を持つため、アースオーバーシュートデーを遅らせる上で極めて重要な役割を担っている。企業が取り組むべき解決策は、事業活動全体を持続可能なものへと転換することである。具体的には以下のような取り組みが挙げられる。
- 再生可能エネルギーの導入・省エネルギー化: 工場やオフィスで使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えたり、徹底した省エネルギー設備を導入したりすることで、カーボンフットプリントを大幅に削減できる。
- 資源効率の向上とサーキュラーエコノミーの実践: 製品の設計段階から耐久性を高め、リサイクルしやすい素材を選び、廃棄物を最小限に抑える「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」のビジネスモデルを構築する。例えば、製品の回収・再資源化システムの確立、シェアリングサービスやサブスクリプションモデルの導入などが考えられる。
- サプライチェーン全体の持続可能性向上: 原材料の調達から製造、輸送、販売、廃棄に至るサプライチェーン全体で、環境負荷の低減や人権尊重に取り組む。持続可能な認証を受けた原材料の利用や、取引先企業への働きかけも重要である。
- 環境配慮型製品・サービスの開発: 環境負荷の低い製品や、顧客の持続可能な行動を支援するサービスを開発・提供することで、市場全体のグリーン化をリードする。
- 情報開示と透明性の確保: 環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関するESG情報を積極的に開示し、ステークホルダーとの対話を通じて経営の透明性を高める。
近年、多くの企業がSDGs(持続可能な開発目標)達成への貢献を経営戦略に組み込み、具体的な目標を設定して取り組みを進めている。こうした企業の積極的な変革は、経済的価値と社会的価値の両立を目指すものであり、アースオーバーシュートデーを遅らせるための強力な推進力となるだろう。
個人ができること:ライフスタイルの見直し
アースオーバーシュートデーを遅らせるための解決策は、私たち一人ひとりの日々の選択と行動の中にも数多く存在する。ライフスタイルを見直し、環境に配慮した行動を積み重ねることが、地球全体の負荷を減らすことに繋がるのだ。
- 省エネルギーの実践: 家庭でのこまめな消灯、冷暖房の適切な温度設定、省エネ家電への買い替え、公共交通機関の利用や自転車・徒歩への切り替えなど、エネルギー消費を抑える工夫を心がける。
- 食生活の見直し: 食品ロスを減らす(食べ残しをしない、計画的な買い物)、地元でとれた旬の食材を選ぶ(地産地消)、肉食を減らし植物性食品を多く取り入れるなど、食に関わるエコロジカルフットプリントを意識する。例えば、世界で生産される食料の約3分の1が廃棄されているという報告もある(FAO「世界の食料ロスと食料廃棄」)。 参照:国連食糧農業機関(FAO)「世界の食料ロスと食料廃棄(Food Loss and Waste)」
- 賢い消費(Reduce, Reuse, Recycle): 本当に必要なものか考えてから購入する(Reduce)、修理して長く使う、再利用できるものを選ぶ(Reuse)、分別を徹底しリサイクルに出す(Recycle)という3Rを徹底する。ファストファッションのような大量消費を前提としたものより、長く使える質の良いものを選ぶことも大切である。
- 環境配慮型製品の選択: エコラベルやサステナブル認証のついた製品を積極的に選ぶ。
- 自然とのふれあいと環境学習: 自然に親しみ、環境問題について学ぶことで、地球への感謝の気持ちや保全意識を高める。
これらの行動は小さなことのように思えるかもしれないが、多くの人が実践することで、社会全体として大きなインパクトを生み出す。まずは自分にできることから始め、楽しみながら持続可能なライフスタイルを築いていくことが重要である。
政策の推進:政府の役割
政府は、アースオーバーシュートデーを遅らせ、持続可能な社会を実現するための解決策として、社会全体の仕組みを変革する政策を強力に推進する責任がある。企業や個人の努力を後押しし、社会システム全体を持続可能な方向へと導くための法整備や制度設計が求められる。
- 再生可能エネルギー導入の加速: 再生可能エネルギーの導入目標を高く設定し、固定価格買取制度(FIT)の見直しや送電網の整備、技術開発支援などを通じて、化石燃料からの脱却を加速させる。
- 炭素価格付け(カーボンプライシング)の導入: 炭素税や排出量取引制度などを導入し、CO2排出に経済的なコストを課すことで、企業や個人の排出削減努力を促す。
- 循環型経済への移行促進: 資源効率の向上、廃棄物削減、リサイクル率向上に向けた法制度の整備や補助金制度を設ける。製品のライフサイクル全体での環境負荷を低減する企業の取り組みを支援する。
- 持続可能な都市・交通システムの構築: コンパクトシティの推進、公共交通機関の利便性向上、自転車インフラの整備、ゼロエミッション車の普及促進などを行う。
- 環境教育の推進と国民的意識の醸成: 学校教育や社会教育を通じて、環境問題や持続可能性に関する知識と意識を高める。
- 国際協力の強化: 地球環境問題は一国だけでは解決できないため、国際的な枠組み(パリ協定など)のもとで他国と協調し、途上国への技術支援や資金援助なども積極的に行う。
政府が明確なビジョンとリーダーシップを示し、長期的視点に立った実効性のある政策を推進することで、アースオーバーシュートデーを大幅に遅らせる道筋をつけることができる。
まとめ:持続可能な未来のために
アースオーバーシュートデーは、地球が持つ資源の限界と、私たちの消費活動の現状を明確に突きつける警鐘である。この日が年々早まっている(近年は横ばい傾向も見られるが依然として早い時期にある)という事実は、私たちが地球1個分で持続可能な生活を送るためには、根本的な変革が必要であることを示している。
しかし、この課題は乗り越えられないものではない。企業がビジネスモデルを持続可能な形へ転換し、私たち一人ひとりが日々のライフスタイルを見直し、そして政府が実効性のある政策を力強く推進することで、アースオーバーシュートデーを未来へと押し戻すことは可能である。「アースオーバーシュートデー 2024年」の結果を真摯に受け止め、「アースオーバーシュートデー 日本」の現状を改善し、「アースオーバーシュートデー 原因」を理解した上で、「アースオーバーシュートデー 解決策」を着実に実行していくことが、2025年以降のアースオーバーシュートデーを遅らせ、地球と共生する社会を実現するための道となる。私たち一人ひとりが当事者意識を持ち、それぞれの立場で責任を果たすことで、より豊かで持続可能な未来を次世代へと繋いでいこう。