天然素材でありながら、ぱっと気持ちが明るくなるもの。自分が本当に欲しかったもの。
ー2019年のブランド立ち上げ当初はどんな思いがありましたか?
仕事でとても疲れていた時期に、ニュージーランドで自然や暮らしに癒された経験がありました。人と自然環境が調和した暮らしで、理想的だと感じたことがブランドの出発点になっています。“Tui”は鳥、“Kauri”はニュージーランドにある巨大樹で、自分の中で自然に浮かびました。自分の名前にも「樹」という字が入っていることもあり、この二つの言葉を組み合わせて「TuiKauri」という名前にしました。
アロマには以前から興味があり、表参道のニールズヤードのスクールにも通ったことがあります。よく知っているアロマを使って何かつくれたらと考え、アロマキャンドルとバスソルトを最初につくりました。男女問わず、年齢問わず、多くの方に使っていただきながら、ニュートラルな状態に戻って、また明日から頑張ろうと思えるような、自分へのギフトのような存在になればという思いで、「Moon」と「Sun」という陰と陽のブレンドから始めました。それぞれにポエムを添えて販売したんです。
ーアンダーウェアをきっかけにアパレルへと展開されていますが、その背景にある思いや、素材選びの視点について教えてください
コロナのステイホーム期間中、家で過ごす時間が長いからこそ、明るく健やかに過ごしたいという気持ちがありました。現代は電磁波に常に晒されていたり、婦人病が2人に1人という勢いで増えていたりする時代。だからこそ、肌に直接触れるものには、使う素材や染料すべてにおいて天然であることを大切にしたいと考えました。
そして、天然素材でありながらも、家の中がパッと明るくなるようなヴィヴィッドな色使いのアンダーウェアをつくりたいと思ったんです。もともと自分自身が本当に欲しかったこともありますが、何よりも、皆さんに楽しんでもらえるものであればという思いがありました。オーガニックコットンの中でも超長綿のスビンコットンを使ったTシャツは、光沢があって高級感もあり、繰り返し着られるタフなアイテムです。冬でも着ている方はいらっしゃいますし、季節を問わず活躍してくれる素材だと思って選びました。

ー色鮮やかなウォッシャブルシルクを、天然染料でつくられているのが印象的です。素材や仕様にはどのような工夫があるのでしょうか?
ボタニカルダイでこれだけ鮮やかな色をシルクに出そうとすると、染色の過程で繊維が傷んでしまい、釜の中でシルクがボロボロになってしまうこともあります。販売する頃にはすでに使用感が出てしまうこともあるんです。
使っているのは、「シルクフライス」という非常に細い糸で編まれた生地で、繊細だからこそちぎれやすい面もあるのですが、その点もクリアできる編み方にしています。
シルクはあまり伸びないという印象があるかもしれませんが、この素材は化学繊維を使わなくても、しっかりと伸縮性があってフィットします。縫製にもこだわっていて、衣装の下に着ても響かず、実際に自分の仕事の現場でも着用しています。
また、婦人病や術後の方がストレスなく着られるように、ショーツはリバーシブルにしました。どちらを表にしても縫い目が肌に当たりにくく、糸もポリプロピレンではなく綿を使用しています。ゴムが肌に触れないような縫製にするなど、肌が敏感な方にも安心して着ていただけるよう、細部まで配慮しています。
ー天然染めや植物の力に注目した背景には、コロナ禍や女性の健康への意識の高まりの他、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
ボタニカルダイには、植物の持つ効能が色として現れているような面白さがあります。たとえば藍染には、ウイルスを寄せ付けないとされる成分が含まれていて、昔から日本で受け継がれてきた理由があるんだと知りました。天然染めには、フードダイや泥染めなどいろいろありますが、一般的には色落ちしやすいとかアンニュイな色のイメージが強いと思います。
でも、私が使っているのは、90%以上が天然成分で構成されている特殊な染料で、色落ちしにくく、しかも発色がとても良いんです。ひとつのラズベリーから、ブルーやベージュなど、まったく異なる色を抽出できるという点も魅力的で。植物と科学がうまく融合したような、自然をリスペクトしながら最新の技術を使っていることにも惹かれました。
生姜で染めるのは冷えを改善するためだったように、昔の人々は植物の効能を知って、肌に近いものに取り入れていたんですよね。ラズベリーにも女性にとって嬉しい効能があると言われていて、ファッションとして楽しめる可愛らしさと機能性の両面から、このテーマカラーを選びました。
ボタニカルダイはどうしても高コストになりますが、私のような規模だからこそ、挑戦できる部分もあると感じています。なるべく多くの方に届けたいという思いから、六本木でのポップアップに合わせて価格を見直し、セルフで準備を進め、信頼できる方々にも支えていただきながら、実現しました。


ポップアップで接客し、産地に足を運ぶ。よりよい循環の形を探して。
ーポップアップにご自身で立たれて、どのような発見がありましたか?
世代や性別を超えて、自由な感性で選んでくださる方が多いことに驚きました。たとえば、女性向けに作ったものを男性が選んだり、逆に女性があえてワイドなサイズを選んだり。決められた枠にとらわれず、直感で楽しんでくださっている感じがして、とても嬉しかったです。また、オンラインでは伝えきれないものづくりの背景を、直接お話しできるのも貴重な体験でした。俳優としての経験のあとに、こういう“バイト的な経験”をするというのは、普通とは逆の順番かもしれないけれど、ラウンジで仕事をしているような方が普通にお店に立っている私を見ても驚かず、自然に接してくださったのも嬉しかったです。まるで海外にいるような気分もして、自分にとっても手応えのある現場でした。
ーTuiKauriでは国産にこだわっています。その背景を教えてください。
今、TuiKauriが「日本製」であることに強くこだわっているのは、日本の生産者さんや技術者の方々を、少しでも支えたいという気持ちが根底にあります。ただ実際には、跡継ぎがいなかったり、生産が続けられなくなってしまう現場もあって、とても難しい課題です。せっかくある技術は、できる限り継承されてほしいし、そのために何かお手伝いできることがあるなら関わりたいとも思っています。一方で、国内生産はどうしてもコストが高くなってしまうこともありますし、海外の技術もどんどん進化してきている今、何が最善かという判断は、これからさらに問われていくと感じています。

ーファッションにおける環境問題について、どのように考えていますか?
「トゥルーコスト」というドキュメンタリーを観て、ラナプラザの崩壊事故を知ったとき、あまりにも過酷な環境で、安い賃金のもと働かされている人たちがいる現実に、強い衝撃を受けました。大量生産の裏で、誰かが苦しんでいる。その構造に対する違和感が、私の中にはずっとありました。
ただ最近では、そうした工場が一気に撤退してしまうことで、親が職を失い、子どもが学校に通えなくなり、治安も悪化するという、別の側面もあることを知りました。完全に否定するのではなく、現地の暮らしや教育を守りながら、生産を持続させるバランスの取り方があるのかもしれない。そう思うようにもなっています。
もう一つ衝撃だったのが、不要になった服の「寄付」の現実です。寄付すれば捨てていない、という認識があるかもしれませんが、実際は空輸されてゴミの山に積まれ、現地の人が化学繊維に囲まれて暮らしている。その映像が頭から離れません。
だからこそ、TuiKauriでは天然素材にこだわっています。たとえば、加古川にある日本毛織(NIKKE)さんの工場で見せていただいたウール製品は、海に沈めると自然に分解されて、跡形もなくなるんです。さらに、使い終わったウールから作る「ラナリン」という有機肥料は、花の色を鮮やかにし、野菜もおいしく育つ。そういう循環の気持ちよさって、すごく希望があると思います。
逆に、化学繊維は分解されずに海に流れ、やがて私たちが魚を通してそれを食べてしまうような連鎖もある。気にならないわけがありません。
TuiKauriの服も、最終的に捨てられることになるかもしれません。でも、有害物質を出さず、土に還るような素材であることは、環境への一つの答えだと信じています。
ーファッションカレンダーに沿ったリリースを行わないことは、ひとつの意思表示でもあるのでしょうか。
ファッション業界はどうしても「春夏・秋冬」のサイクルがあって、次々に新しいものを出して、セールで処分して、残れば廃棄という流れができてしまっています。でも、それでは結局、循環とは真逆の結果を生んでしまう。TuiKauriは、その流れから抜け出すためのブランドでありたいと思いますし、流行に乗るというよりも、タイムレスなものをつくるという考え方を大事にしています。
今はようやくその“入り口”に立ったという感覚です。ただ、継続していくというのはまた別のエネルギーが必要で。たとえゆっくりのペースであっても、無理のないサイクルで、きちんと回していく。そういう折り合いをつけながら、長く続けられるかたちを模索していきたいと思っています。

いいものづくりは、日々の暮らしから自然に生まれる。だから日常の細やかな声にもっと耳をすませたい。
ーインスタグラムなどを拝見していると、日々の暮らしの中にある手触りや感覚をとても大切にされている印象を受けます。服づくりにも、そうした感性が反映されているのでしょうか?
毎日のように無意識で選んでいる衣食が、それで本当にいいのか。何を買うかによって、どんな企業を応援するかが決まってくるということもありますよね。忙しさや面倒くささに流されて、つい手軽なものを選んでしまう自分の行動も、コロナ禍をきっかけに見直すようになりました。
たとえば、宅配を頼むのではなく、玄米を寝かせておけばすぐに食べられるし、寝かせるほど身体にいい。山芋さえあれば、とろろご飯がすぐにつくれる。“便利だけど不便”みたいなことを、一つひとつ見直し、丁寧に選んでいく暮らし。結果よりも、どんな過程を経て、どんな時間をたどってきたのか。今はそのプロセスの方に大切さを感じています。
ー発酵や分解に時間が必要なように、表現や人間関係にも、時間を経たからこそ生まれる厚みがあると思います。「時間」を大切にする姿勢が、ものづくりや生き方全体に通底しているように感じます。
いいものづくりって、その時々の生活のなかで自然に生まれてくるものなので、無理に進める必要はないと感じています。
たとえば夫が、バンド活動のあとにソロのレコーディングに入る予定だったんですが、ひょんなことから子犬を飼うことになって、今はその世話に明け暮れているんです。結果として制作は後ろ倒しになっていますが、私はその時間が決して無駄になるとは思っていません。本人に理由を聞いてみたわけではないけれど、もし作りたいという気持ちが整っていないのだとしたら、それは今じゃないということ。作る側が納得していないものを届けるのは、受け取る側にも失礼だと思うんです。
年齢を重ねるにつれて、少しずつ図太くなってきたのかもしれないけれど、それでいいと思えるようになった。みんな人に合わせすぎてしまっている気がします。自分が無理をすると、相手はそのことに気づかないまま加害者のような立場になってしまう可能性もある。それもまた、健やかではないですよね。だからこそ、みんながストレスなく過ごせて、乖離のない関係でいられることが大切だと思っています。
TuiKauriも、そうした時間の感覚や人との関係性のあり方に寄り添うブランドでありたいと考えています。パーティのような場でのおしゃれも素敵ですが、TuiKauriはもっとライフスタイルに近い存在。自然のエネルギーと切り離せない日常の中で、長く愛用していただけるものを、丁寧に届けていきたいと思っています。

ー最後に、今後のヴィジョンを聞かせていただけますか
将来どうなりたいという明確な目標は特にありません。今はとにかく「今」を大切にしていて、目の前のことに集中している感覚です。
ブランドとしては「継続していく」という次のステップに入ったと感じています。これまでとは違う挑戦が必要ですし、自分自身の心や行動力も試されるタイミングでもある。それを前向きに捉えて、楽しみながら取り組んでいきたいと思っています。
服づくりには、「売れてから次を考える」といった現実的な流れもありますが、本当に届けたいものがあるなら、まずはそれを手に取りやすい形でかたちにしてみることが大事だと感じています。結果はあとからついてくるかもしれないし、こないかもしれない。でも、その一歩を踏み出すこと自体に意味があると思うんです。
ボタニカルダイのように魅力的だけどコストの高い技術を、どこまで使うのか。サイズ設計をどうすれば、性別や体型に関係なく心地よく着てもらえるのか。そうした細やかな部分に、もう少し耳をすませながら、柔らかく整えていくようなものづくりをしていきたい。TuiKauriを通して、お客さまに楽しんでもらいたいという気持ちはすごく強くあります。まずは、自分自身が楽しんでものづくりをしていくこと。そこを一番大事にしたいですね。