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ファッション, ストーリー|2025.05.15

洗濯で服の有害物質は除去できない?! 化学物質検査のプロに聞く、ファッションの安全を守るためにできること

服は肌に長時間触れるものだが、その安全性はあまり話題にならない。近年、海外ではウルトラファストファッションから有害物質が検出される事例が相次ぎ大きなニュースになっている。では、日本の規制や検査体制はどうなっているのだろう? 繊維製品の検査を行うカケンテストセンターに話を聞いた。

写真:unsplash

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SHEIN(Shift C評価:他の選択を)やTEMU(Shift C評価:他の選択を)の商品から高濃度の有害化学物質が検出されたというニュースが相次いでいる。有害化学物質検査のプロに、なぜこういった薬品が使用されるのか、なぜ高濃度で検出されるのか、そしてなぜ日本では話題にならないのか。専門家である一般財団法人カケンテストセンター業務部の高嶋部次長、竹内室長に、日本の繊維業界の有害物質管理の実状などを踏まえて詳しく話を聞いた。

一般財団法人カケンテストセンター:1948年から商工大臣(現経済産業大臣)の許可を受けて財団法人日本化学繊維検査協会として設立。現在は、化学繊維の検査に留まらず、繊維製品(衣料品・寝装品・インテリアなど)の評価、試験方法、評価方法等に係る調査研究及び標準化の推進など多岐に渡る検査・コンサルティング業務を行う。

繊維産業における有害化学物質検査のプロフェッショナル!カケンテストセンターとは?

ーーまずは、カケンテストセンターさんについて教えてください。

本部業務部 竹内 大歩室長(以下、竹内さん): 一言で申し上げますと企業と消費者の間に立って、もの作りをサポートしている会社です。カケンテストセンターと聞いてイメージして頂きやすいのは試験業務になりますが、試験だけをしてるわけではなく、企業がつくる製品の品質を保つための情報提供やコンサルティングなども行っており、より良いモノづくりをする為の総合サポートを行うサービス業となります。

具体的にいうと、様々な品質基準に対して企業の製品がどのような品質であるのかを試験を通して数値化し、ブランドのコンセプトに合った品質にするためのアドバイスといった全体的なコンサルティングをさせていただくといったことです。

他には、今回お話しする内容ですが、企業様が生産を依頼する協力工場に対する禁止有害物質リストといった基準作りのお手伝いなども行いますし、製品が生産され廃棄されるまでのライフサイクルの中で、どの工程でどのくらいCO2が排出されるのかを算定するといったサステナビリティに直結するようなサービスも行っています。

洗っても除去できない有害化学物質と人体への影響


ーー早速ですが、ニュースで話題になっているウルトラファストファッションの有害物質問題について伺いたいと思います。
まず、こういった有害化学物質は衣類の生産過程の中で、どのように使われているのですか?

本部業務部 高嶋部次長(以下、高嶋さん):まず、たびたびニュースに出ている「ホルムアルデヒド」という薬品は、非常に反応性が高くて便利な薬品なんです。 よくあるのは形態安定シャツですね。色々な加工方法がありますが、ホルムアルデヒドをガスで吹き付ける加工方法もあるんです。
水に非常に溶けやすい性質を持っているので一度洗ってしまえば、なくなったりもします。昔から使用されている薬品なので、昔はよく「ベビー服はよく湯通ししてから使え」とか言われていたんですが、それはのり剤や過剰な染料を落とすほかに、この薬剤を落とすことができるという意味も含まれていると思います。他にも接着剤の役割として使われたりもします。例えば胸に貼るワッペンとかTシャツのプリントなどがその例です。とはいえ、現在のベビー服はかなり厳しく管理されており、ホルムアルデヒドが含まれている商品はかなり少なくなりました。

ーー身近なものに使用されている可能性がすごく高いんですね。もう1つ話題になっている「フタル酸エステル(フタル酸系可塑剤)」はいかがでしょうか?

高嶋さん:「ホルムアルデヒド」と同じで、プリント・接着剤として使われたりするんですが、フタル酸エステルにはポリ塩化ビニルなどのプラスチックを柔らかくする作用があります。

ポリ塩化ビニルなどのプラスチックも本来はすごく硬いものですが、それに柔軟性を持たせるために使われるものなんです。

ーープラスチックということは、ポリエステルなどの化学繊維の加工に「フタル酸エステル」が使用されてる可能性があるんですね。

薬品の用途について理解できたところで、すぐに思い浮かぶのは「なぜこんなに高い数値で検出されるのか」という疑問です。

高嶋さん:意図的に使われているということが想定されます。フタル酸エステルのようなプラスチックを柔らかくする薬剤のことを「可塑剤」というのですが、この可塑剤が落ちてしまうと、プラスチックは元のカチカチの状態に戻ってしまいます。つまり、性能(柔らかさ)が落ちていないということは裏を返せば、その薬品はずっと生地の中に高い数値で残っているということになります。可塑剤は風合いを出すために必要ですが、フタル酸エステルが販売国にて規制物質となっている場合は、それを使用せずに、規制対象ではない代替可塑剤を使う必要があります。
なお、日本では、ホルムアルデヒドは、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」にて、繊維製品のうち下着類および乳幼児用(生後24か月以下)のおしめ等で規制されています。また、フタル酸エステルについては、繊維製品に規制はありませんが、「食品衛生法 おもちゃ又はその原材料の規格」にてフタル酸エステル6物質の規制があります。

ーー特定のブランドが悪い、〇〇産だから危険といった簡単な問題ではないことが少し分かってきました。
では、こういった有害物質は、サプライチェーン上のワーカーの健康や、私たち消費者の健康にどのような影響があるのでしょうか?

高嶋さん:非常にお答えするのが難しい質問ですね…毒性といってもすぐに発症する急性毒性のあるものと、長い期間を経て症状として現れる慢性毒性のものがあります。

先ほどお話しに出てきたホルムアルデヒドは、急性毒性が高くて肌に触れるとすぐ皮膚障害を起こす可能性があるので、危険性がわかりやすいです。

逆に、フタル酸エステルは、発がん性や生殖毒性などが指摘もされている物質ですが、自分の体に急には問題が出ないけれど、長期的に数十年後や次の世代とかにも影響が出てしまう可能性があるといった研究報告などもあります。
長期間を経て症状が出る薬品に対して、衣類だけに原因があるという因果関係は証明しづらい面がありますので、そもそも使われないようにするために、ブランド側が自主的にサプライチューン上で使用されている化学物質を管理していくことが大切です。

安価なものに潜む薬剤の危険性。日本の有害物質管理の実状とは?!

ーー正直、衝撃と恐怖で固まってしまいました。なぜ、まだこのような薬品を使うのですか?

竹内さん:一番メジャーな理由は、規制対象になっていない代替品よりもコストが安いからだと推測されます。

また、問題の背景として、繊維産業のサプライチェーンが長いことがあるかもしれません。糸・染色・生地・付属などを自前で生産せずに、それぞれの業者から生地や付属といった中間製品を買い付けてきて組み合わせるモノづくりでは、それぞれの中間製品にどんな薬剤を使っているのかを確認するのは、非常に難しいです。多くの手間やコストがかかることではありますが、自社のサプライチェーンを把握し、化学物質(薬品)を適切に管理することの重要性を認識し、管理・情報公開を徹底しているブランドも存在します。

ーーちなみに、こういった話題はよく近隣の国々やヨーロッパのニュースで取り上げられている印象で、SHEIN、TEMUの製品に含まれる有害物質についても、韓国の安全調査のニュースとして目にすることが多いです。日本の有害物質管理の実態は、どうなっているのでしょうか?

高嶋さん:日本にも1972年に制定された繊維製品に関する有害物質の規制があります。有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律です。厚生労働省が出しているリストなんですが、最近ニュースで話題になっているような物質が規制対象に含まれていない場合もあり、行政も規制を検討中です。

最近の事例でいうと、「特定芳香族アミンを容易に生成するアゾ染料」は世界的にどんどん規制かかった有害物質群の1つなのですが、このままでは日本に危険な商品が入ってきてしまう可能性があるので規制が始まっています。


竹内さん:また、この法律の一環で、行政が流通している商品の「抜き取り調査」を行い、日本の法律で規制されている物質について監視をしてます。

具体的な方法としては、日本の市場で売られてるものを保健所がピックアップして、保健所自身で検査したり、我々のような試験機関に検査に出して実状を調査しています。ただ、必ずしもすべての製品を調査できているわけではないので、有害物質が含まれた衣服が市場に流通してしまう可能性が無いとは言い切れません。

ましてや、オンラインショッピングで海外の工場やブランドから直接消費者に届けられるビジネスモデルの衣類は、保健所での調査も難しいです。

そんな中で、EUでは化学物質管理規制としてREACH規則(化学物質の登録、評価、認可、および制限に関する規制)など、ブランドの自主規制に頼らず国や地域がどんどん取り組みを先行していっています。EUで規制された化学物質を使用した製品は、EU域内で販売できないため、規制の無い国で製品が販売されることもありえますので、今後の動向が注視されます。

ーーこれは、本当に心配な事実です。最後になりますが、一般消費者である私たちにも衣類に有害化学物質が使用されているかを見分ける方法は、あるんでしょうか?

竹内さん:残念ながら、1つ1つの製品の見た目だけでは有害物質の有無を知ることはできません。素材に対しての安全性に関する認証もありますが、それはあくまで、その素材に対しての認証です。ファスナー・ボタンといった付属品を含めた製品全体に対して、安心安全なものであるかどうかは、ブランドのトレーサビリティに係る製品情報開示によって見分けることができます。

現在その取り組みが始まり広がりつつあり、ポリシーを持って有害化学物質の管理に関して自社のサイトで情報を公開しているブランドがありますので、そういうブランドの服を買うことが一つの方法だと思います。

最後に…

ここまで読んで、あなたはどんなことを感じただろうか。お隣、韓国では2000年代~2010年代初頭に家電衣料・コスメなどで有害化学物質に対する重大な健康被害が立て続けに起こったことを契機に、国が検査体制を強化し、衣料品や子ども用品への規制が段階的に強まっている。また、これらの事件により、有害物質に対する社会全体の感度が高く、違反企業名が公表されるなどメディア報道も活発だ。日本でも近年、重大な有害物質の健康被害が報道されたことによって、国が危険性を認知し、すぐに規制対象となった化学物質もある。ただ、あなたも何かが起こってからの対応では遅いと感じたのではないだろうか。

私たちが服を選ぶ際の判断基準として以下の3つを参考にしてみてほしい。

①小規模ブランドの中でも、サプライチェーンを追い、顔の見える関係でものづくりを行いながら、化学物質の管理・情報公開しているブランドを選ぶ。

②有害化学物質に関する第三者認証であるエコテックス(OEKO-TEX)認証が付いた製品を選ぶ

③アパレルやフットウェアの有害化学物質の規制に関する団体に加盟しているブランドから選ぶ。
例えば以下のような団体


しかし、昭和に制定された日本の繊維製品への有害物質の規制は海外に比べるとゆるやかで、ほとんどの国内ブランドは、この流れに取り残されているのが現状だ。安全なサプライチェーンを構築するには、時間もコストもかかる。もし私たち消費者が価格だけを重視して服を選び続ければ、ブランド側も有害物質の問題に真剣に取り組む余地を持てなくなってしまうだろう。ブランドは、常に消費者のニーズを敏感に感じ取っている。だからこそ、私たちがShiftCのようなレーティングサイトを活用して、総合的かつ客観的にブランドの取り組みを確認したうえで購入し、その姿勢を支持すること。そして「有害化学物質への対応が気になっている」といった声をブランドに届けることが、日本のファッション業界を前進させる原動力になるはずだ。

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Stories behind 代表/鎌倉サステナビリティ研究所 スタッフ
白石 綾
アパレルブランドで販売や商品企画に携わる中で業界の課題を実感。イタリア在住をきっかけに、特に環境問題との関係に強い関心を抱く。2020年にMilano Fashion Instituteでサステナブルファッションを学んで以来、強い当事者意識を持ち、業界の問題解決に向けた活動を続けている。

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