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GOTSはオーガニックテキスタイルの生産流通に設けられた「世界共通言語」
GOTSとは繊維製品を製造加工するうえでの国際基準で、コットン、ウール、麻、絹などの原料が環境的、社会的に配慮した方法で製品が作られていることを保証するものだ。
「2002年ごろまで、オーガニックテキスタイルについては各国でさまざまな基準がありましたが、繊維製品の生産過程で国境を超えてビジネスを行う際、世界の共通認証があれば業界内でも消費者の方々に対しても信頼を得られ、結果的にオーガニックテキスタイルが世界で流通することに貢献するのではないか、と考えたのが発端です。『日本オーガニックコットン協会』も含めた主要4団体がドイツで会議を開き、共通ルールを策定。2006年に認証が始まりました」
加工製造の全行程において環境的・社会的に配慮されていることが必要
GOTSとは「オーガニックコットン」の認証と誤解している人も多いが、GOTSは原材料の認証は行っていない。そもそもオーガニック繊維の栽培(飼育)は、 有機農業規格の範囲内にあり、その多くは各国政府によって規定されているもの。GOTSでは、オーガニック繊維の生産には、該当する生産範囲についての、IFOAM Familiy of Standardsでの認証が必要となる。糸や生地の認証だけでなく、紡績・編み・織り・染色・縫製その他加工の全工程にかかるものなのだ。つまりGOTS認証を受けているものは、製造の全てのプロセスにおいて厳しい基準をクリアしたものだといえる。
「使用する薬剤、水・エネルギー・廃棄物などの環境目標、動物実験禁止、トレーサビリティ、労働環境などさまざまな項目があります。混入リスクを避けるため、製造に使用する機械もGOTS認証該当製品と非該当製品で共用する場合、その都度洗浄するなどの条件もあります」。認証を受けた事業者は少なくとも年に一度監査委員が現場を訪れ、排水処理のチェックや労働者へのインタビューなども行い、労働者の人権が守られているかなどを審査するという。
ここまで厳しい基準を設けてオーガニックテキスタイルを徹底させようとするのは、生産者と消費者の保護のため、と松本さん。「オーガニックに生産された素材を使用すれば、農場の労働者と環境が守られますが、オーガニック繊維を使用するのは第一歩に過ぎません。GOTS認証製品を選ぶことを勧める一つの理由は、毒性の強い化学物質の使用が生産者と消費者の方々の健康を害するからです。製品が危険な化学物質を使用せずに製造されれば、工場の労働者と環境が守られ、最終製品に有害な残留物が存在しなければ、その利用者が守られます」
オーガニック転換中の農家を支える「オーガニック・イン・コンバージョン」認証ラベルも
GOTSのラベルグレードには2種あり、「Organic」と書かれたものは製品の95〜100%オーガニック繊維、「Made with Organic」とあるものは70〜95%が認証されたオーガニック繊維を使用していることを示す。「正式な表記には、ロゴに加えてライセンス番号や認証機関名も記載されています。タグを見つけたらチェックしてみてください」
さらに「Organic ◯% in conversion materials」という表示が添えられているものもある。インコンバージョンとは“転換中”という意味。「農家が有機農業への転換を決めても、従来の慣行農業からの移行には転換期間が必要です。最低期間は有機基準によって異なりますが、通常は2〜3年間かかります。この期間中に、化学残留物が分解され、土壌が生き返るのです。また、この期間に農家は有機認証要件に適合する方法を学び、土壌再生や化学的手段ではなく生態学的手段による害虫管理など、有機農業方法に移行します。けれどこの移行期間が農家にとってかなりの負担となり、転換の障壁となることがあります。この問題に対処するため、GOTSでは、認証された有機農業への転換を1年以上行った農場からの繊維を使用する場合、「オーガニック・イン・コンバージョン」というラベリングを許可しています。
環境や社会に配慮したい、生活者一人ひとりの選択肢になるように
松本さん自身は将来ファッションのビジネに携わりたいと考え、オランダのファッション大学でマネジメントを学んでいたが、授業を通してファッション業界の抱えるサステナビリティの課題に直面した。「ファッションビジネスに携わっていいのか、と葛藤しました。けれどファッション自体が悪ではなく、装うことは着る人を元気づけ、生産者さんたちを応援することもできるはず、と」。ファッションの知識とサステナビリティの知識をもった自分にできることはなにか?と考え、GOTSの門を叩いたという。
けれど今も、何をどう選択するかは一人ひとりが決めること、と考えているという。「GOTSは素材から糸、生地、製品になるまで一貫して基準を満たす必要があるため、複数の企業や個人で分業している場合、GOTS認証は下りにくいなどの難しさもあります。GOTS認証以外のファッションでも別の視点でサステナブルに作られたものはありますし、すでに持っている服を大切にすることも、古着を活かすことも十分サステナブルな選択。ただ、情報が氾濫する中で、信頼のおける判断基準を求めているなら、選択肢としてぜひGOTSを知っていただければと思います」