Contents
蚤の市のアンティークコットンと、オーガニックコットンの手触りが重なった
ナナデェコールを始める前、神田恵実は仕事やプライベートで海外に行くたびに蚤の市などのマーケットを覗き、アンティークのリネンやナイトドレスなどを買い集めていたという。
「アンティークのものは私の元に来るまでにいろんな人の手を渡っていて、その間に持ち主が丈を調整したりイニシャルを入っていたりと、大切に着ていた遍歴があるんですよね。ふと自分の身の回りを見た時に、新しいものには化繊製品やファンシーなものが多くて、欲しいものがなかった。そんな時に、仕事でオーガニックコットンに出会って手で触れた時に、何十年も使われてきたアンティークコットンと同じ風合いを感じたんです。その肌触りに惹かれて、オーガニックコットンのナイトドレスを作ったのがナナデェコールの始まりです。」(ナナデェコールデザイナー 神田恵実氏、以下同)
神田恵実
20代より編集者として雑誌や書籍の制作に携わる。オーガニックコットンとの出会いから、2005年にnanadecor(ナナデェコール)をスタート。同ブランドディレクターであり運営会社Juliette(ジュリエット)の主宰。
2000年頃にアメリカで生まれたロハスブームが日本にやってきた頃のことだ。エコロジー、アシュタンガヨガ、サーフィンといった言葉がメディアを賑わせて、肩肘を貼らない抜け感のようなものを人々が求めるようになっていた。
「自分で作ったものを着始めたら睡眠の質が上がって、生活が好転していったんです。当時は編集者として忙しく働いていてホテルのスパが自分へのご褒美だったんだけど、それから卒業できました。」
変えたのはナイトウエアと意識だけ。それまでは忙しいと癒しを外に求めて、美味しいご飯を食べたり、高いコスメを使うなどインプットをしていた。時代がそうだった。
「でも、アウトプットが大事だと気づいたんです。疲れを、睡眠によってその日のうちにリセットできると毎日ポジティブに過ごせる。人間の休息とチャージの元となるのは睡眠で、その質が変わると人はフィジカルでもメンタルでも健康になれるんだと、オーガニックコットンのナイトウエアを着て実感したんです。」
やがてナナデェコールのナイトウエアを着た人たちの間で、その効果を感じたという声が増えていった。以後、アイテムは下着やタオルや寝具、アパレルなど、多岐に渡っている。コットン商品はほぼオーガニックコットンを使用(後述の奥出雲コットンプロジェクトのみオーガニックの認証未取得)。化繊は使っていない。
優しい商品を作っているのだから、人にも優しく
ナナデェコールを運営するジュリエット社のスタッフは女性のみなのだが、働き方が実にユニークだ。
「サステナブルで優しい商品を作っているので、会社自体が社員や取引先、お客様に対しても優しくあれるよう、包括的でインクルーシブな経営を目指しています。外注スタッフも社内と同じように、働くメンバー全員が楽しくやり甲斐を持ち、無駄なストレスがないように働き方や仕組みの改善を続けています。そのため独自のマネージメント方法をとっていて、それぞれ雇用契約、働き方が違うんです。自ずと長く働くスタッフが増え、10年、20年と家族的に楽しく働いています」
子育てや親の介護など、女性の人生のステージは変わっていくものだ。ジュリエット社では仕事の内容、時間、給与までも、社員がその年の働き方や目標などを一年ごとに自分で決めて申請する。土曜や夏休みなど、子供を連れて店舗に出勤するスタッフも珍しくない。
そしてナナデェコールが大切にしていることは「人と共にある」ということ。ブランドを応援してくれる顧客のためにもセールをしないのだという。
はて? やや矛盾を感じるが。
「顧客様とは皆さん長く、深く、真剣にお付き合いしていて、みなさん新作を早く手にして長く使って頂いています。商品それぞれ、気持ちを込めて作っていることもあり、期日が過ぎたら半額になるなどは、とても違和感を感じます。セールをしないためにも、消化率100%を目指し努力していて、全商品をきちんと消化していきます。作ることはある意味簡単ですが、売り切るのはいまの時代、本当に難しい。そのためには作る量を緻密に計算しています。足りなくても多くても困る。転向や社会情勢もあり、その予測が難しい。いつも生産量を的確に見積もっていく。生産、MD、工場と、みんな長い付き合いなので、どのタイミングで何を発注するなどもデータを元に緻密に考えて作っています。」
商品の販売だけでなく、睡眠の質をあげるためのワークショップも提供している
ナイトウエアの選び方によって睡眠の質は上がるが、それだけですべての人のストレスが解消するわけではない。ナナデェコールでは定期的にマインドフルネスのワークショップも行っている。
「ナナデェコールは優しさを伝えるブランドなのですが、優しさの本質は難しく、人によって違います。本当の優しさはなんだろう? それを知りたかったのですが深く学ぶとしたら指導者養成コースしかなくて、MBSRというヨーロッパのマインドフルネスストレス低減法のインストラクターの資格を2年くらいかけてとりました。MBCT-Lという日常のストレス対策をロジカルに学ぶコースも終えました。人のストレスの原因はコミュニケーションからだと言われていて、そのストレスと折り合いをつけながら、いまを幸せだと思える様に。毎日、『あー気持ちいい!幸せ!』と布団に入れたら最高ですよね。そのために、自分の心との付き合い方を学ぶマインドフルネスのワークショップを通して睡眠をサポートしています」。
3年前から始めた、奥出雲での無農薬のコットン作りとそこで得られる体験
島根県雲南市の山王寺という集落の農家と提携して、コットン作りを始めている。
「限界集落ともいえる、山間の棚田の耕作放棄地で無農薬コットンを作る農家さんと一緒に栽培をしています。採れたコットンの一定量を買い取り毎年商品にしているんです。私が主宰している学びと体験の場(オンラインコミュニティ)My organic laboのメインの活動がこの種から商品を作る過程の学び=体験で、メンバーのみなさんと毎年5月に種まき、11月に収穫を行っています。自分たちで植えたコットンで、ALL PURE MADE、ALL JAPAN MADEのもの作り始めています。」
ナナデェコールでは5月の種まきのタイミングに向けて顧客にコットンの種を配っている。それぞれの家などで育ててもらい、育て終わったものをドネーションしてもらうのだ。それらと出雲で採れたものを混ぜて、買い取り、商品化している。
「お客様に、誰でも消費者から生産者になれることと、自然のリズムに則した暮らしを体験してもらいたいです。」
アパレル製品はトレーサビリティが難しいと言われている。コットンが育った場所や製糸工程、生地になり、縫製するまで国を跨ぎどこでどんな工程が行われているか分からないからだ。
またコットンは種を蒔いてから消費できるまで2年くらいかかる。その製造過程の複雑な作業を明確にし、植物が洋服になる工程を示すことに意義がある。それを体験できる仕組みを作りたいのだという。
神田は、この奥出雲の畑の周りに体験の場を作る予定で、2〜3泊するプログラムで学べる場所を作るのが2025年のビジョンなのだそうだ。
時代がようやくナナデェコールに追いついてきたという印象があるが。
「もうサステナブルという言葉ではまかないきれない。持続可能であるというより、新しい生産を制限し、環境を自分たちのために再生をする段階なんだと私は思っています。
ナナデェコールではサステナブルという領域を終えて、リジェネラティブ(regenerative)、再生させて循環していく仕組みを考えています。消費を最小限に、再生していく。植物や季節の巡りとともに生きることを思い出し、自然の恵みとともに暮らしていく。自分たちが地に足をつけて、日々を心地よく。私たちはオーガニックコットンを通して、健康で美しく、心地よい暮らしと、生きがいを持ち生きる術を伝えていきたいと思います。」
<nanadecor直営店>
・salon de nanadecor
東京都渋谷区神宮前4-22-11
営業10:30〜17:00(日・祝・月・火・年末年始休)
TEL 03-6434-0965
・新宿伊勢丹3階 マ・ランジェリー *営業時間、休みは施設に準ずる
・阪急うめだ本店7階 ホームリラクシング *営業時間、休みは施設に準ずる
https://www.nanadecor.com