ストーリー|2024.07.30

「FLATLAND」森田美勇人がつくるインクルーシブな創造の場

この夏、大阪の北加賀屋に誕生するスマセル サステナブル コミューン。「みんな、ミライへ」をスローガンに、これからの衣食住クリエイションの在り方を提案するサステナブル・ハブに、森田美勇人氏が手掛ける「FLATLAND」も出店している。プレオープンに駆け付けた森田氏に、ブランドに込めた思いとこれからを聞いた。

 

原稿:浦田庸子

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FLATLAND」は森田氏が2021年にスタートした“自分の思いをカタチにする”プロジェクトだ。内容は多岐にわたり、長年続けてきた音楽活動はもちろん、ダンス、絵画、イラスト、そしてファッションなど、沸き起こる創造の情熱をさまざまに具現化している。
アパレルについては「ファッションというよりプロダクト、モノづくりを楽しんでいる」と語るが、自分が本当に着たいと思うものをデザイン画からおこし、少しずつアイテムを増やしてきた。

その過程で「想像以上に出てしまった残布」をなんとかできないかと考え、地元の福祉作業所にもっていき、作業所の方たちにパッチワーク制作を依頼しているという。
「アウトサイダー・アート」の現場にもたびたび足を運び、魂を揺さぶられる体験をしているという森田氏。ものづくりにおいての「障がい者雇用」は、彼の長年の思いをようやく実現させたものだった。

「スマセル サステナブル コミューン」にて「FLATLAND」の説明をする森田氏。

―福祉作業所にパッチワークを依頼しているとのことですが、現在どれくらい完成しましたか?

FLATLANDのアパレル制作時に出た端切れを地元の福祉作業所に持ち込んで、作業所の人たちにパッチワークしてもらっています。今、10メートルくらいの長さになりました。服を作る元の生地である「ロール」を作りたいと思ったんですが、まだそんなにたくさんアイテムが作れる長さではないから、まずは自分の衣装を作ってみようかと思っています。
ここ「スマセル サステナブル コミューン」にはヴィンテージのアップサイクルのショップなどもありましたが、こういう場所に来て「こんな発想もありか」と刺激をもらったり、インスピレーションを拾ってデザインを考えるのも好きですね。

―デザイン画も自分で描いていますよね?

そうなんです、楽しいですよ! デザイン画を描くのは。最初はぜんぜん描けなかったけれど、見様見真似で描き始めて。僕の場合は、こういう服が作りたいという“こだわり”で手が動いてるというか。やりたいことが見つかるとそこへ向かうだけだから、そんなに難しくないんです。

この春発表したコレクションから。こういったアイテムの残布がパッチワークとなる。

「障がい者」のイメージに対しゲームチェンジャーになりたかった

―FLATLANDのものづくりは「障がい者雇用」をテーマの一つにしていますが、そのきっかけとは?

障がい者の人たちに等しく活躍の場を作りたいというのは、子供の頃から考えていたことなんです。幼いころから養護学校の子たちと触れ合う機会が多くて、言動にはっと気づかされることも多かった。

でも世間で言う「障がい者」のイメージに何もできず、流されてしまう自分もいて。生きているなかで、心が痛いなと思う瞬間も多かった。その流れを変えたい、ゲームチェンジしてみたい、っていうのは昔から思ってたことです。

ダウン症や自閉症って、肌の色が違ったり、属する文化が違うのと同じことじゃないか。そんな風に障がいを捉えて、彼らのキャラクターを自分なりに深掘って、社会と繋げることができたらいいなと思っています。

―プロジェクト名の「FLATLAND」にはどんな思いが込められていますか?

僕が目指すのは下剋上じゃないんです。障がい者の地位を上げたいとか、ひっくり返したいとか、そういうのではなくて。彼らの個性が自然と受け入れられて、尊重されるような世界にしたい。決して何かのカウンターという立ち位置はとらない、そのスタンスを「FLAT」に込めています。

―実際に福祉施設にも行き、その様子をFLATLANDのサイトで紹介していますね。

はい、行ってみたい場所には自分から出かけていきます。直接のコネクションはなくても、まずは周囲に「行きたい」と言ってみる、そうすると次第にだれかが繋げてくれたりするんです。

滋賀県にあるアートセンター&福祉施設「やまなみ工房」は、とにかく行ってみたかった場所。自分の目で見て、一緒に絵を描いて、体験したかったんです。
実際行ってみると「1日じゃ仲良くなれなかったなー」とか、「ここはハモるものがあったな」とかいろいろあるんですが、そういった体験を、プロダクトや歌などにアウトプットにしていきます。FLATLANDのパッチワークのアイディアに繋がったりと、自分のフィルターを介して発信できるものを考えています。ある意味自分本位な方法かもしれませんが、そこも表現する者同士の“フラットな”関係性として、ヘンな正義感がなくていいかなと思っています。

―自分の感受性に忠実に、ですね。受けた刺激が意外な作品に生まれ変わっていることもありそうです。

そうですね、常に「曇りのない目で見る」っていうのは大切にしています。じゃないと本質からブレてしまうから。人に何か言われたからこれはダメだとか、そういった社会の通念に対して「?」を持つことを忘れたくないんです。

例えば「サステナブル」という言葉に対しても、みんながサステナビリティを目指すことは素晴らしいけれど、果たして何が正解なのか、きちんと自分の考えを巡らせていきたい。自分に生まれた違和感は深堀りしてその正体を探ろうとするし、それを面白がれることが原動力になっていますね。

格好よく生きた証が100年後に残っていて欲しい

―森田さんの作品には、ファッションもアートも音楽もダンスもあり幅の広さに驚かされます。

洋服に絵画に音楽にといろいろですが、すべての核にあるのはダンスなんです。小さい頃に習い事として親に連れていかれたダンスが、すべての始まり。服のフォルムは僕の体の動きの延長線上にあるものだから、ファッションデザインとパフォーマンスは繋がっているし、アートを始めたのも「パフォーミングアーツとしてのダンス」を深掘ってみたいと思ったのがきかっけです。自分の表現はそうやって派生していったもので、全部が繋がってるんです。

―今、特に力を入れている表現は?

今は作曲に取り組んでいます。僕はエッセイを書くのも好きだし、言葉の力を大事にしているけれど、同じくらい言葉にせずにただ感じることも大事にしたい。そんな気持ちで曲を作っています。そうやって、完成した曲を歌って、踊って、服をまとって……総合芸術として自分の表現に取り組んでいきたいと思っています。

―マルチアーティスト森田美勇人は今後どこへ向かうのでしょう?

自分の興味のままに生きてるだけですが(笑) でも、精一杯生きた熱量みたいなものが繋がって、次の時代に残っていってほしいと思っています。自分も若いころに「あれが格好いい!」と憧れて、ダンスに熱中したり、服にこだわったりしたわけで。格好よくないと、クリエイティビティの歴史は繋がらないと信じているから。100年後に自分の作品がアーカイブとなって、だれかをインスパイアしてくれたら嬉しいですね。

森田美勇人(もりた·みゅうと)
アーティストとして音楽やダンスでの表現の傍ら、絵や写真などの表現活動、多数のファッションブランドからのモデル起用など、活動の幅は多岐にわたる。2021年11月に、自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」を設立し、本格的にソロでの活動を始動。ヨウジヤマモト社の「Ground Y」にて自身の撮り下ろし写真を使用したコレクションの発表や、newbalanceの新店舗オープンを記念して描き下ろしたアート作品の製作など、多才な活躍をみせている。

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