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ストーリー|2024.05.30

ファッションで世界をシフトする! ケニアの仲間と作る「SHIFT80」の服に込められた物語

私たちが手放した衣服が最終的にどこへ行くのか、知っているだろうか?主にヨーロッパやアメリカ、日本を含むアジアからの古着は、最終的にアフリカへと渡り、着用できないものや販売できないものは焼却や埋め立ての運命をたどる。こうした大量廃棄の問題のみならず、女性問題や貧困児童など、様々な社会問題を抱えるケニアのキベラスラムでファッションビジネスを始めたのが「SHIFT80」だ。古着のアップサイクルを通じて雇用を創出し、分配可能な利益の80%を現地コミュニティに還元し、困難な状況にある人々を支援し続けている。「SHIFT80」のこれまでの歩みと今後の展望について、代表の坂田ミギーさんに話を聞いた。

原稿:藤井由香里 撮影:鈴木智沙子

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ケニアの文化と人々の才能を活かし、ファッションで描く持続可能な未来

——初めてケニアのキベラスラムを訪れたのはいつですか?

初めてケニアを訪れたのは、2013年です。当時、私はクリエイティブディレクターとして広告制作の仕事をしていたのですが、過労で倒れてしまったんです。以前は、仕事で成功することやお金をたくさん稼ぐことが幸せだと思い込んでいましたが、過労で倒れた時、どんなに頑張って働いていても幸せではないことに気づきました。そこで、一度仕事を休んで世界一周の旅に出ることにしたんです。西回りで世界各国を訪れていたので、ケニアには旅の後半で立ち寄りました。ナイロビの空港から車で移動中、突然スラム街が現れ、都心からこんなにも近い場所に存在するのかと気になったのが、キベラスラムを訪れることになったきっかけです。

スラム街には陰鬱な空気が流れていると想像していましたが、実際に訪れてみると、とても活気があって驚きました。街の商店街は賑わっていて、井戸端会議が開かれていたり、子供たちが丸めた紙でサッカーをして遊んでいたり、みんな楽しそうに過ごしていました。街や人々の魅力に惹かれ、何度も訪れるうちに友達が増え、今では通い始めて11年目になります。

——そこからどのようにして「SHIFT80」を立ち上げることになったのでしょうか?

何度も通う中で、現地の仲間たちに助けられた経験が大きいですね。彼らは「毎朝目が覚めて、今日も生きられると思うだけで幸せ」だと言っていて。それを聞いた時、私はそんなことを考えたことがなかったと気付かされ、同時にそう思えることが素晴らしいと感じました。

坂田ミギー。広告制作会社、博報堂ケトルを経て、株式会社こたつを設立。31歳で世界一周の旅へ。旅で出会ったケニアのギベラスラムの人々と交流を深め、2022年に「SHIFT80」を立ち上げる。

彼らに助けてもらった分、今度は私が何か恩返しをしたいと思うようになりました。キベラには、経済的な理由で生理用品を手に入れられず、いじめに遭ったり、学校に通えなくなったりする女の子たちがいます。そこで、生理用品を扱う会社と協力して、スラムの女の子たちに生理用品を届けるプロジェクトを2018年にスタートしました。その矢先、2020年のパンデミックで広告の仕事の9割がなくなりましたが、キベラでも彼らの仕事が次々となくなり、食べ物もお金もなく生きていけない状況だと知りました。それならば、彼らと一緒にビジネスを立ち上げ、その利益を彼らに還元する形を取ろうと思ったんです。

——ファッションという手段を選んだ理由は何だったのでしょうか?

キベラの仲間の一人に、リリアンというファッションデザイナーがいます。彼女はスラムの奥地でプライマリースクール「マゴソスクール」を運営し、女性たちに洋裁を教えていたので、現地で仕事を作ることができれば一緒に取り組めるのではないかと思ったことが一番大きいですね。また、ケニアには仕立てやお直しの文化があって、結婚式や友人のお祝い事で気に入った生地を使ってお揃いのドレスを作る習慣があります。なので、スラム街にはミシンを持っている人も多くいます。現地の文化や彼らの才能を活かして利益を生み出し、得られた利益を現地に還元するために、2022年2月に「SHIFT80」を立ち上げました。

ファッションを通じた体験が、人々のマインドや生き方をポジティブに変える

5月にはEARTH+GALLERYで新コレクションと写真を展示した。手前はきものや帯をほどいて、ケニアでアップサイクルした新作

——ブランドを進める中で、どのような課題を感じますか?

様々な問題が起きますが、特に「服を縫う」感覚の違いが大きな課題です。私たちが「真っ直ぐ縫う」というと、ピシッとした直線をイメージしますが、彼らは少し蛇行していることが多い。あとは、タグと服の色を同色の糸で縫って欲しくても、ぜんぶ黒い糸で縫っていたり(笑)。 日本で売るためには必要なことも、彼らにとっては着用できれば問題ないという価値観の違いがあります。これって結構難しい感覚の違いで、毎回調整する作業が大変だと感じますね。でも、伝えたことはきちんと改善されるので、少しずつ良くなっています。

——仲間やチームを作る上で大切にしていることを教えてください。

現地とのコミュニケーションでは、彼らのやりたいことを尊重し、思いを素直に伝えることが重要だと考えています。彼らと一緒に何かに取り組む上で、私のやりたいことだけを進めようとすると上手くいかないと思うんです。例えば、モデルに関しても、支援している学校のOBやOGの中からモデルをやってみたいと手を挙げた人たちと一緒に撮影するようにしています。

以前、モデルをやりたいという人が40人もいた時があったんです。その時は一人ひとりにチャンスを与えて、その中で特に上手な人たちをケニア内のロケ地に連れて行って撮影を行いました。みんなサファリへ行ったことがないので、初めてゾウやライオンを見る機会は彼らにとっても貴重な体験。毎回、青春している気分になります。

SHIFT80の服を着たモデルたち。この経験によって写真に興味をもったり、モデル事務所の立ち上げを考えるなど個々に変化が起こっている。

——キベラを何度も訪れている中で、人々の生活やファッションに対する意識に変化を感じることはありますか?

モデルをやってくれているシャロンは、家でモデルの練習を重ねて上達しました。最初は全く動けなかった彼女も、今では一番上手になっています。また、ロリンズという子は、キベラで才能のある若者たちを束ねてモデル事務所を立ち上げたいと言い出したり、写真家の存在を知ってカメラをやってみたいという高校生がいたりと、様々なプロフェッショナルと一緒に仕事をすることで、彼らの心境に変化が見られています。

コスマスという青年は、元々自分の容姿に自信がなかったんですが、撮影した写真を見せたところ、自分の美しさに気がついて(笑)。 Instagramのアカウントを作ってセルフィーを投稿している姿を見ると、とても嬉しくなります。足を運ぶたびにみんなが成長していて、また新しい高校生や卒業生に出会えることが嬉しいです。コミュニティが成長する姿を見ることが、私にとっても大きなやりがいになっています。

2枚のシャツを組み合わせたり、半分に切ってワンショルダーにしたトップスにワンピースを合わせるなど、自由な発想とヴィヴィッドな色合いでファンを増やしているアップサイクルシリーズ。

古着のアップサイクルや服づくりを通じて、アフリカの社会問題解決に貢献する

——アイテムができるまでのプロセスを教えてください。

古着のアップサイクルシリーズについては、まずケニア最大の古着市場であるギコンバマーケットにデザイナーが買い付けに行きます。仕入れた古着同士をどのように組み合わせるかを考えた後、縫製工場で縫ってもらいます。完成したアイテムは、日本の縫製工場で検品し、縫製や古着の状態で気になる部分があれば補修を行い、クリーニングで綺麗な状態にするまでが一連の流れです。

デザイナーのオリバーは親が元々古着の仕入れと小売をしていて、古着同士の組み合わせを考えながら育ってきたので、アイディアがとてもユニークなんです。実は、今年の8月にSHIFT80としてナイロビファッションウィークに出演予定です。オリバーが手がけるきものと古着を組み合わせたシリーズでショーをすることになったので、すごく楽しみです。

アップサイクル以外の洋服には、アフリカンファブリックの中で最も品質が良いとされている、「VLISCO」というオランダの老舗会社の生地を使用しています。アフリカの生地の起源をたどると、ヨーロッパの人たちがアフリカの人たちに好まれそうな柄や生地をデザインして持ち込んだのが始まりなのだそうです。それが少しずつアフリカで人気になり、定着していったという歴史があります。なので、アフリカの生地には様々なパターンがあって、とても面白いです。

きもの生地と古着を組み合わせた新コレクション。使用した美しいきものは、坂田さんの友人である藤原祥子さんのお母さまから譲り受けたもの。現地デザイナーの手によって一着ずつ作られたデザインは唯一無二の輝きを放っている。

すべての人が前進できる社会の実現に向けて

——SHIFT80では余剰利益の80%を現地へ還元されていますが、どのような仕組みなのでしょうか?

余剰利益を詳しく言うと、株主配当金の80%になります。SHIFT80の株主は私と夫なので、本来株式会社が株主に配当金を渡すところ、それを必要としている現地の人々に分配する仕組みです。還元先は、お客様の投票によって決めています。具体的には、現地での女性支援、生活支援、子どもたちの学費支援、脳性麻痺など障がいがある子どもたちの生活支援などに使っています。みんなの力で成り立っているビジネスなので、得た利益を彼らに還元したいと思っています。明日食べるものがない親が高校の入学金や授業料を払うことは難しく、経済的な問題で学校へ行けずに働き続けている子どもが沢山います。SHIFT80としてもっと利益を上げて、より多くの子どもが学校へ行けるようにしたいです。

——SNSをフォローすると、1フォローごとにアフリカに給食1食が届く仕組みもとられていますね。

関わってくれている彼らの出身校がキベラスラムにあるんですが、そこで毎日給食を出しています。家でご飯を食べられない子どもも多く、空腹では授業に集中することが難しいので、朝ごはんとお昼ごはんの給食費用をサポートしています。フォロワーが増えるごとに、その分の費用を学校に振り込んで、給食に使ってもらえるようにしています。

新作の展覧会『I’m still alive みんなは終わりというけれど』では、ロスフラワー®を使った作品を手がけるRINとコラボ。スラムで撮影された服のゴミの幕に、来場者が花をいけるという参加型インスタレーションを行った。

——今後、SHIFT80としてどのような歩みを進めていく予定ですか?

女性問題や貧困など、様々な社会問題に直面しながらも、個々の可能性を諦めずに前進できる社会を実現したいという思いがあります。そのためには、彼らの夢や希望を支援しつつ、社会全体がその方向に向かうような取り組みを進めていきたいですね。

今はファッションブランドを通じて服や写真作品を販売していますが、趣味の違いが作品の購入に繋がらない可能性もあると認識しています。でも、ありがたいことに、作品に変わる形で支援を希望してくださる方々がたくさんいらっしゃって。そのようなニーズに応えるために、非営利団体のような形で、心を寄せてくださる方々の受け皿も作っていけたらと考えています。そして、今度はキベラスラムの仲間がアメリカを訪れ、自らの経験やストーリーを世界に発信する機会を提供できればと思っています。それが、私たちの次なる目標です。

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