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ライフスタイル|2026.05.21

『プラダを着た悪魔2』は、私たちに問いかける。「あなたにとって、本当に大切なものは何?」

巷で「もう観た?」と話題になっているのが、約20年ぶりに続編として公開されている映画『プラダを着た悪魔2』だ。既に多くの人たちが映画館に足を運び、さまざまなSNSでレビューを共有しているが、「もう一度観に行きたい」と締めくくるポジティブなものが多い。
この作品が2026年を生きる人々の胸を鷲掴みにしているのはなぜか?文筆家のAYANA氏が作品の魅力を解説する。

原稿:AYANA 写真:『プラダを着た悪魔2』 2026年5月1日(金)日米同時公開 © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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『プラダを着た悪魔2』2026年5月1日(金)日米同時公開© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

2006年に公開された『プラダを着た悪魔』は、間違いなくハリウッド映画の金字塔といえるだろう。華やかなモードの世界の裏側を暴露的に切り取りながら、ひとりの女性が自分の夢を諦めずに奮闘・成長していくサクセスストーリー。笑いあり、涙あり、ドラマティックでリアリティもある。世界中の人たちがこの作品を通して、ファッションへの愛を確認し、仕事への向き合い方を考えさせられ、自分の信念を大切にすることを決意しただろう。

あれから20年、まさかの続編公開である。前作に続編を匂わせる要素はなかったし、キャストたちも続編を望んではいなかったはず。なぜいまさら?という感じで、一体どんな内容なのかまったく見当がつかなかったが、鑑賞してみてあまりにも「いまの空気」が反映されていることに驚いてしまった。『プラダを着た悪魔』の登場人物たちは、私たちと同じようにちゃんと20年の歳を重ねて、そこに存在していた。

「ランウェイ」誌を去ったアンディは、硬派なジャーナリストとして活躍し続けてきた。しかしひょんなことから継続の危機を迎えた「ランウェイ」誌に戻り、巻き返しを図っていく──というストーリー。大筋は非常にシンプルかつ王道であり、入り組んだどんでん返しや意外性はない。しかしディテール部分が非常に多くの示唆に富んでおり、それがいちいち、この時代に生きる私たちへのシリアスな、それでいて愛に満ちたタイムリーな問いかけであるように感じられた。

ここからは多少のネタバレも交えながら、『プラダを着た悪魔2』からのメッセージを紐解いていきたい。

「モード誌」って、まだ魅力的?

『プラダを着た悪魔2』2026年5月1日(金)日米同時公開© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

いつのまにか「ランウェイ」誌は、評価する側からされる側になっていた。かつて編集長ミランダの評価は、デザイナーたちにとっての「お墨付き」であり、ファッションの世界での成功を意味していたはず。それほどにメディアの力は絶対であったからだ。しかしいまの「ランウェイ」は、PV数やコメントが好意的かどうかに神経を尖らせており、存続を支えるクライアント(たとえばエミリーが幹部を務めるディオール)の顔色を伺うようになってしまった。この構図、「ランウェイ」に限った話ではもちろんないだろう。

いま時代を動かす力を持っているのは、メディアではない。匿名のSNSユーザーであり、フォロワー数の多いインフルエンサーである。彼・彼女たちは、ハイブランドにはステイタスを認めるかもしれないが(田舎の主婦が3000ドルのバッグを買う時代/クリスマスって知ってる?)、モード誌にはそれを求めない。そもそもSNSを追うのに忙しく、雑誌を読まない。読まれないから、広告も資金も集まらない。「かつては、リチャード・アヴェドンとアフリカに3週間撮影に行っていた。いまはミルクスタジオで2日間がいいところ」。これは、カフェテリアでアンディにいまの「ランウェイ」を取り巻く状況を説明するナイジェルの台詞である。

もちろん「ランウェイ」の影響力はまだ残っているし、ショーを開けばインフルエンサーが集う。しかし「メディア>ブランド」という構図はもう成立していない。

そんな時代に、ミランダは、アンディは、ナイジェルは、エミリーは、どう生きていこうとしているのか?というところがとても興味深かった。前作では、全員が全員「モード誌」に惚れ込み、傾倒し、命をかけていたけれど、今回は少し色合いが異なる。鑑賞していくと、それぞれが何を大切にしているのかが浮き彫りになっていく。あなたはどうなの?と問われているような気がするのだ。

モラルの変化、働き方の変化

『プラダを着た悪魔2』2026年5月1日(金)日米同時公開© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

前作では、ミランダが部下たちに無理難題を求めるパワハラ・モラハラぶりがエキサイティングに描かれており、そのリクエストに応えながらも更なる結果を出すことで、アンディが評価されるという構図があった。つまりミランダの傍若無人ぶりは、なんだかんだ肯定された、絶対的なものであったのだ。

しかし今作では大きなパラダイムシフトが起きていた。ミランダはコートをアシスタントに投げつけずに自分でハンガーに掛けていたし、企画会議では、コンプラ違反の発言をアシスタントやナイジェルに嗜められていた。編集部の顔ぶれも性別・人種が多様になっており(きっと、ミランダが採用しているはず)、まだまだ絶対君主的な片鱗も見えるものの「善処ぶり」に胸を打たれ、ミランダ、アンタこの20年でずいぶん変わったわね……と感じた。

そもそも今作で「ランウェイ」が存続の危機に追い込まれたのは、ミランダが劣悪な労働環境のブランドを支持する姿勢が明るみに出たから。70代のミランダに、もともとSDGsの概念はインストールされていないはずで、でもコトが起こってしまったら、もはや強く押し切ることはできないとミランダもわかっている……というのも、なんだか切なくて、同情してしまった。ミランダをずっと支えてきたナイジェルも、前作と同様に問題解決に奮闘するアンディも、きっと20年前よりは、ワークライフバランスに気を使っているに違いない。

一方、斜陽となった雑誌の世界から離れたエミリーは、「ランウェイ」に出資するブランド側の人間に。金持ちの恋人を捕まえて、自分が欲しいものを我慢しない姿勢を貫いており、時代を読む目がさすが!波に乗ってる!と思った。のちに、それは本意ではない方向転換だったことがわかるのだが……。

時代は変わっているのに、キャストの性格は変わっていない。変わっていないけれども、時代にあわせて生きようと頑張っている。そこがすごく「こういう続編の作り方があるんだ!」という感じだった。(ちなみに、それはヘアメイクにも表れている。前作と同じようで、今の時代にアップデートされているバランスがお見事!)

個人的には、終盤にミランダが吐露する「多くの犠牲を伴ってきたけど、それでもこの仕事が大好き」という台詞が胸に刺さった。Z世代は残業など御法度と聞くけれど、昭和生まれの私はやっぱりミランダに共感してしまう。ミランダ側の人間として、彼女のように、今の時代にあわせていく努力をしたいと思った。

誰のことも否定しない。だって完璧な人なんていないから

『プラダを着た悪魔2』2026年5月1日(金)日米同時公開© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『プラダを着た悪魔2』の大きな見どころに、当然のことながらファッションがある。登場人物たちは、内面を映し出すような服を身に纏っていて、そのスタイリングの上手さには、いちいち唸ってしまうばかりだ。

威厳とエレガンスが共存するミランダ(ガレリアに一人佇むミランダがまとうアルマーニの美しさ!)、マスキュリンでシックなアンディ、自己主張を怠らないザ・モードなエミリー、密かな柄合わせがアーティスティックなナイジェル……と、主要キャストはもちろんなのだが、それだけではない。

今作では「ランウェイ」の対極にあるものとして、コスト重視・効率重視の概念が出てくる。「利益が出ない部署は解散させる」「わざわざ撮影をする必要はない。すべてAIがやるようになる」などの台詞はその象徴であり、こういう発言をする人間にこそ富が集中している。そこにはモードの世界に不可欠なパッションやセンスは皆無である。

そんな彼らが纏っている服も非常に示唆に富んでいた。モードを愛していない人の服。それはモードを愛している人の服と同じようにスクリーン上で大切にされているような印象を受けた。

この映画は、「時間とお金をかけて作り上げるモードの世界っていいよね」と言っているわけではないように思う。「ランウェイ」は結局、その道を貫く方向に舵を切ったし、それはとても清々しいこと。けれども「これからはすべてをAIが担う時代」という説を否定もしていない。それぞれに、それぞれの価値があることを教えてくれているように感じた。

通して描かれる「完璧な人はいない。それでもいいじゃない?」というメッセージは、昨今のSNSで少しほころびが見えれば大炎上してしまうような、息苦しい世の中を風刺しているのかな、とも。いっときキャンセルカルチャーが当たり前という空気が蔓延したけれど、そこから少し時間が経った今だからこそ、効いてくるメッセージなのではないだろうか。

『プラダを着た悪魔2』は、前作のようなサクセスストーリーの方程式がそぐわない時代だからこそ成立する映画だ。前作の登場人物たちが、いまをどう生きているのか?を見せるユニークな構図で、前作の「人を信じる力」を描くという魅力はそのまま残しながら、まったく違った意味で前向きになれる内容になっている。前作と違うからこそ、続編であることが活きている。

どんなにAIが台頭しようと、メディアの威力が弱まろうと、人の心が世の中を動かすことに変わりはない。思いを伝えあうことをサボらずに、完璧ではない私たちは、ここから何度だってやりなおすことができるのだ。ゼロカロリーの炭水化物をシェアしながら。

『プラダを着た悪魔2』2026年5月1日(金)日米同時公開© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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ビューティライター、ブランドディレクター
AYANA
コラム、エッセイ、インタビュー、ブランドカタログなど広く執筆。化粧品メーカー企画開発職の経験を活かし、ブランディングや商品開発にも関わる。OSAJI メイクアップコレクションディレクター。6月に3冊めのエッセイ集『美を、うけ容れる』(三笠書房)を上梓。 Instagram:tw0lipswithfang Podcast:「にあう色が知りたい」

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