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1973年北海道生まれ。広告代理店「デルフィス」を経て、「BLUE BOTTLE COFFEE JAPAN」に参画。バリスタからスタートし、 ブランドキュレーターとしてカフェのコンセプト設計・内装・商品開発を担当。
41歳、未経験からブルーボトルコーヒーに入社。バリスタから空間設計まで、一流のブランド作りを学んだ10年間
村上:僕は元々広告代理店で働いていて、すごく忙しかったんです。そこを辞めた後、吉祥寺で器のセレクトショップを始めたら時間ができるようになって、毎朝コーヒーを淹れるようになりました。せっかくなら美味しいコーヒーが淹れられるようになりたい。そう思っていた時に、ちょうどブルーボトルコーヒーが日本に上陸したんです。
オープニングスタッフの募集にエントリーしたら採用されて。40人中、未経験は僕含めて5人くらい。当時、僕はもう41歳だったので、創業者のジェームスの方が年齢が近いくらいでした。周りは20代ばかりの中で、圧倒的な最年長バリスタとしてスタートしました(笑)。
ブルーボトルコーヒーでは、「美味しいコーヒーが人生を美しくする」というミッションを掲げていました。店でコーヒーを飲む体験というのは、カップの中身の美味しさだけではなく、どういうカップで飲むか、どういう空間で食事をするか、どういうホスピタリティを提供するかで変わる。その「体験」を作り上げるチームが必要だということで、グローバルでブランドチームができました。
そこで僕がやってきたのは、新しいカフェのコンセプト構築、内装ディレクション、グッズの企画などです。渋谷、代官山、福岡、名古屋、豊洲など。最近の大きな店舗はほとんど担当させてもらいました。さらには「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」とのコラボレーションにも携わりました。素晴らしいブランドがどう作られていくのかを、一流の方々のすぐ隣で見させてもらった。あの体験がなかったら、今の「SAMAA_」も生まれていなかったと思うので、本当に感謝しています。

バリの「ポテトヘッド」で見た、エモーショナルなサステナビリティの衝撃
村上:働いているときは、ブルーボトルコーヒー以上に素晴らしいコーヒーブランドなんて世界にないと思っていたので、自分で立ち上げるイメージは全然なかったんです。
転機は、今のパートナーのエドガーとの再会でした。彼とは15年来の友人で、ジャカルタに住んでいるんですが、2024年の9月に彼が日本に来た時に「一緒に何かやろう」と。 どうせやるなら、次の価値を持ったコーヒーチェーンを作りたかった。ブルーボトルコーヒーが「サードウェーブ」なら、その次の「フォースウェーブ」は何か。それは間違いなくデリシャスネスとサステナビリティの融合だろう、と。
ただ、それを完璧にやるのは難しいとも。でも、2050年問題でアラビカ種の豆が今の半分しか採れなくなると言われている中で、誰かがやらなきゃいけない。
そんな時、バリにある「ポテトヘッド(Potato Head)」というホテルに行ったんです。みんなが「あそこは行ったほうがいい、サステナビリティがすごいから」って。 行ってみたら、全然いわゆる「サステナ感」じゃない。ものすごくエモーショナルな場所だったんです。ビーチサイドの最高のロケーション、インドネシアNo.1の建築家によるデザイン。そして極め付けは、地下のクラブ。サステナビリティとクラブってイメージが湧かないじゃないですか。でも、そこで聴いた音が、今まで行ったクラブで一番良かった。音楽に興味がない人が聴いても気持ちいいと思うくらいの、圧倒的なクオリティ。
そこに世界中から人が集まっているのを見て気づいたんです。僕が今までイメージしていたサステナビリティは「つまんない」ものだったんだ、と。 日本での環境問題に関する話を聞くと、我慢とか義務とか、自分に関係ないと思われがちです。それは「伝え方の順番」が違う。まずは「楽しい、美味しい、ワクワクする」という体験を届けるのが一番重要で、その上で、企業として裏側できっちり取り組む。これは僕の中で「天動説から地動説」に変わるくらいの大きな気づきでした。



デリシャスネスとサステナビリティのどちらも諦めない――ゴミを燃料に変える挑戦
村上:SAMAA_に来るお客さんは、サステナビリティを強化しているから来てくれるわけじゃなくて、空間のデザイン性や、ベーグルやコーヒーが美味しいから来てくれる。それでいいんです。だけど裏側では、ゴミをどれだけ減らせるかに全力を注いでいます。
例えば、スタッフを含めてほとんどペーパーを使っていません。毎日タオルを洗って使っています。普通の飲食店は山ほどペーパータオルを使いますが、うちは洗濯機を導入して、使い捨てない。 さらに今、長野の自動車パーツメーカーさんと、大量に出るコーヒー粉を「ブリケット」という固形燃料にする試みをしています。
一般的に、カフェは絞りカスを産業廃棄物として捨てますが、乾燥させれば商品(燃料の一部)になる。メーカーさんは鉄の部品を作るのに大量の燃料を使うけれど、これまでの燃料は環境負荷が高いし価格も上がっている。 今、そのブリケットを長野のグリーンハウスで野菜を育てるための夜間の暖房用に使おうと試作をしています。一番の課題は、メーカーさんに渡す前に、店側で大量の絞りカスをどうやって乾燥させるかを試行錯誤しています。
コーヒー豆についても、美味しいのが大前提ですが、農家さんの働く環境を重視しています。働きやすい環境が整っている農家さんが、美味しいコーヒーができる可能性が高い。 今は1店舗ですが、いつか500店舗にしたい。なぜなら、数が増えれば増えるほど、農家さんと直接品種改良についての相談ができたり、社会に与えられるインパクトが大きくなるから。僕らがアクションすればするほど社会が良くなっていく、そんなコーヒーショップを目指しています。

ジョブズやノーランに学んだ、偉大なブランドの作り方
村上: コーヒーと同レベルの美味しいフードを提供したくて、池の上にある「étéco bread」の梶原さんに監修をお願いしました。
パンの技術を注ぎ込んだ、本当に美味しいベーグルを提供したい。そのために、サワー種を使い、17時間もの長時間発酵をさせています。じっくりと時間をかけることで、生地は噛めば噛むほど味わい深い「複雑な味」へと変化します。素材のごまは、流通量の1%しかない国産にこだわり、レモンも国産。効率性より、どうすれば美味しくなるかを優先して毎朝6時からここで焼いています。
僕は「みんなを豊かな気持ちにさせる、偉大なブランドを作りたい」と思っています。スティーブ・ジョブズや、映画監督のクリストファー・ノーランに影響を受けています。脚本、演技、音楽、映像、全部が素晴らしい「総合芸術」。僕はそれをカフェで作りたい。偉大なブランドを作るには3つの要素があると考えています。1つは、掲げたミッションに対して矛盾がない「一貫性」。2つ目は、戦争や環境問題など、変化し続ける今の社会に対して何ができるかを真剣に問い続ける「社会性」。そして3つ目は、効率性に絡め取られず、素材や製法にこだわり「本物であること」です。
一貫性、社会性、本物。この3つを本気でやれば、圧倒的なブランドになれると思っています。

土地とのクロッシングを大切に、三軒茶屋から世界へ
村上: 今の僕らのテーマは「複雑系」です。 スタジオジブリやエヴァンゲリオンの映画は複雑で、捉え方によって感じ方が変わる。今の時代、シンプルすぎると飽きられてしまう。
「SAMAA_」もそうです。おしゃれな古民家カフェだと思って来る人もいれば、ブルーボトルコーヒー出身、インドネシア人オーナー、サステナビリティ、17時間発酵のベーグル。情報が多層的で「一見すると何なのかよくわからない」という捉えきれなさが、逆に魅力になる。
それは内装も同じです。ここは築70年、もとは独身寮兼食堂でした。ボロボロでしたが、70年前の建物をそのまま使うこと自体が、僕らの考えるサステナビリティの象徴になる。 設計をお願いした「スタジオディグ」には、あえて安い素材(MDFや木毛板)をかっこよく使う、アップサイクルな提案をしてもらいました。壁のパネルにわざと7ミリの隙間を空けて空間に表情を出したり。自分一人で考えるのではなく、一流のクリエイターに余白を持って任せる。そうすることで、自分の想像を超えるものが生まれるんです。
イベントもそうです。ランニングイベントをやったり、ナイトフリーマーケットをやったり。一見バラバラに見えますが、すべて「一杯のコーヒーが美しい未来を作る」というミッションに紐づいています。環境だけでなく、ウェルネスやコミュニティの豊かさも未来の一部です。
僕らは「デリシャス(美味しさ)」「サステナブル(社会性)」「デザイン(美しさ)」という、時には矛盾するものを全部抱えながら、それをゲームのように楽しんで乗り越えていきたい。
そんな「土地」や「社会」との繋がりを考える中で、自然とみんな電力にたどり着きました。実は、最初は屋根にソーラーパネルを載せたかったんですが、建物が古すぎて耐荷重が持たなかった。それならせめて、再生可能エネルギーの電気を使いたい。調べたら、同じ三軒茶屋に「みんな電力」さんがある。最高じゃないですか、と。
かっこいいだけでは、もう人の心は動かない。 ちょっと謎めいていて、余白があって、だけど圧倒的に本物。 「SAMAA_」という場所を通じて、三軒茶屋から世界へ、新しい未来の景色を見せていきたいと思っています。
SAMAA_(サマア)
所在地: 〒154-0011 東京都世田谷区上馬1丁目33−7
営業時間:9:00~22:00
Instagram:https://www.instagram.com/samaa_coffee/
ブランド名「SAMAA_」は、インドネシア語の「sama=ともに」、日本語の「様=敬意」。アンダーバーは、未完成性や余白を内包し、日常にひらかれたブランドの姿勢を示す記号。
