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ファッション|2026.02.09

世界最高水準の透明性をまとう、ノルウェー発デニムブランド「Livid(リヴィッド)」

ノルウェーの小さな工房で一人の職人が日本製のローデニムを縫い上げることから始まったブランド「Livid(リヴィッド)」が、いよいよ日本での展開を本格化させる。北欧的な責任ある美しさを体現する彼らが目指すのは、「思わず覗きたくなる」透明性だ。そうしたオープンなものづくりを選ぶ理由と、彼らが日本から描き出すデニムの未来を聞いた。

原稿:髙岡英里子

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ノルウェーの小さな工房から、日本へ。リヴィッドが運ぶ「デニムの次のかたち」

Shift Cでもお伝えしたコペンハーゲンファッションウィークなど、新たなファッションムーブメントの震源地として注目が集まる北欧。その一角、ノルウェーから日本に上陸する、ぜひ紹介しておきたいデニムブランドがある。

ノルウェー第3の都市トロンハイム。フィヨルドと工業の気配が同居する一角で、一本のジーンズから始まった「Livid(リヴィッド)」だ。

リヴィッドの始まりは、工業的な量産とは真逆の場所にある。2010年、工房でイェンスが作っていたのは、日本製のローデニムだけを用いたベンチメイド(職人仕立て)のジーンズだった。一本一本を自ら裁断し、縫い上げる骨太な作り。そこには、ノルウェー西海岸の小さな村で育った彼のルーツ――起業家精神が強く、自分の手で仕事を立ち上げる人々へのリスペクトも重なっている。

当時、職人が自ら作るベンチメイドジーンズとしてはリヴィッドが国内唯一の存在だった。今では4つの旗艦店やヴィンテージショップを展開するまでに育ったが、ブランドの中心はあくまで「一本のジーンズ」だ。

左:インターナショナル・セールス  オーレ・エイヴィンド・シッゲルー 右:クリエイティブディレクター兼創業者 イェンス・オーラヴ・ダンケルトセン

昨年11月、創業者のイェンスと共に来日した、営業担当のオーレは「今回は、ノルウェーファッションハブ*に参加することで、私たちなりの『リヴィッド』のイノベーションを日本へ紹介しに来ました。日本は本気で向き合いたいマーケットなのです」と話してくれた。
日本市場への理解を深め、今後の戦略を描くための来日だ。

表層的な“北欧デニム”ではなく、クラフトと透明性と循環を前提にしたその姿は、コペンハーゲンファッションウィークでも触れた「北欧的な責任ある美しさ」のノルウェー版と言えるかもしれない。

派手なロゴで飾るのではなく、素材や工程、そして“どこから来て、どう作られ、どこへ向かうのか”という背景を驚くほど明確に示していく。その姿勢は、既存の「サステナブル」という言葉をもう一段先へ押し上げるものに見える。

*日本で年1回開催されるプレス&バイヤー向けの展示会

“あざ”のように刻まれる時間――ブランド名に込めたイメージ

“livid” という言葉を聞いて、英語話者なら「激怒している」という意味を思い浮かべるであろう。「最初は『何をそんなに怒っているの?』とよく聞かれるのです」と、彼らは笑う。

だが、このブランド名の由来は別のところにある。“livid” には、今ではほとんど使われない「青あざ」の意味がある。ケガをしたときに皮膚が青く変色する、あの独特の色合いだ。

「アメリカ製デニムのフェードって、まさに“一人の職人に叩き上げられた”ような変化を見せますよね。穿き込んでいくうちにインディゴが落ちていって、肌に“あざ”ができたみたいな色になる。太ももやひざのあたりから色が抜けていって、パンツ全体にその人だけのフェードが刻まれていく。そのイメージから名前をつけました」

ブランド名に焼き付けたのは、新品の完璧さではなく、時間と身体が刻む痕跡そのものだ。

日本のセルビッチデニムと、進化する北欧ミニマリズム

リヴィッドのジーンズを手に取ると、すぐに“日本の気配”に気づくはずだ。創業当初から、黒木、倉敷、日本綿布、Collectといったデニム工場の生地を使ってきた。

「岡山デニムに初めて触れたとき、“違い”は手で触った瞬間に分かりました。質感、テクスチャー、ロープ染色による色の奥行き……。それは時間とともにどう変化していくか、というところまで想像させてくれる生地でした」

彼らは、こうした“ヘリテージデニム”やワークウェアから強い影響を受けながらも、それをそのまま再現するのではなく、北欧らしいミニマリズムと合わせて再解釈していく。2013年に発表した最初のレディ・トゥ・ウェアコレクションでも、ベースにあるのはヘリテージ寄りのデニム。そこに現代的なシルエットやテクスチャーの対比を加え、今のフィット感を追求した。

「ずっと変わらず大事にしてきたのは、素材、クオリティ、縫製へのこだわりです。一方で、私たちの美意識は確実に進化してきました。服に対して似た感覚を持つ人が手に取ったときに、『生地も面白いしクオリティも高い。でも何より、この美学がいい』と思ってもらえるようなバランスをずっと探ってきたんです」

リヴィッドのコレクションは、いわゆる「デニム一辺倒」ではない。デニムブランドであることの意味自体に挑戦しながら、日本のデニムDNAと北欧の現代的デザイン、その両方の良さを引き出そうとしている。

「どうしてそこまでやるの?」――10年前は異端児だった、徹底した透明性の思想

リヴィッドを語るうえで、「透明性」は避けては通れない。 トロンハイムの小さな工房で、イェンスが一本のジーンズの全工程を手掛けていた創業当初から、彼らは「ほぼ完全にオープン」だった。どの工場の生地を使い、どんなミシンで縫っているのか。それを包み隠さず話すこと自体が、ブランドを始めた理由の一部でもあったからだ。

2013年、デニム以外のレディ・トゥ・ウェアへと領域を広げると、サプライチェーンは一気に複雑化した。責任ある労働環境を確保できるポルトガルに生産を集約しつつ、世界中から生地を調達し、自社開発の素材も加わっていく。

そこでリヴィッドは、あえてバリューチェーンを丸ごとたどる道を選んだ。2年もの歳月をかけて全工程を記録し、工場の作業員や管理者へのインタビューを行い、すべてのサプライヤーや下請けから書類を集め続けた。

そして2016年、自社のバリューチェーン全体を公開する「トランスペアレンシー・イニシアティブ」を正式に発表。ノルウェーで初めて、自らの裏側をすべてさらけ出したブランドとなったのだ。しかし、当時の周囲の反応はどこか他人事だったという。

「へえ、いい取り組みだね。でも、どうしてそこまでやるの?」

オーガニックコットンなどの“素材ラベル”には注目が集まっていたが、透明性そのものはまだ一般的な関心事ではなかった。それでも、彼らの信念は揺るがなかった。

「私たちにとっては、透明性こそが鍵なんです。それによってベストなものづくりができるだけでなく、“どうやって服が作られているのか”を見せること自体が、お客さんとのコミュニケーションになる。その視点が、消費や生産のあり方を変えていけると思っています」

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QRコードが開くバリューチェーンの裏側と、消費者の「小さな意識の変化」

いまリヴィッドは、スプリング/サマー 2026コレクションに向けて、商品ごとに固有のQRコードを付けるプロジェクトを進めている。
そこからアクセスできるのは、ただの「工場リスト」ではない。多くのブランドが今後、EU規制などにより透明性を求められていくことになるが、それは多くの場合「ファクトリー名の一覧」を提示するだけで終わってしまう。

「そんなリストを見せられても、消費者は『だから何?』と感じてしまうでしょう。それでは、自分で調べてくださいという“宿題”を消費者に投げているだけになってしまう」

リヴィッドが目指しているのは、もっとインタラクティブで、「覗きたくなる」透明性だ。 生地やコットンの原産地はもちろん、ジッパーに使われた金属、洗濯ラベルの繊維、そして縫い糸に至るまで、ありとあらゆるパーツの由来をトレースし、デジタルポータルで可視化する。そのために、彼らは社内でデジタルインフラまで自作してしまった。すべてのサプライヤーに自動で情報リクエストが飛び、返信を受け取り、ダブルチェックを経てWebに公開される仕組みだ。

「縫い糸にまでサプライチェーンがつながっているという事実そのものが、“いまのものづくりがどれほど複雑か”を伝えてくれます。Tシャツ1枚を買うときでも、その背後に何百人もの人が関わっていると知ったら、もう少し大事に扱おうと思うかもしれない。そんな“小さな意識の変化”を積み重ねたいんです」

「透明性」ページより。原材料、糸(ヤーン)、染色生地加工(織り/編みの工程)、縫製(組み立て)、倉庫、小売店(販売店)などの情報が掲載されている。

穴のあいた一本を捨てないために―無料リペアとPAST(ヴィンテージ)

リヴィッドのデニム観は、経年変化に対するラディカルな肯定から始まる。

「私たちはデニムを“毎日、何年も何年も”履いてほしいと思っています。その方が、生地が身体に沿って形を変え、あなただけのフェードマークが刻まれて、どんどん良くなっていくから」

同じ一本を履き続ければ、ひざや股、ポケット袋などがいずれ擦り切れてくる。
とくにポケットに鍵を入れる人なら、そこから穴が開くのはある種“宿命”だ。

「でも、少し擦り切れてきた頃こそ、ジーンズがいちばん格好いいタイミングでもあるんです。
だから、穴が開いたからといって捨ててしまうのは、本当にもったいない」

リヴィッドは、すべてのジーンズについて初回リペアを無料で提供している。
股・内腿・膝・ポケット内側など、通常の摩耗や初期の穴あきに対応し、早めに持ち込めば美しく長持ちする修理ができる。
ノルウェーだけで、年間3,000〜5,000本のジーンズをリペアしているという数字は、この小さな国の規模から考えればかなり大きい。

さらに2015年からは、旗艦店にヴィンテージ部門「PAST」を併設。
ヨーロッパ各地を旅して一点ずつハンドピックした90年代以前の衣類を中心に、高品質な中古衣料をセレクトしている。
「まだ十分に着られるのに、クローゼットの奥で眠っている服を循環させたい。その文化をノルウェーに根づかせたい」と彼らは語る。

新品を売るブランドでありながら、既に存在する服の寿命を引き延ばす仕組みを同時に用意しているところに、リヴィッドの誠実さがある。

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ノルウェーと日本のあいだで「少しだけ違う」価値観を届ける

インタビューの最後に、オーレは日本市場への期待をこう語ってくれた。

「日本という国や文化に触れられること自体が大きな刺激ですが、同時に、日本のプロフェッショナリズムや仕事のスピードのレベルにも強くインスピレーションを受けています。
その点では、北欧ヨーロッパよりも刺激的だと感じるくらいです」

北欧のファッションシーンでは今、サステナビリティや透明性、多様性をめぐる興味深い動きが起き続けている。リヴィッドはその北欧の一部として、そしてノルウェー唯一のジーンズメーカーとして、日本市場の「次の流れ」にフィットしたいと考えている。

「まだ小さいブランドではありますが、日本でもここから成長していきたい。私たちは、この市場に“少しだけ他とは違う、でも確かに必要とされる”何かを持ち込めると信じています」

コペンハーゲンからヘルシンキ、そしてトロンハイムへ。北欧のファッションが描き出す「責任ある美しさ」の円の中に、リヴィッドという新しい点が描き加えられた。

その点と日本がどのようにつながっていくのか。ー今春、QRコードを携えて届くデニムを、待ち遠しく感じてしまう。

Livid
https://livid.no/

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パブリシスト/コラムニスト
髙岡英里子
幼少期をフランス・パリで過ごす。社会人を経て再び渡仏し、現地PR会社にてパリファッションウィークに携わる。帰国後、国内外のファッションブランドPRとして活動。2016年に独立し、ファッションに加えライフスタイル、ビューティー、音楽、アート、食と分野を広げ、パブリシスト/コラムニストとして活動中。

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