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ニュース|2026.01.19

「達成できた目標は1つだけ」。パタゴニアのインパクトレポートが問いかけるサステナビリティへの道

パタゴニアは2025年11月、初めてとなるインパクトレポート「ワーク・イン・プログレス」(進行中)を発行。レポートの内容を報告するシンポジウムが2025年12月11・12日の2日に渡って渋谷で開かれた。主に素材開発について、これまでの歩みと現状を報告した11日の回には、米パタゴニア本社のプロダクトフットプリント担当副社長、マット・ドワイヤーさんが来日。会場に集まった多くのアパレル関係者やメディアが彼の発言に注目した。

原稿:岩井光子 写真:©Jimmy Chin

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ありのままを見せることが、次なる一歩を拓く。154ページに刻まれた実践と対話の10年

パタゴニアの2025年版インパクトレポート「ワーク・イン・プログレス」は、154ページにも及ぶ。事業活動や製品について、データと指標だけではなく、現場の息遣いが感じられるようなナラティブ(物語)も随所に織り込まれている。リポート冒頭に書かれているように「断片的な報告」ではなく、不完全な取り組みも含め、パタゴニアの現在地をありのままに見せることを目指した報告書だ。

司会を務めたWWDサステナビリティディレクターの向千鶴さんの冒頭の言葉も、このレポートの真意を理解する手助けとなる。

「決して成功事例を羅列して、『こんなことができた!』を報告する場ではありません。レポートでもパタゴニアがどこで立ち止まり、何を改善するべきか、率直な課題も含めて公開しています。企業が真の変革を志す上でとても重要ですし、勇気が要ること。今日の報告が皆さんの企業活動に、そして、私たちは消費者でもありますので、一人ひとりの消費行動を見つめ直す、具体的なアクションにつながる気づきとなることを期待しております」

レポートの報告をするマット・ドワイヤーさん。奥が司会の向さん Shota Matsushima © 2025Patagonia, Inc.

未公開企業であり、年次報告書の提出義務がないパタゴニアが自発的にレポートを発行するのは、事業の透明性の確保と共に、より多くの同志と進捗を共有することの効果を期待しているからでもある。

ドワイヤーさんはレポートを出した理由の一つは、「2025年がちょうど我々が2015年に立てた目標のゴール年でもあること」とし、報告の前半をその振り返りに当てた。

パタゴニアが10年前に自主設定した2025年の目標とは、以下の5つ。進捗状況はレポートに詳しく書かれているが、端的にまとめれば、下のようになる。

  1. 2025年までにカーボンニュートラル→目標を再設定
  2. 環境に望ましい素材100%で製品を作る→あと少しで達成
  3. 製品ラインから化学物質を永遠に除去する(PFAS)→達成済
  4. 合成繊維の50%に二次廃棄物を必ず使用する→目標にはほど遠い
  5. サプライチェーンの工場で働くすべての労働者に生活賃金を保証する→真の保証は道半ば
Work in Progress冊子より抜粋しShift C作成。
2022年、創業者のイヴォン・シュイナード一族は、会社の所有権を新設したパタゴニア・パーパス・ト
ラストと環境NPOに譲り、地球を「唯一の株主」とした © Cory Richards

驚くのは達成できた目標は一つのみで、あとは道半ばであることだ。達成できた3でさえ、「まだハーフマラソン」くらいという。だが、ドワイヤーさんの報告を聞くと、そこにはスタッフが熟慮し、対話やテストを積み重ねた足跡があることがわかる。進歩の礎としての足跡だ。

「これまで棒グラフには感情がないと思っていたのですが、お話を聞いていると、すごくドラマチックに見えてくる」と司会の向さんは言う。

01:カーボン・オフセットを手放し、バリューチェーン全体での排出ゼロを目指す

例えば、1に関しては、オフセットを使って排出量を埋め合わせるやり方には、「合格点をお金で買うような感覚がある」と、パタゴニアは2018年からオフセットによる排出量取引を拒否する姿勢を徹底してきた。その代わりに2040年までに自社のサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成することを目指すと、より高みに目標を設定し直している。

03:全製品で意図的なPFASの不使用を達成

2から4は、原材料についてだ。材料工学が専門で、ゴアテックス素材メーカーの開発者だったドワイヤーさんは、2013年にパタゴニアに入社。現職就任までは素材開発部門の責任者として、原材料の環境負荷軽減に注力してきた。

ドワイヤーさんの話が特に熱を帯びたのは、自身も関わった3のPFAS除去に関する開発ストーリーだ。PFASとは有機フッ素化合物の総称で、水や油を弾く特性から衣類やスマホのコーティングなど幅広い製品に使われているが、自然界ではほぼ分解されないことから健康被害への懸念が指摘されるようになった。

Shota Matsushima © 2025 Patagonia, Inc.

パタゴニアでは2025年春以降、はっ水性能を維持しつつ、製品ラインの100%で意図的にPFASを使わずに製造する体制を整えた。何千もの代替物質をテストし、約20年かけて取り組んできた研究の成果だという。

ドワイヤーさんはこれを「複雑な問題には、複雑な解決策が要る」事例として話す。

「(汚染源とみられる)C8分子の代替化学物質を一つ探せと言われ、C6をベースとする化学物質を見つけましたが、ほどなくそれも汚染物質であることがわかり、研究は振り出しに戻りました。答えは1つではなく、12くらいあり、製品や場面によっても違った。私の仕事は製品に今、何を求められているかを認識し、チームの会話を促すこと。PFAS除去の旅はまさにそうでした」

04:繊維ゴミや廃漁網など二次廃棄物をさらに活用

また、4の二次廃棄物については数字的には6%と、目標の50%には遠い状況にある。日本の使用済みペットボトルに依存していた状況から脱却を図り、より環境負荷の少ない新たなソリューションを農業・食品廃棄物、あるいは繊維to繊維リサイクルなどへと、方向性を探っている段階ということが背景にある。スケールアップには「まだまだイノベーションとインフラ整備が必要」とドワイヤーさん

そんな中でも、二次廃棄物の新素材として、存在感を増し、大きくシェアを伸ばしたのは、使用済み魚網だ。パタゴニアは2014年、海洋生物に悪影響を与えていた廃魚網の回収プログラムを立ち上げ、スケートボードを製造していたスタートアップ「ブレオ」の将来性に着目し、資金提供。素材開発を協働してきた。魚網を100%リサイクルしたナイロン 6の「ネットプラス」は2021年に 帽子のつばに初めて採用して以降、現在では150を超える製品で使われている。

一社で終わらせない。「他社の成功を共に祝う」パタゴニアが描く、業界全体の進化

「100%までの余地がイノベーションのトリガーとなります」 Shota Matsushima © 2025 Patagonia, Inc

達成道半ばであることを、ドワイヤーさんはポジティブにとらえる。

「誰かに優先にしろと言われたわけではなく、我々が自分の責任で目標を設定したわけです。ですから、達成できなかったらそのプロダクトを取り下げるということではなく、将来のイノベーションのきっかけになると考えています」

課題はチャンス、イノベーションを呼び込むトリガーになり、前進の機動力になるというのだ。

「私たちは神話を打ち砕かなければいけない。例えば、再生魚網のマテリアルは、経済的価値も需要も見出されていなかった。10年前には、再生素材のコレクションブックなんてなかったわけです。PFASの代替物質もなかったから、我々が開発をしなくてはいけなかった。化学的な研究も進め、さまざまな投資と事業のスケールアップが必要でした。私たちのアプローチが他と違うのは、そういった労力をいとわないこと。後に続く人たちが楽に進めるように道を切り拓くわけです」

SP20_SELL-IN BYO / DEC 1, 2018 to DEC 1, 2019: Yvon Chouinard during the filming of 180 South. © Jimmy Chin

ドワイヤーさんはイヴォンの言葉も引き合いに出す。

「イヴォンにいつも言われるのは、最も野心的な、高邁なゴールを達成しても、それが他のブランドで証明できなければ、自分たちがいくら達成しても意味がないんだよと。例えば、私たちはマイクロパフという人気製品を最初に世に出した時にはお祝いしませんでしたが、ネットプラスを使った製品をナイキが出した時にはお祝いしました。これこそ私たちのいう進歩です」

「私たちはコンセプトカーを開発する会社ではなく、ガラスのケースの中で、使われることがないようなモノを開発する人ではないわけです」

むしろ、パタゴニアの枠外に出て、他のグローバルブランドやサプライヤーにコミットメントすることこそが、問題の本質に迫ることであり、一番大事なこと。ドワイヤーさんは繰り返しそう強調する。

日本は「パタゴニアのイノベーションハブ」とドワイヤーさん。日本にある素材工場は21を数え、世界第3位。「技術的機能性が優れた製品を作ることに対する熱意が高い」と信頼を寄せる Shota Matsushima © 2025 Patagonia, Inc.

2時間の枠で行われたシンポジウムの時間配分は、レポートの報告が1時間、そして、会場参加者とのQ&Aが同じく1時間とたっぷり設けられたが、研究者やマテリアルメーカー、廃棄物活用のスタートアップ経営者など、実際に素材開発や資源循環の現場で奮闘する人たちから次々と質問が寄せられ、やり取りは終了時間ぎりぎりまで続いた。

ドワイヤーさんは、消費者がアクションを起こすためのこんなアドバイスも投げかける。

「誰もが消費者ですよね。みんな服を買うし、コーヒーも買う。そんな人たちに私はよく5つの質問をします。1. これはどこで作られたのか? 2. 誰が作ったのか? 3. どんな素材で作られているか? 4.  以上1〜3番の質問の答えは真実だと言い切れるのか? 5.これを使い終えたらどうするか? 消費者側から、私のような人に対してこういう質問に投げかけて、ビジネスに対してプレッシャーをかけることもできると思うんですよね、それも前に進む力になります」

地球という厳しい“ボス”に向けたレポートからは、小さな進歩を積み重ね、製造者としての責任から逃げない強さも伝わってくる一方、悩みながら歩む人間らしいパタゴニアの姿も垣間見える。環境企業のトップランナーは、共に歩む仲間を求めている。

「私も完全ではありません。通勤にはガソリン車を使っていますし、目をつぶってほしいこともある。時にはうんざりすることもあるけど、課題解決に一緒に取り組んでくださっている方たちと話していると気分が晴れるんです。私たちは世界を汚しているかもしれないけど、少しはきれいにしている」

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ライター/エディター
岩井光子
美術館勤務などを経てフリーに。Think the Earthのウェブメディア「think」地球ニュース編集を始め、一般誌、ウェブメディア、企業とのコラボなどでサステナブルやSDGsに関する企画を多く担当。著書に震災後、福島県相馬市に誕生した音楽教育プログラム「エル・システマ」を追った『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社)。

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