ファッション|2025.12.19

未来を輝かせる、唯一無二のサステナブルジュエリー

長く愛され、世代を超えて受け継がれていくジュエリー。しかし採掘や精錬の過程では、環境負荷やトレーサビリティの不透明さといった課題も抱えている。そこで注目されているのが、既にこの地上にある資源を生かし、新たな価値を生み出すサステナブルなジュエリーだ。アップサイクルされた金属やリユースダイヤモンド、透明性の高い素材選びなど、ブランドごとに多様なアプローチが進んでいる。

原稿:藤井由香里

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ここでは、独自の技術と思想で持続可能な美しさを形にする5つのブランドを紹介。
あなたの未来を輝かせる、唯一無二のジュエリーを見つけてみて。

sharanpoi|東洋の美学を貫く、資源の再生から生まれる新たなジュエリー

インドと日本、それぞれの伝統工芸を融合させる「sharanpoi(シャランポワ)」は、“地球上にすでに存在する貴重な資源を活かす”という一貫した信念を軸にしている。古いジュエリーから取り外した宝石を再び命ある作品として蘇らせるその姿勢は、単なるリサイクルではなく、美学の再解釈だ。

2024年元日に発生した能登半島地震では、石川県小松市にある九谷焼の名窯「錦山窯(きんざんがま)」が大きな被害を受け、120年にわたり受け継がれてきた多くの作品が破損した。九谷焼は、五彩や金彩を駆使した華麗な絵付けで「ジャパンクタニ」として海外でも高く評価されてきた伝統工芸であり、錦山窯は金彩技術を最も得意とする窯元として知られる。

はなのかけら ¥132,000 ‒ 165,000 (税込)

sharanpoiはこの歴史ある窯元とともに、割れた陶片に新たな価値を宿すプロジェクトを始動。金彩の美しい欠片を小さくカットし、角を丁寧に磨き上げ、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドを合わせた「はなのかけら」シリーズを制作した。被災地への想いと、資源を尊重する姿勢が凝縮されたアイテムは、12月20日より発売予定だ。

リング ¥33,000 – 88,000(税込)、バングル ¥66,000 ‒ 110,000(税込)

さらに、錦山窯の吉田るみこがsharanpoiを象徴する“ひばり”のモチーフを金彩で描き、使い込むほどに下地の緑が現れるマットゴールドのリングも制作。日本で唯一の伝統技法「甲州水晶細工」を用いた“ひばり”のシリーズとともに、東洋の美学を静かに、しかし力強く伝えるコレクションとなっている。

代表・デザイナーの安部真理子氏が、古代エジプトやインドの装飾美から着想を得て創出するsharanpoiの世界観。その根底には“受け継がれる至宝に、もう一度未来を与える”という強い意思が流れている。

ALLNIQUE|時を重ね、唯一無二の輝きを放つダイヤモンド

「ALLNIQUE(オールニーク)」は、ブランド名の通り“すべて(all)に、そのモノや人にしかない魅力(unique)がある”という思想を軸に、限りある資源を循環させるジュエリーづくりを続けている。

Playful Collection “Oui” チャーム ¥121,000 刺繍作家・小林モー子とのコラボレーションアイテム。自由なクリエーションで、大人の装いに笑顔とユーモアを添える

同ブランドが扱うのは、新たに採掘されたダイヤモンドではなく、かつて別のジュエリーとして時を重ねてきたヘリテージダイヤモンド。壊れてしまったジュエリーや、時代に合わなくなったデザインから価値ある石だけを丁寧に選び取り、いまの感性に寄り添うかたちへと再編集する。その姿勢は、資源を無駄にしないというだけでなく、素材が歩んできた時間や個性を尊重するという美意識に根ざしている。

Pieces “F-Baguette” リング ¥170,500 カットの異なるダイヤモンドの調和を楽しむフォークリング。ダイヤモンドは同じカットでもプロポーションの僅かな違いで、多面的な個性を魅せてくれる

素材選びの要となるのが、徹底した循環の仕組みだ。ダイヤモンドはすべてリユース品を一石ずつ選別し、金は精錬によって生まれ変わらせた地金を使用(一部パーツを除く)。買取から精錬、選別、供給、そして制作までを一貫して自社で行うことで、中間コストを抑えつつ確かな品質を保ち、手に取りやすい価格を実現している。国内の工房で仕上げられるジュエリーは、まさに“資源の旅”を形にした作品だ。

Layered Collection “Prong” ハーフエタニティリング ¥55,000 大小のリユースダイヤモンドを交互にセットした、光の粒がきらめくハーフエタニティ。「ダイヤモンドをもっと身近に感じてほしい」という想いを込めて、ベーシックで日常に馴染む心地よさを目指した一点。

ものが歩んできた時間、人の手を渡りながら宿してきた個性。
それらを未来に繋ぐ美しさを、ALLNIQUEは丁寧に形にしている。

5/8 STUDIOS|装いを仕上げる、シーズニングとしての美学

「5/8 STUDIOS(ファイブエイス)」は、ジュエリーを“スタイルの仕上げ(エッセンス)”と捉え、料理に振る塩や胡椒のように、主張しすぎず、装い全体のバランスを整える存在と考えている。この独自の視点を生み出したのは、代表・酒井氏がファッションデザイナーとして培ってきた経験だ。

ブランドが大切にしているのは、“シーズニングとしての美学”。静かな中にある確かな存在がコーディネート全体をより洗練させてくれるという考え方が、ブランドの根底にある。

BEGINNING EAR CUF / Large ¥19,800(税込) ブランドの始まりを象徴するシグニチャーデザイン。しなやかな波のように描くカーブが耳元に自然な動きを添え、圧迫感を抑えながら安定して留まるよう設計された機能性も魅力

素材選びにおいて重要な役割を果たすのが、酒井氏がニューヨーク生活で触れたリサイクル地金の文化。欧米のブランドでは、リサイクルシルバーやゴールドを特別な選択ではなく、ごく自然なものとして扱っている。その姿勢がクールに映り、日本でも同じ価値観を体現したいと決意したことが、ファイブエイスのサステナブルな素材選択の原点にある。

TEXTURED OVAL RING ¥53,900(税込) 光沢のあるドームトップと、マットなヘアラインのアームという、異なる質感の対比が静かな存在感を生み出すリング。装う人の動きや仕草に寄り添い、日々の装いに静寂な力を与えてくれる

しかし、小さなブランドにとって透明性の高いリサイクル地金の調達は簡単ではない。その壁を越えるきっかけとなったのが「リファインメタル協会*」との出会いだ。現在は、同協会のシステムを通して信頼性の高いリサイクル地金を使用しており、精錬から金属加工、製品加工まで全工程で正しく取り扱われ、すべての基準をクリアしたジュエリーには認証マークが刻まれる。デザインとしての美しさと、背景にある美しさを同じ重さで大切にするという、5/8 STUDIOSらしい姿勢が表れている。

HOWARD PINKY RING with Diamond ¥27,500(税込) ミニマルなフォルムの内側に繊細なニュアンスを宿したピンキーリング。サイドに添えた小さなダイヤモンドが静かに光を放つ。どんな装いにもすっと馴染む、気配のある一本

製作においては、伝統技法と最新技術を柔軟に組み合わせる。繊細な造形を生み出すワックスカービングや彫金、そして3Dモデリング。仕上げは熟練の職人が手仕事で行い、最終的な精度と質感を高めていく。東京でデザインから製造まで一貫して完結する体制により、細かな仕様確認が可能となり、安定した品質が保たれている。

装いの主役ではなく、全体を完成させる最後のひとさじとしてのジュエリー。5/8 STUDIOSは、そんな“シーズニング”としての美しさを静かに、確かに体現している。

MISSOMA|100%リサイクルされた素材から生まれる、責任あるジュエリー

ロンドン発祥のジュエリーブランド「MISSOMA(ミッソマ)」は、モダンで洗練されたデザインを軸に、2007年から“デミファインジュエリー”というカテゴリーを切り拓いてきた存在だ。デザインはすべてロンドンのスタジオでスケッチされ、約1年をかけて開発・製作される。唯一無二のデザインを追求するだけでなく、「作品を身につける人のストーリーの一部にしたい」という願いが、細部にまで息づいている。

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MISSOMAの大きな特徴は、100%リサイクルされたゴールドとシルバーを採用している点だ。新しく採掘するのではなく、既に存在する貴金属を精錬し、新しい輝きを与え直す。この選択は環境負荷の低減にとどまらず、サプライチェーン全体を通した温室効果ガス排出削減や、素材の責任ある調達への姿勢にもつながっている。

リサイクルメタルに加え、14Kソリッドゴールド、ラボグロウンダイヤモンド、天然ダイヤモンド、ハンドカットのセミプレシャスストーンなどを使用。マイクロンプレーティングの技術にも長けており、耐久性・美しさの両立を実現している。

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サステナビリティへの取り組みは業界でも先進的だ。UN Women’s Empowerment Principles、Responsible Jewellery Council(RJC)など、複数の国際ガイドラインに基づき、ジェンダー平等、倫理的な調達、透明性を推進。さらに、バイオダイバーシティ保全プロジェクトへの出資や、気候テック企業「Vaayu」との協働を通して、配送・返品・オフィスのカーボンオフセットを実施している。“100%サステナブルなジュエリーは存在しない”という前提に立ちながらも、その理想に最も近づくための誠実な取り組みを続けている。

毎日身につけられるからこそ、毎日小さな選択を積み重ねることができる——そんな“つけるサステナビリティ”を後押ししてくれる存在だ。

MONICA VINADER|透明性と責任あるものづくりが宿す、“良心の輝き”

高級ジュエリーの世界では、素材や工程の透明性が後回しにされてきた歴史がある。しかし、2008年に創業した「MONICA VINADER(モニカ ヴィナダー)」は、その常識を覆す存在だ。ブランドが掲げるのは、毎日身につけられて、気持ちを前向きにしてくれるジュエリーを、可能な限り責任あるかたちで作り続けること。

使用するゴールドとスターリングシルバーはすべて 100%リサイクル素材。ダイヤモンドは コンフリクトフリー、または 100%再生可能エネルギーで生産されたラボグロウンダイヤモンドを採用し、カーボンフットプリントの削減にも取り組んでいる。さらに全ての新作は責任ある宝石供給を徹底し、アクアマリンやターコイズなど一部の天然石は完全にトレーサブルなサプライチェーンを確立している。

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ブランドの象徴ともいえるのが、2023年から導入された 「プロダクト・パスポート」。ジュエリーの素材調達からデザイン、職人技、梱包に至るまで、商品の生い立ちを追跡できる仕組みだ。これは業界でも先駆的な取り組みであり、ユーザーが倫理的な選択をしやすくなる、大きな変革でもある。

また、5年間の保証、無料の修理サービス、不要なジュエリーの下取り(他ブランドも可)といった循環型の仕組みを構築し、製品を長く使い続けてもらうことを重視している。この姿勢は、サプライチェーンの再構築や排出量削減への投資、自然再生への取り組み(Monica’s Meadow など)にもつながり、“循環性”と“透明性”の両輪で業界をリードしている。

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その哲学は、ジュエリーの佇まいにも宿る。たとえば「Riva Lab Grown Diamond Collection」は、繊細なカッティングとパヴェセッティングによって、ラボグロウンダイヤモンドの輝きを最大限に引き出したシリーズだ。

従来のRivaよりも大きく、より明るい光を放つ石を採用し、“Rivaの新しい章”を告げるような存在感をまとっている。

サステナブルジュエリーを選ぶことは、未来を選ぶこと

ダイヤモンドのリユース、リサイクル地金、トレーサビリティ、被災地への向き合い、伝統工芸との融合——ブランドごとに異なるアプローチの先には、限りある資源を尊重するという確かな意志がある。

透明性を守ること。職人の手仕事を敬うこと。そして、素材が歩んできた時間と個性を受けとめること。ジュエリーを選ぶという行為は、単なる装飾品の購入ではない。それは、地球の循環に参加し、未来への責任を自ら選択するという姿勢そのものだ。

そのひとつを手に取ることが、未来の輝きを選び取ることにつながっていく。

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ライター/エディター
藤井由香里
ファッションメディアのライター/エディター、アパレル業界での経験を経て、2022年に独立。現在は、ファッション、美容、カルチャー、サステナビリティを中心に執筆・編集を手がける。Webや紙媒体のコンテンツ制作に加え、広告制作、コピーライティング、翻訳編集など、多岐にわたるプロジェクトに携わる。

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