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ニュース|2025.10.17

売上の50%を循環型ビジネスにすることを宣言!「サステナビリティは成長ドライバー」と断言するArc’teryx(アークテリクス)

アークテリクスが「サステナビリティは成長のドライバー」と明言。2030年までに売上の50%を循環型ビジネスから生み出すという大胆な目標を掲げ、デザイン・サプライチェーン・店舗運営のすべてを再構築している。ニューヨークで開催されたクライメートウィークでは、アークテリクスとエレン・マッカーサー財団のパネルで、循環型経済へのブランドの取り組みが語られた。

原稿:田原美穂

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ニューヨーク・ファッションウィークが終わった直後、クライメートウィーク(気候変動週間)が9月21日から28日までNYにて開催された。毎年、国連総会の時期に合わせて開催されているもので、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)以外では世界最大規模の気候関連イベントである。今年のテーマは、「Power On(始動)」が掲げられ、気候変動対策を「議論」から「実行」へと移すという意味が込められた。このイベントでは、サステナブルファッションのテーマ以外にも、クリーンエネルギー、気候ファイナンス、AIなどのテクノロジー、気候正義など、多岐にわたる分野で議論が繰り広げられる。今年は過去最大である1,000以上の公式イベントが開催され、政府、企業、金融機関、NGO、一般市民など、10万人以上が現地参加した。

その中で、「システムとしての設計:文化・技術革新・インフラを通じて循環型社会を拡張する(Systemic by design: scaling circularity through culture, innovation, and infrastructure) 」 という題材にて、カナダのアウトドアブランドであるアークテリクス(Shift C評価:良い)と、循環型経済の推進を目的とするエレンマッカーサー財団のパネルディスカッションが行われた。

(写真)Climate Group提供
左からケイティ・ベッカー/アークテリクス・チーフ・クリエイティブオフィサー 、ジュール・レノン/エレンマッカーサー財団ファッションプログラムリード、カイル・ウッド/アークテリクス・シニアディレクター・オブ・ストラテジー・アンド・サーキュラリティ、ソフィア・リィ/インパクトエディター

アークテリクスは「問題解決と挑戦すること」がビジネスの根底に流れている

アークテリクスは、2人の登山家が、市場に流通しているクライミングの製品よりも、より高性能で軽量なものを求めて1989年に創業したブランドだ。そのブランドの起源の通り、アークテリクスのミッションは、山岳アスリートたちの問題解決と挑戦を支援する事に根差しており、「常により良い方法(もの)がある(There is always a better way)」という考え方で事業が行われている。アウトドアブランドにとって、美しい自然環境があってこそ存在の意義を成し、環境の変化は、アクティビティや必要な製品の変化などにも直結する。そのため、企業が環境への影響を最小限に抑えたものを提供する事や、廃棄されるものを最小限にするために製品の耐久性を強化する事、顧客が製品を大事に扱い、次の人へ循環させる習慣や文化などを作る事などは、自らの責任だと真摯に捉えている。

(写真)アークテリクスInstagramより抜粋

飛ぶ鳥を落とす勢いの成長目覚ましいアークテリクスの狙いは

そのようなアークテリクスの最近の成長は目覚ましい。2024年には約20億ドル(3000億円)の売上を達成し、前年対比で+30%以上の売上増加(注1)となった。この現状を作ってきたのは、「ブランドが進化し続けてきた歴史そのものを表している」、とアークテリクスのシニアディレクター・オブ・ストラテジー・アンド・サーキュラリティのカイルは伝える。

その成長の背景とは、2019年にアークテリクスの親会社であるAmer Sports(アメア スポーツ)が、中国のAnta Sports(アンタ・スポーツ)に買収されたタイミングで、DTC(ダイレクト・トゥ・コンスーマー)トランスフォーメーションを実施した事も少なからず影響しているはずだ。2019年には8割あった卸売りから、現在ではオンラインを含めた直販からの売上が8割を占めるようになった。そうする事で、利益率の向上や顧客との直接的な関係性を築く事に留まらず、循環型のモデルを築くための土台が出来ていったと推測する。現在(2024年度末時点)では、全世界に160店舗の拠点を持ち、2025年末までには300店舗以上へ拡大する計画が立てられている。

その店舗拡大により、多くの消費者へアークテリクスの商品を手に取ってもらう機会を増やす事には間違いないが、カイルは、「未来は『より多くの物』を求めているのではなく、『より良いシステム』を求めている。循環性をビジネスと成長モデルの中核にし、循環型モデルからの収益を2030年までに全体の50%にする」と、断言した。

彼の言葉通り、店舗拡大と共に、リファービッシュ(整備済中古品)やアップサイクルされた循環型の商品の展開、クリーニング、修理などを実施するリバード(Rebird)サービスセンターの店舗設置も増やしている。リバードサービスセンターは、現在世界中で30店舗以上の中に設置され、その約半数は過去1年以内に設置されたものだ。2024年のみで2万8千点もの製品を修理し、2030年までには何百万点もの製品を修理・サービスを提供できるインフラを構築する事を目指している。初期のテストを経て、「このようなサービスが、より『手軽』に、『身近』に、『簡単』に利用できるのであれば、消費者は新しい製品を購入するよりも、修理をしたいと考えている事がわかった。そして、規模化をすれば企業にとっても収益源となると確信した」という。

(写真)筆者撮影
ニューヨーク、ソーホー店、アークテリクス最大規模のリバード店舗。洗濯機も設置されており、ケア、修理、販売が全て店内で実施可能。

「2030年までに売上の50%を循環型にする」ための抜本的な改革

消費者が直接循環型モデルとして認識しやすいものは、リバードなど店舗内などで直接目にするものであるが、アークテリクスの循環への取り組みは、それだけではない。「ビジネスの中核に据える」、という事だけあって、「商品デザイン」「サプライチェーン」「店舗運営」の全てのシステムが変革されている。「耐久性のある商品の追求」、「循環型モデルの浸透」という目標を軸に、全ての組織や機能が作り直されているのだ。

まず、それは組織の在り方にも表れている。例えば、カイルは、企業全体の戦略を構築する部門をリードし、製品、ブランド、その他の部署全てを統括している。その戦略部門にて、循環性を全ての活動の中心に据えるように促すことを役割とし、推進している。現在米国では、世界的企業がサステナビリティ人員の削減、チームの解体や、各国でのサステナビリティポジションのクローズなど、循環型モデルに対してトーンダウンしている傾向がある。だが、アークテリクスは企業戦略の中枢に、しっかりと組み込まれている。

4つのデザインポイントをクリアした「正しい製品」しか作らない

次に製品について。アークテリクスには、「すべての製品が通過しなければならない4つのデザインフィルターがある」と、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのケイティが共有した。

1つ目は「アークテリクスとして本物か」。ただ商品を作るのではなく、作る事に意味がある、正しい製品しか作らない。

2つ目は「機能性」。その製品によって、どのような問題を解決するのか、市場にある既存製品よりも良いものを作る事が出来るのか、が議論される。

3つ目は「美しさ」。修理を難しくする要素を取り除き、シンプルでミニマルな機能美を追求している。

4つ目は「責任」。耐久性、長寿命性、修理可能性を重視。単に循環型であるだけでなく、製品をどれだけ長く使い続けられるかが考えられている。

「これらの4つのフィルターを通過した後、製品を見て『バード(ロゴ)に値するか?』が判断される。値しない場合は再設計し、値する場合のみプロセスを進める。私たちが作るすべてのものは、循環型の未来、修理可能性、耐久性、長寿命性にこだわっており、主要製品の全てにおいて、それらのポイントに関する目標と基準を設定している。ただし、最終的には製品のパフォーマンスが最重要事項であり、妥協できない。サーキュラリティは、それを妨げるものではなく、むしろそれを可能にするものだと考えている」と、語った。

サプライチェーンの改革が循環型モデルを加速させる

カイルは、さらにサプライチェーンの改革と循環性の関係について続けた。

「これは単なる紙の上の計画ではなく、すでに進行中だ。例えば、循環型の取り組みを加速させることが出来るサプライチェーンの変革について。マテリアルサイエンス企業のアンバーサイクル(Ambercycle)社のような企業と協力し、リサイクルしやすく、それでいてパフォーマンス基準を満たす次世代素材の開発を進めている。また、製品の寿命が5年、10年、20年と続いた後に、回収・分類・循環が可能となる『製品の終末期インフラ』への投資も進めている。テクノロジーとデータはその中心的な役割を担っており、トレーサビリティのプラットフォームなどを通じて、製品や素材のライフサイクル全体を追跡し、最終的には素材の価値を最大限に生かした循環の流れに再びつなげられるようにしている」と。

これらの取り組みは、以下のアークテリクスの循環の旅路(Circular Journey)で示されている。先に説明したリバード(右側の円)と、商品のデザイン&開発(左側の円)が輪になって繋がり、世に必要な「より良い」製品のみが生み出されている。

(図)アークテリクス サステナビリティレポート2024より抜粋

リバードの設置は、消費者が循環型の行動をとるためのアクセスを容易にするだけでなく、この接点を通じて、直接インサイトを得ることができるハブにもなっている。また、店内で修理できなかった製品や返品された製品は、カナダのバンクーバーにある「アークワン(Arc One)」という製造施設へ送られ、デザインチームが不都合の起きた箇所を徹底的に調査する。それが未来の製品開発へ生かされ、世の中に必要とされるものの誕生へと繋がるシステムが構築されている。

店舗は「製品の長寿命化」や「情緒的な繋がり」を目的に運営

店舗の運営は、リバードの修理インフラへの投資のみならず、再販の機能を構築し、スタッフが「ケアと製品の長寿命化」について、顧客と対話できるようにトレーニングを実施。また、ブランドや製品との情緒的な繋がりを深め、アウトドアを愛するコミュニティのハブとなる様に、各店舗で様々なイベントやプログラムが実施されている。以下は、10月2週目に米国で実施されるものの一例だ。他にも、ランクラブ、ヨガ、バックカントリーのパーティなどがウェブサイト上で紹介されているが、これが世界各国で1年中行われている。これまでにも、クライミングやトレイルランニングの講習、映画上映会、パッチなどを使用した修理講習会などが開かれ、積極的に実施している様子が伺える。

「循環型の製品やブランドへの行動変容は、消費者の選択だけの問題ではない。企業には『欲望』『トレンド』『文化』を形づくる力がある。だからこそ、私たちには責任がある。消費者が『悪い選択』をしなくて済むような環境を作るべきなのだ」という言うカイルの言葉も、このような店舗運営やコミュニティ形成に繋がっているのだろう。

(図)アークテリクスウェブサイトより抜粋

循環型モデルの収益はスナップショットで見るべきではない

いままで見てきたような、循環型の取り組みは、それぞれが密接に繋がっているため、単体で収益などの評価はすべきではないと考える。

例えば、リバードも単体で見ると投資対効果は低いかもしれない。だが、例えば製品の改良や、顧客との関係性構築、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の向上のための施策や、その影響にも変化が表れているはずだ。製品の改良については、今までリサーチ&ディベロップメント(R&D)や、デプスインタビューを実施してきた代わりに、直接コメントを収集したり、壊れた製品の回収によって、問題の本質を解決しやすくなっている。顧客との関係性構築と、それによるライフタイムバリューの向上に関しては、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の仕組みの代わりに、リバードにて、より深い直接的な関係性を築く事で、ビジネス的なポジティブな変化があった事は先に記載した通りだ。そのような様々な側面におけるベネフィットやコストなどを包括的に把握し、評価すべきだと考える。

他者と手をつなぎ「希望」と「根気」を鍵に変革を進める

循環型ビジネスモデルの抜本的な実現には、もちろん一社だけで完結できる事ではない。エレンマッカーサー財団が2024年5月に開始した「ファッション・リモデル・プロジェクト」において、「循環型ビジネスモデルをどうスケールさせるか」という課題に賛同し、アークテリクスは創設メンバーの一社として参加している。現在は13のブランドがハイエンドからファストファッションまで参加しており、改革を推進する事で、他の企業や政策立案者が追随できるロードマップを作成する事を目指すものだ。

このプロジェクトをリードするエレンマッカーサー財団ファッション・リードのジュールは、「企業が共通の方向性を持って動くことで、政策立案者も自信を持って意思決定できるようになる。実際、ある政策が導入されれば、循環型ビジネスモデルが直線型(使い捨て型)と比べてコスト競争力を持てるようになる可能性がある。現状では、循環型の方がむしろペナルティを受けていることもある」という現実を共有したうえで、「今すごくワクワクするのは、個人や企業がこの取り組みの価値を理解し、『これは挑戦する価値がある』と認識していること。もちろん失敗も多いが、それは『前向きな失敗』だ。失敗しても学び、また挑戦し、そして成果が見え始めたとき、それは本当にエキサイティングなものとなる。そうした取り組みは『希望』いうビジョンなしには成り立たない。だから『根気(grit)』と『希望(hope)』の2つが鍵だと思っている」と、述べた。

まとめ

以上紹介した事は、アークテリクスが抜本的なシステム改革をしてきた中の一部に過ぎず、今後も改革は進んでいくだろう。事業の全ては「より良いものを残す」という理念に基づいており、活動の原動力となっている。また、2030年までに収益の50%を循環型製品やモデルから得るという目的は、他社では聞いたことがないだけでなく、ビジネス目標と環境目標を結び付けるものだ。

「一度きりではなく、何度も使える製品を作るブランドとして知られたい」と、カイルが語ったように、理念、事業目的、事業目標、ブランディングが全て一本の矢で通っている。それを軸にシステムが構築され、全ての意思決定が行われる。その軸そのものが「循環」に焦点が当てられている。アークテリクスのような企業が、世界で存在感を示すことは非常に意義があり、業界全体にインスピレーションを与える事になるだろう。そして、循環型モデルをリードする一企業として、他社やエレンマッカーサー財団など、他の組織と手をつなぎ、すべての人や地球環境にとってより良いシステムを作ってほしいと願う。

(注1)アークテリクス単体の2023年から2024年の売上比率は公表されておらず、アークテリクスを中心とする親会社アメア スポーツのテクニカルアパレル部門の売り上げが前年対比+36%を参照。

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サステナビリティ・マーケター
田原美穂
NY在住。CoachやH&Mなどのマーケティングに10年以上携わり、2020年に独立。ファッション産業において循環型ビジネスを中心に、プロジェクトマネジメント、アドバイザー、マーケティング支援を行う。リアルな視点を届けるべく、NYでの視察ツアーや執筆活動も行う。FITにてサステナブル・デザインを、MITでは循環型経済について学び、実践と知見を融合させた支援を行っている。

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