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アパレル業界の炭素排出増加、ウルトラファストファッションの影響を指摘
SHEINをはじめとする「ウルトラ・ファストファッション」ブランドは、アパレル製品の生産量やポリエステル素材の使用増加を招き、業界のネットゼロの目標を脅かしていると批判されている。
米国を拠点にアパレル業界の環境負荷の大幅な削減を目指ざす非営利団体アパレル・インパクト・インスティチュート(Apparel Impact Institute以下、Aii)が今年7月に発行したレポート(*1)によると、サステナブルファッションの進展はウルトラ・ファストファッションの台頭によって損なわれていることが明らかになった。
これまでウルトラファストファッションの拡大による環境破壊に関する指摘が様々な団体やメディアで報じられてきたが、今回はその証拠を裏付けるものとなっている。
GHG排出量が、ポリエステル繊維の使用拡大により2019年以来、初めて顕著な増加傾向

Aiiの最新報告書によれば、アパレル産業の温室効果ガス(Greenhouse Gas 以下、GHG)排出量も同様に十分な速度で削減が進んでいないとされている。2023年には、アパレル産業の排出量は前年比7.5%増加し、9億4400万トン(世界全体のGHG排出量のおよそ1.78%)に達した。これは、同団体がGHG排出量の算定を開始した2019年以来、ほぼ横ばいだった数値に対して、初めて顕著に現れた増加だ。
GHG排出量増加の主な原因として、以下の2つが指摘された。
- バージンポリエステル繊維の使用拡大
- それに伴う衣類の生産量拡大
なお、ポリエステルはファッションに使われる全繊維の57%を占めており、2023年の使用量は7,110万トンで、2022年の6,330万トンから増加。 一方で、リサイクルポリエステルの割合は13.6%から12.5%へと低下しているとされる。(*2)
さらに、セクター全体でのGHG排出量の今後の見通しでは、2019年比で45%減となる4億8900万トンへの削減が必要なのに対して、このままの状況では2030年には炭素排出量が12億4300万トンに増加すると予測されている。
これらのGHG排出量の増加は、ポリエステルを代表する合成繊維が牽引しているとされており、報告書はブランドに対して「より持続可能な素材の活用を拡大すべきだ」と指摘。また、売れる以上に服を生産し続ける現状を改めると同時に、サプライチェーンから化石燃料を真剣に排除していく必要があると警告している。
なお、バリューチェーン全体におけるGHG排出量の割合は、図:ティア別排出量内訳(2023年)に示すように、2022年とほぼ同一で、繊維加工が最大で全体の55%、次いで原材料生産が22%を占めていると分析した。

ウルトラファストファッションが原因とされる理由とは?
今年5月、SHEINは科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定することを支援し、認定する国際的なイニシアチブScience Based Targets Initiative(SBTi )(*3)から認証を受けた。また今月には、SHEINとルフトハンザ・カーゴが持続可能な航空輸送促進で覚書を結んだことが発表されるなど、2050年のネットゼロ達成に向けた目標設定や具体的な取り組みを進めている。このため、「ウルトラファストファッションだけが環境負荷の原因ではないのでは」と感じる人もいるかもしれない。
一方で、Aiiはレポートの冒頭で、「本調査手法では、特定の企業やカテゴリに直接的な責任を帰属させることはできない」としつつも、「ウルトラ・ファストファッションブランドの台頭が主要因の一つである」との見解を示している。
理由の一つとして、GlobalData Apparel Intelligence Centerによれば、SHEINの世界アパレル市場シェアは2024年に1.53%へ拡大。売上も2016年の10億ドル未満から2023年には300億ドルへと急成長し、ZARAやH&Mを抜いて、アディダスとナイキに次ぐ第3位に浮上している。
実際、同社の年次報告書には、その成長に伴い、GHG排出量は2022年の917万トンから1,668万トンに増加したと報告されている。(*4)
SHEINやTemuといった企業は、過去5年間で急成長を遂げ、膨大な商品ラインナップを格安で提供することで世界中の消費者を惹きつけてきた。これらのブランドの成功に追随すべく同様のビジネスモデルを展開するブランドも増加しており、これが業界全体のGHG排出量増加の主要な要因として指摘されているのだ。Aiiの最高財務責任者ライアン・ゲインズ氏はTRELLISの取材に対し、「石炭の段階的廃止や再生可能エネルギーへの投資、サプライチェーンの脱炭素化に取り組むブランドについて目にしますが、それでもGHG排出量は増加しています」と語る。
続けて「この乖離こそが最も憂慮すべき点です。個々の企業が進歩していても、業界全体のシステムは依然として大量生産、スピード、断片化に依存していることを示しています。」と強調した。

業界全体のGHG排出量削減への道筋とウルトラファストファッションの課題
アパレル業界の温室効果ガス排出量の増加は依然として憂慮すべき状況である一方、Aiiの報告書では慎重ながらも前向きに捉えられる動きも指摘されている。
<前向きな取り組みの例>
- 多くのブランドが サプライチェーン全体のScope 3排出削減 に着手
- ベトナムなど主要供給国での 熱エネルギー脱石炭に向けた政策転換 が進展
- Ambercycle、Circ、Samsara Ecoなどのマテリアル・イノベーターへの大規模投資が加速し、革新的な持続可能素材の開発が進行
<具体的な成果例>
- H&M:2019〜2024年でScope 3排出量を 23%削減
- ファーストリテイリング(ユニクロ・GU):世界市場シェアを0.04%拡大しつつ、購入製品・サービス由来のGHG排出量を 18.6%削減
こうした取り組みは、業界全体のGHG排出削減に向けた前進の兆しとして評価される一方で、依然として排出量の増加という課題は残っており、持続可能な転換にはさらなる努力が求められる。現在、アパレル産業では600社以上がScience-Based Targets initiative(SBTi)を通じて気候変動対策へのコミットメントを表明しており、産業全体の中でも先進的な取り組みと位置づけられる。

一方で、ウルトラファストファッションには依然として厳しい視線が向けられている。SHEINは今月初め、イタリア政府から グリーンウォッシング規制に基づき100万ユーロ(約1億5千万円)の罰金を科され、英国での上場申請も倫理面の懸念により停滞していると報じられる。フランスでは、低い「エコスコア」を持つ商品の課税や、ファストファッションの広告・インフルエンサー活用禁止を盛り込んだ規制法案が上院で可決されるなど、業界全体への規制は一段と厳しさを増している。
さらに、ブランドが掲げる脱炭素目標の具体性にも注目が必要だ。ZARAやH&Mは2030年までに製品に使用するポリエステルを100%再生ポリエステルへ移行すると公言する一方で、SHEINの目標は同年までにわずか31%にとどまっており、その取り組みの本気度には疑問が残る。(*5)
超低価格を武器に急速に支持を集めてきたウルトラファストファッションは、金融機関や政府によるESG開示・改善の要求が強まる中、このモデルをそのまま維持することが難しい局面に差しかかっていると言えるだろう。
環境への影響と消費行動のつながりがますます可視化されるなか、私たち消費者にとっても「より良い未来をつくるために服とどう向き合うか」を改めて考える契機となりそうだ。
(*1)Taking Stock of Progress Against the Roadmap to Net Zero 2025 Annual Apparel Sector Greenhouse Gas Emissions: Calendar Year 2023 出所:Apparel Impact Institute
(*2)Science Based Targetsイニシアティブ(SBTi)とは 出所:WWFジャパン
(*3)Materials Market Report 2024 出所:Textile Exchange
(*4)2023 Sustainability and Social Impact Report 出所:Shein
(*5)Source Responsible Products and Materials 出所:Shein
<参考>
Ultra-Fast Fashion Blamed For Industry’s First Rise In Carbon Emissions In Four Years 出所:Forbes
Polyester pushes fashion’s emissions up 7.5 percent. Here’s what it means 出所:TRELISS