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山崎ナナ
アパレルブランド「YAMMA(ヤンマ)」代表、ヤンマ産業株式会社 代表取締役。2008年にブランドをスタート。福島県・会津地方の伝統織物「会津木綿」に魅了され、かつて後継者不在で廃業寸前だった会津の老舗工場を、従業員ごと引き継ぐかたちで再生。受注生産によるノーリスクでサステナブルな生産体制と、スタイリッシュなデザインで注目を集める。アメリカ・ニューヨークのソーホーにショップを展開。会津木綿の魅力を、世界に伝え続けている。

深本 南
⼤学在学中の2002年に環境団体を共同設⽴。ビジネスを通じた社会貢献を⽬指し、2004年にファッション業界に転⾝。ECコンサルティング、事業部⻑などを経て、2020年にサステナブルな暮らしをガイドするメディアコマース『ELEMINIST』を創設。2023年、株式会社UPDATER エグゼクティブアドバイザーに就任し「ShiftC(シフトシー)」に携わる。そのほか、サステナビリティに特化した企業の顧問やコンサルティング、新規事業を多数展開。
「YAMMA(ヤンマ)」(Shift C評価:良い)は福島・会津と東京・練馬、そしてアメリカ・ニューヨークを軽やかにつなぐアパレルブランドだ。山崎ナナさん主宰の「ヤンマ産業株式会社」は、2008年にはじまった。
後継者が潰える寸前だった老舗工場を従業員ごと受け継ぐといったストーリーから、説明不要に垣間見える剛腕社長ぶり。主に福島県は会津地方の伝統素材「会津木綿」を使用、その価値を向上させるべく海外、しかも激戦区のニューヨークではソーホーに店舗を構え「日本から来たサステナブルウェア」としてファンを増やし続けるヤンマ。
まさに”書くは易し”だが、少し考えれば、日本におけてエシカルやサステナブルといったキーワードがなかなか浸透しないこと、そういった価値観を掲げるブランドの奮闘と苦戦も知るShift Cとして、どこにその飛躍の秘訣があるのか気になった。聞き手は、Shift Cアドバイザーの深本南さん。
一時帰国中の超多忙スケジュールの中、練馬にある素敵な隠れ家的なオフィスにお邪魔して「あ、これが秘訣かも?」と思えるほど笑顔を絶やさない、しかし的確に芯を食うナナさんの言葉言葉言葉。
誰も海外での成功を想像しなかった、厚手でゴワゴワ、まさに”頑固”な会津木綿に新たな生命を吹き込んだナナさんの頭の中を、ほんの少しだけ、お届けします。

会津木綿と出会い、ニューヨーク進出&事業継承へ
ーそもそもニューヨークで仕掛けようというきかっけは何だったんですか?
山崎 最初は半分ビジネス半分プライベートという感じでニューヨークに行ったんです。ビジネスに関してはやっぱり、私が会津木綿に出会ったから。震災前のタイミングでした。
当時は工場に生地がめっちゃ積んであって、事務所スペースにまで大量山積みで、もう棚にも入りきらない。その一年後ぐらいに震災があって、会津は福島の中では安全とされている場所でした。でも会津も福島なわけで、その後復興支援イベントとかを、いろいろなデパートでやるので、商品のほとんどは会津からのものだったんです。
ーなるほど。
山崎 食品でもないし、一番買いやすい。それで本当に、そこに山積みされていた生地が、数年間できれいになくなったんです。
当時年に2回ぐらいは会津に行っていたから「社長、忙しそうですよね」 なんて言って、復興イベントはどこででもやってたし、「人とかもっと雇わないんですか」みたいなことを聞いたら「こういうブームは結構すぐ終わるから」って。
でもなんか、車も変わらないし、全然豊かになってる感じがしない。なので、「儲かってますか?」みたいな感じで聞いてみたんです。
すると、「それが全然」と。その頃は扱ってくれるメディアもないし、つくればつくるほど、売れば売れるほど、借金して在庫をつくってるような状態で、じゃあ「値段を上げればいいじゃないですか」って言ったんですよ。 それが2013年とか。今では考えられない話だけれども、もう「一度下げた値段は上げられない」っていう、それはあの頃の決まりだったんだよね。
じゃあ海外なら値段を上げられるんじゃないかと思って、「 同じ値段で生地を買うから、私の負担は気にしなくていいから、やってみたい」って言ったんですね。 私がやってみたいから、社長はとにかく生地をつくってくれるだけでいいので、と。でも、そこからビザを取るのに2年ぐらいかかって、実際社長がその間に病気で亡くなってしまったんです。
ーそして、そこで相当な、言葉を選ばずに言うなら男気発動と言いますか。
山崎 工場を畳むというので、できたら今まで通り続けられないかと聞くと、「山崎さんがやってくれるんだったら」という。その時に一回アメリカは諦めようかと思ったんだけど、共同経営者というか、その亡くなった社長の従兄弟と一緒に会社を興すことになって、事業も継続したんです。

創業からずっと変わらない受注生産スタイル
ーかたやShift Cは始動して何年でしょうか。
深本 Shift C自体は、準備を含めると2年ぐらいですね。
ー深本さんご自身もずっとアパレルとか、いろいろなものエシカル化しようという志をお持ちで、とはいえなかなか、世の中の変化もありながら、伝え方の部分が難しい?
山崎 深本さんはどんなことをやられているんですか。
深本 コロナ禍の時に、サステナビリティに特化したメディアの「ELEMINIST」というのを立ち上げて、そこから1年半かけて”エシカル”という世界観では日本一のメディアに成長させることができました。でももっと遡っていくと、幼少期の10歳の時に環境活動家を志して。
とはいえ、その当時も私が大学生になった時も、なかなかエシカルという軸でお洋服一つを探すのさえすごく難しい時代で、20代でまずアパレル企業に入ったんです。
「環境配慮型のものづくりができないのか」は、やっぱり現場に入ってみないとわからない。それで実際に入ってみると、一言で「原価が高いからムリ」と片付けられた。でも、3.11もそうだしコロナ禍のようなビビッドなできごとがあった時に、人の価値観って変わるじゃないですか。
正直、「オーガニックコットンが高い」というのは、私の20代と今の40代で、20年経っても何も変わらない。 そこに対して「エシカルじゃなきゃいけない」と思ったところで、クリエーションが追いついていない。 しかもクリエーションだけに注力しても、時代と価格との間を繋ぐバランサーがなかなかいない。
あとはやっぱり、ナナさんのような受注生産というスタイルも、理想は掲げたところで、結局みんな実際はロットで持っておかないとつくれないということがあって。だから、ナナさんはその難しさをどうやってかたちにしているのか。そして海外での成功で、その後日本でもどのようにブランドの価値や評価も変わったのかというところをお聞きしたいです。
山崎 ウチの受注生産のやり方って作る側にもロスがないし、お店にとってもロスがない、ノーリスクなわけです。 あの型と生地の見本を持って行って「好きなかたちを好きな生地でつくります」というスタイルなんですよ。
それをもう16、7年ぐらい前からやってきて、もしもそれができれば一番いいと思います。 ただ唯一の難点は「待つ」ってこと。 それは、初めは3ヶ月ぐらいだったんだけど、今は数が増えてきて半年待ちです。
かたやいいところはいろいろあります。 ロスもないし、価格も抑えられる。ロスがないというのは、結局アパレルって1/3ぐらいは破棄する予定でつくってたり、お店も仕入れてたりとかするわけで、そういうのがないからその分も乗っかってない。
しかも、どうしてウチは色数も多くできてるかと言ったら、まあ、やっぱり会津木綿が小幅で小回りが利いたってことと、その他の生地に関しては生地屋さんから買っているから。 卸しの値段じゃなくて、普通の一般の人が買う生地屋さんの価格で買って、あとは縫う人たちが徐々に増えていったんです。
はじめは本当に近くに住むおばあちゃんたちと一緒にやっていて、しかもみんな一人一人が家で縫ったりとか、そういう感じだったから、そこでも小回りが効いたのね。
糸を変えるのは本来は大変だから工場だとすごく嫌がられるんだけど、「色がたくさんで楽しい」っていうおばあちゃんが「そういうの全然気にしない」っ言ってくれるから、じゃあ「受注制でやってみてもいいですか?」って始まった。
でも実際受けたら「サンプルは薄手の生地でできてるのを、厚手の生地で受けて、実際こんなに分厚い木綿生地じゃ、このかたちはつくれません」とか、あとはオーダーをとっても予想外のかたちになっちゃったりとかして、いろいろ変更したり、丈を短くしたり、そういうカスタマイズを当初はたくさん受けて、失敗もたくさんしたりしてたの。
でも結局、そうそう真似する人がいなかったんですよ。

デザインの豊かさを支える女性たちの手仕事
深本 人を集めるのも、そんなに難しくなく、すんなりと?
山崎 そうですね。「東京でつくる」ということで最初の7、8年はおばあちゃんたちにつくってもらったんだけど、だんだん彼女たちも高齢化して。
それで、その後継ということで見つけたのが今練馬にある、当時で60歳ぐらいのチーム。 そこはみんなでエプロン縫ってる主婦の集まりで、何人か集まってスペース借りて、会社を立ち上げてたんです。
お母さんたち中心に動き出したら、今度はそこにその娘さんたちが加わって。若い主婦の人や、20、30代の人たちでも「OL辞めて縫製の仕事してみてもいいかも」と言ってくれて。子どもを産んでも家でも仕事ができるしね。
あとはやっぱり日本でつくるとロスがない。近くでやるのが一番なんですよ。
深本 皆さんの働き方的には受注生産だから、半年間のバッファーがあるのは、心地いい制作の時間軸ですか?
山崎 受注会自体は2カ月おきぐらいにやって、常に半年後にできてないといけない。しかもウチの場合まず生地をつくらないといけなくて、そこで2、3ヶ月。そこから製造で1、2ヶ月かかって、最後に検品に1ヶ月かかってお出しするので、実際は結構忙しくて(笑)。

ダメ出しの連発に「自分で見るしかない」とNY行きを決意
深本 その後ニューヨークに行って最初の頃の反応はどうでしたか?
山崎 はじめはもう何もなくて、いざ行くってなると、なぜか自分も自信がなかった。
ー自信なかったんですね?
山崎 実はなかったんですよ。
深本 そういう一面もあるんですね(笑)。
山崎 なぜかというと、はじめから「こういう生地は当たらない」「こういうスタイルはアメリカではダメ」と言われたんです。でも、それを言っていたのは結局は生地問屋さんで。当時はジェトロとかに相談に行ったり、勉強会に行ったりしていたんです。
でもなんていうか、ダメなことしか言われないのよね。「こういうことをすると失敗する」って。まず二つ、すごく覚えてます。
一つは伝統工芸とか手仕事の人たちは、うっかり大きい仕事を受けて納期が守れなくなった場合、アメリカはマーケットが大きいので、その時に機会損失で訴えられたり、そういう問題が起きますと。
二つ目はうちの商品に関して、このザラザラした生地がダメだと。アメリカ人はもっと超長綿とか、ファインでサラッとした、スーツに合わせるシャツのようなものが好きだからと。
深本 もっと応援してよ!ですよね(笑)
山崎 でも失敗するにしても、何にしても、私はそういう情報が「めちゃくちゃ中途半端だな」「納得いかないな」と思って、「見に行きたい」と思ったんですね。「もっと頭使えよ!」と(笑)
深本 逆にけしかけてくれたんですね(笑)。
山崎 そうなってます(笑)。負けず嫌いだから。
でも本当にそうだったんですよ。
その「機会損失」に関しては、本当にそれはもう完全にディストリビューター側の怠慢で、たぶん彼らは彼らで仕事が取りたいから「いけますよね?」みたいな感じで受けちゃうのかもしれない。
実際に商談に立ち会ってる人はディストリビューターだけかもしれないし、納期についても日本の工場の言い分を聞いてないかもしれないし。そんな例を引き合いに出されても「どうしようもないな」って話で、それで私は「自分で行きたい」と思ったんですよね。
とはいえ渡米当初はただニューヨークにいるという感じでした。日本の仕事をしながら、 でもそれこそコロナ禍中に、やっぱり「アメリカ面白い」みたいになってきたんです。 コロナへの対応の仕方とか、日本と全然違うので「面白い国だな」と思って、また愛情が芽生えはじめたというか。
ーむちゃくちゃな国ですけどね。
山崎 むちゃくちゃ過ぎる(笑)。
でも、コロナが明けたあたりに、なんだか人が変わってたんです。よくいわれるように、みんながしっかり情報を得るようになって、例えば日本茶がとても流行ったり。
ーしっとりとした生活というか。
深本 家でお茶を飲むとか。
山崎 食についてが一番過剰反応というか、変化が大きくて、みんながミールキットを買って家で料理するようになったし、お茶も入れるようになった。そういう食べ物のルーツとか、何でできてるとか、マニファクチュアリングの方が気になってきたんだと思います。
コロナ前はもっと「アメリカにいる日本人に売ろう」ぐらいに思っていたんです。あるいは、日本びいきのアメリカ人に向けて、作務衣やエプロンを提案して。服として着るっていうより、もう色々あってちょっと消極的だったんです。
でもコロナが明けて、あるお店さんから「ポップアップをやりませんか」という誘いがあって、ウチの商品をバーッと並べた時に、意外とアメリカ人のリアクションが悪くなかった。さらに、Blue in Greenというブランドのメンズバイヤーの男の子が日本人で、彼が「ナナさん、会津木綿のこの生地だったらメンズつくった方がいい。これ絶対、パンツとか売れますよ」って。
そう言われてやってみたらその通りで、この手の「中厚地」の生地をたぶんみんな見たことがなかった。 実はこの厚さって、日本でも少ないんですよ。夏だと暑そうに見えるけれど、実際はちょっと体から浮いてて肌に触れないから、夏でも涼しいの。
一回会津木綿を体験するとわかるのですが、楽で、普通のTシャツはベタっと肌に張り付いて感じるというか。 それでアメリカ人も、一回着たら二枚目買いに来てくれたりとか、「去年買ったからまた来た」「友だちが着ててすごくいいって言ってたから来た」とか、もうそれは日本と同じ(笑)。「友だちと同じやつが欲しい」とか、 もはや「人間ってこういうもんだな」みたいな。
深本 国はあんまり関係なかった(笑)。
山崎 たぶん今、ネットもあるし、みんながシームレスになってきていて、人としてネチネチしてるのはしてるし、サバサバはサバサバで、どこにでもいろんな人がいる。だから訴訟大国って言うけれど、「ごめんなさい」という人はちゃんと言うし、理解してくれる人は理解してくれる。
深本 あとはたぶん、ナナさんのコミュニケーション力(笑)。

会津の人と会津木綿の“頑固さ”がオンリーワンの武器になる
ーそう。お話を聞いてても、これ参考になるのか? ナナさんだから全部できているような気もします。
深本 でも、ファッションもそうですけど、ビジネスの根幹ってたぶんそこだと思うんですよね。 みんなが金太郎飴みたいに売れるものを作って、それで儲かるかといったら、そんなことはない。
独自性がちゃんとお客さまにも支持をされロングタームに売れていく、本来ものづくりはそうじゃなきゃいけない。 最近は誰でも簡単にモノがつくれる時代になってきてるから、自分の個性とアイデンティティをもった「このファブリックで、これが着たい」っていう、意志の強いお客さんにこそ支えられるというか。
山崎 だからアメリカに行って確信したのが、「個性がとにかく大事」「会津木綿が勝手に一人勝ちしている」ということ。私の中でも会津木綿は一人勝ちしてるんです。
ウチの商品の中でも、いろいろある中で、やっぱり会津の人が頑固だから、この変な中厚地をずっとつくってきて、この糸、太さが本当に他にはない。この太さの糸を探しても「ウチはもうその番手は扱ってない」「紡績会社がつくってない」ということで、他の産地はどんどん薄くしてるんだよね。
ーある意味で、時代に迎合している。
山崎 そうそう。そしてやっぱり会津は、頑固。私もはじめは「これ、何用の生地だろう? これはやっぱりボトムスかな?」でも、「ボトムスにしては薄い気がするけど、トップスにしては厚い」みたいな。
だからやっぱり、これが野良着にはベストなんです。 つまり野良着は程よく丈夫で乾きが早くないといけないから、チノパンみたいになっちゃダメなの。乾きが遅いのも、薄いのもダメ。
ータフな必要があるし、速乾性も必須。
山崎 作業するから、そんなふわふわしたもんじゃダメ。この厚みが大切で、そうしたら意外とみんな持ってない。 だから、アメリカ人の反応の方がわかりやすかったんですよ。「これは何だろう?」って(笑)。
深本 日本より海外の方が、テキスタイルに対してちゃんと見識があるというか。
山崎 意外とある。アメリカ人に関しては、もう変な話、Tシャツとジーパンしか着てないみたいな人がいるんです。それで、あの人たちはTシャツとジーパンの厚みにうるさい(笑)。ホント、オンスを見てて「この中厚地は」って。
だから「これは厚く見えるけど身体に貼り付かず、フローティングだよ」って言うと「この厚みいいね、わかるよ」って。
深本 洋服についてのリテラシーを上げていくって、実はとても大事な気がします。
山崎 ソーホーでお店が持てたんですけど、それもショップ・イン・ショップで、めっちゃいい場所なの。
ー簡単に言ってますが、ソーホーですよね? 今のニューヨークのソーホーで店を持つって、どれだけハードルが高いことなのか。
山崎 だからもう、超ラッキーというか、そのお店で、ここ3、4年くらい毎年1ヶ月間のポップアップを続けさせてもらって、一ヶ月間のセールスがよかったから「これずっとあったら、めっちゃ売れますよね」と。
深本 お人柄と、そこに集約される”引き寄せ”。


アパレルの現状を知って「育つ服」の力に学ぶ
ーもちろん今回はエシカルとかサステナブルという切り口で、その向こうに「海外の方がそういうセンスが強い」みたいな話なのかなと、ぼんやり思っていました。でもそれよりも、会津木綿みたいなものが持つ、その質実剛健な感じから逆算されて「あ、こうやって”サステナブル”が継承されていくのか」という。
山崎 そうそう、サステナブルのためにつくってるわけじゃないからね。
深本 そこの入り口も大事(笑)。
山崎 そうなの。会津木綿は一年中着られて、丈夫で強い。
”一年中着られる”ことの良さって、やっぱり服が傷まないんですよ。 夏しか着ない服って、次のシーズンに開けたらもう魅力を失って、いろいろ汗染みができてたり、様子が変わってるじゃない? だから新しい服って欲しくなるけど、会津木綿って別に冬でもずっと、年中着てるから別にそのまま来年も、再来年も着てる。
やっぱりこう「傷む服」ってあるんだよね。傷むというか、なんかその「育たない」というか。 そういう意味では会津木綿は「育つ」。どんどん柔らかくなって、ボロボロになってる時とかもあって、「ずいぶんボロボロになっちゃったな」と思って、洗って天日干しするとまたぱきっと復活して見えたり。でも柄によっては本当に5年、10年経ってもほぼ変わらない。
ー普遍的というか。
山崎 柄によっては、もういつまでも着られる柄もある。
さっき、あの「私だからできた」みたいに言っていただいたんだけど、でも「それじゃダメだ」とも思うわけ。
ー属人化させない、ナナさんがいなくてもできる状態をつくっていく。
山崎 私じゃなくても、みんなもできる、じゃなきゃダメだろうと。そのね、だから一応私も助言みたいのがあって「こうすれば私になれる」みたいな(笑)。
深本 聞きたいです(笑)。
山崎 とにかく大切なのは、やっぱり楽天的で呑気であること。そして、人の話を鵜呑みにしない。あとあと、座右の銘は油断大敵って、これは本当にいつでも。
深本 どれもスキルとして超大事、説得力ありますね。余計な話を鵜呑みにしないし「ソーホーに店持ってますけど、何か?」って(笑)。
山崎 呑気なのは特に、あんまり焦らないように。
ー呑気は大事だけど、油断は大敵。
深本 そして、どうしても最後に聞いておきたいのは、日本のアパレルの世界でエシカルな価値観を浸透させるのに、何らか有効だなと思う方法はありますか。
山崎 それはさっきも話に出たマインドセットというか情報、やっぱり勉強が絶対大事で。
フードロスのエキスパートで、井出留美さんという方がニューヨークにいらした時に、友人が「フードロスやってる人だから、ナナちゃんきっと気が合うと思う」みたいな感じで紹介してくれて。そうしたらすごく気に入ってくださって、そこからずっとウチの洋服着てくださってるんですよね。
このきっかけで、井出さんもアパレル業界でも「ファッションロスを減らす」っていう動きがあることを知ってくれて。 私たちの商品は、そういうことを気にしている人、考え方のサポートができるわけじゃないですか。 だから、本当に知って欲しい。
気にできる部分は気にしていって、気にし過ぎもあるかもしれないけど、たぶん「気にし過ぎ」ぐらいがいいと思う。だってそもそも、できることが少ないから。
深本 そういう意味では、Shift Cでは記事化していきたいことって、ちゃんとこう血が通うし、ファッションなんだけれども生き方そのものに共感する人たちが集まってきています。
「自分の大好きなブランドにエシカルになってもらいたい」というレターを送れるんですけど、その数が何百って集まっていて。これはすごいことで、それだけこの社会と地球環境が変わっているのに、自分が身にまといたいもの、着る人のアイデンティティーにまだ追いついていない。
そのマッチングのバリエーションがまだまだ少なくて、2、3年で、そういうブランドをクローズしちゃう人たちというのは、「どこの誰に」っていう届ける先がまだ見えてなさそうだなと。
山崎 本当にそうだと思う。
深本 とりあえず100%リサイクル素材で何かをつくるだけでは、まだまだ響かないんですよね。
山崎 ソーホーで今ご一緒しているBlue in Greenさんは、もともと日本のデニムを19年間売ってるんですよ。 それで、お客さんはデニムを買いに来る人たちだから、そういう素養があるんだよね。
デニムが欲しくなった人たちは、今もう世界中から客が来てて、その店自体もここ5年、それこそコロナ明けから伸びてて、そこに私がいるから「君は何だ?」ってなる。そこで私がこう機械の写真や動画とか見せて、メンテナンスしながら120年の工場で作ってると説明をして。
ー「よほどの理由があるから君はここにいるんだろう?」と。
山崎 すると「じゃあ、一枚着てみるわ」と言って買ってくれる人が結構多い。
ー着て、「これは本物のやつだな」と感じれば、購入。
山崎 だからこれを同じソーホーでも、例えばいきなりオープニングセレモニーみたいなところで売っても「ん、何だろう?」って。何の話、機械って何?みたいな。
だから、場所とかリーチする人って、すごく大事というか。

ビジネスの極意は、3分で虜にする「エレベータートーク」にあり
ー僕(筆者)は、HARAPPAって、その会津の工場に行かせてもらったじゃないですか。それで、実際に行ってからの見え方が、全然違うというか「これは本当に素敵だわ」と。それを、海外の人にもしあの工場を見せられれば、否応なしに好反応だと思うんです。でもその、実際に見せる行為がないのに、どう伝えているのかなという。
山崎 そうよね、そこは説明があるんですよ。 エレベータートークが(笑)。2分か3分かな、バーッて説明する。
深本 いや、でもそれは大事。
山崎 でもみんな、聞いた後は「サンキュー・フォア・シェアリング」と言ってくれる。それでコチラも「聞いてもらってありがとうございます」と伝えて、よかったって。
ー大切な矜持と、魅力が全部詰まってて、つまりそれぐらいシンプルに研ぎ澄まして伝えるのは簡単ではないはず。
深本 それに尽きる気がする。エレベータートーク、とにかく「3分ください」みたいな(笑)。
ーもしかして英語なのも、日本語よりやりやすいですか?
山崎 英語は本当に単刀直入だから、すっごく早い。彼らはとにかく結論が好きじゃない。 もうウチのところに来た瞬間に話しかけて「ここに置いてあるのは、こういうモノ」というのを2、3分で言うんの。 そこから「見てください」という感じで。
深本 「よかったら試着してください」っていう、 日本の接客はもうやめた方がいいと思う。
山崎 そうそう、「たぶんこれとか似合うと思う」とか言ってやってあげた方が、みんなも迷いがない。みんな時間、時短で、すごいスピードで生きているので(笑)。
