
前本美結。高校3年間を東南アジアで過ごした際に、社会問題に興味を持ち、SNSで社会問題解説・日常生活で個人ができるアクションなど、エシカル・サステナブル・セルフラブを軸にしたライフスタイルを発信中。モデル・講演・イベントプロデュース・フリーランスモデルなどの他、六本木のコミュニティカフェ 「um」(アム) にてコミュニティマネージャーを勤めている。着ているのはエコミットの仕訳け体験にお邪魔した時にいただいたジャケット。
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すべての必要とすべての不要をつなぎ、捨てない社会をかなえる
こんにちは。公式アンバサダー Shift Changer の前本美結です。
前回の記事では、オンワードの山本さんに、オンワード・グリーン・キャンペーンについてお話を伺いました。
今回は、「すべての必要とすべての不要をつなげ、捨てない社会をかなえる」をビジョンに掲げる、ECOMMIT(エコミット)の上席執行役員・CSO(最高サステナビリティ責任者)の坂野晶さんにお話しを伺います。実は坂野さんは、私が4年前に受講していた脱炭素人材育成プログラム「Green Innovator Academy」の共同代表でもあり、個人的にもとても尊敬している大先輩です。
エコミットは、企業や自治体と連携し、衣類や雑貨などの不要品の回収・選別・再流通(リユース・リサイクル)を行っています。直近では、LINEヤフーと共同で始めた新サービス「宅配PASSTO(パスト)」がリリース。今回は、この宅配PASSTOの取り組みを中心に、エコミットの仕組みやその背景にある想い、そして今後の展望についてインタビューします。
サステナブルな回収体験をより手軽に〜PASSTO ✖️ LINEヤフー
PASSTO(パスト)は、家庭やオフィスで不要になったものを回収・選別し、再び誰かの元へと“循環”させるサービス。街中の商業施設や駅などに設置された青い回収ボックスに集まったものは、一つひとつ丁寧に選別され、リユース可能なものは次の持ち主のもとへ、リサイクル可能なものは素材として活かされるという、単なる“回収サービス”にとどまらず、「捨てずに次の誰かに渡す」という新しい価値観を、わたしたち消費者に届けてくれる仕組み。先日スタートした「宅配PASSTO」は、LINEヤフーが運営する「サストモ」LINE公式アカウントと連携して、不要品を無料で回収するサービスで、日本全国が対象地域(北海道と沖縄の離島を除く)。まずはこの宅配PASSTOについてお話を伺いました。

前本美結(以下、美結) LINEヤフーさんをパートナーとして選ばれた理由を教えてください。
個人的なつながりも含めて、もともとご縁があったというところもありますが、やはりこのプロジェクトとの相性です。LINEヤフーさんが運営するLINE公式アカウント「サストモ」には、サステナビリティに特に関心のあるユーザーが500万人以上登録しています。サステナブル領域で発信媒体を持っているメディアは他にもありますが、LINEほど多くのユーザーを抱えているところは少ないです。その規模感や発信力に魅力を感じて、ご一緒できたら嬉しいなと考えていました。実際に、2024年9月12日〜10月31日までの期間限定で、サストモ×宅配PASSTOの実証実験を行ったところ、想像以上の反響をいただき、2025年3月より本格始動が決まりました。(エコミット 上席執行役員 CSO兼 ESG推進室長 坂野晶氏、以下同)

美結 私も先日の発表会で初めて「サストモ」アカウントの存在を知ったのですが、500万人も登録者がいることに驚きました!
そうですよね。サストモのコンテンツはしっかりしているので、ユーザーは関心が高く、積極的に情報を収集している印象があります。
実証実験で見えた“手放し”のハードルと、消費者意識の変化
美結 実証実験期間の1ヶ月半で、4321箱もの回収があったと伺いましたが、もともとどのくらい集まると想定されていましたか?
正直、具体的な想定はしていませんでしたが、「使いやすさ」にはかなりこだわりました。送料がかからないように必須アイテムを設定し、宅配でも業者が取りに来る方式にするなど工夫を重ねた結果、約3500人からこれだけ集まったのは本当に嬉しかったです。ただ、リユースの割合が91%と非常に高かったというのは、良くも悪くも「まだ使えるもの」がたくさん届いた、ということでもあるんです。

美結 手放しやすくなることって、別の課題にもつながりますよね。出せるから新しいものをすぐに買おう、と消費が加速してしまうのは、それはそれでまた…。
そうなんですよね。2024年の5月に、佐賀市にある当社のPASSTOの衣類回収ボックスを利用したユーザーを対象に、サステナビリティに関する消費調査を行ったんです。その結果、ユーザーの61%が「環境に貢献できること」を理由に利用していることがわかりました。また、43%の方が、衣類回収ボックスの利用を目的として設置店舗へ来館していることも明らかになったんです。さらに、衣類を手放す手段として、環境省が実施した調査と比べて、廃棄する割合が少なく、リユース(再販売・寄付・譲渡)や回収サービスの利用割合が多いという結果も出ました。衣類の購入についても、環境省の調査と同じ項目を聞いたのですが、80%が新品で購入していると答えました。やっぱり「新品じゃないとサイズが合わない気がする」とか、「古着には抵抗がある」という方もいらっしゃって。ただ、そうした方たちの7割が、PASSTOを年間に数回利用しているユーザーだったんですね。なので、「PASSTOを使う中で何か意識の変化はありましたか?」という質問に対しては、「捨てない以外の選択肢を考えるようになった」という回答が最も多かったんです。続いて多かったのが「無駄に物を買わないようにするようになった」「環境問題についてより考えるようになった」という回答でした。

美結 それは本当に嬉しい結果ですね! 私自身、普段東京で暮らしている中で「ゴミに出したらもう見えなくなる」という構造自体が、すべてのものを手放しやすく、また購入しやすくしているように感じます。私も発信をする中で、「どうしたらそこで一度立ち止まって考えてもらえるか」というのは常に課題だったので、こうして回収の仕組みが、ちゃんと“考えるきっかけ”につながっているというのは、本当に素敵だなと思います。
そうなんです。まだ新品を選ぶ方が多いのかもしれないですが、それでも「買う前に本当に必要かな」と考えてもらえるきっかけになれているのだとしたら、すごく意味のあることだと思います。このような「きっかけづくり」というコミュニケーションも、これからはサストモを通じてさらにできることが増えていくのでは、という期待もあるので、引き続き頑張りたいところですね。
リユース品の需要の違いと国際資源循環

美結 私、2022年にエコミットの循環センターで仕分け体験をさせていただいたことがあるんです。その当時はかなり古い服も多く、日本向けのリユース品としては品質的に難しいものが多かった印象で、海外に回る服が多かった記憶があります。古着に対する見方や、リユースという選択肢も以前より身近になってきたように思いますが、何か変化はありましたか?また、リユース品を海外に出すとなると、さまざまな倫理的な問題も付随してくることもあると思うんですが、それらに対してはどういった取り組みをされていますか?
おっしゃるとおり、今でも海外に出す服は多いですが、国内でも古着の需要は確実に高まっています。最近では2000年代のファッションが再注目されるなど、トレンドの変化に伴って国内ニーズも多様化しています。逆に、国内では人気がなくても、海外ではその時代のものが好まれることもある。需要の違いによって行き先が変わるので、「海外に出す=品質が悪い」というわけでもないのも、リユース業界の面白いところかなと思っています。
また、今はアパレル企業と連携して、ブランド専用のリユース循環の取り組みも進めています。例えば、アダストリアさんと共同で、販売された服を回収し、再び「認定中古品」として販売する仕組みをスタートさせました。結果として、服そのものの寿命を延ばす循環が生まれているんです。一人の消費者が短期間しか使わなくても、複数の人に渡る前提で設計されるようになれば、それもファッションを楽しみながら持続可能にしていける1つの形になるんじゃないかなと考えています。いま、こうしたアパレルと連携したサービスは「リセール」という名称で世界中でも広がっていますし、国内でも私たちが頑張って取り組みを広げていきたいと考えています。
美結 それはすごく素敵ですね。たしかに“長く使う”だけが正解じゃなくて、何度も循環させるのを前提にしたものづくりをする仕組みができたら素晴らしいです。
ありがとうございます。そして、海外輸出に関する懸念についても、私たちはしっかり向き合っています。たとえば現在、最も多く輸出しているのはタイで、信頼できる現地の卸業者に出荷しています。取引先の販売先についても把握しており、過去には、労働環境に問題があった中国の取引から撤退した経験もあります。「売れるからいい」ではなく、「どこでどう売られるのか」まで責任を持つことが重要だと考えています。
また、輸出後の流通だけでなく、その先の再回収や、販売が難しいものをどう再資源化するかまでを見据えて、現地での回収・再リユース・リサイクルの体制づくりも始めました。日本国内ではリサイクルの選択肢も増えてきましたが、海外ではまだその部分での受け皿が少ない。だからこそ“間”をつなぐ存在になることが必要なんです。

美結 本当にそう思います。私も、手放すのが難しい服がどんどん溜まってしまって、「この子の行き先、ゴミ以外にあるかな」と悩むことがあります。自分で直したり、繕ったりするけれど、それでも限界がある。だからこそ、最後の行き先にちゃんと責任が持たれているって、すごく安心感があります。
実際、私たちは回収物のトレーサビリティも徹底しています。ボックス内の袋一つひとつにQRコードをつけて、「いつ・どこで回収されたか」を記録し、選別後には「何キロが国内の卸先へ、何キロが海外のどの国へ行ったのか」までデータで把握できるようにしていて、リユース業界で起こってしまう「どこに行ったか分からない」ということが起きないようにしているんです。
さらに、私たちは「国際資源循環」という言葉を大事にしています。日本で販売される衣類のほとんどが海外での製造に頼っているという現実の中で、すべてを国内で循環させることには正直限界がある。だからこそ、アジア圏など一定の地域内で、スケールを抑えた適正な循環の輪をつくることが大切だと思っています。
そしてもうひとつ。私たちは必ず国内で選別してから海外に出すようにしています。他社さんでは、現地で選別するケースもありますが、それでは現地でごみが発生してしまう。私たちは国内で、まず国内のニーズに合うものを流通させ、それが難しいがリユースできるものは海外へ、それも難しいものは国内でリサイクル、という流れを徹底しているので、廃棄率を数%に抑えられているんです。もちろん、これにはコストがかかります。それでも「最後まで責任を持つ」というのが、私たちエコミットの矜持でもあるんです。
仕組みで変わる社会へ。だからこそ大切な“つながり”
美結 最後は、大先輩へのちょっと個人的な話になるんですけれど…。いろんなサステナ関連のことを学んで発信する中で、やっぱり全員が意識を変えるって、すごく難しいなと思うことが多くて。何も考えずに消費しても、ちゃんと社会が循環する仕組みをつくるほうが、実は早いんじゃないかって。
うん、私自身、意識と仕組み、どっちも大事だなと思っていて。意識がある人たちが行動するからこそ、仕組みって生まれてくる。でも一方で、「知らず知らずのうちに行動していたら、いつのまにか意識も変わっていた」っていう流れのほうが、実は広がりやすいんじゃないかっていうのも持論で。知らず知らずにやってみて、気づいたら「なんか変わっていたな」っていう。だからこそ、行動のハードルを下げる仕組みが大事なんですよね。
美結 まさに…。私、大学の卒論で「日本の気候変動に対する社会変動はどうしたら成功するか」ってテーマで、いろんな社会運動の成功事例を調べていたんですけど、結局どれも“連携”していたんですよね。ビジネス、行政、市民など、さまざまなアクター同士が、それぞれやり方は違っても、ちゃんと同じゴールを見ていた。逆にお互いを叩き合ってばかりだと、動きはやっぱり止まってしまう。
ほんとにそう。それぞれの立場から「どうやったらよくなるか」をちゃんと考えていれば、対立から役割分担になるはずなんですよね。私は、その“間”をつなぐ立場でありたいと思っているし、だからこそエコミットでCSOをやりながら、(一社)ゼロ・ウェイスト・ジャパンで地域と向き合って、エコミットとして参画しているJSFA(Japan Sustainable Fashion Alliance)で業界と政策をつなぐ。全部の現場を知っているからこそ、つなげられることがあると信じていて。
美結 それができる人って、本当に限られていると思います。マクロとミクロ、どっちもちゃんと見て、動ける人。晶さんがこの業界にいてくれることで、社会は確実に前に進んでいると、私は本気で思っています。今日お話を伺って、すごく勇気をもらえましたし、これからも私も私なりにできることを頑張っていきたいなと改めて思いました。本日はありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!
取材を終えて
どこかで迷って、手が止まりそうになった時、この取材で聞いた言葉たちや、応援したい、考え抜かれた「仕組み」がこの世にあることを改めて知ることができたことが、背中を押してくれる気がしています。私もまた一歩ずつ、日々の選択を重ねていきたいと思える素敵な時間でした。もし家に手放したいものがあったら、皆さんぜひ「宅配PASSTO」使ってみてくださいね!
「宅配PASSTO」

「サストモ」LINE公式アカウントを友だち追加したうえで申し込みを。
https://lin.ee/P3f6bSp
・回収できるもの
必須アイテム:アクセサリー/小型家電/おもちゃ/ホビー用品/調理器具など
同梱アイテム:衣類/タオル/ファッション雑貨/生活雑貨/アウトドア/スポーツ用品/食器類など