※この記事はWhat is Mulesing? Unpacking the Cruel Practiceを日本語訳にしたものです。
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羊が直面する残酷な現実
ミュールジングとは、1920年代に開発された、ハエやウジによる感染を防ぐために行われる、生後2〜10週間の子羊の臀部の皮膚を一部切り取る外科手術である。
羊は、背中や脚のしわに老廃物や湿気がたまりやすいため、クロバエが卵を産みやすく、その結果ウジが寄生してしまう。特にメリノ種の羊は、より多くの羊毛を得るためにしわが多くなるよう品種改良されており、ハエウジ症の被害に遭いやすく、その強力な感染症は羊を死に至らしめることも珍しくない。
なお、ミュールジングはクロバエの侵入を減らすが、他の感染を防ぐ効果はないとされている。
従来のミュールジング方法
最も一般的なミュールジングの方法は、子羊を仰向けに拘束し、鋭いハサミで子羊の臀部付近から三日月型の皮弁を切り取るというもので、通常、痛みを和らげることはできない。ミュールジングされた部分が治癒すると、ハエやその卵が繁殖しにくい滑らかな傷跡が残る。
ステイニング(羊の凍結焼印)
子羊の皮膚をきつく固定し、液体窒素で凍らせる。やがて皮膚は死んで剥がれ落ち、硬い傷跡となる。ステイニングは、ハサミを使うよりも痛みが少ないという説もあるが、英国王立動物虐待防止協会(以下RSPCA)により公開された報告書によると、これは事実ではなく、凍結焼印は羊を傷つけ、苦しめる。
ゴムバンド
皮を切ったり凍らせたりするほど一般的ではないが、輪ゴムは羊の皮を剥ぐ別の方法として登場した。羊毛業界団体は、従来のミュールジングから脱却するための解決策として、この新たな痛みを負わせる方法が受け入れられることはないだろうと述べ、距離を置いている。
ミュールジングは本当に必要?代替策と持続可能な未来
ミュールジングが子羊に与える精神的・肉体的影響は深刻である。動物に麻酔をかけたり、鎮痛剤を与えたりすることはほとんどない(ただし、ミュールジングがいまだに行われているオーストラリアの一部の地域では、法律で義務づけられている)。RSPCAによれば、子羊は皮膚切断による最初の痛みを少なくとも48時間、最長で数週間経験し、傷が癒えるまでには2カ月近くかかるという。
同報告書の中には、ミュールジングを受けた子羊は人間、特にミュールジングを行った人間を避けるようになるという報告もある。
それだけでなく、「社会性が低下し、ミュールジング後の最初の2週間で体重が減少し、猫背で立つ時間が長くなり、横になったり餌を食べる時間が短くなるなど、痛みを表す行動を示す」。
フォーパウズのような動物愛護団体は、その残酷さを強調するために、ミュールジングを「Live lamb cut(生きた子羊のカット )」と改名するようキャンペーンを展開している。
羊毛生産者の中には、ミュールジングは羊を死に至らしめうる強力な感染症から救うために必要だと主張する者もいる。ガーディアン紙によれば、ハエウジ症に対するワクチンの開発が進んでおり、オーストラリアでは少なくとも3,000の羊毛生産者がすでに、シワが少なく感染症にかかりにくいメリノ種の羊に移行している。現時点では、これがミュールジングをなくすための広く推進されている解決策であるが、産業界はそもそも動物を必要としない素材調達に移行できる可能性もあるはずだ。
ミュールジングは違法?国際的な動向とオーストラリアの現実
ミュールジングが羊に与える影響を考慮し、現在では世界のほとんどの地域で禁止されている。しかし、ミュールジング発祥の地であるオーストラリアでは、いまだにミュールジングが許されている。
オーストラリアには代替案を選択しているウール生産者も一部いるものの、フォーパウズによれば、この地域が世界のメリノウールの約70%を生産していることを考えると、ファッション産業におけるウールの大部分は、依然としてミュールジングされた羊毛である可能性がある。
動物愛護運動家たちは、ブランドとオーストラリア政府に対し、羊へのミュールジングを全面的に禁止するよう圧力をかけ続けている。その一方で、消費者は自分の財布で投票するべきだ。つまり買い物をする際にはミュールジングフリーのウールを選ぶことが肝要である。
ミュールジングフリーを選ぶための認証を知ろう
ミュールジングフリー・ウールへの移行は、業界にとって歓迎すべき変化である。実際、その嗜好への高まりは、オーストラリアの生産者に大きなプレッシャーを与えている。ミュールジングフリー・ウールの価格は下がり、経済的インセンティブが高まっている。
フォーパウズは、ミュールジング廃止のキャンペーンを長年行っており、ミュールジングに反対する声明を発表しているブランドの全リストを掲載している。ステラ・マッカートニー、SPELL、Armedangelsなど、ミュールジングフリーのウールを使用することを表明しているブランドも多い。
ミュールジングを禁止している認証には、テキスタイルエクスチェンジの「Responsible Wool Standard(責任あるウール基準)」やオーストラリアのSustainaWOOL基準、GOTS認証、ZQ認証があり、これらすべてがサプライチェーンにおいてミュールジングの禁止を義務づけている。
もしあなたのお気に入りのブランドがまだミュールジング・ウールを禁止していないのなら、Shift Cの評価ページの投票ボタン*より改善を呼びかけてみてはどうだろうか。
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