※この記事はIs Luxury Fashion Sustainable? Here’s What Our Ratings Sayを日本語訳したものです。
2023年、数多くのラグジュアリーブランドを傘下に持つ「LVMH」の時価総額が、EUの上場企業として初めて5,000億米ドル(2024年6月のレートで約78兆円)を突破した。
ラグジュアリーファッション業界が非常に大きな影響力を持っていることを表すひとつの事例だが、サステナビリティについてはどのように取り組んでいるのだろうか。
ラグジュアリーブランドがサステナビリティについてアピールする機会は増えてきている。LVMHのイメージ・環境部門責任者であるアントワーヌ・アルノー氏は、2023年にコペンハーゲンで開催されたグローバルファッションサミットで、「ラグジュアリーファッションはもともとサステナブル」であると語ったが、Shift Cの評価を見ると、常にその主張通りとは限らないようだ。
Contents
ラグジュアリーブランドに求められるのは、サプライチェーンを全体での「公正な賃金」
SHEINやTemuといったウルトラファストファッションブランド大手企業のように、安価な衣料品の過剰生産がラグジュアリー業界で問題になっているわけではない。しかし、ラグジュアリーブランドを含め、業界全体で早急に取り組む必要がある課題は他にもある。特に重要なのは、サプライチェーン全体を通して労働者に公平な生活賃金を支払うことだ。
ラグジュアリーファッションは、ウルトラファストファッションのような過剰生産を行っているわけではないし、チリやガーナのゴミ埋立地にグッチのローファーやザ・ロウのハンドバッグが捨てられることはない。しかし、発表するコレクションの数は年々増えている。トレンドを生み出すのは、ラグジュアリーファッションなのだ。
もうひとつ重要なのは、製品のクオリティと寿命の関係だ。歴史的にも、ラグジュアリーブランドは、より多くの時間を費やし、熟練の職人技やものづくり精神に向き合ってきた。細部にまでこだわった一枚は、超特急で縫い合わされたものよりも長持ちすることは間違いない。
だが、ラグジュアリーブランドが「ファストファッションほど悪くない」と完結するには早急だろう。実際Shift Cの評価を見ると、サステナブルとは言えない部分も多く見られるのだ。希少動物のレザーやファーの使用など、倫理的な問題もあれば、ファストファッションと同じように労働条件や水源管理に関する透明性の欠如といった課題もある。
Shift Cのデータを見ると、ラグジュアリーブランドの大半が、サステナビリティに関して十分な活動や情報開示を行っていないことがわかる。ルイ・ヴィトンを含む75%のラグジュアリーブランドが、Shift Cでは「他の選択を」と「まだまだ」と評価されている。ラグジュアリー界のリーディングブランドであるルイ・ヴィトンには、ぜひより高い評価を期待したいものだ。
対して、「良い」または「素晴らしい」の評価を受けたラグジュアリーブランドはわずか10%。注目すべきは、この2つの高い評価を得ているブランドのほとんどが小規模であることだ。
ラグジュアリーファッションが抱える問題とは?
多くのラグジュアリーブランドの評価が低いのは一体なぜだろうか?問題の本質を探ってみよう。
アニマルレザーとファーの使用
過去20年間で、喜ぶべきことに、多くのラグジュアリーブランドが毛皮の使用を禁止している。しかし、毛皮やレザーのブランドとして創業したフェンディ、ルイ・ヴィトン、マックスマーラなどは、いまだコレクションに毛皮を使い続けている。
レザーを使わないことには進展が見られるものの、デザインアイコンとしてレザーを採用するブランドはまだまだ多い。例えばエルメスは、「貴重な皮革のサプライチェーンに関する具体的な基準」を発表することで、ワニやダチョウの継続的な使用を正当化しようとしている。「2023年末には、エルメスが供給するワニ革の100%が認証された場所からのものである」と述べるが、ワニがその革だけのために養殖され、殺されているという事実を解決に導いているわけではない。
人権
公開されているデータを分析したところ、ラグジュアリーブランドの大半は、労働分野の項目において2つの最低評価を獲得している。公平性の実現にはまだ長い道のりがあることがわかる。
ラグジュアリーブランドは、責任を持ったものづくりのリーダーとして注目される。しかし実際は、刺繍や仕立て、染色方法をはじめとする高度な技術を要する(つまり高賃金である)過程には敬意を払うものの、ミシン縫製などの一般的な技術は軽視する傾向がある。
そして2023年、Fashion Transparency Indexは、分析した世界の大手ブランド250社のうち99%が、生活賃金を得ている労働者の割合を公表していないと発表した。
ファッション業界で働く「人間」にとっての真のサステナビリティとは、すべての縫製労働者を尊重すること。しかし、残念ながらそれはまだ実現していない。「ニューヨークタイムズ」紙による2018年の調査では、イタリアのファッション業界における「影の経済」が明らかになった。そこでは「何千人もの低賃金の在宅労働者が、契約や保険に加入することなくラグジュアリーブランドの商品を製造」し、縫製1メートルあたりわずか1ユーロしか受け取っていないことが明らかになった。それを皮切りに、ラグジュアリーのサプライチェーンにおける労働搾取の例が数多く報告されている。2024年、ジョルジオ・アルマーニは、「バッグ、革製品、その他のアクセサリーの生産に、非正規移民を雇用するミラノ地域の下請け業者を使用していた」として、労働違反の容疑で調査を受けている。
また、文化のサステナビリティについて考えてみよう。例えば、「職人技」の名の下に、コミュニティに対して敬意を払うことも金銭的なサポートをすることもなく、世界中の伝統的な技術を模倣するケースだ。イザベル・マランは近年、先住民の職人技を模倣しているとしてメキシコ政府から非難をされたブランドのひとつである。この問題は、ファストファッションでも散見される。
カーボンフットプリント
温室効果ガスの排出量の多さは、ラグジュアリーアイテムに限ったことではない。国連環境計画(UNEP)は、世界の炭素排出量の10%程度がファッション産業から排出されていると推定しているが、その推定値はさまざまであり、そのうちラグジュアリーファッションが占める割合を特定することは難しい。とはいえラグジュアリーブランドは、環境への負荷を緩和するために意味のある行動をとり、ファッション業界の他のブランドに対してベストプラクティスを示す責任がある。
カーボンオフセットにも注目しよう。Shift Cがベースとしているエシカル評価機関Good On Youの報告書で明らかになったのは、ブランドがカーボンクレジットを購入することで、排出量削減のための対策をおろそかにしていることだ。カーボンクレジットの真の有効性は、近年、有識者から疑問視されている。また、グッチ、サンローラン、バレンシアガなどのラグジュアリーブランドが、ネットゼロを達成する手段としてオフセットを購入していることを指摘した。2024年に入り、規制当局の動きや法整備が本格化することで、こうしたネットゼロの謳い文句から、どのような実行にシフトするかに注目だ。もちろん理想は各ブランドが排出量削減のためにサプライチェーン全体で実効性のある行動を起こすことだ。
透明性は希少性より後回し?
ラグジュアリーブランドがサプライチェーンの透明性を保つことに消極的なのは、メーカーや生地、職人たちが「特別」だからとされている。しかし、もしもラグジュアリーアイテムが、ファストファッションブランドと同じ工場で作られていることが原因で透明性が欠落しているとしたら…?
一部のラグジュアリーブランドが、余った生地や衣服、アクセサリーを焼却処分するようになった原因も、その「特別さ」を守ることにある。このようなサステナブルからかけ離れた行為が報道されると、消費者からの批判が噴出する。バーバリーのように売れ残りの焼却をやめることを約束したブランドに加え、最近フランスでは廃棄が禁止されるようになった。
ポジティブな兆しは他にもある。Fashion Revolutionは、2023年版のFashion Transparency Indexで、自社工場の情報を開示しているラグジュアリーブランドが増えていると発表した。特に、グッチの透明性スコアは80%で、分析対象となったラグジュアリーブランドの中では最高記録をマークした。「透明性は、ラグジュアリーの一部となるまでに進化しました。私たちが調査を始めたとき、ラグジュアリーブランドがサプライヤーリストを公表することは遠い夢だと言われていましたが、今では多くのブランドが公表しています」。
にもかかわらず、業界全体の透明性は改善されていない。法律が業界の行動を後押しするのを待つのではなく、ラグジュアリーブランドが率先してサプライチェーンの詳細を完全に開示する姿勢が求められる。
「クワイエットラグジュアリー」とサステナビリテイの関係
クワイエットラグジュアリーとは派手さを避け、ミニマルな服を厳選するというコンセプトだ。しかし、蓋を開けてみると、ファストファッション大手とインフルエンサーが主導する一時的なトレンドのひとつに過ぎない。
タイムレスなアイテムを必要なぶんだけ持つことは、消費者にとってより良い選択肢ではあるものの、最もポピュラーなサイレントラグジュアリーは、カシミア、レザー、ウールなどの動物素材に大きく依存している。
ロロ・ピアーナ、ブルネロ・クチネリ、ジル・サンダーはサステナビリティへの取り組みが「まだまだ」と評価され、マックスマーラとザ・ロウはともに「他の選択を」と評価された。確かにスローファッションに移行することは素晴らしい。しかし、その美学さえもがトレンドのひとつになってしまう、それがラグジュアリーファッション業界の現状なのだ。
ハイブランドで見つけるサステナブルな選択肢
携わる人々に生活賃金が支払われず、素材調達への責任感も弱く、業界が謎のベールに包まれたままである限り、高級ファッションのサプライチェーンもサステナブルとは言えない。
マギー・マリリン、ステラ・マッカートニー、エデリーン・リー、マザー・オブ・パールなど、ラグジュアリー界のサステナビリティをリードするブランドも存在する。これらのブランドはすべて、「良い」と評価されている。サステナブルラグジュアリーブランドのトップリストには、「Good」と「Great」の企業の内訳がすべて掲載されているので注目だ。
ファッション業界の大手ラグジュアリーグループの中で、サステナビリティに関して最も大きな声を上げているのは間違いなくケリングだ。2018年に開始されたFuture Learnと呼ばれるプラットフォームを使ったロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのサステナブルファッションeラーニングコースに対する支援もケリングが行っている。
実際に、ブリオーニを除き、グッチやサンローランを含むほぼすべてのケリングのブランドが「ここから」と評価されている。
ファッション業界をより良い方向に変革するために、パワーのあるラグジュアリー企業にリーダーとしての役割が期待されている。