• トップ
  • Learning
  • Z世代のクローゼットは「持つ」から「運用する」へ。NYファッションサミットと人気ブランドの最新事例でわかった、二次流通で起こる行動変容

ニュース|2026.06.22

Z世代のクローゼットは「持つ」から「運用する」へ。NYファッションサミットと人気ブランドの最新事例でわかった、二次流通で起こる行動変容

かつての“裏技”だった中古品の購入は、今や完全なリブランディングを遂げ、Z世代にとっては最初に考える選択肢になりつつある。そのうえで多様なプレーヤーが共存共栄するエコシステムとは、どのようなものなのか? NYの最先端サミット「Fashionology Summit」や話題のヴィンテージ関連のイベントから考察。

原稿:田原美穂

Share :
  • URLをコピーしました

Fashionology Summitが映し出す、ファッションの現在地

ニューヨークで6月初旬に開催された「Fashionology Summit」。ファッションを単なる産業としてではなく、テクノロジー、カルチャー、サステナビリティ、コマースが交差する「構造」として捉え直すことを目的としたサミットだ。トレンドや表層的な施策などの話題にとどまらず、ファッションがどのように循環し、価値がどこで生まれ、どのように更新されていくのかを問う場として設計されている。

Fashionology Summitで行われた「The Value of One’s Closet」セッションの様子。左からThe RealRealチーフブランドオフィサー/クリステン・ネイマン、ThredUpストラテジックアドバイザー(元 Vestiaire Collective CMO)/サミーナ・ヴァーク、Fashionphile創業者 & CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)/サラ・デイビス、Depopグローバルマーケティングディレクター/ジル・フィッシャー、Frame of Referenceラグジュアリーディレクター/ステファニー・ジェーン・ジョンソン

その中で行われたセッションの一つが、「The Value of One’s Closet (クローゼットの価値)」だった。The RealReal(ザ・リアルリアル)、Depop(ディポップ)、ThredUp(スレッドアップ)、Fashionphile(ファッションファイル)といった、二次流通を異なるレイヤーから支える欧米の代表的な企業が一堂に会し、リセール市場の現在と未来について語った。このセミナーは、単なる中古市場の拡大を語るものではない。そこにあったのは、消費者の買い物行動が、すでに別の論理で動き始めているという共通認識だった。

The RealRealは、認証付きラグジュアリー・リセールの最大手として、二次市場における「信頼」をインフラ化してきた。一方で、ThredUpはより広い価格帯で日常的な循環を支え、DepopはZ世代のカルチャーと結びついたCtoCマーケットとして機能している。Fashionphileは超高額ラグジュアリーを「資産」として扱う市場を築いてきた。立ち位置は異なれど、彼らが見ている消費者行動の変化は共通している。

リセールは「ニッチ」から「前提」へ

世界のラグジュアリー・リセール市場は、現在約410億ドル規模に達し、年率10%で成長している。2030年には600億ドルに達すると予測されているが、登壇者たちが強調したのは、数字以上に重要な「質の変化」だった。取引の72%以上はデジタル経由で行われ、購入者の58%は35歳未満。これは、若年層が中古に流れているという話ではなく、次世代の主流消費が、最初からリセールを前提に組み立てられていることを示している。


クローゼットの再定義。「持つ」から「運用する」へ

セミナーのモデレーターを務めたステファニー・ジェーン・ジョンソンは、この変化を「クローゼットの再定義」と表現した。クローゼットはもはや、購入した服をしまい込む場所ではない。アイテムが入り、出ていくことを前提に管理される「ショップ」であり、「ポートフォリオ」になりつつある。

消費者は、何を着るかだけでなく、そのアイテムがどれくらい価値を保ち、どのように次へ渡せるかまでを含めて購入を考えている。シャネルのバッグやヴィンテージピースは、単なる所有物ではなく、時間を通じて価値を運用する対象として扱われている。ファッションは感情的な消費であると同時に、極めて戦略的な意思決定の領域に入り込んでいる。

ブランドが見誤っている購買の起点

人々は「まずリセールを見る」。
多くのブランドがこうした変化を最も過小評価しているの、という指摘が登壇者からは続いた。Depopのデータによると、同プラットフォームで行われる取引の約5回に3回は新品購入の代替になっている。かつては「売り切れていたから」「予算が足りなかったから」リセールを検討していた消費者が、今では最初にリセールを見る。そこになければ、新品に戻るのではなく、フォローし、待ち、探し続ける。

さらに重要なのは、新品を買う瞬間にもリセールが思考に組み込まれている点だ。「この服は、あとでいくらで売れるだろう?」という問いは、無意識のうちに購買判断に影響を与えている。一次市場と二次市場を分けて考えているのは、もはやブランド側だけだ。

日本ブランドはなぜ、二次流通で二度足を踏むのか

日本では、ブランド自身が二次流通に取り組みながらも、常設化に至らず撤退するケースが少なくない。その背景には、二次流通を「新品売上の代替」や「サステナ施策」として捉えてきた構造的な問題がある。

多くのブランドは、一次市場と二次市場を切り分け、短期的な売上や粗利益といった一次市場と同じKPIで評価してしまう。しかし、二次流通の本質は売上のみならず、ブランド価値の内外への可視化や、認知、商品が時間を経てどう評価されるかを知るためのインフラにある。また、売って終わりではなく、顧客と長く関係性を築く循環モデルを通じたロイヤリティの施策としても捉えられる。消費者がすでに「リセール前提」で買い物をしている今、二次市場を例外的な取り組みとして扱う姿勢そのものが、ブランドと消費者の意識のズレを拡大させているのではないだろうか。

リセール自体は「裏技」から「誇れる選択」、そして文化体験へ

かつて中古品の購入は、「賢い人がこっそり使う裏技」だった。しかし今は、「どこで買ったの?」と聞かれて、「The RealRealで」「Depopで」と答えることが、合理的で洗練されていて、むしろクールだという価値観が広がっている。リセールは単に市場を拡大したのではなく、完全なリブランディングを遂げた。

この変化は、直近のポップアップイベントにも明確に表れている。
ニューヨークのインターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー(ICP)で開催された「Yves Saint Laurent and Photography」展では、展示に合わせてYSLヴィンテージのポップアップが展開された。このポップアップは、単独の販売企画ではなく、Vestiaire Collective(ヴェスティエール・コレクティブ)をはじめとするリセールプラットフォームや著名なヴィンテージディーラーと協業する形で実現している。この企画は、写真の展示だけでも、ヴィンテージアイテムの商品販売だけでもない。並列に配置され、YSLというブランドの美学と歴史を体験する文脈の中で、二次流通と一緒に編集されていた点が新しかった。

スクリーンショット Yves Saint LaurentのVintage Pop-upの告知
インターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー(ICP)内の様子
インターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー(ICP)内の様子
Yves Saint LaurentのVintage Pop Upにて販売されていたアイテムの一部

また、SoHoで開催されたCoachの循環型ブランドCoachtopiaとDepopによる「Bag Bazaar」は、さらに一歩踏み込んだ実験だった。このイベントは、Coachtopiaが二次流通プラットフォームDepopでのローンチを記念して開催されたもので、会場にはCoachのヴィンテージバッグと、Coachtopiaの現行商品が並列で並び、同じ売り場で販売されていた。過去と現在、一次と二次が分断されることなく共存する空間がつくられていたのが印象的だ。
さらにこのポップアップでは、デジタルファッションプラットフォームDRESSXとの協業により、Depop上で販売されているヴィンテージアパレルとCoachtopiaのバッグを組み合わせたスタイリングを、バーチャル上で体験できる仕組みも導入されていた。来場者が、実物の商品を手に取りながら、デジタル空間でコーディネートを試すことができ、循環型ファッションが生活に既に取り込まれている具体的な体験として提示されていた。

スクリーンショット CoachtopiaxDepop Pop-upの告知
CoachtopiaxDepop Pop-upのPop-upの様子
CoachtopiaxDepop Pop-upのPop-upの様子
CoachtopiaxDepop Pop-upのPop-upの様子/奥にCoachtopiaの商品とCoachのVintage商品が並列で陳列され販売されている
Dressxがこのイベント用に開発されたバーチャル試着/Coachtopiaのアイテムと、Depopで販売されているVintageアイテムを組み合わせたMix&Matchのスタイリングをヴァーチャルで試着可能。

二次市場をどう扱うかが、ブランドの未来を分ける

Fashionologyのセミナーや、これら既に行われている施策を通じて、ブランドに対して改めて問いが突き付けられている。

二次市場の拡大は、一次市場にとって本当に脅威なのだろうか。

その問いに対して、Fashionology Summitで示された答えは、明確だった。

「All ships rise(みんなで一緒に良くなれる)」。

二次市場は売上を奪う存在ではなく、ブランドの価値を可視化し、検証し、長期的に強化する場になり得る。自分たちのプロダクトは、二次市場でどう語られているのか。消費者が出口を意識していることを、商品設計やコミュニケーションに織り込めているのか。リセールを、脅威ではなく、ブランド価値が育つ場所として捉えられているのか。このような問いを、ブランドは、今改めて考えてみるべきである。

買い物への根本的な行動変容は、すでに起きている。

それを前提としてブランドを再設計できるかどうかが、これからのファッションブランドの分かれ道になる。

Share :
  • URLをコピーしました
サステナビリティ・マーケター
田原美穂
NY在住。CoachやH&Mなどのマーケティングに10年以上携わり、2020年に独立。ファッション産業において循環型ビジネスを中心に、プロジェクトマネジメント、アドバイザー、マーケティング支援を行う。リアルな視点を届けるべく、NYでの視察ツアーや執筆活動も行う。FITにてサステナブル・デザインを、MITでは循環型経済について学び、実践と知見を融合させた支援を行っている。

Ranking ウィークリーランキング (2026.06.15〜06.22)

Instagram Follow us
【気象予報士が解説】 2026年の夏はどうなる?「スーパーエルニーニョ」が日本の気候と食卓に与える影響

【気象予報士が解説】 2026年の夏はどうなる?「スーパーエルニーニョ」が日本の気候と食卓に与える影響