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特別な空間で深める、服と水にまつわる問い
5月28日(木)、ファッションレボリューションジャパン(運営:一般社団法人unisteps)が新たに発刊したタブロイド冊子『服と水』の記念イベントが行われた。
会場となったのは、東京・代々木上原。住宅街に静かに佇む築60年を超える古民家を改修した特別な空間で、異なるゲストを迎えた2部制で開催された。午後の部のゲストは、パラ水泳元日本代表でモデル・俳優の一ノ瀬メイさん。進行はファッションレボリューションジャパンの鎌田安里紗さん。夜の部には、染色工学を専門とする福井大学の廣垣和正教授を迎え、ファッションレボリューションジャパンのマルティンメンド有加さんが聞き手を務めた。南風食堂・三原寛子さんが手がけるスープの香りが漂うなか、服と水をめぐる2つのトークセッションが展開された。

パラ水泳の元日本代表 一ノ瀬メイが語る、自身の水との関係性
「水のように生きたい」そう語る一ノ瀬さんは、13歳から10年間パラ水泳日本代表として活躍し、世界ランキング1位も経験。引退後はモデルや女優としても活動の場を広げている。水との深い関わりを持ちながらも、「ファッションと水のつながりを、これまで考えたことがなかった」と率直に明かした。

冊子『服と水』は、コットン栽培や染色加工、日々の洗濯にいたるまで、ファッション産業と水の関係を多角的に掘り下げた一冊。当日、2日前に冊子を受け取ったという一ノ瀬さんは、読んだ感想をこう語った。
「水とこんなに関わりが深かった私でも、ファッションと水って今まで考えられてなかった。数字や科学的なデータも盛り込まれながら、自分たちの本来の姿、水の本来の清らかな姿にどうやって戻っていけるかを問いかける内容だった」
トークでは、サステナブルファッションの実践についても踏み込んだ話が展開された。
「サステナブルなブランドから買えばいい」という思い込みに気づき、自分のワードローブとの相性や長く着られるかどうか、素材の単一性まで考慮するようになったという一ノ瀬さんの選び方は、等身大でありながらも深く考え抜かれたものだ。

また、障害の「社会モデル」という考え方は、環境問題やファッションのサステナビリティとも地続きだと一ノ瀬さんは言う。「社会が障害をつくっているから、社会が障害をなくせる」そう語る一ノ瀬さんが紐解いたのは、社会の制度や意識のあり方が変わることで障害はなくせるという考え方だ。
眼鏡がなければ見えない、言語が通じなければ伝わらない。環境や状況が変われば、誰もが障害を持ちうる。そんな誰もが共感できる言葉で会場をぐっと引き込みながら、障害をめぐる問いとファッションをめぐる問いが、同じ根を持つものとして会場で交わった。

水の代わりに二酸化炭素で染色?福井大学による挑戦
午後の部の余韻が残るなか、夜の部のゲストを迎えてトークセッションが始まった。
登壇したのは、福井大学学術研究院工学系部門教授の廣垣和正先生。繊維・染色工学を専門に研究する廣垣先生を、ファッションレボリューションジャパンのマルティンメンド有加さんが聞き手に迎えた。テーマは「染色工程における課題と未来の染色」
まず語られたのは、染色という工程がいかに水に依存しているか、という点だ。精錬・染色・洗い・乾燥と、布が製品になるまでに水は何度も使われ、そのたびに化学薬品を含んだ排水が生まれる。繊維産業が年間に使う水の量は世界で58億トン。繊維産業全体の排水汚染のうち、染色産業が占める割合は約20%にのぼる。産業革命の頃から指摘され続けてきた問題が、今もなお解決されないまま続いているという現実が共有された。

そこから話は、廣垣先生が研究する「超臨界流体染色(ちょうりんかいりゅうたいせんしょく)」へと移った。水の代わりに二酸化炭素を使うこの技術では、高温・高圧の条件下で二酸化炭素を「超臨界流体」と呼ばれる特殊な状態にし、そこに染料を溶かして繊維を染める。液体と気体の両方の性質を持つこの流体は、繊維の細かい隙間にも染料を届けられるため、染色効率が高い。染色後は常温・常圧に戻すだけで二酸化炭素は気体に戻り、余剰の染料と分離されて再び循環利用されるという。
Tシャツ1枚を染めるのに通常30リットルの水が必要とされるところ、この技術では排水ゼロ・化学薬品ゼロ・乾燥工程も不要。エネルギー消費を最大63%削減できるとされる。さらに条件を変えることで脱色・染め直しも可能で、繊維の資源循環にもつながる技術として期待されている。すでにYKKがファスナーの染色に導入し、アシックスの陸上競技ユニフォームにも採用されるなど、少しずつ実用の場は広がっている。ただ高圧に耐える設備が必要なため装置コストが高く、生産量はまだ限られている。経済産業省は2030年に向けた繊維産業のロードマップに無水染色技術の実用化を明記しており、廣垣先生の研究室でも綿・ウール・麻への対応拡大に向けた開発が進んでいる。

最後に、ビジョンやロマンを問われると「宇宙に行っても、人は服を着る。そこでも色を変えながら着続けられる技術にしたい」と廣垣先生は語る。人類がさまざまな環境へと移動するなかで服を着ることで生き延びてきたように、資源の限られた宇宙でも、服を染め直しながら着続けることができるという未来。染色の環境負荷という足元の課題から出発した技術が、気づけば壮大なロマンを帯びていた。

タブロイド冊子「服と水」
今回のイベントはタブロイド冊子「服と水」、繊維・ファッション産業と水の関係をひらくインタビュー集の発刊を記念して行われた。
本誌の巻頭インタビューは、30カ国語に翻訳されたベストセラー『氷河が融けゆく国・アイスランドの物語』の著者アンドリ・スナイル・マグナソン。気候危機をデータや数字ではなく、「時間」の物語として語りかける彼の言葉が、冊子全体のトーンを導いている。また文化人類学者の酒井朋子さんへのインタビューでは、そもそも人はなぜ洗濯をするのか、穢れと清潔をめぐる歴史や感覚にまで思考を広げることができる。
その他、コットンの栽培から染色加工、家庭での洗濯まで、服の一生のなかで水への影響が大きい工程に焦点を当て、国内外の有識者への取材を通して、服と水について問いを開いた一冊となっている。
タブロイド冊子は、全国各地で配布中。(配布場所はこちらからチェック!)
デジタル版は、こちらからダウンロードが可能だ。
データや課題の複雑さに身構えることなく、あなたのパーソナルな物語と重ねて服と水のつながりについて思いをめぐらせてみてほしい。
また、今回のイベントのトークセッションは、unistepsのポッドキャスト「わたしの服はどこからきてどこへ行くの?」でも配信中。ぜひ音声からイベントを体感してみて。

